White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第36話

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「えーっ! ユウキもう帰っちゃうの? 泊まっていけばいいじゃんっ。ね? まだ帰らないでよ、せっかく来たのにっ」
 大きな瞳を潤ませながら、じっと優希を見つめてアリスが訴えるように話す。
 猫耳はもう付いていないが、可愛らしいアリスの姿に思わず頷いてしまいそうになったが、優希は困ったように海斗を見た。
「ダメだ。家の者が俺たちの帰りを待っている。泊まる予定にはしていないから、俺たちが戻らなければまた心配を掛けてしまう」
 優希に向かってこくりと頷くと、海斗はアリスに向かって断りの説明をする。
 以前、ワンダーランドに連れ去られた時に、橘には相当な心労を掛けてしまった。同じようなことは二度としないと海斗は誓っていたのだ。
「そうですね。優希くんと海斗くんの都合があります。アリス、無理を言ってはダメですよ」
 ふぅっと溜め息を付き、ルイがアリスに言い聞かせた。
「だって……」
 しゅんと落ち込んでしまったアリスの頭に、幻覚で垂れた猫耳が見えそうである。
「ごめんね、アリス。また遊びに来るからさ」
 困った顔のまま優希は必死にアリスを宥める。
 自分ももっとここにいたい気持ちはあるが、確かに海斗の言う通りである。それに長居すればするほど、帰るのが寂しくなるかもしれない。
「そうだよアリス。これでお別れじゃないんだから。またキティの戴冠式にも来るんでしょ?」
 そっとアリスの頭を撫でながら優しく話し掛けたジェイクは、ぱっと優希と海斗に視線を移すとにこりと笑う。
「え……?」
 聞いてないけど、と優希は海斗とルイの顔を交互に見る。
「来ていただけると嬉しいですが、おふたりのご都合もあるでしょうし。無理は言いませんよ」
 さらりと微笑しながらルイが答えてくれたが、なんとなくではあるが『来なくても大丈夫』という意味を含めて言われたような気がした。
「そうだな。ワンダーランドの行事だろうし、俺たちは関係ないからな。遠慮しておく。……優希、また今度普通に遊びに来ればいい」
 ルイの言葉の意味を汲み取った海斗が淡々と答えた。
 優希もまた、『やっぱりそうだよね』と思いながら頷く。
「そっか……残念だね。戴冠式はそうそう見られないだろうからと思ったんだけど」
 笑っていたジェイクもまたしゅんと落ち込んでしまった。またしてもジェイクの頭に白い犬の垂れた耳が見えそうであった。
「確かに……」
 今回キティが王位を継承した後、次の世代への継承は何十年も先のことになるだろう。
 見てみたかったな、と優希もまたしょんぼりとしてしまった。
「なんだ優希、来たいのか?」
 落ち込んでいる3人を交互に見て、海斗は溜め息を付きながらどうしたものかと困った顔をする。
「ううん。大丈夫。俺たち来たら邪魔になるかもだし」
「そんなことはないですよ、優希くん」
「落ち着いたらまた遊びに来るよ。ねっ、海斗?」
 俯きながら首を振る優希に、ルイが気を遣って否定してくれたが、ぱっと顔を上げるとにこっと笑ってみせる。
 そして隣の海斗を見ながら同意を求めた。
 すぐに海斗は頷きながら優希の頭を撫でる。
「あぁ。こちらはまだ忙しいだろうから、しばらくしたらまた来よう」
「そうですか。お気遣いいただきありがとうございます。では、そろそろ行きましょうか。ゲストも皆さん退席されたようですので」
 ふわりと笑みを浮かべると、ルイはぱんと手を叩き、気持ちを切り替えるように周りを見回しながら優希と海斗に話す。
「あっ、ほんとだっ。もう俺たちだけじゃんっ」
 きょろきょろと周りを見回すと、ちょうど最後のゲストが入口のキティとライアンに挨拶をしているところであった。
「そういえば、グスターヴァル帰ってこないね」
 ふと席を立ったままのグスターヴァルを思い出し、優希はじっと入口の方を眺める。
 戻ってくる様子はない。
「……優希くん、グスターヴァルはもう帰られましたよ」
 するとルイが優希の言葉に答えた。
 その声に反応して優希はぱっとルイの顔を見たのだが、なぜだか浮かない表情をしている。
「えっ! グスターヴァルもう帰っちゃったの?」
 なぜそのような顔をしているんだろうと不思議に思いながらも、もっと話したかったのにと口を尖らせながら優希が問い返した。
「……えぇ」
 やはりルイはどこか表情が暗い。グスターヴァルに何かあったのだろうかと優希は不安になった。
「瑠依さん? グスターヴァルに何かあった?」
「いえ、大丈夫ですよ。妖精にちゃんと元の姿に戻してもらえましたし」
 しかしルイはにこりと笑って優希に答える。
「そっか……そんなに急いで帰らなくても、俺たちのこと待っててくれたら良かったのに……お別れの挨拶もしてない」
 何かあった訳ではないのなら良かったと安心しつつも、やはり挨拶もなく帰ってしまったグスターヴァルのことを残念そうに口を尖らせる。
「珍しいね。そういうとこはちゃんとしてるのに」
 漸く元気を取り戻したアリスは、ルイの話を聞きながらテーブルの上に頬杖をつく。
「そうだね。何も言わずに帰っちゃうなんて。余程何か急ぎの用事でもあったのかな」
 ジェイクも不思議そうに首を傾げる。
 確かにグスターヴァルはドラゴンだからなのかは分からないが、とても義理堅い性格をしている。主である優希に何も言わずに帰ってしまったことは恐らく初めてだろう。
「また会えるよね……」
「えぇ、また来てください。私たちの所にも」
 にこりと笑ってルイが話していると、入口でゲストを見送り終わったキティとライアンが優希たちのテーブルに戻ってきた。
「ユウキ、カイト、今日は来てくれてありがとっ」
 最後に着替えたピンク色のふわりとしたドレスに身を包んだキティは、満面に笑みを浮かべながら優希と海斗に話し掛ける。
「キティに名前呼ばれるの初めてだから、なんか照れるねっ」
 そういえば、ちゃんと会話をしたのは初めてかもしれないとも思っていた。
 へへっと笑いながら優希は頭を掻きながら答える。
「ユウキ、……その、わざわざ来てくれてありがとな」
 すると黒のタキシードに着替えたライアンが照れ臭そうに優希に話し掛ける。
「あっ、ライアンに呼ばれるのも初めてだね。ふふっ、キティのドレスも素敵だけど、ライアンの衣装もかっこいいねっ」
 にこりと笑って優希はライアンを見上げる。
 つい花嫁に目が行きがちだが、新郎のライアンのタキシードも良く似合っている。
 並んでいる所を見ると、本当にお似合いのカップルだと改めて感じていた。
「そうか?」
 頭を掻きながら照れ臭そうにしながらも、ライアンは顔を綻ばせている。
「ちょっとライアン?」
「えっ?」
 ぎゅっとキティに腕を掴まれライアンは慌てたようにキティを見る。
 どうやら優希にデレている姿に嫉妬したのか、頬を膨らませてまるでリスのような顔になっている。
「キティ……違うってば」
 やはりライアンは尻に敷かれているようだ。
 優希たちはそんな新婚ふたりを見ながら楽しそうに笑っていたのだった。
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