White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第20話

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 セバスチャンを見上げたまま海斗が固まっている。口がぽかんと開いたままだ。
 優希はこんな海斗の姿を見るのが珍しくて、思わずじっと見つめてしまっていた。
「海斗?」
 なんとなく声を掛けてみる。
「は? あ……」
 呆然とした顔のまま優希を見下ろす。余程驚いたのだろう。
 あれだけ見たかった海斗の驚いた顔を見られて、優希はすっかりご満悦になっていた。思わずふふっと笑ってしまう。しかし海斗の表情は変わらない。
「一体、ここは……」
 そしてずっと抱き締めたまま固まっていた海斗は優希を離すと、まだ信じられないといった表情のまま周りを見回す。
「ワンダーランドっていうんだって。前に鏡の世界に行ったでしょ。それに関係してるみたい。海斗何も聞いてないの?」
 今度は優希がワンダーランドについて説明する。連れてこられた際に聞いているとばかり思っていた。海斗は城に囚われている間、どうしていたのだろうと首を傾げる。
「あ、あぁ……名前だけは、さっき聞いたが……そうか……だから俺は捕まったのか」
 平静を取り戻した海斗は、優希の話で漸く自分の置かれた立場を理解したのだった。恐らく、前にあの店で会った青年が言っていた、『規律に背く行為』そして『あの鏡を壊した罪』そのどちらか、もしくは両方の罪で自分はこの世界に連れてこられたのだろう。
(ん? 魂?)
 ふと、先程セバスチャンが話していた言葉が引っかかった。
「あ、あのっ。さっき『連れてこられた魂』って……」
 海斗は再び木の上のセバスチャンを見上げると、緊張しながらも疑問を投げかけた。
「あぁ。お前は生身の人間ではない。魂が人の形を作ったものだ」
「えっ!」
 セバスチャンの話に横で優希が声を上げた。
 確かに海斗の体は海斗の部屋にある。橘が言っていたように『魂』だけが抜けてしまった状態の体が。
 海斗に会えたことで嬉しくて忘れていたが、今目の前にいる海斗は本物の海斗ではない。いや、本物でもあるのだが、本来実態がないはずなのだ。
「どういうこと?」
 今度は優希がセバスチャンに尋ねる。
「うむ。俺も実際に見るのは初めてだ。しかし、ホワイトキャットと違うことは分かる。なんと言うべきか、まるで置物や張りぼてのような物と言えば分かるか?」
「本物の体じゃないから?」
 セバスチャンの説明に優希はじっと見上げながら更に問い返す。
「そうだな。見た目はホワイトキャットと変わらず人間だが、実際は違う。何かあればその体は消えてなくなるだろう」
「そんなっ!」
 思わず声を上げる。海斗の本当の体は優希達の世界にあるとはいえ、消えてなくなるなんて絶対に嫌だ。今目の前にいる海斗は魂が作ったもの。つまり消えてなくなるということは海斗の死を意味する。
「…………ちゃんと痛みも感触もあって、食べ物も食べられて、食べたら出るものも出て。それなのに実物ではない――か。そんなことができるのか」
 黙ってセバスチャンの話を聞いていたが、海斗は自分の手をじっと見つめながら話す。
「海斗……」
 不安そうに優希が海斗を見上げる。
「大丈夫だ、心配するな。何もなければ消えないさ。多少、普通の人間より脆いってだけだろう」
 心配そうに見上げる優希の頭に自分の手を乗せると、海斗は優しく笑いながら優希に言い聞かす。と、そこへ、
「日も暮れてきたし、そろそろご飯にしよっ」
 いつの間に来ていたのか、突然アリスがそう切り出した。
「えっ? もうそんな時間っ?」
 優希が驚いて声を上げる。確かに薄っすら暗くなってきている気がする。元々ワンダーランドは曇り空の為、明るさがいまいち分かりづらい。
「っ!?」
 アリスの声で振り返った海斗がその姿を見て固まっていた。
「海斗? どうかした?」
 優希は隣の海斗の様子に気が付き不思議そうに声を掛ける。
「……あ、いや。人違いか」
 ――エリスかと思った。
 海斗は目の前にいるアリスをエリスと勘違いしたのだ。しかし、よく見ると頭に猫耳が付いているし、顔も少し違うような気がした。
「……もしかして、エリスだと思った?」
 笑顔が一転、厳しい顔でアリスが問い返した。睨み付けるようにして海斗を見ている。
「エリスを知っているのか?……っ! もしかして、エリスの兄弟か?」
 まさかエリスの名前を聞くとは、と思わず聞き返す。そして気が付く。そういえば、エリスには双子の兄がいると言っていたことを思い出したのだ。
「……そうだね。あんな奴、もう兄弟だなんて思ってないけど」
 アリスはそう答えながらぷいっと横を向く。不機嫌そうに口を尖らせている。
「あんな奴? なんだその言い方は。あいつはそんな奴じゃないだろう」
 今度は海斗がアリスの言葉に反論する。自分を助けてくれたエリスを『あんな奴』と言われて腹が立ったのだ。
「は? アンタには分からないよっ。あいつは裏切り者なんだからっ」
 ムッとした顔で再びこちらを見ると、アリスが怒鳴り返す。
「なんだと? 俺はあいつに救われた。ここにいられるのもエリスが助けてくれたおかげだ。裏切り者な訳がないだろうっ」
「うるさいっ! 何も知らないくせにっ!」
「やめないかっ!」
 言い合うふたりを遮るように、セバスチャンの厳しい声が響き渡った。
 その声でしんと静かになった。優希も横でおろおろとしながら見ていたのだが、セバスチャンの声でびくりと体が固まった。
「ふむ……アリス、何度も言うが、お前の兄弟は裏切り者なんかじゃない。お前が一番分かっていることだろう?」
 セバスチャンは今度は静かに、そして宥めるようにアリスに問い掛ける。
「…………これ、置いてくから勝手に食べれば」
 アリスはそれだけ言うと『どこでもご飯』の箱を置いて立ち去ってしまった。
「アリスっ!」
 ずっと静かにしていたジェイクがアリスの後を追っていった。
 海斗と優希はそんなアリスを見た後、困ったような顔で見合わせていた。
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