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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第54話
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馬車で20分掛かる城までの距離を、僅か数分でグスターヴァルは城の屋上へと辿り着いていた。どうやらかなり急いだらしい。しかし、アリスとジェイクが落ちないよう、酔ったりしないよう魔法をかけていたらしく、超特急であってもふたりはなんともない様子であった。
「え? もう着いたの? すごっ」
思わずアリスが呟いた。
確かに前にグスターヴァルに乗っていた時よりも、物凄いスピードで景色が通り過ぎていたのは分かっていたが、魔法で風も感じなかった為、体感ではよく分かっていなかった。目をぱちぱちと瞬きさせる。
「もっとゆっくり乗っていたかったぁ」
あっという間の空の旅で、ジェイクが残念そうに肩を落としている。
グスターヴァルはゆっくりと羽ばたきながら、少しずつ城の屋上へと下りていく。
やはり体が大きく、下り立つことはできそうにない。
周りに気を付けながらあと数メートルといったところでグスターヴァルが話す。
「これ以上は無理だ。お前たち、ここから下りられるか?」
「うん、大丈夫だと思う」
そう言って、エーテルの剣を持ってジェイクが先に屋上の上へと飛び下りた。
そして剣を地面に置くと、アリスを受け止めようと両手を広げる。
「アリス」
「ジェイクっ」
アリスがグスターヴァルの背中から飛び下りる。しっかりとジェイクが両手で受け止めた。そのままぎゅっと抱き締める。しかし――。
「ちょっと離して」
すぐにぐいっと顔を押しのけられ、アリスはすとんと下りてしまった。
「もう少し優しくしてくれても……」
「ふぅん? 冷たくされるの嬉しいくせに」
しょんぼりしているジェイクをアリスは上目遣いでじっと見つめる。
「お前たち、後は頼んだぞ。私は少し離れた所に待機しているから、何かあれば私を呼べ」
グスターヴァルが飛びながらアリス達に声を掛ける。
「分かったっ! ありがとうっ、グスターヴァルっ!」
そう言ってアリスが手を振る。
その横でジェイクもいつの間にか元気を取り戻していたようで、にこりと笑ってグスターヴァルに手を振った。
大きく羽ばたくと、グスターヴァルはゆっくりと屋上から離れ、そのままどこかへと飛び去って行った。
「ほんとグスターヴァルって優しくって気遣いもできて頼もしくって、いい男だよねって、ドラゴンだけど」
アリスがそう話すと横でジェイクがぎょっとする。
「え? 待って、アリス。まさか、グスターヴァルのこと好きになっちゃった訳じゃないよね?」
アリスの両肩を掴み思わず強く揺らすジェイク。必死である。
ここにもまたグスターヴァルに恋人を取られそうになっている、ひとりの男がいたのだった。
☆☆☆
暫く揉めていたふたりだったが、本来の目的を思い出し、そっと屋上のドアを開ける。鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。
「ここからが問題だね」
アリスはポケットに入れておいた海斗が書いた城の地図を取り出した。
何度も城に遊びに来ていたが、自分ではここまで正確な地図を書くことはできないだろう。1回見ただけで、しかも通っただけで地図が書ける海斗のことを、アリスは少しだけ見直していた。
地図を見ると、階段を下りて左へ真っすぐ進む。そして少し広い廊下に出て左へ進む。少し進むと左側に更に広い廊下に出る。その先が目的地、海斗が捕まっていた部屋とは反対側の玉座のある王の間である。
アリスは頭の中に地図を叩き込むと、そっとポケットにしまった。
ゆっくりと階段を下りていく。ジェイクもすぐ後ろに続く。
「…………」
まずは最初の曲がり角、そっと顔を出そうとする。
すると、ジェイクがすぐ後ろからアリスに囁くように声を掛けた。
「待ってアリス」
「何?」
面倒臭そうに振り返る。その瞬間、ジェイクはアリスの顔を両手で包むように掴むと、自分の唇をアリスの唇にそっと重ねた。すると、ふわりとジェイクの体が大きな白い犬へと変化した。
「ジェイクっ」
小声でアリスが文句を言っている。急にキスしたことへの文句だ。
「ごめんっ。でもあんまり時間ないと思って……カイトに言われてたからさ。犬の姿でって」
ジェイクがするりとアリスにすり寄る。アリスはむぅっと口を尖らせるが仕方ないと溜め息を付いた。
「俺が先に行くね。動物の方が目立たないと思うから」
そう言ってジェイクが壁からそっと顔を覗かせる。今いる場所よりもう少し広い廊下が見える。今は誰もいないようだった。
「大丈夫」
ジェイクはそのまま廊下に出る。続いてアリスもそっとジェイクの後ろを追う。
とことこと歩いていると、突然アリスの肩を後ろから誰かに掴まれた――。
「っ!?」
気を付けていたつもりだったが、まさか見つかってしまった?
アリスが声もなく体をびくりと震わせる。そしてすぐにジェイクも気が付いて振り返った。
しかし、ぐいっとそのまま口を塞がれアリスがすぐ横の部屋の中へと連れ込まれた。ジェイクは慌てて同じ部屋へと入る。
「んんっ……」
アリスは必死に暴れる。しかし、口を塞がれて声が出ない。そこへジェイクが飛び掛かってきた。
「アリスを離せっ!」
しかし簡単に手で払い除けられてしまった。しかも凄い力で。
そのままジェイクは「ギャンッ」と声を上げ、床に転がってしまった。
ハッとしてアリスがジェイクの方に手を伸ばす。
「静かにしろ」
低い男性の声に制止される。アリスはその声でハッとした。この声は……。
「イーサンっ!」
自分の口を塞ぐ手をぐいっとどけると、驚いたように声を上げる。
まさか『彼』に見つかってしまうとは……。
「え? もう着いたの? すごっ」
思わずアリスが呟いた。
確かに前にグスターヴァルに乗っていた時よりも、物凄いスピードで景色が通り過ぎていたのは分かっていたが、魔法で風も感じなかった為、体感ではよく分かっていなかった。目をぱちぱちと瞬きさせる。
「もっとゆっくり乗っていたかったぁ」
あっという間の空の旅で、ジェイクが残念そうに肩を落としている。
グスターヴァルはゆっくりと羽ばたきながら、少しずつ城の屋上へと下りていく。
やはり体が大きく、下り立つことはできそうにない。
周りに気を付けながらあと数メートルといったところでグスターヴァルが話す。
「これ以上は無理だ。お前たち、ここから下りられるか?」
「うん、大丈夫だと思う」
そう言って、エーテルの剣を持ってジェイクが先に屋上の上へと飛び下りた。
そして剣を地面に置くと、アリスを受け止めようと両手を広げる。
「アリス」
「ジェイクっ」
アリスがグスターヴァルの背中から飛び下りる。しっかりとジェイクが両手で受け止めた。そのままぎゅっと抱き締める。しかし――。
「ちょっと離して」
すぐにぐいっと顔を押しのけられ、アリスはすとんと下りてしまった。
「もう少し優しくしてくれても……」
「ふぅん? 冷たくされるの嬉しいくせに」
しょんぼりしているジェイクをアリスは上目遣いでじっと見つめる。
「お前たち、後は頼んだぞ。私は少し離れた所に待機しているから、何かあれば私を呼べ」
グスターヴァルが飛びながらアリス達に声を掛ける。
「分かったっ! ありがとうっ、グスターヴァルっ!」
そう言ってアリスが手を振る。
その横でジェイクもいつの間にか元気を取り戻していたようで、にこりと笑ってグスターヴァルに手を振った。
大きく羽ばたくと、グスターヴァルはゆっくりと屋上から離れ、そのままどこかへと飛び去って行った。
「ほんとグスターヴァルって優しくって気遣いもできて頼もしくって、いい男だよねって、ドラゴンだけど」
アリスがそう話すと横でジェイクがぎょっとする。
「え? 待って、アリス。まさか、グスターヴァルのこと好きになっちゃった訳じゃないよね?」
アリスの両肩を掴み思わず強く揺らすジェイク。必死である。
ここにもまたグスターヴァルに恋人を取られそうになっている、ひとりの男がいたのだった。
☆☆☆
暫く揉めていたふたりだったが、本来の目的を思い出し、そっと屋上のドアを開ける。鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。
「ここからが問題だね」
アリスはポケットに入れておいた海斗が書いた城の地図を取り出した。
何度も城に遊びに来ていたが、自分ではここまで正確な地図を書くことはできないだろう。1回見ただけで、しかも通っただけで地図が書ける海斗のことを、アリスは少しだけ見直していた。
地図を見ると、階段を下りて左へ真っすぐ進む。そして少し広い廊下に出て左へ進む。少し進むと左側に更に広い廊下に出る。その先が目的地、海斗が捕まっていた部屋とは反対側の玉座のある王の間である。
アリスは頭の中に地図を叩き込むと、そっとポケットにしまった。
ゆっくりと階段を下りていく。ジェイクもすぐ後ろに続く。
「…………」
まずは最初の曲がり角、そっと顔を出そうとする。
すると、ジェイクがすぐ後ろからアリスに囁くように声を掛けた。
「待ってアリス」
「何?」
面倒臭そうに振り返る。その瞬間、ジェイクはアリスの顔を両手で包むように掴むと、自分の唇をアリスの唇にそっと重ねた。すると、ふわりとジェイクの体が大きな白い犬へと変化した。
「ジェイクっ」
小声でアリスが文句を言っている。急にキスしたことへの文句だ。
「ごめんっ。でもあんまり時間ないと思って……カイトに言われてたからさ。犬の姿でって」
ジェイクがするりとアリスにすり寄る。アリスはむぅっと口を尖らせるが仕方ないと溜め息を付いた。
「俺が先に行くね。動物の方が目立たないと思うから」
そう言ってジェイクが壁からそっと顔を覗かせる。今いる場所よりもう少し広い廊下が見える。今は誰もいないようだった。
「大丈夫」
ジェイクはそのまま廊下に出る。続いてアリスもそっとジェイクの後ろを追う。
とことこと歩いていると、突然アリスの肩を後ろから誰かに掴まれた――。
「っ!?」
気を付けていたつもりだったが、まさか見つかってしまった?
アリスが声もなく体をびくりと震わせる。そしてすぐにジェイクも気が付いて振り返った。
しかし、ぐいっとそのまま口を塞がれアリスがすぐ横の部屋の中へと連れ込まれた。ジェイクは慌てて同じ部屋へと入る。
「んんっ……」
アリスは必死に暴れる。しかし、口を塞がれて声が出ない。そこへジェイクが飛び掛かってきた。
「アリスを離せっ!」
しかし簡単に手で払い除けられてしまった。しかも凄い力で。
そのままジェイクは「ギャンッ」と声を上げ、床に転がってしまった。
ハッとしてアリスがジェイクの方に手を伸ばす。
「静かにしろ」
低い男性の声に制止される。アリスはその声でハッとした。この声は……。
「イーサンっ!」
自分の口を塞ぐ手をぐいっとどけると、驚いたように声を上げる。
まさか『彼』に見つかってしまうとは……。
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