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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
Epilogue
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ふたりが願った瞬間、永劫の鏡が七色に光り、ふたりはその光に包まれる。
光の中でふわりと風を感じ、優希と海斗はそのまま気を失ってしまった。
そして――。
「わぁっ!」
すぐ近くで誰かが叫ぶ声が聞こえて目を覚ました。
いつものようにどこからか落ちてきた様子はない。体も痛くはない。
そしてなぜか自分は温かくふかふかした何かの上に横たわっている。
「んっ……」
ぼんやりとしながら優希は目を開けた。そしてごしごしと目を擦る。
ここはどこだろう?
「優希様っ!」
先程聞こえた声だ。この声は――。
「えっ?」
がばっと体を起こした。見たことのある場所、よく知る場所。
自分が横たわっていたのは海斗の部屋のベッドの上であった。
ハッとして横を見ると、橘が目をぱちぱちとさせながら優希を見ている。
「橘さんっ」
そう、橘の声だった。もしかしたら、突然ここに自分は現れたのだろうか?
先程今まで聞いたことのない橘の驚いた声を聞いた気がした。
「優希様……これは、一体……」
橘は呆然と見つめている。一体何が起こったのかと混乱しているようだった。
「あ、あのね、橘さん……あっ! 海斗っ!」
橘に説明しようと話し始めた優希であったが、ふと海斗のことを思い出し、海斗の名を叫んだ。ベッドを見ると、自分のすぐ横で海斗があの時のまま、目を瞑った状態で横たわっている。
「海斗?」
今度はじっと窺うように海斗に声を掛ける。しかし、反応はない。
一緒に戻ったはずなのに。まさか、間に合わなかった――?
優希の心臓がどくんと大きく鳴った。
「海斗? ねぇ、海斗っ? 海斗っ!」
不安になりながら優希は海斗の体を揺らし、そしてどんどん声が大きくなる。
目を開けてほしい。嘘だと言ってほしい。絶対に、大丈夫だ、死ぬはずないっ。
涙が溢れてくる。海斗が目覚めない。助けたはずなのに、どうして……。
「海斗っ! 嫌だっ! お願いっ、目を開けてっ!」
優希は海斗の胸の上に覆い被さるようにして必死になって叫んだ。
「海斗っ……」
「……優希、ちょっとうるさい……」
優希が叫んだ後、頭の上の方からぼそりと声が聞こえた。
「海斗っ!」
がばっと体を起こす。
少し辛そうな顔をした海斗がそっと優希の腕を掴んでいる。
「優希」
そしてふっと笑顔になった。
その瞬間、優希は再び海斗の胸に崩れるようにして覆い被さる。そしてぎゅっと海斗の首にしがみついた。
「海斗……海斗っ」
体温も感じる。そして心臓の音も。海斗は生きている。
優希の目から再び涙が零れ落ちた。
「海斗様っ! あぁ……」
そして、ベッドの横で椅子に座ってふたりを見ていた橘もまた、涙が溢れ、そっと袖で拭っている。
「橘……ごめん、心配かけたよな?」
左手で優希の頭を撫でながら、海斗は横になったまま橘を見る。そして右手をそっと橘の方へと差し出した。
「いえ……橘は、本当に……生きた心地がございませんでした。海斗様、本当に良かった……優希様も、本当に」
橘は差し出された海斗の右手を両手でぎゅっと握り締めると、再び涙を流していた。
ブブブブブッ
突然何かの音が聞こえた。
3人同時に優希のショルダーバッグを見る。携帯電話だ。
そういえば、すっかり携帯電話のことを忘れていた。
優希はショルダーバッグから携帯電話を取り出す。そして開いて画面を見ると、画面には『母』の文字が。
「え? お母さん?」
不思議そうに首を傾げながら優希は受話ボタンを押した。
「優希っ! 今どこにいるのっ!」
耳に当てる前に電話の向こうから母の怒鳴り声が聞こえてきた。
優希の横で海斗もゆっくりと体を起こし、電話の向こうの優希の母の声に耳を傾ける。
「え? どこって……」
驚きながらもそっと耳に当てる。
「海斗君の家なの?」
「うん、そうだけど――」
「ちょっとっ! 泊ってきていいとは言ったけど、2日間も泊まるなんて聞いてないわよっ! 学校はどうするの? 今日は月曜なのよっ!」
怒られる意味が分からず、ぼそぼそと答えていた優希だったが、母の怒鳴り声でハッとした。もう随分長くワンダーランドへ行っていた気がしていた。
「え? 月曜っ?」
思わず声を上げる。
「何を言ってるの? 学校行くんでしょ。早く帰ってらっしゃいっ!」
そう言って母の電話は切れてしまった。
ツーツーと鳴っている携帯電話を持ったまま優希は固まっていた。
「あぁっ! そうでした。今日は月曜です。おふたりとも、学校は行かれますか? お休みになられますか?」
橘も思い出したようにぱんと軽く手を叩くと、椅子から立ち上がり、ふたりに向かって問い掛けた。
「あぁ、大丈夫だ。行くよ。今何時だ?」
海斗はまだぼんやりしながらも橘の問いに答える。そして部屋の時計をちらりと見た。
「6時半でございます」
部屋の時計を確認するのと同時に橘が答えた。
「分かった……悪い、朝ご飯の用意を頼めるか?」
「もちろんです。では」
そう言って橘はそそくさと部屋を後にした。
「優希、とりあえずシャワー入ってこい。俺も後から入る。なんなら一緒に入るか?」
意識もはっきりしてきた海斗が、自分の横で固まっている優希に声を掛ける。
「え……は? やだよっ!」
ハッと我に返ると、優希は海斗の言葉に真っ赤な顔で反論する。
「分かった分かった」
ふっと笑みを浮かべ、海斗は優希の頭をぽんぽんと軽く叩く。そして、真っ赤な顔で頬を膨らませている優希を見て、愛しさが込み上げる。
すっと優希の頬に右手で触れ、そっと唇を重ねる。
「っ!」
どきんと心臓が思わず飛び出しそうな程に驚いた優希だったが、じっとそのまま動かずにいた。目を瞑り、ぎゅっと海斗の服を掴む。
両手で頬を掴まれ、そっと口を開けさせられる。
「ん……」
しかし、深くキスされるのかと思ったが、ぺろりと優希の唇を舐めると海斗はすっと顔を離した。
そしていつものように余裕の笑みを浮かべる。
「優希、シャワー入ってこい。優希の着てきた服を用意しておくから」
そう言うとベッドを下りて部屋を出て行った。
もうすっかり体は大丈夫なようだった。
残された優希はまだどきどきと心臓が速く鳴っていた。真っ赤な顔のまま部屋のドアを見つめる。
そしてふと思い出す。
やっと帰ってきたのだ。元通りの日常も帰ってきた。
しかし――。
優希は首にぶらさげていた『メタトロンの鏡』をそっと取り出す。
夢ではない。そして、たくさんの仲間、友達ができた。
きっと皆に会いに行く。そう心に決め、ペンダントを外し、そっとベッドの上に置く。
そして優希は海斗の部屋のシャワー室へと入っていった。
ベッドの上に置かれた『メタトロンの鏡』が七色にきらりと光る。
光の中でふわりと風を感じ、優希と海斗はそのまま気を失ってしまった。
そして――。
「わぁっ!」
すぐ近くで誰かが叫ぶ声が聞こえて目を覚ました。
いつものようにどこからか落ちてきた様子はない。体も痛くはない。
そしてなぜか自分は温かくふかふかした何かの上に横たわっている。
「んっ……」
ぼんやりとしながら優希は目を開けた。そしてごしごしと目を擦る。
ここはどこだろう?
「優希様っ!」
先程聞こえた声だ。この声は――。
「えっ?」
がばっと体を起こした。見たことのある場所、よく知る場所。
自分が横たわっていたのは海斗の部屋のベッドの上であった。
ハッとして横を見ると、橘が目をぱちぱちとさせながら優希を見ている。
「橘さんっ」
そう、橘の声だった。もしかしたら、突然ここに自分は現れたのだろうか?
先程今まで聞いたことのない橘の驚いた声を聞いた気がした。
「優希様……これは、一体……」
橘は呆然と見つめている。一体何が起こったのかと混乱しているようだった。
「あ、あのね、橘さん……あっ! 海斗っ!」
橘に説明しようと話し始めた優希であったが、ふと海斗のことを思い出し、海斗の名を叫んだ。ベッドを見ると、自分のすぐ横で海斗があの時のまま、目を瞑った状態で横たわっている。
「海斗?」
今度はじっと窺うように海斗に声を掛ける。しかし、反応はない。
一緒に戻ったはずなのに。まさか、間に合わなかった――?
優希の心臓がどくんと大きく鳴った。
「海斗? ねぇ、海斗っ? 海斗っ!」
不安になりながら優希は海斗の体を揺らし、そしてどんどん声が大きくなる。
目を開けてほしい。嘘だと言ってほしい。絶対に、大丈夫だ、死ぬはずないっ。
涙が溢れてくる。海斗が目覚めない。助けたはずなのに、どうして……。
「海斗っ! 嫌だっ! お願いっ、目を開けてっ!」
優希は海斗の胸の上に覆い被さるようにして必死になって叫んだ。
「海斗っ……」
「……優希、ちょっとうるさい……」
優希が叫んだ後、頭の上の方からぼそりと声が聞こえた。
「海斗っ!」
がばっと体を起こす。
少し辛そうな顔をした海斗がそっと優希の腕を掴んでいる。
「優希」
そしてふっと笑顔になった。
その瞬間、優希は再び海斗の胸に崩れるようにして覆い被さる。そしてぎゅっと海斗の首にしがみついた。
「海斗……海斗っ」
体温も感じる。そして心臓の音も。海斗は生きている。
優希の目から再び涙が零れ落ちた。
「海斗様っ! あぁ……」
そして、ベッドの横で椅子に座ってふたりを見ていた橘もまた、涙が溢れ、そっと袖で拭っている。
「橘……ごめん、心配かけたよな?」
左手で優希の頭を撫でながら、海斗は横になったまま橘を見る。そして右手をそっと橘の方へと差し出した。
「いえ……橘は、本当に……生きた心地がございませんでした。海斗様、本当に良かった……優希様も、本当に」
橘は差し出された海斗の右手を両手でぎゅっと握り締めると、再び涙を流していた。
ブブブブブッ
突然何かの音が聞こえた。
3人同時に優希のショルダーバッグを見る。携帯電話だ。
そういえば、すっかり携帯電話のことを忘れていた。
優希はショルダーバッグから携帯電話を取り出す。そして開いて画面を見ると、画面には『母』の文字が。
「え? お母さん?」
不思議そうに首を傾げながら優希は受話ボタンを押した。
「優希っ! 今どこにいるのっ!」
耳に当てる前に電話の向こうから母の怒鳴り声が聞こえてきた。
優希の横で海斗もゆっくりと体を起こし、電話の向こうの優希の母の声に耳を傾ける。
「え? どこって……」
驚きながらもそっと耳に当てる。
「海斗君の家なの?」
「うん、そうだけど――」
「ちょっとっ! 泊ってきていいとは言ったけど、2日間も泊まるなんて聞いてないわよっ! 学校はどうするの? 今日は月曜なのよっ!」
怒られる意味が分からず、ぼそぼそと答えていた優希だったが、母の怒鳴り声でハッとした。もう随分長くワンダーランドへ行っていた気がしていた。
「え? 月曜っ?」
思わず声を上げる。
「何を言ってるの? 学校行くんでしょ。早く帰ってらっしゃいっ!」
そう言って母の電話は切れてしまった。
ツーツーと鳴っている携帯電話を持ったまま優希は固まっていた。
「あぁっ! そうでした。今日は月曜です。おふたりとも、学校は行かれますか? お休みになられますか?」
橘も思い出したようにぱんと軽く手を叩くと、椅子から立ち上がり、ふたりに向かって問い掛けた。
「あぁ、大丈夫だ。行くよ。今何時だ?」
海斗はまだぼんやりしながらも橘の問いに答える。そして部屋の時計をちらりと見た。
「6時半でございます」
部屋の時計を確認するのと同時に橘が答えた。
「分かった……悪い、朝ご飯の用意を頼めるか?」
「もちろんです。では」
そう言って橘はそそくさと部屋を後にした。
「優希、とりあえずシャワー入ってこい。俺も後から入る。なんなら一緒に入るか?」
意識もはっきりしてきた海斗が、自分の横で固まっている優希に声を掛ける。
「え……は? やだよっ!」
ハッと我に返ると、優希は海斗の言葉に真っ赤な顔で反論する。
「分かった分かった」
ふっと笑みを浮かべ、海斗は優希の頭をぽんぽんと軽く叩く。そして、真っ赤な顔で頬を膨らませている優希を見て、愛しさが込み上げる。
すっと優希の頬に右手で触れ、そっと唇を重ねる。
「っ!」
どきんと心臓が思わず飛び出しそうな程に驚いた優希だったが、じっとそのまま動かずにいた。目を瞑り、ぎゅっと海斗の服を掴む。
両手で頬を掴まれ、そっと口を開けさせられる。
「ん……」
しかし、深くキスされるのかと思ったが、ぺろりと優希の唇を舐めると海斗はすっと顔を離した。
そしていつものように余裕の笑みを浮かべる。
「優希、シャワー入ってこい。優希の着てきた服を用意しておくから」
そう言うとベッドを下りて部屋を出て行った。
もうすっかり体は大丈夫なようだった。
残された優希はまだどきどきと心臓が速く鳴っていた。真っ赤な顔のまま部屋のドアを見つめる。
そしてふと思い出す。
やっと帰ってきたのだ。元通りの日常も帰ってきた。
しかし――。
優希は首にぶらさげていた『メタトロンの鏡』をそっと取り出す。
夢ではない。そして、たくさんの仲間、友達ができた。
きっと皆に会いに行く。そう心に決め、ペンダントを外し、そっとベッドの上に置く。
そして優希は海斗の部屋のシャワー室へと入っていった。
ベッドの上に置かれた『メタトロンの鏡』が七色にきらりと光る。
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