White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第1話

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『まさかこんなことになるなんて』
 誰も予想しないような事件が起こってしまった――。


 事件発生の3日前。
 いつものように宿題を教えてもらう為に海斗の家へ来ていた優希。
 ふかふかのグレーの絨毯の上に、ふわふわの大きな黒い座布団の上。
 もちろんいつもの定位置である。
「うー……」
 そして目の前のノートを睨み付けながら唸る。
 一番苦手な数学である。教科書の例題を読んでもさっぱりだった。
 持っていたシャーペンが全く動かず、ノートに突き刺さってしまいそうな状態のまま10分が経過していた。
 目の前で黙々と問題を解いていく海斗を思わず恨めしげに優希はじっと見つめる。
 その視線に気が付いたのか、ふと動き続けていた海斗の右手が止まった。
「なんだ優希。どこが分からないんだ?」
 解けていないことは明白だったのか、海斗は持っていたシャーペンをテーブルに置くと、覗き込むようにして優希のノートを見てきた。
「全部」
「…………」
 口を尖らせ上目遣いで見てくる優希の顔を、海斗はじろりと無言で見つめる。そして大きく溜め息を付いた。
「まったく……お前、ちゃんと授業聞いてるのか? 今日やった所だぞ?」
 右手にシャーペンを持つと、海斗は仕方なさそうに宿題の1問目から優希に説明を始めた。その時だった――。
 突然どこからか、ひらりと何か紙のような物が飛んできたのだった。
「え?」
 思わず優希は口を開けたままその紙をじっと眺める。
 ひらひらと舞うように紙はふたりのちょうど真ん中辺りに落ちてきた。
「何これ」
 テーブルの上でぴたりと止まった紙を優希はじっと見つめる。
 真っ白で何も書かれてはいない。一体どこから飛んできたのか。
 すると突然その紙がふわりと浮かび上がった。
「っ!」
 優希と海斗は声もなく驚き、思わず後ろへ倒れそうになってしまった。
 そして紙が再びひらひらと落ちてきた瞬間、優希の首に掛かっている『メタトロンの鏡』がきらりと光る。
「えっ?」
 驚いて声を上げたが、なんとなく優希はそっとメタトロンの鏡に触れてみた。
 紙がテーブルの上で先程と同じように止まる。しかし、先程と違うのはそこに文字と何かの紋章のような絵が描かれていたのだった。
「招待状?」
 紙に書かれていた文字を優希が声に出して読んだ。
「招待状? そう書かれているのか?」
 じっと目を見開いたまま紙を凝視していた海斗は優希の言葉に反応する。
「うん。ちょっと待って……」
 そう言って優希はそっとテーブルの上の紙に触れた。すると、白かった紙は綺麗なピンク色のカードへと変化した。そしてそこには金色で文字が書かれている。
「うわっ!」
 驚いて思わず優希はそのカードを落としてしまう。
 しかし、冷静になった海斗がそっとカードを手に取った。じっと見てみるが、なんと書いているのかは全く分からなかった。やはりメタトロンの鏡がないと読めないらしい。
「ふむ」
 少し考えた海斗は、そっと優希の首に掛かるメタトロンの鏡に触れてみた。
 すると今まで何が書かれているのか分からなかった文字が、翻訳されたかのように読めるようになっていた。
「すげぇな……。なるほど。確かに『招待状』だ」
 カードをじっと見つめながら海斗が呟いた。
 その言葉に反応して優希も身を乗り出して海斗の手元にあるカードを見る。

『―招待状― 親愛なるホワイトキャット様 来たる晴れの日にて、キャサリン王女およびライアン両名の結婚式を執り行います。ご出席賜りますようお願い申し上げます』

 簡素なものではあったが、カードには金色の文字と恐らく王家のものと思われる紋章、そして先程まではなかった白い鳥の絵がカードの外側に浮かび上がっていた。
「キティとライアンの結婚式っ!」
 思わずカードに見入ってしまっていた優希だったが、ふと気が付き声を上げた。
 以前アリスが言っていたように、ふたりはついに結婚式を挙げるらしい。
「晴れの日っていつだろう?」
 しかし、日付も場所も何も記載がない。メッセージはこれだけであった。
「そうだな。土日とか祝日ならいいんだが」
 優希の問い掛けに海斗も顎に手を当てながら考え込む。
「ん?」
 すると、裏面にも何かが書かれていることに気が付いた。
「あぁ……」
 裏返してすぐに納得した。そこには差出人である『ルイ』の名前と日時と場所が記載されていた。
 内容を確認してすぐに海斗は携帯電話を開いて日付を確認する。
「問題ない。今週の土曜日だ。時間は午後1時。場所はワンダーランドの城だ」
 首を傾げながらじっとこちらを見ていた優希に向かって、海斗は淡々と説明した。
「そっかっ! でもすぐだね……え、俺、結婚式に来ていく服とか持ってないけど……学生だし、制服でもいいのかな?」
 嬉しそうに声を上げた優希であったが、結婚式など出席したことがない為、うーんと頭を悩ませる。
「そうだな……俺はタキシードを持っているが、制服でもいいかもな。もしくは向こうで用意してもらうか」
 カードをテーブルに置くと、海斗はふむと頷く。
「海斗、タキシード持ってるんだっ! さすがっ!……うーん、そっか。じゃあ制服で行って、服のことは瑠依さんに聞いてみよっか」
 思わず感動してしまった優希。そして海斗の提案に乗ることにした。

 結婚式自体初めての出席ではあるが、ワンダーランドのしかも王家の結婚式である。
 どんな煌びやか結婚式なのかと、優希は心が弾んでいたのだった。
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