White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第25話

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 そのままライアンが戻ることなく5分が過ぎた。
 妖精との『かくれんぼ』に勝ったことを確信したアリスが嬉しそうに声を上げる。
「30分経ったよっ! 僕たちの勝ちだねっ!」
「それはどうかな?」
 グスターヴァルの肩の上に座っていた妖精がにこりと笑う。
「なんで? だってライアンはまだ見つかってないし、僕たちの勝ちでしょ?」
 アリスは怒ったように妖精に問い返す。
 自分たちは人の姿に戻り、キティの無事も分かっている。
「そのうち分かるよ」
 ふふっと笑うと妖精はふわりとグスターヴァルの肩から飛び上がる。
 そのすぐ後、部屋のドアがノックされた。
 そこにいた全員がドアに注目する。
 慌てたようにアリスが向かうが、すぐに勢いよくドアが開いた。

「ライアンっ!」

 ドアの前に立っていたライアンの姿を見てアリスが声を上げる。
 ライアンは虎ではなく人の姿に戻っていた。
 そして、先程まで安心していた優希たちは『まさか』と考えた。
「俺たちの負けだ」
 声を掛ける前にライアンがぼそりと話した。
「……ライアン。負けってどういうこと?」
 アリスは不安そうな顔で問い掛けた。
「それは……」
 困ったような顔をするとライアンはそのまま黙ってしまった。
「ライアンも妖精に見つかって戻ったの?」
 慌てた様子でジェイクはふたりの元へと来ると、心配そうな顔でライアンに尋ねる。
「あぁ」
「いつ見つかったの?」
 今度はアリスが問い掛ける。
「お前たちと別れてすぐだ」
 溜め息交じりにライアンが答える。
「ええっ!」
 あの場では上手く逃れられたと思っていたアリスとジェイクは驚きを隠せなかった。
「そんな……まさか、あの部屋にも妖精が?」
 まさかキティに何かあったのかと、顔を青くしながらジェイクが問い掛ける。
「いや、あの場にはいなかったんだが……」
 ライアンにしてはなんとも歯切れの悪い答えである。
「どうかしたの?」
 不思議そうにアリスが首を傾げる。
「それが……」
 溜め息を付き、ライアンが話し出そうとした時、後ろからもうひとり。
 勢いよく部屋に入ってきた人物がいた。

「皆、ごめんなさいっ!」

 入ってくるなり深々と頭を下げて謝罪したのは、ウエディングドレス姿のキティであった。
 綺麗な金髪で緩いカールの掛かった腰まである長い髪に、大きくぱっちりとした緑色の瞳。
 兄であるルイとは髪の色は違うが、同じエメラルドグリーンの瞳はそっくりである。
「キティっ!」
 部屋の中から驚いたようにルイが声を上げた。
 キティが無事だと分かっていたのはライアンとアリスとジェイクだけであった。
 万が一を考えて、ふたりは妖精にバレないよう他の人には黙っていたのだった。
「……無事で、良かった……」
 今までに見たことのないくらいに狼狽えた様子のルイは、急いでキティの元へ来ると彼女をぎゅっと抱き締めた。
「ごめんなさい……お兄ちゃん……」
 キティもまた、ぎゅっと抱き締め返す。
 背中に回した手で必死にルイの上着を掴む。
 そして目からは涙が流れていた。
「ごめんなさい、私……」
 抱き締められたまま、キティが再び謝る。
「なぜキティが謝るんだ? 心配はしたが、お前のせいではないのだから……むしろ謝らなければならないのは俺の方だ」
 そっとキティを離すと、ルイは困った顔でじっとキティの顔を見つめる。
「ううん。悪いのは全部私なの」
 ふるふると首を横に振ると、キティは目に涙をいっぱい溜めながらルイを見つめ返した。
「何を言ってるんだ、キティ」
 キティの言葉にルイが困惑する。
 その場にいた他の人も同様だった。
 キティは忽然とこの部屋から消えたのだ。それが妖精の仕業ではないというのか。
 なぜ自分が悪いと言っているのか理解できなかった。
「あのね……」
 両手を胸の前でぎゅっと握り締めると、キティは事の顛末を話し始めたのだった。



 ☆☆☆



 塔の屋根裏部屋の中で、大きな虎の姿のライアンとウエディングドレス姿のキティはぎゅっと抱き合っていた。
 抱き合うといってもライアンは今虎になっている。そっとキティの首元に顔を埋めるのが精一杯であった。
「ライアン……」
 もう一度キティがライアンの名前を呼んだ。
 前にライアンが虎の姿だった時はキティもリスの姿であった。
 あの時はサイズが違い過ぎてライアンに触れることはほとんどできなかった。
 しかし、今はぎゅっと抱き締める手にふわふわとした気持ちのいい毛の感触を感じることができる。
 思わずいっぱい触りたくなってしまっていたが、ハッと気が付き、キティはライアンから離れると慌てて屋根裏部屋の窓をそっと閉めた。
「キティ……会いたかった」
 窓際に座り込んでいるキティの横に移動すると、ライアンはすりすりとキティの体に頬擦りをする。
「ライアン……あのね、私、あなたに謝らないといけないの」
 座り込んだまま、じっと潤んだ瞳でキティはライアンを見つめた。
「謝るって何をだ? いなくなったことか? 心配かけたことか? そんなの、見つけられたんだからなんでもないだろ」
 ゆっくりとキティの横に伏せの姿勢を取ると、ライアンは不思議そうに首を傾げた。
「ううん、違うの」
「キティ?」
 ふるふると首を横に振るキティを困ったような顔でライアンが見つめる。
「あのね……実はね……」
 そうキティが話し始めた時、どこからか声が聞こえてきた。
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