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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第2話
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あんなにカッコ良くて優しくて素敵な人がこの世にいるのか?
いや、自分が知らないだけなのかもしれない。
もしくはこれが、『恋は盲目』というものなのだろうか。
違う。そうじゃない。
それだけ素敵な人だから、恋をしたんだ。
☆☆☆
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまった。
ほんの1時間ちょっとの間に色々なことが立て続けに起きている。
たまたまイーサンを探しに行った先で運命みたいな出逢いをして、しかもその人はあの伝説のドラゴンだという。
生まれて初めて妖精を見て、生まれて初めて恋をして、そして生まれて初めてのキスをした。
もしかしたら全部夢だったのかもしれないとも考える。
でもまだ、あの時の感触が唇に残っている。夢じゃない。
そっと唇に指で触れる。
怒涛の展開に頭が混乱している。
そして今、イアンは猛烈に後悔していた。
急ぎで呼ばれたとはいえ、あのままグスターヴァルと離れてしまったことに。
「あぁっ、もうっ!」
なんでだよっ、と思わず悔しくてぼやいてしまう。
あの人はきっとまたドラゴンに戻ってしまう。もしかしたらもう会えないかもしれない。
あのキスは、彼も自分を少しは思ってくれていたのだと思いたい。
イアンは警備場所である、城の裏にある使用人用の通用口の横に座り込み、泣きたい気持ちになっていた。
両膝を抱え、自分の腕に顔を埋める。
彼にもう一度会いたい。会ってちゃんと気持ちを伝えたい……。
しかし、伝えたところで相手はドラゴンである。どうなるというのだろうか。
(このままもう会わない方が……)
会わない方がいい、そう思い掛けていたところにふと声を掛けられた。
「イアン?」
なぜだろう。諦めようとした時に、なぜ神様は願いを叶えてくれるのか。
このいい声を聞き間違えるはずはない。
顔を上げると、首を傾げながらじっと見下ろしているグスターヴァルの姿があった。
「……グスターヴァル」
結婚式に出席していたはずなのに、なぜこんな所にいるのか。
迷子にでもなったのか。
それでもいい。また会えた。
思わずイアンは泣きそうになっていた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
心配そうな顔でじっと見つめてくれている。
会いたくて、顔が見たくて、自分の気持ちを伝えたくて……。
しかし今はそんなことよりも、目の前にグスターヴァルがいることが信じられなくて、イアンは目を大きく見開いたまま固まっていた。
「大丈夫か? 目が少し赤い。休んだ方が良さそうだな……」
ふわりとグスターヴァルはイアンの横にしゃがむと、そっとイアンの髪を撫でる。
「っ!」
触れられて、ドキンと心臓が大きく鳴った。
そして驚いて思わずその手を払ってしまった。
「すまない……触らない方が良かったか?」
触れた瞬間、ぶわっと顔を真っ赤にさせたイアンに手を払い除けられ、グスターヴァルは申し訳なさそうな顔で見つめる。
「あっ! これはっ、違くて……ちょっとびっくりしただけ。嫌じゃないから」
そんなつもりはなかったと、慌ててグスターヴァルのジャケットの裾を掴んだ。
好きな人に触れられて、嫌な訳はない。
「そうか……それなら良かった。実は、イアンに私の分の食事をしてもらおうと思ったんだが、体調が悪そうだな」
なぜこんな所に? と思った疑問を聞く前に、グスターヴァルが答えてくれた。
「えっ? どうして?」
食事というのは結婚式でゲストに振る舞われた料理のことを言っているのだろう。
なぜそんなことを言うのかイアンは理解できず、首を傾げる。
「あぁ、私は食事をしないからな」
「えっ?」
グスターヴァルの答えに更に分からなくなり声を上げる。
「食事をしないって、何も食べないってこと?」
続けてグスターヴァルに質問を投げ掛けた。生き物なのに何も食べないなんてありえない。
「ふっ……秘密だ」
くすっと笑うと、グスターヴァルはそう答えて立ち上がった。
「ええっ、秘密って……」
思わず文句を言ってしまったが、優しく笑っているグスターヴァルを見上げたら、なんだか嬉しくなった。
「グスターヴァルっ」
名前を呼んでイアンも立ち上がる。
そしてじっとグスターヴァルを見つめた。
「…………」
黙って見つめ返しているグスターヴァルに、イアンは意を決して告白をしよう、そう思った。
――その時。
「イアンっ!」
勢いよく通用口が開き、大きな声でイアンを呼ぶ声が聞こえた。
「ノアっ」
顔を出したのは同僚のノアであった。
イアンは振り返ると驚いて声を上げた。
ノアもそこまで背が高くなく、体型も普通だ。
歳も近いこともあり、1番仲の良い騎士の仲間であった。
茶色のさらさらとした髪が風に吹かれて揺れている。
自分はくせ毛なのでノアの綺麗な髪がちょっと羨ましい。
「ここはもういいって。会場の手伝いをしろってさ」
大きな栗色の瞳をぱちぱちと瞬きすると、溜め息交じりにノアはそう話した。
どうやら誰かに言われて呼びに来たらしい。
「えー」
せっかくグスターヴァルに会えたのに、とイアンは口を尖らせる。
「ここは冷える。早く行きなさい」
隣に並んでいたグスターヴァルがイアンを見下ろしながら声を掛ける。
確かにここは日が当たらず、風が吹くと少し肌寒い。
「グスターヴァルは? 戻る?」
会場に行くのなら一緒に行こうと思い、イアンはじっとグスターヴァルの返事を待った。
「いや……私はもう少しここにいるよ」
笑顔で答えたのだが、どこか寂しそうに見えてイアンは首を傾げる。
「グスターヴァル?」
「早く行きなさい」
しかし、グスターヴァルはイアンの頭を優しく撫でるだけで何も話そうとはしなかった。
「うん、じゃあ、また後でね……」
再び後ろ髪を引かれる思いをしながらも、イアンはノアと一緒に会場へと向かった。
いや、自分が知らないだけなのかもしれない。
もしくはこれが、『恋は盲目』というものなのだろうか。
違う。そうじゃない。
それだけ素敵な人だから、恋をしたんだ。
☆☆☆
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまった。
ほんの1時間ちょっとの間に色々なことが立て続けに起きている。
たまたまイーサンを探しに行った先で運命みたいな出逢いをして、しかもその人はあの伝説のドラゴンだという。
生まれて初めて妖精を見て、生まれて初めて恋をして、そして生まれて初めてのキスをした。
もしかしたら全部夢だったのかもしれないとも考える。
でもまだ、あの時の感触が唇に残っている。夢じゃない。
そっと唇に指で触れる。
怒涛の展開に頭が混乱している。
そして今、イアンは猛烈に後悔していた。
急ぎで呼ばれたとはいえ、あのままグスターヴァルと離れてしまったことに。
「あぁっ、もうっ!」
なんでだよっ、と思わず悔しくてぼやいてしまう。
あの人はきっとまたドラゴンに戻ってしまう。もしかしたらもう会えないかもしれない。
あのキスは、彼も自分を少しは思ってくれていたのだと思いたい。
イアンは警備場所である、城の裏にある使用人用の通用口の横に座り込み、泣きたい気持ちになっていた。
両膝を抱え、自分の腕に顔を埋める。
彼にもう一度会いたい。会ってちゃんと気持ちを伝えたい……。
しかし、伝えたところで相手はドラゴンである。どうなるというのだろうか。
(このままもう会わない方が……)
会わない方がいい、そう思い掛けていたところにふと声を掛けられた。
「イアン?」
なぜだろう。諦めようとした時に、なぜ神様は願いを叶えてくれるのか。
このいい声を聞き間違えるはずはない。
顔を上げると、首を傾げながらじっと見下ろしているグスターヴァルの姿があった。
「……グスターヴァル」
結婚式に出席していたはずなのに、なぜこんな所にいるのか。
迷子にでもなったのか。
それでもいい。また会えた。
思わずイアンは泣きそうになっていた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
心配そうな顔でじっと見つめてくれている。
会いたくて、顔が見たくて、自分の気持ちを伝えたくて……。
しかし今はそんなことよりも、目の前にグスターヴァルがいることが信じられなくて、イアンは目を大きく見開いたまま固まっていた。
「大丈夫か? 目が少し赤い。休んだ方が良さそうだな……」
ふわりとグスターヴァルはイアンの横にしゃがむと、そっとイアンの髪を撫でる。
「っ!」
触れられて、ドキンと心臓が大きく鳴った。
そして驚いて思わずその手を払ってしまった。
「すまない……触らない方が良かったか?」
触れた瞬間、ぶわっと顔を真っ赤にさせたイアンに手を払い除けられ、グスターヴァルは申し訳なさそうな顔で見つめる。
「あっ! これはっ、違くて……ちょっとびっくりしただけ。嫌じゃないから」
そんなつもりはなかったと、慌ててグスターヴァルのジャケットの裾を掴んだ。
好きな人に触れられて、嫌な訳はない。
「そうか……それなら良かった。実は、イアンに私の分の食事をしてもらおうと思ったんだが、体調が悪そうだな」
なぜこんな所に? と思った疑問を聞く前に、グスターヴァルが答えてくれた。
「えっ? どうして?」
食事というのは結婚式でゲストに振る舞われた料理のことを言っているのだろう。
なぜそんなことを言うのかイアンは理解できず、首を傾げる。
「あぁ、私は食事をしないからな」
「えっ?」
グスターヴァルの答えに更に分からなくなり声を上げる。
「食事をしないって、何も食べないってこと?」
続けてグスターヴァルに質問を投げ掛けた。生き物なのに何も食べないなんてありえない。
「ふっ……秘密だ」
くすっと笑うと、グスターヴァルはそう答えて立ち上がった。
「ええっ、秘密って……」
思わず文句を言ってしまったが、優しく笑っているグスターヴァルを見上げたら、なんだか嬉しくなった。
「グスターヴァルっ」
名前を呼んでイアンも立ち上がる。
そしてじっとグスターヴァルを見つめた。
「…………」
黙って見つめ返しているグスターヴァルに、イアンは意を決して告白をしよう、そう思った。
――その時。
「イアンっ!」
勢いよく通用口が開き、大きな声でイアンを呼ぶ声が聞こえた。
「ノアっ」
顔を出したのは同僚のノアであった。
イアンは振り返ると驚いて声を上げた。
ノアもそこまで背が高くなく、体型も普通だ。
歳も近いこともあり、1番仲の良い騎士の仲間であった。
茶色のさらさらとした髪が風に吹かれて揺れている。
自分はくせ毛なのでノアの綺麗な髪がちょっと羨ましい。
「ここはもういいって。会場の手伝いをしろってさ」
大きな栗色の瞳をぱちぱちと瞬きすると、溜め息交じりにノアはそう話した。
どうやら誰かに言われて呼びに来たらしい。
「えー」
せっかくグスターヴァルに会えたのに、とイアンは口を尖らせる。
「ここは冷える。早く行きなさい」
隣に並んでいたグスターヴァルがイアンを見下ろしながら声を掛ける。
確かにここは日が当たらず、風が吹くと少し肌寒い。
「グスターヴァルは? 戻る?」
会場に行くのなら一緒に行こうと思い、イアンはじっとグスターヴァルの返事を待った。
「いや……私はもう少しここにいるよ」
笑顔で答えたのだが、どこか寂しそうに見えてイアンは首を傾げる。
「グスターヴァル?」
「早く行きなさい」
しかし、グスターヴァルはイアンの頭を優しく撫でるだけで何も話そうとはしなかった。
「うん、じゃあ、また後でね……」
再び後ろ髪を引かれる思いをしながらも、イアンはノアと一緒に会場へと向かった。
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