White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第30話

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 初めて見る人の姿の自分。
 グスターヴァル自身もこの姿が海斗とイーサンに少し似ていると感じていた。
 そしてイアンが選んだスーツ。
 青のピンストライプが入った黒のスーツ。
 白いシャツに綺麗な紫色のネクタイ。
 それはまさにドラゴンの姿のグスターヴァルと、イアンの瞳の色のようだった。
「私とイアンみたいだな」
 ふっと口元に笑みを浮かべて、鏡に映る自分の姿とスーツを見つめながらグスターヴァルが呟いた。

「あっ……あの、えっと……やっぱ違うのにしよっ!」
 急に恥ずかしくなったイアンは慌ててグスターヴァルからスーツを離し、クローゼットの中に戻そうとした。
 すると、ぐっとグスターヴァルに腕を掴まれた。
「っ!」
 驚いて振り返ると、グスターヴァルが真剣な表情で見つめている。
「いや、これにしよう。イアンが決めてくれたものだ」
 そう言ってグスターヴァルはスーツを掴むと、そのまますたすたとソファーの方へと歩いて行った。
「えっ……」
 思わず手を離してしまったイアンは慌ててグスターヴァルを追う。
「あの、グスターヴァル?」
「なんだ?」
 困った顔で見上げると、不思議そうにグスターヴァルが問い返した。
「ほんとにこれでいいの?」
 スーツの色を見てピンときたとはいえ、自分とグスターヴァルをイメージしてしまった。
 恥ずかしさと不安でいっぱいになりながら、じっとグスターヴァルを見上げて問い掛ける。
「あぁ、とてもいい色だ。気に入った」
 そう言ってグスターヴァルは優しく笑いながらイアンの頭を撫でた。
 頭を撫でられたことと、笑ったグスターヴァルの顔を見て再び顔が熱くなる。
 真っ赤な顔になったイアンに気が付くことなく、グスターヴァルはそっとソファーにスーツを置くと、着ていたシャツのボタンに触れた。
「うむ……イアン、悪いが手伝ってくれないか?」
 しかし、着替え方が分からないようでグスターヴァルは首を捻る。
「あっ……うん」
 そういえばグスターヴァルはドラゴンだったと思い出し、イアンはグスターヴァルのシャツのボタンを外し始めた。
 黒いシャツを着ていたのだが、中に何も着ていなかった為、グスターヴァルの屈強な上半身が露となった。
「ふぁっ……」
 思わず変な声が出てしまい、イアンは慌てて口を手で押さえた。
 体格良さそうだなとは思っていたが想像以上の肉体美だった。
 騎士であるイアンはこういった男の体は見慣れているはずなのだが、相手がグスターヴァルだと思うと、恥ずかしくて目を逸らしてしまった。
「イアン? どうした?」
 真っ赤な顔になっているイアンをグスターヴァルが心配そうに覗き込む。
「だ、だいじょぶですっ! あの、シャツ……これ、着てっ」
 慌てて着替えのシャツのボタンを外し、グスターヴァルに手渡す。
 恥ずかしすぎてイアンは顔が上げられなくなっていた。
「そうか?」
 不思議そうに首を傾げると、グスターヴァルは受け取ったシャツに腕を通した。
 しかし、シャツのボタンを留めようとしてぴたりと手が止まる。
「すまない、イアン。頼めるか?」
 困った顔でじっと見つめるグスターヴァルに、一瞬どきんとしながらも、ボタンが自分で留められないのかと気が付き、できるだけグスターヴァルの体を見ないように1つずつ留めていった。
 途中ではたと気が付く。シャツもということは、もちろん下も……。
「えっと、グスターヴァル。これは?」
 今着ているボトムスは黒のストレートパンツだった。
「あぁ、これも着替えないとな……うむ、これはどうするんだ?」
 やはり脱ぎ方が分からないようであった。
 再びイアンは赤い顔をしながら、そっとグスターヴァルの穿いているパンツのボタンを外す。
 そしてファスナーを下ろした。
 しかしこれ以上は恥ずかしすぎると、思わず目を逸らしてしまう。
「そのまま下に下ろせば脱げるからっ」
「あぁ……」
 不思議そうに首を傾げながら、言われた通りにグスターヴァルは穿いていたストレートパンツを下ろす。
「脱げたぞ」
 そう言われてグスターヴァルを振り返ったイアンは、顔から湯気でも出るんじゃないかと思われるくらいに熱くなっていた。
 別に男同士なのだから恥ずかしがる必要はないのだが、つい長い脚と下着に目がいってしまったのだ。
 引き締まった筋肉質の体に長い手足。
 少し日に焼けたような色のすべすべとした素肌。
 恥ずかしいと思いつつも見惚れてしまい、しかも思わず目がその中心にいってしまった。
 黒のボクサータイプの下着。その中心を……。
(平常時であのサイズは……って何考えてんだっ、俺はっ)
 慌てて両手で顔を覆うと、イアンは真っ赤な顔のまま後ろを向いた。
「そ、それも着替えのを穿いてっ」
 後ろを向いたままイアンがグスターヴァルに話す。
 不思議そうに首を傾げたまま、グスターヴァルは言われた通りにスラックスを手に取りゆっくりと穿く。
「イアン」
 やはり穿くのが精一杯のグスターヴァルはイアンに助けを求めてきた。
「…………」
 顔から手を離すと、ゆっくりと振り返る。
 グスターヴァルはスラックスを穿いた状態のままぐっと手で持っている。
「ちょっと待って」
 赤い顔のままそっとスラックスのボタンを留め、ファスナーを上げた。
 ソファーにあったベルトを手に取り、そっと通していく。
 体の大きいグスターヴァルのベルトを締めるだけで一苦労だった。
 足元を見ると、黒の靴下に先程パンツを脱ぐ際に脱いだと思われる革靴が置いてあった。
 綺麗な革靴であったのでこれはこのままでいいかな、とイアンは考えた。
 あとはネクタイとベストとジャケットである。
 ソファーに置かれていた紫色のネクタイを掴む。
 それを持ってイアンがグスターヴァルを見上げた。
「えっと、グスターヴァル、ちょっと屈んでくれる?」
 ネクタイを結ぼうにもまずはグスターヴァルの首が遠い。
 恐らくふたりの身長差は20センチくらいあるのだろう。
「これでいいか?」
 屈んだ姿勢でグスターヴァルがじっとイアンを見つめた。
「うん……ちょっと待ってね」
 グスターヴァルの首元にネクタイを通す。
 前にたらりと垂らして結ぼうとしたのだが、ハッとして気が付く。
「あ、もういいよ」
 屈んだままでは辛いだろうと声を掛ける。
 すっと再び元の姿勢に戻ったが、グスターヴァルはじっとそのままイアンを見つめていた。
 イアンはネクタイを結ぶのに必死になっており、そのことには気が付いていなかった。
「できたっ!」
 そう言ってぱっと顔を上げた。
 するとイアンを見つめていたグスターヴァルと目が合った。
 しかも今までにない至近距離で。
「っ!」
 再び顔から湯気が出そうな程に熱くなった。
 すぐ目の前に、真剣な表情で見つめるグスターヴァルの顔がある。
 ドキドキと今までにないくらいに鼓動が速い。そして目が離せなかった。
 グスターヴァルも目を離そうとしない。
 思わずイアンは唇と目をきゅっと閉じて固まった。
 すると数秒後――。
「イアン?」
 急に名前を呼ばれ目を開けると、グスターヴァルが不思議そうに首を傾げている。
 ハッと気が付き、慌てて声を上げた。
「なっ、なんでもないっ!」
 グスターヴァルはドラゴンなのだ。
 何を勘違いしてるんだと、恥ずかしさで逃げ出したくなっていた。

 かぁっと真っ赤に染まった顔を逸らしたイアンを見つめながら、グスターヴァルも気が付いたことがあった。
「あぁ、そうか……すまなかった、イアン」

 ふと聞こえたグスターヴァルの言葉に「え?」と言って振り返った瞬間――。
 唇に、グスターヴァルの唇が重なった。
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