White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第34話

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「えええええっ!」
 思わず4人は同時に声を上げてしまった。
 会場はすっかりお祭りムードになっている為、声を上げても特に注目は浴びていないようだ。
「ちょ、ちょっと待ってアリス。え? グスターヴァルが?」
 目をぱちくりと瞬きさせて、優希は大きな目を更に大きくさせながらアリスに問い掛ける。
 まさかグスターヴァルが『恋』をしたなんて信じられなかった。
「間違いないよっ。あれは絶対にそうだよ。なんかずっとグスターヴァルにしては落ち着きないなぁって思ってたんだ。人が沢山いて落ち着かないだけかと思ったけど、イアンを探してたんだねぇ」
 楽しそうにふふっと笑いながらアリスが答えた。
 確かに会場に来る前、ゲストルームにいた時からグスターヴァルはどこか落ち着かない様子であった。慣れない人の体でそうなのだと優希も思っていた。
「なるほど……ふたりきりだった時に、『何か』があった、ってことだな」
 ふむと顎に手を当て、海斗が頷く。
 ライバルが減るのだから、海斗にとってもグスターヴァルの恋の話はこれ以上ない嬉しい話題であった。
 すっかり機嫌が良くなっている。
「ええっ!」
 海斗の話を聞いて、再び優希が声を上げる。
 なんとなく、グスターヴァルは身内のような感覚でいた優希はショックを受けていた。
 なぜショックを受けたのかは自分でもよく分からない。
 胸の中で何かがぐるぐると渦巻いている。

「なぁに? どうしたの?」

 するとそこへ、順番に挨拶に回っていたキティとライアンが優希たちのテーブルに来たのだった。
 嬉しそうな顔でキティが首を傾げている。
 先程4人が声を上げたのを聞いてこちらに来たのかもしれない。
「何を騒いでるんだ?」
 やはり声を聞いていたようで、呆れた顔でライアンが見下ろしている。
「へへー。恋のお話」
 ひとり楽しそうなアリスがキティに答えた。
「恋~?」
 眉間に皺を寄せながらライアンが問い返す。
「素敵っ! 誰の恋の話なの?」
 しかし、横ではキティが目を輝かせながらアリスに問い返していた。
 やはり女性は恋の話が好きなのだろうか。
「グスターヴァルだよ」
 すると横からジェイクがにこりと笑って答える。
「はっ?」
 当然の反応だろう。ライアンがぎょっとしたような顔で再び問い返す。
「グスターヴァルっ! えー凄いっ! 相手は誰なのっ?」
 更に目を輝かせながら両手をぎゅっと握り、キティは前のめりになりながら声を上げた。
「イアンだよ」
 今度はエリスが冷静に答える。
「イアン?」
 しかし、誰のことか分からないようで、キティは両手を握り締めたままきょとんと首を傾げた。
「さっき控室にいた騎士の男の子だよ。ひとりいたでしょ?」
 再びジェイクが横から答える。
「あぁっ! あの子っ! なんか可愛い感じの子がいたねっ」
 ぱんと手を叩くと、目をくりっと大きくさせながらキティが声を上げた。
「なんだそりゃ……グスターヴァルはドラゴンだろ? 今は人の姿だからといっても無理だろ」
 呆れたような顔でライアンが水を差すようなことを言い出した。
「ライアンっ!」
 すぐにキティが怒ったように声を上げた。腰に手を当てながらぷくっと頬を膨らませライアンを睨み付ける。
「なんだよ、怒るなよ……だってそうだろ?」
 慌てたライアンは怯んで体を小さくさせる。
 どうやら既にキティの尻に敷かれていそうである。
「そんなの関係ないわっ! グスターヴァルはワンダーランドの守り神で私たちを救ってくれた大切な友達よっ。こんな嬉しいことないじゃないっ。ふたりを応援しなきゃっ」
 ぎゅっとライアンの腕を掴み、むっとした顔で怒っていたキティだったが、再び目を輝かせながら声を上げる。
「そうだよっ。僕たち皆で応援してあげようよ」
 にこりとアリスも笑って答える。
「そうだね」
 つられるようにジェイクも微笑む。
「まったくお前らは……」
 呆れたように額を押さえるライアン。
「…………」
 話を聞きながら、自分も応援しなきゃと思いつつ、なぜか優希は声に出せずにいた。
 複雑な気持ちは相変わらず胸の辺りでぐるぐると回っている。
「優希?」
 浮かない顔で俯いている優希を、海斗が心配そうに覗き込んだ。
「そうだよね……いいことなんだし、応援しないとだよね」
 俯いたまま優希はぼそりと呟く。
「ユウキってば、グスターヴァルを取られちゃうって落ち込んでるの?」
 テーブルのちょうど優希の前に座るアリスが、優希の様子に気が付き声を掛けた。
「ち、違うよっ。そんなんじゃないっ」
 慌てて顔を上げると、かぁっと顔を赤くしながら全力で否定する。
「そんな風に否定するなんてあやしー」
 にやりと笑いながらアリスが揶揄うように話す。
「もうっ、アリスっ。違うってばっ。……なんていうか、ちょっと寂しいって思っただけだよっ」
 ぷくっと頬を膨らませながら言い返した。そして、自分の中でぐるぐるしていたものがなんだったのか、漸く分かった気がした。
 そうだ、『寂しかった』のだろう、自分は。
 出会ってからずっと、まるで年の離れた兄のように、いつも自分のことを気に掛けて、1番に考えてくれていたグスターヴァル。
 優しくて頼もしくて、そんな兄のような存在だったグスターヴァルが、自分ではない誰かを大切に思うようになったことが寂しかったのだ。
「ふぅん?」
 ハッとしたような顔をしている優希をじっとアリスは見つめている。
「で、やっぱり取られちゃうって思ったんでしょ?」
「…………」
 もう一度言われた言葉に言い返すことができなかった。
 先程ははっきりと否定したのに、自分の気持ちに気が付いてから何も言い返せなくなってしまったのだ。
「優希……」
 再び複雑な心境になってしまった海斗は、じっと優希を見つめながらぎゅっと手を握る。
「海斗」
 ハッとして優希は海斗の顔を見た。
「違うからねっ。だから……前にも言ったけど、グスターヴァルはお兄ちゃんみたいなものっていうか、お兄ちゃんに好きな人ができたみたいな、その、なんていうか……分かるっ? 俺が言いたいこと」
 また誤解をさせないように優希は必死になって海斗に話した。
「あぁ。分かってる」
 優しい顔で頷くと、海斗は握った手に力を入れる。
「ちょっとぉ、そこでイチャつかないでくれるぅ?」
 今度はアリスが膨れた顔でふたりを睨み付けた。
「まぁまぁ。でも、グスターヴァルは確かにドラゴンだけど、これでひとりじゃなくなったんだし、喜ばしいことじゃない?」
 苦笑いしがらアリスの頭を撫でると、皆に言い聞かせるようにジェイクが話した。
「うん、そうだよね」
 自分ばかり欲張ってはいけない、と優希も頷く。自分には海斗がいるが、グスターヴァルにはそういった相手がいなかったのだ。
 ドラゴンとは言っても、恋をしてはいけない訳ではない。
「そうよっ。皆で応援しましょっ」
 嬉しそうな顔でキティが再びぱんと両手を叩いた。

 すっかり当人たちの気持ちは置いてけぼりになっていたのだが、誰も気が付いてはいなかった。
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