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Wedding~消えた花嫁~
第15話
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同じ場所に隠れる訳にもいかず、部屋を出てすぐお互いに健闘を祈りつつ分かれて隠れ場所を探すことにした。
そして――。
長い廊下の中、優希を背中に乗せた海斗がゆっくりと走っていた。
できるだけ体を揺らさないように走っているようで、優希が落ちそうになることもない。
ふかふかの温かい毛に埋もれながら、優希はじっと海斗の頭を見つめていた。
「ねぇ海斗。どこに隠れるの?」
ふとどこへ向かっているのか気になり、優希は首を傾げながら海斗に声を掛けた。
「……今考えている。正直城の中がどうなっているか詳しくは知らないし、隠れ場所があるのかも分からない。ひとつだけ候補はあるが、恐らくあそこは瑠依とエリスが行ってるだろうな」
前に一度来ているとはいえ、優希と海斗が一番不利であった。
「そうだよねぇ……」
うーんと優希も頭を悩ませる。いつも海斗に頼ってばかりもいられない。
足りない頭で必死に捻り出す。
「お城のキッチンは?」
「他の住人は俺たちだって分からないんだぞ? いきなりキッチンに動物が来たら追い出されるに決まってるだろう。しかも今日は結婚式だ。忙しくしてるだろうし迷惑になるだけだ」
「そうだった……じゃあ物置みたいなとことか」
「分かりやすすぎるな」
「じゃあ森の中は?」
「それは反則だろう」
「えー……」
自分なりに頑張って捻り出した案を全て却下され、優希は口元をぷっくりと膨らませる。
すると、不機嫌な顔で横を向いた優希の目に、ある部屋のドアが開いているのが映った。
思わずぱちぱちっと目を瞬きさせた。
「あっ!」
突然優希が声を上げ、海斗は驚きながらぴたりと足を止めた。
「どうした?」
そして顔だけ優希の方を向く。
「あそこ……ドア開いてない?」
広い廊下を走っていた海斗だったが、優希が見つめる方向に細い廊下とその中央辺りにある部屋のドアが見えた。
確かに少し開いているようだ。
恐らく今の自分たちではドアを開けることはできないだろう。
であれば、扉が開いている部屋に隠れる他はない。
偶然とはいえチャンスである。
「うむ……そうだな。他にどこかいい所があるかどうかも分からないし、これ以上探している時間もない……。行ってみるか。優希、よく見つけたな」
そう言ってくるりと海斗は方向変換し、ドアが開いている部屋の方へとゆっくりと走る。
海斗に褒められた優希は、満足そうに尻尾をゆらゆらとさせていた。
大きな木製の扉にはルイの部屋とよく似た豪華な彫刻が彫られている。
誰か位の高い人の部屋なのだろうかと、じっとふたりは見上げた。
開いたドアからそっと中を覗くと、中は暗くてよく見えない。
海斗はゆっくりと中を窺いながら入っていく。
後ろを振り返り、内開きになっているドアをそっと体を押し付けるようにして閉める。
カチャッと音がしてドアが完全に閉まった。
真っ暗になると思われたが、自分たちが動物になっているせいか全く見えない訳でもなかった。
薄っすらと部屋の様子が分かる。
ちょっと便利かも、などと優希は考えていた。
部屋の窓は厚いカーテンが閉められていて光を全く通していない。
はっきりとは見えないが、やはり誰かの部屋なのだろう。ソファーとベッド、テーブルがあるのが分かった。
そして部屋の奥には大きなクローゼットが見える。
「あそこに隠れよう」
そう言って海斗はゆっくりとクローゼットへ向かって歩き出した。
「どうやって開けるの?」
目の前のクローゼットを見上げながら優希が首を傾げる。
今の自分たちの姿でこの扉を開けられるのだろうか。
部屋のドアは内開きであったが、この扉は外開きである。
しかし、部屋のドアと違うのは引っ張れば開けられる、ということだ。
じっと海斗は扉を見ながら考える。
「優希、悪いがちょっと下りてくれるか?」
そしてゆっくりと伏せの姿勢を取ると、海斗が首だけ後ろの方を向きながら声を掛けた。
「うんっ」
ぴょんと優希は勢いよく飛び下りる。
優希が下りたことを確認すると、海斗は再び四つ足で立ち上がり、じっとクローゼットを見上げる。
すると、二本足で立ち上がったかと思うと、クローゼットの取っ手を口で咥えた。
「海斗?」
ぐっと取っ手を咥えたまま、器用に右の前足で扉をぐっと押しながら体を後ろに倒す。
カチャッと音をさせ、ゆっくりと扉が開いた。
「すごっ!」
「シー。静かに。優希、中に入るぞ」
すとんと前足を下ろすと、海斗は少しだけ開いた扉の隙間からするりと体を中に入れる。
言われて優希も慌てて中へと入った。
再び海斗は二本足で立ち上がると、扉の取っ手を咥え、ぐっと引っ張る。
なんとも器用である。
再び扉がカチャッと閉まった。
もちろん中は真っ暗ではあったが、自分たちが動物になっているおかげで薄っすら見ることができた。
中はただのクローゼットかと思いきや、ウォークインクローゼットになっていた。
優希はお座りの姿勢になるとぐるりと周りを見回した。
やはり誰かの部屋のようでクローゼットの中には服や靴、鞄等、色々な物が収納されている。
それらが女性のもののようだと気が付く。再び誰の部屋だろう? と首を傾げた。
「優希、こっちだ」
海斗はウォークインクローゼットの中を歩き出し、優希を呼んだ。
「うんっ」
軽い足取りで海斗の元へと歩いて行く。猫の姿の為、足音もしない。
奥の方にある服が掛けられている場所に隙間を見つけ、海斗がそっと入る。
そしてゆっくりしゃがむとくるりと体を丸くして寝転んだ。
「優希、ここにいよう」
そう言われて優希もすぐに海斗のお腹の辺りにくるりと体を丸くさせた。
以前、ジェイクと一緒に洞窟のような所で眠ったことを思い出す。
海斗の体は今は大きな狼である。まるでふかふかのベッドに寝ているように温かく柔らかい。
じっと優希を見つめると、海斗はそっと自分の顔を優希の方に寄せる。
思わずドキドキと鼓動が激しく鳴った優希だったが、海斗はそのまま前足に顎を乗せ、目を瞑ってしまった。
今やっているのは『かくれんぼ』である。
見つけられるまでは何もすることがない。そしてできるだけ音を立てないようにしなければならない。
その為、眠って待っていようと考えたのだろう。
目を瞑っている狼の顔をじっと見つめ、『動物になっても海斗はかっこいいんだな』と思いながら、優希もまた目を閉じた。
そして――。
長い廊下の中、優希を背中に乗せた海斗がゆっくりと走っていた。
できるだけ体を揺らさないように走っているようで、優希が落ちそうになることもない。
ふかふかの温かい毛に埋もれながら、優希はじっと海斗の頭を見つめていた。
「ねぇ海斗。どこに隠れるの?」
ふとどこへ向かっているのか気になり、優希は首を傾げながら海斗に声を掛けた。
「……今考えている。正直城の中がどうなっているか詳しくは知らないし、隠れ場所があるのかも分からない。ひとつだけ候補はあるが、恐らくあそこは瑠依とエリスが行ってるだろうな」
前に一度来ているとはいえ、優希と海斗が一番不利であった。
「そうだよねぇ……」
うーんと優希も頭を悩ませる。いつも海斗に頼ってばかりもいられない。
足りない頭で必死に捻り出す。
「お城のキッチンは?」
「他の住人は俺たちだって分からないんだぞ? いきなりキッチンに動物が来たら追い出されるに決まってるだろう。しかも今日は結婚式だ。忙しくしてるだろうし迷惑になるだけだ」
「そうだった……じゃあ物置みたいなとことか」
「分かりやすすぎるな」
「じゃあ森の中は?」
「それは反則だろう」
「えー……」
自分なりに頑張って捻り出した案を全て却下され、優希は口元をぷっくりと膨らませる。
すると、不機嫌な顔で横を向いた優希の目に、ある部屋のドアが開いているのが映った。
思わずぱちぱちっと目を瞬きさせた。
「あっ!」
突然優希が声を上げ、海斗は驚きながらぴたりと足を止めた。
「どうした?」
そして顔だけ優希の方を向く。
「あそこ……ドア開いてない?」
広い廊下を走っていた海斗だったが、優希が見つめる方向に細い廊下とその中央辺りにある部屋のドアが見えた。
確かに少し開いているようだ。
恐らく今の自分たちではドアを開けることはできないだろう。
であれば、扉が開いている部屋に隠れる他はない。
偶然とはいえチャンスである。
「うむ……そうだな。他にどこかいい所があるかどうかも分からないし、これ以上探している時間もない……。行ってみるか。優希、よく見つけたな」
そう言ってくるりと海斗は方向変換し、ドアが開いている部屋の方へとゆっくりと走る。
海斗に褒められた優希は、満足そうに尻尾をゆらゆらとさせていた。
大きな木製の扉にはルイの部屋とよく似た豪華な彫刻が彫られている。
誰か位の高い人の部屋なのだろうかと、じっとふたりは見上げた。
開いたドアからそっと中を覗くと、中は暗くてよく見えない。
海斗はゆっくりと中を窺いながら入っていく。
後ろを振り返り、内開きになっているドアをそっと体を押し付けるようにして閉める。
カチャッと音がしてドアが完全に閉まった。
真っ暗になると思われたが、自分たちが動物になっているせいか全く見えない訳でもなかった。
薄っすらと部屋の様子が分かる。
ちょっと便利かも、などと優希は考えていた。
部屋の窓は厚いカーテンが閉められていて光を全く通していない。
はっきりとは見えないが、やはり誰かの部屋なのだろう。ソファーとベッド、テーブルがあるのが分かった。
そして部屋の奥には大きなクローゼットが見える。
「あそこに隠れよう」
そう言って海斗はゆっくりとクローゼットへ向かって歩き出した。
「どうやって開けるの?」
目の前のクローゼットを見上げながら優希が首を傾げる。
今の自分たちの姿でこの扉を開けられるのだろうか。
部屋のドアは内開きであったが、この扉は外開きである。
しかし、部屋のドアと違うのは引っ張れば開けられる、ということだ。
じっと海斗は扉を見ながら考える。
「優希、悪いがちょっと下りてくれるか?」
そしてゆっくりと伏せの姿勢を取ると、海斗が首だけ後ろの方を向きながら声を掛けた。
「うんっ」
ぴょんと優希は勢いよく飛び下りる。
優希が下りたことを確認すると、海斗は再び四つ足で立ち上がり、じっとクローゼットを見上げる。
すると、二本足で立ち上がったかと思うと、クローゼットの取っ手を口で咥えた。
「海斗?」
ぐっと取っ手を咥えたまま、器用に右の前足で扉をぐっと押しながら体を後ろに倒す。
カチャッと音をさせ、ゆっくりと扉が開いた。
「すごっ!」
「シー。静かに。優希、中に入るぞ」
すとんと前足を下ろすと、海斗は少しだけ開いた扉の隙間からするりと体を中に入れる。
言われて優希も慌てて中へと入った。
再び海斗は二本足で立ち上がると、扉の取っ手を咥え、ぐっと引っ張る。
なんとも器用である。
再び扉がカチャッと閉まった。
もちろん中は真っ暗ではあったが、自分たちが動物になっているおかげで薄っすら見ることができた。
中はただのクローゼットかと思いきや、ウォークインクローゼットになっていた。
優希はお座りの姿勢になるとぐるりと周りを見回した。
やはり誰かの部屋のようでクローゼットの中には服や靴、鞄等、色々な物が収納されている。
それらが女性のもののようだと気が付く。再び誰の部屋だろう? と首を傾げた。
「優希、こっちだ」
海斗はウォークインクローゼットの中を歩き出し、優希を呼んだ。
「うんっ」
軽い足取りで海斗の元へと歩いて行く。猫の姿の為、足音もしない。
奥の方にある服が掛けられている場所に隙間を見つけ、海斗がそっと入る。
そしてゆっくりしゃがむとくるりと体を丸くして寝転んだ。
「優希、ここにいよう」
そう言われて優希もすぐに海斗のお腹の辺りにくるりと体を丸くさせた。
以前、ジェイクと一緒に洞窟のような所で眠ったことを思い出す。
海斗の体は今は大きな狼である。まるでふかふかのベッドに寝ているように温かく柔らかい。
じっと優希を見つめると、海斗はそっと自分の顔を優希の方に寄せる。
思わずドキドキと鼓動が激しく鳴った優希だったが、海斗はそのまま前足に顎を乗せ、目を瞑ってしまった。
今やっているのは『かくれんぼ』である。
見つけられるまでは何もすることがない。そしてできるだけ音を立てないようにしなければならない。
その為、眠って待っていようと考えたのだろう。
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