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Wedding~消えた花嫁~
第8話
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驚きすぎて目を丸くする。開いた口も塞がらない。
「ライアン? え? なんでいるの?」
ハッとすると、優希は目をぱちぱちっとさせてライアンに問い掛けた。
ここはゲストルームである。なぜ新郎のライアンがここにいるのか。
「あれでしょ? マリッジブルー」
「違うわっ!」
揶揄うようにアリスが話した言葉に、ライアンはカッと顔を赤くしながら即座に反論する。
「違うの? じゃあ寂しいんだ」
「ちげぇよ。なんで俺が寂しいんだよ。暇だから来ただけだろうが」
ふぅんと首を傾げながら相変わらず面白がっている様子のアリスに向かって、ライアンはちっと舌打ちをすると、不貞腐れたように答える。
「うんうん、寂しかったんだよね」
すると向かいのソファーに座るジェイクがにこりと笑いながら頷く。
「だから違うって言ってんだろうがっ!」
今度はジェイクに向かってライアンは額に青筋を立てながら怒鳴る。
このふたりは仲が良いのか悪いのか。しかしジェイクの方が一枚上手なのだろう。
怒鳴られてもずっとにこにことライアンに笑みを向けている。
「失礼いたしますっ! た、大変ですっ!」
すると、和やかな空気を裂くような、慌てた様子の騎士の声が部屋に響き渡った。
「なんだ、どうした?」
既にいなくなったと思っていたが、まだ部屋のドアの横にいたイーサンが騎士に向かって問い掛けた。
「イーサン隊長っ! し、失礼いたしましたっ!」
騎士はイーサンを確認すると慌てて敬礼を行う。
「そんなことはいい。何があった?」
表情を変えることなくイーサンが再び騎士に問い掛ける。
その様子を見ていた優希は、イーサンが『隊長』であることと、ちょっとカッコイイな、などと思っていたのだった。
更にそんな優希に気が付いた海斗は、先程怒らせてしまったばかりだというのに、ムッとした顔をすると、すぐに優希の手を取り握り締めた。
「っ!」
もちろん驚いた優希がすぐに海斗を睨み付ける。
しかし、騎士がイーサンに説明した言葉に恥ずかしさも怒りも飛んでしまったのだった。
「そ、その……実はっ、王女様が、いなくなりましたっ!」
「は?」
「えっ!」
「えっ?」
「っ!?」
「なっ!」
騎士の言葉にその場にいた全員が同時に目を見開き驚く。
そして止める間もなくライアンが部屋を飛び出して行った。
「ライアンっ!」
ハッとすると優希はライアンを呼びながら自分も部屋を飛び出す。
思わず手を離してしまっていた海斗も急いで後を追う。
それに続くようにイーサンとアリス、ジェイクも走って追いかける。
ゲストルームから少し走った所でライアンが立ち止まった。
ある部屋の前に数人の使用人と騎士たちがいる。
白くシンプルな木のドアが見える。あの部屋がキティの部屋なのだろうか?
しかし王女の部屋にしては随分とシンプルなドアである。
もしかしたら今日だけの控室になっているのかもしれない。
ライアンは強張った顔のままその部屋へと歩いて近付いていく。
「あっ……ライアン様っ」
使用人のひとりがライアンに気が付き声を掛けた。
「あのっ、王女様がっ……」
止めようとした使用人をぐいっとどかすと、ライアンはノックすることなくその白いドアを開けて中に入る。
「キティっ!」
部屋の中からライアンの叫ぶ声が聞こえてきた。
優希と海斗も慌てて部屋へと駆け寄る。
混乱している使用人と騎士を避けながらふたりも部屋の中へと入った。
入ってすぐ目に入ったのは、呆然と立ち尽くしているライアンの姿だった。
部屋全体をぐるりと見回す。
白い壁に大きな窓と白いレースのカーテン。
クローゼットらしきものが壁際にあり、部屋の奥には白く綺麗なドレッサーがひとつある。大きな鏡と白い可愛らしいスツールが一脚。
そして鏡の前に置かれた白い花のブーケ。
しかし、部屋のどこにもキティの姿は見当たらない。
いなくなったとは、一体どういうことなのだろうか?
「どうなってる?」
すぐ後から駆け付けたイーサンの声だった。
部屋の外から騎士たちの声が聞こえてきた。慌てた様子で話しているが、何がなんだかといった様子である。
「キティっ」
遅れて入ってきたアリスが声を上げる。優希たちと同じように部屋に入るなりきょろきょろと部屋の中を見回している。
その間にもライアンはクローゼットを開けたり窓の外を見たり、まるで檻の中の虎のようにうろうろと歩き回っている。
「いなくなったって、どういうこと?」
そこにいた全員が思っていたことではあったが、ふとジェイクが言葉に出していた。
「知るかよっ!」
苛ついているのか、ライアンが吠えるように声を上げる。
「ライアン、落ち着いて」
うろうろとして落ち着きなく歩き回っているライアンのそばにジェイクが近寄った。
「くそっ!」
ぴたりと止まるとライアンは声を上げ、今にも泣きそうな顔で俯いた。
すると、騎士と使用人に話を聞いていたイーサンが部屋の中にいた4人に向かって説明を始めた。
「……誰も王女が出ていく姿を見ていないそうだ。王女の支度を手伝っていた侍女が言うには、少しの間、王女をこの部屋にひとりにしていたそうだ」
「なんだとっ! なぜキティをひとりにしたっ!」
話を聞いてすぐにライアンが噛み付くように怒鳴った為、イーサンが厳しい口調で言い聞かせた。
「落ち着け。王女が少しの間だけひとりにして欲しいと頼んだそうだ。しかし、部屋から叫び声が聞こえ、ドアをノックしたが反応がなく。仕方なく部屋の中を見たら既に王女はいなくなっていた……ということだ」
イーサンの話はまるでキティがこの部屋から消えてしまったかのようであった。
「そんなっ! キティが消えたってこと?」
優希は真っ青な顔で声を上げた。
この部屋にはドアはひとつしかない。目の前の大きな窓ははめ込み式になっているようで、開け閉めはできない仕様のようだった。
「まるで神隠しだな……」
ぼそりと呟いた海斗の言葉に優希はハッとして海斗を見上げる。
そう、まるで漫画か小説のように、キティはこの場から忽然と姿を消してしまったのだ。
「ライアン? え? なんでいるの?」
ハッとすると、優希は目をぱちぱちっとさせてライアンに問い掛けた。
ここはゲストルームである。なぜ新郎のライアンがここにいるのか。
「あれでしょ? マリッジブルー」
「違うわっ!」
揶揄うようにアリスが話した言葉に、ライアンはカッと顔を赤くしながら即座に反論する。
「違うの? じゃあ寂しいんだ」
「ちげぇよ。なんで俺が寂しいんだよ。暇だから来ただけだろうが」
ふぅんと首を傾げながら相変わらず面白がっている様子のアリスに向かって、ライアンはちっと舌打ちをすると、不貞腐れたように答える。
「うんうん、寂しかったんだよね」
すると向かいのソファーに座るジェイクがにこりと笑いながら頷く。
「だから違うって言ってんだろうがっ!」
今度はジェイクに向かってライアンは額に青筋を立てながら怒鳴る。
このふたりは仲が良いのか悪いのか。しかしジェイクの方が一枚上手なのだろう。
怒鳴られてもずっとにこにことライアンに笑みを向けている。
「失礼いたしますっ! た、大変ですっ!」
すると、和やかな空気を裂くような、慌てた様子の騎士の声が部屋に響き渡った。
「なんだ、どうした?」
既にいなくなったと思っていたが、まだ部屋のドアの横にいたイーサンが騎士に向かって問い掛けた。
「イーサン隊長っ! し、失礼いたしましたっ!」
騎士はイーサンを確認すると慌てて敬礼を行う。
「そんなことはいい。何があった?」
表情を変えることなくイーサンが再び騎士に問い掛ける。
その様子を見ていた優希は、イーサンが『隊長』であることと、ちょっとカッコイイな、などと思っていたのだった。
更にそんな優希に気が付いた海斗は、先程怒らせてしまったばかりだというのに、ムッとした顔をすると、すぐに優希の手を取り握り締めた。
「っ!」
もちろん驚いた優希がすぐに海斗を睨み付ける。
しかし、騎士がイーサンに説明した言葉に恥ずかしさも怒りも飛んでしまったのだった。
「そ、その……実はっ、王女様が、いなくなりましたっ!」
「は?」
「えっ!」
「えっ?」
「っ!?」
「なっ!」
騎士の言葉にその場にいた全員が同時に目を見開き驚く。
そして止める間もなくライアンが部屋を飛び出して行った。
「ライアンっ!」
ハッとすると優希はライアンを呼びながら自分も部屋を飛び出す。
思わず手を離してしまっていた海斗も急いで後を追う。
それに続くようにイーサンとアリス、ジェイクも走って追いかける。
ゲストルームから少し走った所でライアンが立ち止まった。
ある部屋の前に数人の使用人と騎士たちがいる。
白くシンプルな木のドアが見える。あの部屋がキティの部屋なのだろうか?
しかし王女の部屋にしては随分とシンプルなドアである。
もしかしたら今日だけの控室になっているのかもしれない。
ライアンは強張った顔のままその部屋へと歩いて近付いていく。
「あっ……ライアン様っ」
使用人のひとりがライアンに気が付き声を掛けた。
「あのっ、王女様がっ……」
止めようとした使用人をぐいっとどかすと、ライアンはノックすることなくその白いドアを開けて中に入る。
「キティっ!」
部屋の中からライアンの叫ぶ声が聞こえてきた。
優希と海斗も慌てて部屋へと駆け寄る。
混乱している使用人と騎士を避けながらふたりも部屋の中へと入った。
入ってすぐ目に入ったのは、呆然と立ち尽くしているライアンの姿だった。
部屋全体をぐるりと見回す。
白い壁に大きな窓と白いレースのカーテン。
クローゼットらしきものが壁際にあり、部屋の奥には白く綺麗なドレッサーがひとつある。大きな鏡と白い可愛らしいスツールが一脚。
そして鏡の前に置かれた白い花のブーケ。
しかし、部屋のどこにもキティの姿は見当たらない。
いなくなったとは、一体どういうことなのだろうか?
「どうなってる?」
すぐ後から駆け付けたイーサンの声だった。
部屋の外から騎士たちの声が聞こえてきた。慌てた様子で話しているが、何がなんだかといった様子である。
「キティっ」
遅れて入ってきたアリスが声を上げる。優希たちと同じように部屋に入るなりきょろきょろと部屋の中を見回している。
その間にもライアンはクローゼットを開けたり窓の外を見たり、まるで檻の中の虎のようにうろうろと歩き回っている。
「いなくなったって、どういうこと?」
そこにいた全員が思っていたことではあったが、ふとジェイクが言葉に出していた。
「知るかよっ!」
苛ついているのか、ライアンが吠えるように声を上げる。
「ライアン、落ち着いて」
うろうろとして落ち着きなく歩き回っているライアンのそばにジェイクが近寄った。
「くそっ!」
ぴたりと止まるとライアンは声を上げ、今にも泣きそうな顔で俯いた。
すると、騎士と使用人に話を聞いていたイーサンが部屋の中にいた4人に向かって説明を始めた。
「……誰も王女が出ていく姿を見ていないそうだ。王女の支度を手伝っていた侍女が言うには、少しの間、王女をこの部屋にひとりにしていたそうだ」
「なんだとっ! なぜキティをひとりにしたっ!」
話を聞いてすぐにライアンが噛み付くように怒鳴った為、イーサンが厳しい口調で言い聞かせた。
「落ち着け。王女が少しの間だけひとりにして欲しいと頼んだそうだ。しかし、部屋から叫び声が聞こえ、ドアをノックしたが反応がなく。仕方なく部屋の中を見たら既に王女はいなくなっていた……ということだ」
イーサンの話はまるでキティがこの部屋から消えてしまったかのようであった。
「そんなっ! キティが消えたってこと?」
優希は真っ青な顔で声を上げた。
この部屋にはドアはひとつしかない。目の前の大きな窓ははめ込み式になっているようで、開け閉めはできない仕様のようだった。
「まるで神隠しだな……」
ぼそりと呟いた海斗の言葉に優希はハッとして海斗を見上げる。
そう、まるで漫画か小説のように、キティはこの場から忽然と姿を消してしまったのだ。
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