White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第49話

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 そして翌朝――。
 誰かの話し声で優希は目が覚めた。
 抱き合った状態のまま眠ってしまい、腕が痛い。
(いっつも海斗って腕枕とか抱き締めて寝たりしてるけど腕痛くないのかな?)
 もそもそと手を抜こうと動かす。すると自分を抱き締めていた手にぎゅっと力が入った。
「っ!?」
 ぎょっとすると、頭の上の方から声がした。
「どこに行こうとしてる?」
 海斗だ。抱き締めていた手を緩め、そっと優希の両肩を掴んで少しだけ体を離した。
「おはよう、優希」
「っ!?」
 そう言って海斗は優希にキスをした。優希は朝からキスされて真っ赤になる。
「ちょっとっ!」
 リス顔負けなくらいに頬を膨らませている。
「いいだろう? これくらい」
 怒っている優希も可愛くて仕方ないといった感じで海斗はにっこりと笑いながら優希の頭を撫でる。
「よくないっ!」
 そう言って優希はがばっと上体を起こす。
 それとほぼ同時くらいに入り口の方からアリスの声がした。
「ユウキ? 起きてる?」
「アリスっ」
 優希が答えるとぴょこんと入り口からアリスが顔を出した。
「おはよっ。ごはんできてるから来てね。……カイトも」
 優希を見て笑顔で話すアリスだったが、ちらりと海斗の方を不貞腐れた顔で見た。
「ありがとっ」
「あぁ」
 満面の笑みで返す優希。そして半分溜め息を付きながら海斗が返事をした。
 アリスは海斗を睨み付けるように見た後、顔を引っ込め行ってしまった。
「もうっ……仲直りしてね」
 ふたりの様子を見ていた優希はぷくっと頬を膨らませ海斗を見つめる。
「あぁ……分かってるよ」
 俺が悪いのか? と思いながらも、このままでは良くないことも分かっているので自分が折れることにした海斗だった。

 ふたりはゆっくりベッドから出ると大きく背伸びをする。
 久しぶりにぐっすり眠れた気がした。ワンダーランドに来て3日目だというのに、もう随分長くいるような気持ちだった。
「ユウキっ」
 広場の中央でアリスが呼んでいる。
 他の皆も集まっているようだった。そういえば、ライアンは未だに虎の姿のままであった。もう戻っていると思っていた優希は不思議そうに首を傾げる。以前はあんなに人の姿に戻りたがっていたのに。
 皆の所へ移動すると、すぐにその疑問を投げかけてみた。
「ライアンはなんで虎のままなの?」
「ん? まぁ、別に。すぐに戻る必要もないし……」
 意味ありげにライアンは優希の問いに曖昧に答え、顔を逸らす。
 なんだろう? と優希は再び首を傾げる。
「……そういえば、ここにいる全員、元々人間なのか?」
 優希の後ろから歩いてきた海斗が優希の横に並ぶと誰に聞く訳でもなく尋ねた。
「うん、そうだよ。どうして?」
 海斗を見上げながら答えたのだが、優希は意図が分からずきょとんとする。
「いや、ちょっと聞いてみただけだ」
「ふうん?」
 あまり納得はしていなかったが、それ以上は聞くことなく、皆が座る輪の中に優希も一緒になって腰を下ろす。そして海斗もすぐに優希の横に座った。
「はい」
 座ってすぐにアリスが優希と海斗にパンが乗った皿を渡してきた。
「ありがとっ」
「ありがとう」
 優希からは満面の笑みを、海斗からも柔らかく笑顔を向けられ、アリスは顔を赤らめながら「うん」とだけ言ってジェイクの横へと移動した。
 その様子を見て優希は仲直りできたのかな? とちょっとだけほっとしていた。

 パン以外にも卵焼きやハムのようなものもあった。見た目も味も似ているが同じなのかは分からない。アリスが『どこでもご飯』で出したものなので食べられるものには間違いないのだが。
 そういえば、アリスが以前サンドイッチのようなものを食べていたと思い出す。日本ではないだけで外国のようなものなのだろうか、と優希はもぐもぐと口を動かしながら考えていた。

「じゃあ、今日の作戦会議ね」

 朝ご飯を食べながら再びアリスの『作戦会議』が始まった。
「作戦会議?」
 口の中のパンを飲み込むと優希はきょとんと首を傾げる。この前は上手くいったが、今回はどんな作戦があるというのか。
「ユウキの恋人は取り返したけど、セバスチャン曰く、魔女を倒さないとユウキ達は帰れないんだって」
 優希の問いに答えるようにアリスが話し出したのだが、そういえば肝心のセバスチャンがいない。
 ふと優希は昨日聞いた会話を思い出し緊張していた。
「そういえば、セバスチャンはいないのか?」
 優希は緊張したまま黙っていたが、同じように不思議に思ったのか、海斗がアリスに問い掛ける。
「うん。ちょっと出掛けるって朝早くに森を出たよ。セバスチャンがいなくても森にはあいつらは入ってこれないから大丈夫だよ」
 すっかり海斗への怒りがおさまったようでアリスは普通に答えていた。
 そしてセバスチャンの不在を聞いて優希は少しだけほっとしていた。別に自分が気を遣う必要はないのだが。
「じゃあ、話戻すね。魔女を倒すには城に行かないといけない。でも、きっと森の周りは城の兵士とか操られてる動物でいっぱいだと思うんだよね。……だからねっ、グスターヴァルにお願いして空から行ったらどうかなって。この前は断られたけど、ユウキのお願いだったら聞いてくれるんじゃないかな、4人乗せるくらいだったら」
 アリスが『作戦会議』の内容を話し出したのだが、その内容に優希はぎょっとした。
「それは無理じゃない? この前だって――」
「4人ってどういうことだよ」
 優希とライアンの声が重なり、優希は言いかけて止めてしまった。
「え? 何? 同時に喋らないで」
 案の定アリスが不機嫌な顔をしている。
「あ、ごめん。ライアン何?」
 優希がすかさず謝ってライアンに譲った。
「ん? いや、4人って言うから、どの4人なんだ? ってこと」
 ライアンが喋っている姿を海斗は再び怪訝な表情で見ていた。だいぶ慣れてはきたが、喋る虎はなんとも言えない。
「それはもちろん、ユウキとカイト、僕とジェイクだよ」
「俺は?」
 淡々と答えるアリスにライアンが不服そうに問い返す。
「ライアンは森で皆を守っててよ」
 そう言ってアリスがライアンを指差す。
「……ちぇ、分かったよ」
 不服そうな顔をしながらも渋々了承するライアン。随分と素直になっている。
「で、ユウキはなんて?」
 先程優希が話したことを問い返すアリス。
「あ……えっとね。無理なんじゃないかって言ったんだ。だって、この前も屋上に近付けなかったでしょ?」
 アリスとライアンの話をぼんやりと聞いていた優希は突然振られ、慌てて先程話したことを思い出しながら答える。
「うーん……ダメかなぁ」
「……俺に提案がある。簡単かつ確実に城に入る方法がある」
 突然海斗が話し出し、その内容に全員がぎょっとして海斗に注目した。
「え? そんな方法があるの?」
 優希も驚いて声を上げる。
「そうだな。多少の危険はあるが、他の方法を試すよりはいいと思う」
「どうするの?」
 優希の問い掛けに、アリス、ジェイク、ライアンそしてリス達もじっと海斗を見つめ、返答を待った。

「わざと捕まるんだよ」
 しれっと海斗が答える。

「えええええええっ!!!!」

 全員一斉に声を上げてしまった。
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