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Wedding~消えた花嫁~
第28話
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花嫁の控室から会場までは近くであったが、ルイの部屋はその反対側にある。
歩き始めてから既に数分が経っていた。
複雑ではないと言われたものの、イアンは既に道が分からなくなっていた。
似たような道を曲がったり真っすぐ歩いているうちに、もはや『ここはどこ』状態であった。
城の人たちは一体どうやって道順を覚えているのだろうかと首を傾げる。
「大丈夫か?」
冷や汗をかきながら周りをきょろきょろとしているイアンに気が付き、グスターヴァルが声を掛けた。
「あっ……はいっ」
全く大丈夫ではなかったが、思わず返事をしてしまった。
答えた後でイアンは後悔していた。
「心配するな」
イアンの不安を察したかのように、グスターヴァルは前を向いてそう話した。
「あ……はい」
なぜだかグスターヴァルの言葉には安心感がある。
隣を歩くグスターヴァルをじっと見上げながらイアンはぼそりと答えていた。
そうこうしているうちにルイの部屋の前に辿り着いた。
「着いたよ」
くるっと振り返ってエリスがふたりに話し掛けた。
目の前には綺麗な彫刻が施された大きな木の扉がある。
扉には金色の取っ手が付いており、そちらにも彫刻が入っている。
王家の部屋に相応しい豪華さに、イアンは目をぱちぱちと瞬きさせていた。
聖騎士になってまだ2年目のイアン。
普段は騎士の宿舎で生活しており、訓練も城の敷地内で行われているとはいえ、ルイの部屋はもちろん、キティの部屋も王の間も近くに来た事さえなかったのである。
「す、すご……」
思わずぽかんと口を開けて扉を見上げていた。
「じゃあ、中に入ろう」
そう言ってエリスが金色の取っ手を掴んで扉を開けた。
扉は音をさせることなく静かに開く。そのままエリスは中へと入っていった。
慌ててイアンが取っ手を掴んで自分の体をストッパー代わりに扉を支えた。
そしてグスターヴァルが中に入れるように「どうぞ」と見上げる。
「あぁ、ありがとう」
ふっと口元に笑みを浮かべるとグスターヴァルがイアンにお礼を言う。
初めて見た表情にイアンは思わず顔を赤らめていた。
しかしその様子にグスターヴァルは気が付いていなかった。
「えっと……クローゼットはここね」
部屋の奥の壁側にあるクローゼットをガチャッと開くと、振り返ってエリスが説明した。
「あ、はいっ」
そっと取っ手を掴んで部屋の扉を閉めると、急いでイアンがエリスの所まで来た。
グスターヴァルもゆっくりとふたりの所へ歩いていく。
「わっ……」
両開きになったクローゼットの扉が全開され、中を見たイアンが驚きの声を上げた。
中には色とりどりのスーツがずらりとかかっている。
しかし、背の高いグスターヴァルに合うスーツがあるのだろうかと不思議に思い、こてんと首を傾げる。
「あの……サイズはあるんでしょうか?」
気になってエリスに尋ねた。
「うん、大丈夫だよ。このクローゼットは魔法のクローゼットでね。どんなサイズの服や靴も出せるんだよ。えっと、グスターヴァルの身長はどれくらい?」
にこりと笑ってエリスが答える。そしてちらりとグスターヴァルを見上げた。
「さぁな。先程カイトと並んだ時は私の方が少し大きいようだったな」
ふむ、とグスターヴァルは顎に手を当てながら首を傾げる。
「うーん……カイトの身長も知らないし……ルイよりちょっと大きいくらい? ってことは、グスターヴァルは……」
口元に手を当てながらエリスが独り言のようにぶつぶつと呟いている。
すると何かを思い出したように「あっ!」と声を上げた。
「そうだっ、グスターヴァルに開けてもらえばいいかもっ」
ぱんと手を叩くと、エリスはそう言って再びクローゼットの扉を閉じてしまった。
「私がか?」
不思議そうな顔でグスターヴァルが首を傾げる。
当然何がなんだか分からないイアンはぽかんとしていた。
「うんっ。魔法のクローゼットって言ったでしょ? 普段はルイが着る人を見て選んでくれてるんだけど。あとはサイズが分かっていれば、クローゼットにお願いするとそのサイズを出してくれるんだ。でも、グスターヴァルのサイズが分かんないから、こういう時は本人が『私のサイズの服を出してください』って言って扉を開けると、ほんとにサイズぴったりの服が出てくるって前にルイから聞いたんだ。ね、グスターヴァルやってみて」
きらきらと目を輝かせながらエリスが説明をした。
「なるほどな……分かった。やってみよう」
そう言ってグスターヴァルはクローゼットの前に立つと、ぎゅっと扉の取っ手を掴んだ。
そして、エリスに言われた通りの言葉を低く良い声で発したのだった。
何か音が鳴る訳でも光る訳でもなく、クローゼットも扉もしんと静まり返っている。
本当に魔法が効いたのだろうかと、3人は首を傾げた。
「俺もよくは分からないんだけど……グスターヴァル、開けてみて?」
きょとんとした顔でエリスがグスターヴァルを見上げる。
「分かった」
ガチャッと音をさせながらグスターヴァルがクローゼットの扉を開いた。
中は先程見たように、スーツがずらりと並んでいる。
変わったようには見えない。
「どうなんだろ? ちょっと一着あててみようか」
ちょこんと首を傾げると、エリスはクローゼットにかかっているスーツを取ろうと手を伸ばす。
しかし、背の低いエリスはハンガーまで手が届かない。
「うぅっ……」
必死に背伸びをするが、ぎりぎり指の先が届くくらいであった。
「俺が取りますよ」
そう言って中から一着、イアンがそっとスーツを取った。
騎士にしては小柄であったが、エリスよりは高い。すんなり取ることができた。
そのままそっとグスターヴァルの体にあててみた。
適当に取ったスーツであったが、グスターヴァルの素材が良いせいか、ただのスーツがかっこ良く見え、イアンは思わず顔を赤らめる。
そんなことには全く気が付いていないエリスとグスターヴァルはじっとスーツを見つめ、サイズを確認していた。
「うん、大丈夫そうだね。良かった」
にこりとエリスが笑ってグスターヴァルを見上げる。
何か変わった様子はなかったが、問題なく魔法が効いたようだ。
「そうか」
あまりよく分かっていなさそうなグスターヴァルだったが、エリスの笑顔を見て納得したようだ。
「じゃあ、俺は仕事があるから行くよ。イアン、後よろしくねっ」
くるっと今度はイアンの方を見てエリスはにこりと笑う。
「あ、えっと……はい」
可愛らしい笑顔を向けられ、再びイアンが緊張しながら答える。
「あ、そうだイアン。別に俺には敬語使わなくていいよ?」
行こうとしてふと振り返ったエリスは、困ったような顔でじっとイアンを見た。
「そんなっ! ダメですよっ! だってエリスさんはルイ様の恋人じゃないですかっ!」
慌てて顔の前で両手を振ると、イアンはぎょっとした顔で答える。
「ちょっ、やめてよっ、もうっ! 偉いのはルイだけで俺は普通の人間なんだから。それにイアンの方が年上でしょっ?」
真っ赤な顔で声を上げると、エリスは腰に手を当てながらイアンを睨み付ける。
「や……でも」
「いいんじゃないか? 本人がこう言ってるんだ」
困った顔でエリスを見つめるイアンにグスターヴァルが口を挟んだ。
「えっと……じゃあ」
「うん。普通でいいよっ。じゃあまた後でね。グスターヴァルもバイバイっ」
頷いたイアンを見ると、エリスはにこりと笑って手を振り、そのまま部屋を出て行った。
歩き始めてから既に数分が経っていた。
複雑ではないと言われたものの、イアンは既に道が分からなくなっていた。
似たような道を曲がったり真っすぐ歩いているうちに、もはや『ここはどこ』状態であった。
城の人たちは一体どうやって道順を覚えているのだろうかと首を傾げる。
「大丈夫か?」
冷や汗をかきながら周りをきょろきょろとしているイアンに気が付き、グスターヴァルが声を掛けた。
「あっ……はいっ」
全く大丈夫ではなかったが、思わず返事をしてしまった。
答えた後でイアンは後悔していた。
「心配するな」
イアンの不安を察したかのように、グスターヴァルは前を向いてそう話した。
「あ……はい」
なぜだかグスターヴァルの言葉には安心感がある。
隣を歩くグスターヴァルをじっと見上げながらイアンはぼそりと答えていた。
そうこうしているうちにルイの部屋の前に辿り着いた。
「着いたよ」
くるっと振り返ってエリスがふたりに話し掛けた。
目の前には綺麗な彫刻が施された大きな木の扉がある。
扉には金色の取っ手が付いており、そちらにも彫刻が入っている。
王家の部屋に相応しい豪華さに、イアンは目をぱちぱちと瞬きさせていた。
聖騎士になってまだ2年目のイアン。
普段は騎士の宿舎で生活しており、訓練も城の敷地内で行われているとはいえ、ルイの部屋はもちろん、キティの部屋も王の間も近くに来た事さえなかったのである。
「す、すご……」
思わずぽかんと口を開けて扉を見上げていた。
「じゃあ、中に入ろう」
そう言ってエリスが金色の取っ手を掴んで扉を開けた。
扉は音をさせることなく静かに開く。そのままエリスは中へと入っていった。
慌ててイアンが取っ手を掴んで自分の体をストッパー代わりに扉を支えた。
そしてグスターヴァルが中に入れるように「どうぞ」と見上げる。
「あぁ、ありがとう」
ふっと口元に笑みを浮かべるとグスターヴァルがイアンにお礼を言う。
初めて見た表情にイアンは思わず顔を赤らめていた。
しかしその様子にグスターヴァルは気が付いていなかった。
「えっと……クローゼットはここね」
部屋の奥の壁側にあるクローゼットをガチャッと開くと、振り返ってエリスが説明した。
「あ、はいっ」
そっと取っ手を掴んで部屋の扉を閉めると、急いでイアンがエリスの所まで来た。
グスターヴァルもゆっくりとふたりの所へ歩いていく。
「わっ……」
両開きになったクローゼットの扉が全開され、中を見たイアンが驚きの声を上げた。
中には色とりどりのスーツがずらりとかかっている。
しかし、背の高いグスターヴァルに合うスーツがあるのだろうかと不思議に思い、こてんと首を傾げる。
「あの……サイズはあるんでしょうか?」
気になってエリスに尋ねた。
「うん、大丈夫だよ。このクローゼットは魔法のクローゼットでね。どんなサイズの服や靴も出せるんだよ。えっと、グスターヴァルの身長はどれくらい?」
にこりと笑ってエリスが答える。そしてちらりとグスターヴァルを見上げた。
「さぁな。先程カイトと並んだ時は私の方が少し大きいようだったな」
ふむ、とグスターヴァルは顎に手を当てながら首を傾げる。
「うーん……カイトの身長も知らないし……ルイよりちょっと大きいくらい? ってことは、グスターヴァルは……」
口元に手を当てながらエリスが独り言のようにぶつぶつと呟いている。
すると何かを思い出したように「あっ!」と声を上げた。
「そうだっ、グスターヴァルに開けてもらえばいいかもっ」
ぱんと手を叩くと、エリスはそう言って再びクローゼットの扉を閉じてしまった。
「私がか?」
不思議そうな顔でグスターヴァルが首を傾げる。
当然何がなんだか分からないイアンはぽかんとしていた。
「うんっ。魔法のクローゼットって言ったでしょ? 普段はルイが着る人を見て選んでくれてるんだけど。あとはサイズが分かっていれば、クローゼットにお願いするとそのサイズを出してくれるんだ。でも、グスターヴァルのサイズが分かんないから、こういう時は本人が『私のサイズの服を出してください』って言って扉を開けると、ほんとにサイズぴったりの服が出てくるって前にルイから聞いたんだ。ね、グスターヴァルやってみて」
きらきらと目を輝かせながらエリスが説明をした。
「なるほどな……分かった。やってみよう」
そう言ってグスターヴァルはクローゼットの前に立つと、ぎゅっと扉の取っ手を掴んだ。
そして、エリスに言われた通りの言葉を低く良い声で発したのだった。
何か音が鳴る訳でも光る訳でもなく、クローゼットも扉もしんと静まり返っている。
本当に魔法が効いたのだろうかと、3人は首を傾げた。
「俺もよくは分からないんだけど……グスターヴァル、開けてみて?」
きょとんとした顔でエリスがグスターヴァルを見上げる。
「分かった」
ガチャッと音をさせながらグスターヴァルがクローゼットの扉を開いた。
中は先程見たように、スーツがずらりと並んでいる。
変わったようには見えない。
「どうなんだろ? ちょっと一着あててみようか」
ちょこんと首を傾げると、エリスはクローゼットにかかっているスーツを取ろうと手を伸ばす。
しかし、背の低いエリスはハンガーまで手が届かない。
「うぅっ……」
必死に背伸びをするが、ぎりぎり指の先が届くくらいであった。
「俺が取りますよ」
そう言って中から一着、イアンがそっとスーツを取った。
騎士にしては小柄であったが、エリスよりは高い。すんなり取ることができた。
そのままそっとグスターヴァルの体にあててみた。
適当に取ったスーツであったが、グスターヴァルの素材が良いせいか、ただのスーツがかっこ良く見え、イアンは思わず顔を赤らめる。
そんなことには全く気が付いていないエリスとグスターヴァルはじっとスーツを見つめ、サイズを確認していた。
「うん、大丈夫そうだね。良かった」
にこりとエリスが笑ってグスターヴァルを見上げる。
何か変わった様子はなかったが、問題なく魔法が効いたようだ。
「そうか」
あまりよく分かっていなさそうなグスターヴァルだったが、エリスの笑顔を見て納得したようだ。
「じゃあ、俺は仕事があるから行くよ。イアン、後よろしくねっ」
くるっと今度はイアンの方を見てエリスはにこりと笑う。
「あ、えっと……はい」
可愛らしい笑顔を向けられ、再びイアンが緊張しながら答える。
「あ、そうだイアン。別に俺には敬語使わなくていいよ?」
行こうとしてふと振り返ったエリスは、困ったような顔でじっとイアンを見た。
「そんなっ! ダメですよっ! だってエリスさんはルイ様の恋人じゃないですかっ!」
慌てて顔の前で両手を振ると、イアンはぎょっとした顔で答える。
「ちょっ、やめてよっ、もうっ! 偉いのはルイだけで俺は普通の人間なんだから。それにイアンの方が年上でしょっ?」
真っ赤な顔で声を上げると、エリスは腰に手を当てながらイアンを睨み付ける。
「や……でも」
「いいんじゃないか? 本人がこう言ってるんだ」
困った顔でエリスを見つめるイアンにグスターヴァルが口を挟んだ。
「えっと……じゃあ」
「うん。普通でいいよっ。じゃあまた後でね。グスターヴァルもバイバイっ」
頷いたイアンを見ると、エリスはにこりと笑って手を振り、そのまま部屋を出て行った。
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