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Wedding~消えた花嫁~
第4話
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そして事件発生の1時間前。
「少しお待ちください」とルイに言われ、優希と海斗はソファーに座って待つことにした。
ソファーはふたりが座ってもまだ余裕がある程大きくゆったりとしている。
白の革張りに凭れて汚してしまったら、と優希は思わず姿勢正しく座っていた。
ちっともリラックスできない。
ソファーのことなど、全く気にしていない様子の海斗がクスッと笑いながら優希の髪をさらりと触る。
「ちょっとっ!」
パシンと音を立てて海斗の手を払い除けた。
「何をそんなに緊張してるんだ?」
自分の膝に頬杖をついて、海斗は笑みを浮かべながらじっと優希を見つめる。
「だって……こんな綺麗な真っ白なソファーなんて……めっちゃ高そうだし。汚したら絶対やばいやつじゃん」
ムスッと頬を膨らませながら姿勢を崩すことなく優希が答える。
「そうか? 別に瑠依の部屋のなんだしいいだろ? 寧ろ汚してやったら?」
緊張している優希とは反対に、海斗はしっかりリラックスしているようで楽しそうに優希に話している。
「だ、ダメだよっ! 絶対っ!」
海斗の言葉に驚いた優希は、犬を叱るかのように「めっ」と海斗の鼻先を人差し指で触れる。
「ふっ……分かったよ」
全く悪いとは思っていない様子ではあったが、海斗はふわりと笑うと了承したのだった。
ふたりがそんなことを話していると、何やら自分のクローゼットの中で探していたルイが「これがいいですねっ」と嬉しそうに声を上げていた。
ルイの衣装を貸してくれるのだろうか? と、優希は首を傾げる。
すると、ルイはなんとも嬉しそうな顔をしながら一着の衣装らしき物を手に、ふたりの元へと戻ってきた。
「はい、優希君」
そう言って持っていた衣装を優希に手渡す。
淡い水色のふわふわとした生地だ。しかも、スーツにしては薄くて軽く、生地の量も多いような気がした。
「絶対似合うと思いますよ。合わせてみてください」
そう言われて、優希はソファーから立ち上がると、持っていた衣装を広げてみた。
すると、それはふわりと大きく膨らんだ。
「え?」
自分の体に当てて漸く理解する。
なんと、それはスーツではなくドレスだった。
「うん、やはり似合いますねっ」
「ぶふっ……」
「ちょっとっ! 瑠衣さんっ! 海斗っ!」
嬉しそうに笑っている瑠衣にも自分の横で思わず吹き出している海斗にも、優希は顔を真っ赤にしながら怒鳴り付ける。
まさか、ルイにまでこんな風に揶揄われるとは思っていなかった優希は、悔しくて涙目になっていた。
「おや、気に入りませんか? ピンクにします? それとも黄色がいいですかね」
本気で言っているのか揶揄っているのか、ルイの表情からは全く分からなかった。
海斗とは違い、優しそうに笑っている笑顔でさえ全て裏があるようにも見える。
「瑠依さんっ! 俺、男だからねっ! ドレスなんて着ないからっ! 普通にスーツにしてっ!」
涙目のまま、優希はルイに向かって再び怒鳴った。
ルイに対してこんな態度を取るのは初めてである。
やはり揶揄っていたのか、ルイは楽しそうにくすりと笑みを浮かべると、「すみません」と言って再びクローゼットへと歩いて行った。
優希はドレスを持ったまま、そもそもなんでルイの部屋にこんなドレスがあるのかと、ドレスに罪はないが恨めしそうに睨み付けていた。
「勿体ないな、似合ってたのに」
肩を震わせ声を抑えながら笑っていた海斗は、別の意味で涙目になった目を擦りながら優希に話し掛けた。
「なんでだよっ!」
涙は引っ込んだが、再び怒りが込み上げて、優希は顔を真っ赤にさせながら海斗に怒鳴る。
「でも、花嫁よりも可愛くなっても困るから、スーツでいいか」
嬉しそうな顔をしながら海斗は優希を見上げる。
「もうっ」
そんな顔をしても誤魔化されないんだからな、と心の中で思いながらも、優希は少しだけ海斗のスーツ姿を想像して顔を赤らめていた。
「すみません、お待たせしました。では、こちらを優希君、こちらを海斗君どうぞ」
いつの間にか戻ってきていたルイから、それぞれにスーツを手渡された。
そして優希は持っていたドレスをルイに返す。
渡されたスーツは中のシャツとネクタイまでセットになっているようだった。
「靴は革靴のようなのでそのままでもいいですか? 必要であれば用意しますが」
ルイは優希と海斗の足元を見ながら問い掛ける。
「えっ……と?」
優希はどうすればいいのか分からず、海斗をちらりと判断を委ねるように見た。
「そうだな、このスーツであればおかしくはないだろうが、普段、学校へ行ってる時の靴だからな。借りられるか?」
自分が持っているチャコールグレーのスーツと優希が持っているライトグレーのスーツを見て判断した。
黒の革靴ではあるが、制服で出席するならともかく、スーツには合わないと考えてのことだった。
海斗の答えに『なるほど』とルイが頷く。
「そうですね。足のサイズを伺っても?」
「あぁ、俺は28だ。優希は?」
「……24.5」
さらりと答えた海斗の横で、優希はムスッと口を尖らせながら答える。
身長が低いのも気にしているが、それに比例して足のサイズも大きくはない。
優希の身長の平均的なサイズだとは思われるが、海斗と随分差があることになんとなく悔しくなっていた。
「分かりました。少しお待ちくださいね」
「え? 瑠衣さん、サイズあるの? スーツもだけど……」
自分と海斗の身長差を考えると、スーツも靴もなぜこんなに簡単に用意ができるのかと不思議に思った。
「ふふっ、それは内緒です」
人差し指を口元に当てると、ルイは柔らかく微笑む。
しかし、それ以上の追及を許さない空気が漂い、優希は深く聞けずにそのまま黙ってしまった。
「瑠依さんってちょっと怖いよね」
再びルイがクローゼットへ向かったところで、優希はソファーに座ると海斗にぼそりと話し掛けた。
「……多分聞こえてるぞ?」
「うっ」
クローゼットの中を再び探しているルイを横目に、海斗は気を付けるようにと優希に注意を促した。
そして優希も『そうかもしれない』とぶるりと体を震わすと、そのまま静かにソファーで待つことにしたのだった。
「少しお待ちください」とルイに言われ、優希と海斗はソファーに座って待つことにした。
ソファーはふたりが座ってもまだ余裕がある程大きくゆったりとしている。
白の革張りに凭れて汚してしまったら、と優希は思わず姿勢正しく座っていた。
ちっともリラックスできない。
ソファーのことなど、全く気にしていない様子の海斗がクスッと笑いながら優希の髪をさらりと触る。
「ちょっとっ!」
パシンと音を立てて海斗の手を払い除けた。
「何をそんなに緊張してるんだ?」
自分の膝に頬杖をついて、海斗は笑みを浮かべながらじっと優希を見つめる。
「だって……こんな綺麗な真っ白なソファーなんて……めっちゃ高そうだし。汚したら絶対やばいやつじゃん」
ムスッと頬を膨らませながら姿勢を崩すことなく優希が答える。
「そうか? 別に瑠依の部屋のなんだしいいだろ? 寧ろ汚してやったら?」
緊張している優希とは反対に、海斗はしっかりリラックスしているようで楽しそうに優希に話している。
「だ、ダメだよっ! 絶対っ!」
海斗の言葉に驚いた優希は、犬を叱るかのように「めっ」と海斗の鼻先を人差し指で触れる。
「ふっ……分かったよ」
全く悪いとは思っていない様子ではあったが、海斗はふわりと笑うと了承したのだった。
ふたりがそんなことを話していると、何やら自分のクローゼットの中で探していたルイが「これがいいですねっ」と嬉しそうに声を上げていた。
ルイの衣装を貸してくれるのだろうか? と、優希は首を傾げる。
すると、ルイはなんとも嬉しそうな顔をしながら一着の衣装らしき物を手に、ふたりの元へと戻ってきた。
「はい、優希君」
そう言って持っていた衣装を優希に手渡す。
淡い水色のふわふわとした生地だ。しかも、スーツにしては薄くて軽く、生地の量も多いような気がした。
「絶対似合うと思いますよ。合わせてみてください」
そう言われて、優希はソファーから立ち上がると、持っていた衣装を広げてみた。
すると、それはふわりと大きく膨らんだ。
「え?」
自分の体に当てて漸く理解する。
なんと、それはスーツではなくドレスだった。
「うん、やはり似合いますねっ」
「ぶふっ……」
「ちょっとっ! 瑠衣さんっ! 海斗っ!」
嬉しそうに笑っている瑠衣にも自分の横で思わず吹き出している海斗にも、優希は顔を真っ赤にしながら怒鳴り付ける。
まさか、ルイにまでこんな風に揶揄われるとは思っていなかった優希は、悔しくて涙目になっていた。
「おや、気に入りませんか? ピンクにします? それとも黄色がいいですかね」
本気で言っているのか揶揄っているのか、ルイの表情からは全く分からなかった。
海斗とは違い、優しそうに笑っている笑顔でさえ全て裏があるようにも見える。
「瑠依さんっ! 俺、男だからねっ! ドレスなんて着ないからっ! 普通にスーツにしてっ!」
涙目のまま、優希はルイに向かって再び怒鳴った。
ルイに対してこんな態度を取るのは初めてである。
やはり揶揄っていたのか、ルイは楽しそうにくすりと笑みを浮かべると、「すみません」と言って再びクローゼットへと歩いて行った。
優希はドレスを持ったまま、そもそもなんでルイの部屋にこんなドレスがあるのかと、ドレスに罪はないが恨めしそうに睨み付けていた。
「勿体ないな、似合ってたのに」
肩を震わせ声を抑えながら笑っていた海斗は、別の意味で涙目になった目を擦りながら優希に話し掛けた。
「なんでだよっ!」
涙は引っ込んだが、再び怒りが込み上げて、優希は顔を真っ赤にさせながら海斗に怒鳴る。
「でも、花嫁よりも可愛くなっても困るから、スーツでいいか」
嬉しそうな顔をしながら海斗は優希を見上げる。
「もうっ」
そんな顔をしても誤魔化されないんだからな、と心の中で思いながらも、優希は少しだけ海斗のスーツ姿を想像して顔を赤らめていた。
「すみません、お待たせしました。では、こちらを優希君、こちらを海斗君どうぞ」
いつの間にか戻ってきていたルイから、それぞれにスーツを手渡された。
そして優希は持っていたドレスをルイに返す。
渡されたスーツは中のシャツとネクタイまでセットになっているようだった。
「靴は革靴のようなのでそのままでもいいですか? 必要であれば用意しますが」
ルイは優希と海斗の足元を見ながら問い掛ける。
「えっ……と?」
優希はどうすればいいのか分からず、海斗をちらりと判断を委ねるように見た。
「そうだな、このスーツであればおかしくはないだろうが、普段、学校へ行ってる時の靴だからな。借りられるか?」
自分が持っているチャコールグレーのスーツと優希が持っているライトグレーのスーツを見て判断した。
黒の革靴ではあるが、制服で出席するならともかく、スーツには合わないと考えてのことだった。
海斗の答えに『なるほど』とルイが頷く。
「そうですね。足のサイズを伺っても?」
「あぁ、俺は28だ。優希は?」
「……24.5」
さらりと答えた海斗の横で、優希はムスッと口を尖らせながら答える。
身長が低いのも気にしているが、それに比例して足のサイズも大きくはない。
優希の身長の平均的なサイズだとは思われるが、海斗と随分差があることになんとなく悔しくなっていた。
「分かりました。少しお待ちくださいね」
「え? 瑠衣さん、サイズあるの? スーツもだけど……」
自分と海斗の身長差を考えると、スーツも靴もなぜこんなに簡単に用意ができるのかと不思議に思った。
「ふふっ、それは内緒です」
人差し指を口元に当てると、ルイは柔らかく微笑む。
しかし、それ以上の追及を許さない空気が漂い、優希は深く聞けずにそのまま黙ってしまった。
「瑠依さんってちょっと怖いよね」
再びルイがクローゼットへ向かったところで、優希はソファーに座ると海斗にぼそりと話し掛けた。
「……多分聞こえてるぞ?」
「うっ」
クローゼットの中を再び探しているルイを横目に、海斗は気を付けるようにと優希に注意を促した。
そして優希も『そうかもしれない』とぶるりと体を震わすと、そのまま静かにソファーで待つことにしたのだった。
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