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Family~すれ違い~
最終話
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橘の話はありえないことばかりであった。
今まで見たことも聞いたこともない父親の言葉と姿。
「まさかっ!」
呆然としながら聞いていた海斗は思わず声を上げた。
「いえ、そのまさかですよ。あのような旦那様のお姿を見るのは初めてでしたが」
そう言って橘はいつものように柔らかく微笑んでいる。
「…………」
どうしたらいいのか分からず、混乱しつつも思わず赤面しながら海斗は口を押える。
信じられない思いと嬉しさが混ざり、気持ちが追いついていなかった。
「海斗めっちゃ愛されてるじゃん。良かったねっ!」
横で聞いていた優希は満面の笑みを海斗に向ける。
「っ!」
優希の笑顔に海斗はドキッと心臓が大きく跳ね上がった。
そんなふたりを嬉しそうに見ていた橘が、思い出したように再び話し始めた。
「奥様から海斗様へご伝言です。『今回の帰国で海斗の恋人に会いたかったけれど、こっそり聞いていた話だし、今度パリに連れてくること。それからロディとテディは賢くて可愛い』だそうです」
「はぁ?」
眉間に皺を寄せながら問い返す海斗の横で、優希は顔を真っ赤にさせながら驚いていた。
「ちょ、ちょっと待ってっ! こ、恋人って……」
「もちろん優希様のことですよ。奥様にはちゃんと私からお伝えしております」
「ええっ!!」
「マジかよ……」
にっこりと笑みを浮かべながら答える橘の言葉にふたりは唖然としてしまった。
まさかふたりの関係がバレていたとは。
いや、そういえば先程の橘の話の中で、海斗の母がしっかりと話していたのを思い出す。
そして今回のことで、海斗の父にも知られることとなってしまった。
ふたりは思わず顔を見合わせていた。
「おふたり共、心配なさらなくても大丈夫ですよ。旦那様も奥様も、優希様にお会いできることを楽しみにしているようでしたから」
相変わらず橘は柔らかい笑みをふたりに向けている。
「え、でも……さっき会った時、海斗のお父さんにめっちゃ睨まれたし。パリで何か言われたりしないかな……」
ふと先程会ったばかりの総司の顔を思い出し、優希は不安げな表情を浮かべる。
「優希のことは、俺が絶対に守る」
そう言って海斗は優希の手をぎゅっと握り締め、真剣な表情で見つめた。
思わず優希は顔を赤らめる。
「優希様、大丈夫ですよ。旦那様はお顔が怖いだけですから」
にこりと笑う橘の言葉に、優希は思わずぎょっとしていた。執事が主人のことをそんな風に言っても良いのだろうか。
しかし、横で思わず海斗が吹き出しているのを見て、優希も一緒になって笑ってしまった。
橘のおかげで緊張していた空気が和らいでいった。
「そういえば、優希はパスポート持ってるのか?」
「うん、持ってるよ」
ふと思い出したように問い掛けた海斗の言葉に優希は二つ返事で頷いた。
中学生の時に、父親が何かに当たったとかで、なぜか母とふたりで一度だけハワイに行ったことがあったのだ。
「そうか……だったら早い方がいいな。春休みに行こう」
ふむ、と頷くと、海斗は笑みを浮かべながら優希を見下ろす。
「えっ? 春休みって……もう来週じゃんっ!」
突然の話に優希は驚いて目をぱちぱちと瞬きさせる。
「チケットは取れそうか? 橘」
優希の言葉に答えることなく海斗は橘に問い掛けた。
「はい、ご用意しておきます。奥様にも私からお伝えしておきますね」
「えっ? ちょっと待って。逆に今からじゃダメなの?」
ふと疑問に思って優希が口を挟んだ。わざわざパリに行かなくても今会えば良いのにと。
「いえ。旦那様と奥様は先程お帰りになりました」
「ええっ!」
にこりと笑って答える橘の言葉にぎょっとして優希が声を上げる。
本当に時間がない中、海斗に会いに来ただけなのだろうか。
「はぁ……どうせ俺をパリに来させたいんだろう」
溜め息を付きながら海斗が優希の疑問に答えるように話した。
「大丈夫だよね?」
急に不安になり、優希は心配そうな表情で海斗を見上げた。
「大丈夫だ。ちゃんと帰ってくるから。ていうか、優希も一緒に行くんだぞ?」
「うん……そうだね」
優しく笑みを浮かべながら答える海斗に、優希は少しだけ安心した顔になっていた。
「あ、すみません。慌てて来たものですから、お茶のご用意をしていませんでした。すぐにお持ちしますね」
そう言って橘は慌てて退出したのだった。
「ていうか、うちにパリに行くお金あるかな……」
ふと、パリ旅行が現実的になり、優希は再び不安になってきていた。
「心配するな。そんなもの、全部こっちで負担するに決まっているだろう」
右手は優希の手を握ったまま、海斗は左手で優希の頭を優しく撫でる。
「えぇっ、でもっ、いつも海斗に出してもらってばっかだし」
「気にするな。だいたい今回は母さんが来いって言ってるんだ。あっちに出させるのは当たり前だろう?」
眉尻を下げながら困った顔で見上げる優希を、海斗は優しい表情で見下ろす。
「そっか」
「そうだよ。何も心配いらない」
そう言って海斗は優希の額にそっとキスをした。
「ちょっとっ!」
顔を真っ赤にしながら怒る優希を、海斗は相変わらず嬉しそうに見つめている。
「もうっ!……でも、色々びっくりしたけど良かったね、海斗」
恥ずかしそうに頬を膨らませたが、すぐに先程聞いた話を思い出した優希はにこりと笑って海斗を見上げた。
「あぁ、そうだな……なんか複雑だけど」
ふぅっと溜め息を付きながら海斗は苦笑いする。
「とはいえ、これで優希を正式に紹介できるな。あとは優希の家族に紹介してもらわないと」
しかし、ふと頭に浮かんだ考えに、海斗はにやりと笑みを浮かべていた。
「はっ? 何言ってんのっ?」
海斗の思いもよらない言葉に優希はかぁっと顔を赤らめながら声を上げる。
「優希を嫁にもらうんだし。いや、俺が婿に入るでもいいな」
「だから、何言ってんのっ!」
真っ赤な顔で怒る優希を嬉しそうに海斗は見つめていた。
そして、そっと優希の頬に手で触れる。優希は更に顔が赤くなる。
ゆっくりと海斗の顔が近付く。
「っ!」
優希は思わず目を瞑る。キスされると思ったからだ。
きゅっと唇を結ぶと、思った通りそっと唇に柔らかい感触を感じた。
全身がぶわっと熱くなる。
しかし、それはほんの数秒だけ、唇同士が触れるだけで離れてしまった。
「え?」
不思議に思って優希は目を開ける。
すると、海斗は急に真面目な顔になったかと思うと、とんでもないことを言い出した。
「優希、すぐに返事をしなくてもいい。でも、考えてくれると嬉しい。俺は、優希と一緒にいたい。この先もずっと……。俺たちは、今の日本じゃ結婚はできない。だが、一緒にいることはできるはずだ。……優希の一生を、俺に預けてくれないか?」
その言葉に優希は何を言われたのかと呆然としてしまっていた。
しかし、すぐにハッとすると、まるでプロポーズのような海斗のセリフに全身が熱くなるのを感じた。
「海斗……」
冗談だよな? と、思わず言い掛けて止まった。
これは、『みたい』ではなくて本気なのだろうか――そう思った時だった。
優希の頬にそっと手を当て、海斗が優しく微笑んだ。
「ゆっくり考えてくれ。……期限は、来年までな」
そう言うと、海斗は優希の手をぎゅっと握り締め、なんとも爽やかな顔で優希を見つめていた。
言われた瞬間、まるで体全部が心臓になってしまったかのようにドキドキとしながら、優希は海斗に握られた手を握り返し、「うん」と顔を赤らめながら頷いていた。
午後の暖かな日差しが窓から零れる。春はもうすぐそこだ。
今まで見たことも聞いたこともない父親の言葉と姿。
「まさかっ!」
呆然としながら聞いていた海斗は思わず声を上げた。
「いえ、そのまさかですよ。あのような旦那様のお姿を見るのは初めてでしたが」
そう言って橘はいつものように柔らかく微笑んでいる。
「…………」
どうしたらいいのか分からず、混乱しつつも思わず赤面しながら海斗は口を押える。
信じられない思いと嬉しさが混ざり、気持ちが追いついていなかった。
「海斗めっちゃ愛されてるじゃん。良かったねっ!」
横で聞いていた優希は満面の笑みを海斗に向ける。
「っ!」
優希の笑顔に海斗はドキッと心臓が大きく跳ね上がった。
そんなふたりを嬉しそうに見ていた橘が、思い出したように再び話し始めた。
「奥様から海斗様へご伝言です。『今回の帰国で海斗の恋人に会いたかったけれど、こっそり聞いていた話だし、今度パリに連れてくること。それからロディとテディは賢くて可愛い』だそうです」
「はぁ?」
眉間に皺を寄せながら問い返す海斗の横で、優希は顔を真っ赤にさせながら驚いていた。
「ちょ、ちょっと待ってっ! こ、恋人って……」
「もちろん優希様のことですよ。奥様にはちゃんと私からお伝えしております」
「ええっ!!」
「マジかよ……」
にっこりと笑みを浮かべながら答える橘の言葉にふたりは唖然としてしまった。
まさかふたりの関係がバレていたとは。
いや、そういえば先程の橘の話の中で、海斗の母がしっかりと話していたのを思い出す。
そして今回のことで、海斗の父にも知られることとなってしまった。
ふたりは思わず顔を見合わせていた。
「おふたり共、心配なさらなくても大丈夫ですよ。旦那様も奥様も、優希様にお会いできることを楽しみにしているようでしたから」
相変わらず橘は柔らかい笑みをふたりに向けている。
「え、でも……さっき会った時、海斗のお父さんにめっちゃ睨まれたし。パリで何か言われたりしないかな……」
ふと先程会ったばかりの総司の顔を思い出し、優希は不安げな表情を浮かべる。
「優希のことは、俺が絶対に守る」
そう言って海斗は優希の手をぎゅっと握り締め、真剣な表情で見つめた。
思わず優希は顔を赤らめる。
「優希様、大丈夫ですよ。旦那様はお顔が怖いだけですから」
にこりと笑う橘の言葉に、優希は思わずぎょっとしていた。執事が主人のことをそんな風に言っても良いのだろうか。
しかし、横で思わず海斗が吹き出しているのを見て、優希も一緒になって笑ってしまった。
橘のおかげで緊張していた空気が和らいでいった。
「そういえば、優希はパスポート持ってるのか?」
「うん、持ってるよ」
ふと思い出したように問い掛けた海斗の言葉に優希は二つ返事で頷いた。
中学生の時に、父親が何かに当たったとかで、なぜか母とふたりで一度だけハワイに行ったことがあったのだ。
「そうか……だったら早い方がいいな。春休みに行こう」
ふむ、と頷くと、海斗は笑みを浮かべながら優希を見下ろす。
「えっ? 春休みって……もう来週じゃんっ!」
突然の話に優希は驚いて目をぱちぱちと瞬きさせる。
「チケットは取れそうか? 橘」
優希の言葉に答えることなく海斗は橘に問い掛けた。
「はい、ご用意しておきます。奥様にも私からお伝えしておきますね」
「えっ? ちょっと待って。逆に今からじゃダメなの?」
ふと疑問に思って優希が口を挟んだ。わざわざパリに行かなくても今会えば良いのにと。
「いえ。旦那様と奥様は先程お帰りになりました」
「ええっ!」
にこりと笑って答える橘の言葉にぎょっとして優希が声を上げる。
本当に時間がない中、海斗に会いに来ただけなのだろうか。
「はぁ……どうせ俺をパリに来させたいんだろう」
溜め息を付きながら海斗が優希の疑問に答えるように話した。
「大丈夫だよね?」
急に不安になり、優希は心配そうな表情で海斗を見上げた。
「大丈夫だ。ちゃんと帰ってくるから。ていうか、優希も一緒に行くんだぞ?」
「うん……そうだね」
優しく笑みを浮かべながら答える海斗に、優希は少しだけ安心した顔になっていた。
「あ、すみません。慌てて来たものですから、お茶のご用意をしていませんでした。すぐにお持ちしますね」
そう言って橘は慌てて退出したのだった。
「ていうか、うちにパリに行くお金あるかな……」
ふと、パリ旅行が現実的になり、優希は再び不安になってきていた。
「心配するな。そんなもの、全部こっちで負担するに決まっているだろう」
右手は優希の手を握ったまま、海斗は左手で優希の頭を優しく撫でる。
「えぇっ、でもっ、いつも海斗に出してもらってばっかだし」
「気にするな。だいたい今回は母さんが来いって言ってるんだ。あっちに出させるのは当たり前だろう?」
眉尻を下げながら困った顔で見上げる優希を、海斗は優しい表情で見下ろす。
「そっか」
「そうだよ。何も心配いらない」
そう言って海斗は優希の額にそっとキスをした。
「ちょっとっ!」
顔を真っ赤にしながら怒る優希を、海斗は相変わらず嬉しそうに見つめている。
「もうっ!……でも、色々びっくりしたけど良かったね、海斗」
恥ずかしそうに頬を膨らませたが、すぐに先程聞いた話を思い出した優希はにこりと笑って海斗を見上げた。
「あぁ、そうだな……なんか複雑だけど」
ふぅっと溜め息を付きながら海斗は苦笑いする。
「とはいえ、これで優希を正式に紹介できるな。あとは優希の家族に紹介してもらわないと」
しかし、ふと頭に浮かんだ考えに、海斗はにやりと笑みを浮かべていた。
「はっ? 何言ってんのっ?」
海斗の思いもよらない言葉に優希はかぁっと顔を赤らめながら声を上げる。
「優希を嫁にもらうんだし。いや、俺が婿に入るでもいいな」
「だから、何言ってんのっ!」
真っ赤な顔で怒る優希を嬉しそうに海斗は見つめていた。
そして、そっと優希の頬に手で触れる。優希は更に顔が赤くなる。
ゆっくりと海斗の顔が近付く。
「っ!」
優希は思わず目を瞑る。キスされると思ったからだ。
きゅっと唇を結ぶと、思った通りそっと唇に柔らかい感触を感じた。
全身がぶわっと熱くなる。
しかし、それはほんの数秒だけ、唇同士が触れるだけで離れてしまった。
「え?」
不思議に思って優希は目を開ける。
すると、海斗は急に真面目な顔になったかと思うと、とんでもないことを言い出した。
「優希、すぐに返事をしなくてもいい。でも、考えてくれると嬉しい。俺は、優希と一緒にいたい。この先もずっと……。俺たちは、今の日本じゃ結婚はできない。だが、一緒にいることはできるはずだ。……優希の一生を、俺に預けてくれないか?」
その言葉に優希は何を言われたのかと呆然としてしまっていた。
しかし、すぐにハッとすると、まるでプロポーズのような海斗のセリフに全身が熱くなるのを感じた。
「海斗……」
冗談だよな? と、思わず言い掛けて止まった。
これは、『みたい』ではなくて本気なのだろうか――そう思った時だった。
優希の頬にそっと手を当て、海斗が優しく微笑んだ。
「ゆっくり考えてくれ。……期限は、来年までな」
そう言うと、海斗は優希の手をぎゅっと握り締め、なんとも爽やかな顔で優希を見つめていた。
言われた瞬間、まるで体全部が心臓になってしまったかのようにドキドキとしながら、優希は海斗に握られた手を握り返し、「うん」と顔を赤らめながら頷いていた。
午後の暖かな日差しが窓から零れる。春はもうすぐそこだ。
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