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Wedding~消えた花嫁~
第5話
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ふたり分の靴を用意したルイが思い出したようにぽんと手を打った。
「すみません、私としたことが……ここで着替えてもらってもいいのですが、実はこれからまだやることがありまして。大変申し訳ないのですが、更衣室にご案内しますので移動をお願いできますか?」
確かに新婦の兄であり、王族のルイが暇な訳はなかったのである。
逆に申し訳なくなり、優希はふるふると首を横に振った。
「ううん。瑠依さんも忙しいよね。俺たちのせいでごめんね」
「いえいえ。おふたりをお呼びするのが私の大事な任務でしたから。では、ご案内しますのでついて来てください」
にこりと微笑むと、ルイはそのまま扉に向かって歩き出した。
優希と海斗はソファーから立ち上がると、ルイの後に続いた。
部屋を出ると、ふと海斗は振り返って扉をちらりと眺める。
思った通り、黒の魔女に捕まっていた時、エリスと一緒に来た部屋だ。
あの時見た大きな木の扉は城が戻った時に掃除でもしたのか、以前見た時とは違い、淡く白っぽい茶色をしている。
少しだけ懐かしい気持ちになる。
しかしすぐに前を向くと、優希の隣に並びそっと手を握った。
「ちょっとっ!」
「何?」
「もうっ……」
いつものように顔を真っ赤にして怒る優希を、何食わぬ顔で見つめる。
そんな海斗を見ながら優希は頬を膨らませながら横を向いてしまった。しかし、手は繋がれたまま。
ふたりの様子に気が付いたルイはちらりとだけ振り返り、ふふっと聞こえないくらいの声で笑っていたのだった。
「ルイ」
3人で廊下を歩いていると、後ろから誰かに声を掛けられた。
ルイを呼ぶ声、どこかで聞いたことがあるような? と優希は不思議に思いながら振り返った。
顔を見てもピンと来ない。しかし、誰かに似ている。
「セバスチャン。どうしました?」
優希と同じタイミングで振り返ったルイがすぐに返事をした。
ルイが発した名前で優希は思わず「あっ!」と声を上げる。
「セバスチャンっ!?」
そうだ。誰かに似ていると思ったのは、まさにルイだ。
ふたりは従兄弟同士だとアリスから聞いていたことを思い出す。
そして慌てて繋いだままだった海斗の手を離した。
「ん? ホワイトキャットか。それからカイト。お前たちも来ていたんだな」
優希に呼ばれ、まるでそこで初めて気が付いたかのようにセバスチャンは特に表情を変えることなく答えた。
初めてセバスチャンの人間の姿を見たが、ルイと顔は似ているが態度と表情は真逆の印象だった。
そしてイケメンというよりはどこか中性的な美形である。銀色のふわりと柔らかそうな長い髪を後ろでひとつに結んでいるせいか、女性のようにも見える。
ぽかんとしてしまった優希の顔を緑の瞳でじっとセバスチャンが見つめている。
「セバスチャン、私に何か用があったのでは?」
じっと見られて緊張で固まってしまった優希を察したルイが、改めてセバスチャンに声を掛けた。
「あぁ、忘れていた。ダニーがお前を呼んでいたぞ。ゲストに出すメニューの最終チェックをして欲しいそうだ」
思い出したようにセバスチャンがルイの隣に並び、再び話し始めた。
ふたりが並んでいる姿を見ると、やはり似ている。銀髪とエメラルドグリーンの瞳が同じというだけではない。先程は真逆に感じたがやはり雰囲気も顔立ちもよく似ている。
「そうか。分かった……じゃあ、悪いがふたりを更衣室まで案内してくれないか?」
セバスチャンの話を聞いて、急ぎの用事と判断したのか、優希と海斗の案内をセバスチャンに頼んだのだった。
するとすぐにセバスチャンは眉間に深く皺を寄せる。
「は? 俺も忙しいんだが?」
「じゃあ、頼んだよ。優希君、海斗君、また後でね」
睨み付けるセバスチャンにさらりと答えると、ルイはにこりと笑って手を振り、そのままどこかへ急ぎ足で行ってしまった。
「まったく……。はぁ……更衣室だったか?」
眉間に皺を寄せたままルイの後ろ姿を見送ると、セバスチャンは深く溜め息を付き、優希をちらりと見た。
「あ、えっと、うん、そう。ごめんね。案内よろしくお願いします」
初めて話す訳でもないのになぜか緊張してしまった優希はおどおどと答え、そして上目遣いでじっとセバスチャンを見つめた。
「はぁ……仕方ない。お前たちを放り出す訳にもいかんしな。ついてこい」
再び深く溜め息を付くと、セバスチャンは仕方なさそうに話し、そして踵を返して歩き始めた。
しかしルイと違って歩く速度が速く、さっさと先へと行ってしまう。
「わっ、待ってっ」
優希が慌てて追いかける。
この間、一切言葉を発していなかった海斗もそのまま黙ってセバスチャンの後を追う。
そして優希の隣に並ぶと再び手を掴んだ。
「ちょっ」
慌てた優希を無視し、海斗はそのまま歩き続ける。
どこか機嫌が悪いように見えて、優希は不思議そうに首を傾げた。
「セバスチャン」
再び廊下を歩いていると、今度はセバスチャンを呼ぶ声が聞こえてきた。
聞いたことのあるようなないような、しかし低く良い男性の声だった。
前を歩いていたセバスチャンがぴたりと止まった。そして振り返る。
優希と海斗も一緒に立ち止まると同じように後ろを振り返った。声は後ろから聞こえていた。
「何してるんだ?」
もう一度声の主は低い声でそう問い掛けた。
顔を見た瞬間、誰だか分かった。以前会った時はマスクをしていたが、黒く切れ長の瞳、筋の通った高い鼻、そして色気のある唇。目は上がり目ではあるが、どこか雰囲気が海斗に似ている。
「イーサン……」
溜め息交じりにセバスチャンが答える。
そう、あの『黒の番人』だったイーサンだ。
「すみません、私としたことが……ここで着替えてもらってもいいのですが、実はこれからまだやることがありまして。大変申し訳ないのですが、更衣室にご案内しますので移動をお願いできますか?」
確かに新婦の兄であり、王族のルイが暇な訳はなかったのである。
逆に申し訳なくなり、優希はふるふると首を横に振った。
「ううん。瑠依さんも忙しいよね。俺たちのせいでごめんね」
「いえいえ。おふたりをお呼びするのが私の大事な任務でしたから。では、ご案内しますのでついて来てください」
にこりと微笑むと、ルイはそのまま扉に向かって歩き出した。
優希と海斗はソファーから立ち上がると、ルイの後に続いた。
部屋を出ると、ふと海斗は振り返って扉をちらりと眺める。
思った通り、黒の魔女に捕まっていた時、エリスと一緒に来た部屋だ。
あの時見た大きな木の扉は城が戻った時に掃除でもしたのか、以前見た時とは違い、淡く白っぽい茶色をしている。
少しだけ懐かしい気持ちになる。
しかしすぐに前を向くと、優希の隣に並びそっと手を握った。
「ちょっとっ!」
「何?」
「もうっ……」
いつものように顔を真っ赤にして怒る優希を、何食わぬ顔で見つめる。
そんな海斗を見ながら優希は頬を膨らませながら横を向いてしまった。しかし、手は繋がれたまま。
ふたりの様子に気が付いたルイはちらりとだけ振り返り、ふふっと聞こえないくらいの声で笑っていたのだった。
「ルイ」
3人で廊下を歩いていると、後ろから誰かに声を掛けられた。
ルイを呼ぶ声、どこかで聞いたことがあるような? と優希は不思議に思いながら振り返った。
顔を見てもピンと来ない。しかし、誰かに似ている。
「セバスチャン。どうしました?」
優希と同じタイミングで振り返ったルイがすぐに返事をした。
ルイが発した名前で優希は思わず「あっ!」と声を上げる。
「セバスチャンっ!?」
そうだ。誰かに似ていると思ったのは、まさにルイだ。
ふたりは従兄弟同士だとアリスから聞いていたことを思い出す。
そして慌てて繋いだままだった海斗の手を離した。
「ん? ホワイトキャットか。それからカイト。お前たちも来ていたんだな」
優希に呼ばれ、まるでそこで初めて気が付いたかのようにセバスチャンは特に表情を変えることなく答えた。
初めてセバスチャンの人間の姿を見たが、ルイと顔は似ているが態度と表情は真逆の印象だった。
そしてイケメンというよりはどこか中性的な美形である。銀色のふわりと柔らかそうな長い髪を後ろでひとつに結んでいるせいか、女性のようにも見える。
ぽかんとしてしまった優希の顔を緑の瞳でじっとセバスチャンが見つめている。
「セバスチャン、私に何か用があったのでは?」
じっと見られて緊張で固まってしまった優希を察したルイが、改めてセバスチャンに声を掛けた。
「あぁ、忘れていた。ダニーがお前を呼んでいたぞ。ゲストに出すメニューの最終チェックをして欲しいそうだ」
思い出したようにセバスチャンがルイの隣に並び、再び話し始めた。
ふたりが並んでいる姿を見ると、やはり似ている。銀髪とエメラルドグリーンの瞳が同じというだけではない。先程は真逆に感じたがやはり雰囲気も顔立ちもよく似ている。
「そうか。分かった……じゃあ、悪いがふたりを更衣室まで案内してくれないか?」
セバスチャンの話を聞いて、急ぎの用事と判断したのか、優希と海斗の案内をセバスチャンに頼んだのだった。
するとすぐにセバスチャンは眉間に深く皺を寄せる。
「は? 俺も忙しいんだが?」
「じゃあ、頼んだよ。優希君、海斗君、また後でね」
睨み付けるセバスチャンにさらりと答えると、ルイはにこりと笑って手を振り、そのままどこかへ急ぎ足で行ってしまった。
「まったく……。はぁ……更衣室だったか?」
眉間に皺を寄せたままルイの後ろ姿を見送ると、セバスチャンは深く溜め息を付き、優希をちらりと見た。
「あ、えっと、うん、そう。ごめんね。案内よろしくお願いします」
初めて話す訳でもないのになぜか緊張してしまった優希はおどおどと答え、そして上目遣いでじっとセバスチャンを見つめた。
「はぁ……仕方ない。お前たちを放り出す訳にもいかんしな。ついてこい」
再び深く溜め息を付くと、セバスチャンは仕方なさそうに話し、そして踵を返して歩き始めた。
しかしルイと違って歩く速度が速く、さっさと先へと行ってしまう。
「わっ、待ってっ」
優希が慌てて追いかける。
この間、一切言葉を発していなかった海斗もそのまま黙ってセバスチャンの後を追う。
そして優希の隣に並ぶと再び手を掴んだ。
「ちょっ」
慌てた優希を無視し、海斗はそのまま歩き続ける。
どこか機嫌が悪いように見えて、優希は不思議そうに首を傾げた。
「セバスチャン」
再び廊下を歩いていると、今度はセバスチャンを呼ぶ声が聞こえてきた。
聞いたことのあるようなないような、しかし低く良い男性の声だった。
前を歩いていたセバスチャンがぴたりと止まった。そして振り返る。
優希と海斗も一緒に立ち止まると同じように後ろを振り返った。声は後ろから聞こえていた。
「何してるんだ?」
もう一度声の主は低い声でそう問い掛けた。
顔を見た瞬間、誰だか分かった。以前会った時はマスクをしていたが、黒く切れ長の瞳、筋の通った高い鼻、そして色気のある唇。目は上がり目ではあるが、どこか雰囲気が海斗に似ている。
「イーサン……」
溜め息交じりにセバスチャンが答える。
そう、あの『黒の番人』だったイーサンだ。
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