White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第48話

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 すっかり夜も更けた頃――。
 優希はぱちりと目を開ける。目が覚めてしまったのはいいが、トイレに行きたくなってしまった。寝る前に行っておけば良かったと後悔する。
 目の前の海斗を見ると、静かに眠っているのが分かる。起きる様子もない。
 仕方なくそっと海斗の腕を避け、優希は体を起こすと四つん這いでそろそろとバックしてテントの入口へと移動する。海斗を起こさないように、そぉっと自分の靴を掴んで履いた。
 テントから出ると辺りは静かで真っ暗だった。曇り空の為、月も星も見えない。
 それこそ梟でも鳴いていそうな暗い夜の森である。いや、セバスチャンは鳴かないだろうが……。

「暗っ」
 優希はショルダーバッグの中から自分の携帯電話を出し、ライトを点ける。これでなんとか足元は見える。
 そういえば、ワンダーランドに来て初めて携帯電話を触ったと思い出す。確認してはいないが当然圏外になっているだろうから、見る用事もなかったのだ。
 後で本当に圏外かどうか確認してみようと思いながら、自分達のテントの反対側にあるトイレへと向かう。
 森の中だし男だし、トイレくらいどこでも、という訳にもいかず、アリスがまたあの小さなリュックから小さな箱を取り出して、簡易トイレを作ってくれたのだ。
 やはりあのリュックは○次元ポケットと同じなのではないかと優希は思っていた。

 そして他の人達も近くで眠っているだろうから、とゆっくりできるだけ音を立てないように移動する。
 すると、どこからか声が聞こえた気がして、優希はぴたりと立ち止まった。

「んっ……こらっ、やめろ……おいっ、イーサンっ」
「静かにした方がいいんじゃないか?」
「お前が触るからだろう? なんで来たんだ。さっさと城に帰れっ」
 声がする方に耳を澄ませると、男性ふたりの声が聞こえる。ひとりは聞いたことがある声だ。
(セバスチャン? 誰と話してるんだろう。イーサンって……あ、そういえば)
『イーサン』という名前に聞き覚えがあった。確か、グスターヴァルの背中の上でアリスが話をしてくれていた時に出てきた名前だ。結局あの後続きは話してもらえず、イーサンが誰なのか、どういった人物なのかは分からないままだった。
「やめろというのに……んんっ、あっ……」
 再びセバスチャンの声がする。
(ん?)
 なんとなく嫌な予感がする。この声は、まさか……。
 ふと優希はこれ以上聞いていてはいけない気がして、できるだけ音を立てないように、急ぎ足で簡易トイレへと向かう。
 そして辿り着くと急いでドアを開けて中に入り、ドアと鍵を閉める。
「はぁぁぁ……」
 思わず深く息を吐く。
 中に入ると自動的に電気が点灯した。
 名前は簡易トイレだが、そこはトイレだけではなく洗面台、そして簡易シャワーまである。しかも防音だという。ちゃんとタオルも用意されていた。
 水等がどこにいってしまっているのかは不明である。そこは魔法で処理しているのだろうか?
 ここと簡易ベッドさえあればこのまま住めそうだ、と思わず感心してしまっていた優希だったが、先程のことを思い出し顔が熱くなる。
「そういえばセバスチャンって……」
 ふと考えぼそりと呟く。
 あの感じはまさに……と思いつつも、セバスチャンは梟である。しかし、ジェイクに人間に戻る方法を教えたのもセバスチャン……もしかして今まさに人間に戻ってる?
 優希は頭の中である考えに辿り着いた。
「……何も聞かなかったことにしよう」
 再び呟き、携帯電話のライトを消すと、ショルダーバッグの中にしまった。
 そして目的だったトイレに入る。用を済ませた後、洗面台で手を洗いながら再びそういえば、と思い出す。
(そういえば俺、埃だらけじゃね?)
 洗面台に小さな鏡が付いている。鏡を見ながら自分の顔と頭を見る。
 せっかくだし……と備え付けられているシャワーに入ることにした。
 海斗の部屋でシャワーに入ってからずっとそのままである。転がったりもしているはずだし、そんな体で海斗に抱き締められていたかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになった。
 着替えもなくドライヤーもない。髪を洗うのは難しそうだが、体を流すくらいはしておこうと、服を脱ぎ、シャワー室へと入った。
 海斗の部屋にあるシャワー室よりも少しだけ狭い。簡易的なものなので仕方ない。贅沢は言えない。温度設定はなさそうだが、シャワーを出してみるとすぐに温かいお湯が出てきた。ざーっと体にシャワーを当て、全身を洗い流す。ボディシャンプーもあると嬉しかったがそれもなかった。
 お湯を流すだけで終了し、優希はシャワー室から出る。
 そしてタオルで全身を拭く。洗面台の横に小さな籠が置かれていたのでそこに使用済みのタオルを入れておいた。
(勝手に使っちゃったけど大丈夫かな。明日アリスに言っておこう)
 そしてベッドに戻ろうとそっと鍵を開けドアを開ける。

 外に出ると相変わらずの暗闇と静けさがあった。
 再びショルダーバッグから携帯電話を取り出し、ライトを点ける。
 緊張しながら、できるだけ音を立てないようにベッドがある反対側へと移動する。
 先程声が聞こえてきた辺りを通ったが、今度は誰の声も聞こえなかった。少しだけほっとする。そしてそのまま急ぎ足でベッドがある所まで移動した。
 携帯電話のライトを消し、ショルダーバッグの中に入れる。そしてそっと靴を脱いで、簡易ベッドの中へと入った。海斗が起きた様子はない。出ていく前の状態のまま眠っている。
「良かった……」
 ぼそりと呟き、そっと海斗の腕の中で横になる。
「……どこに行ってたんだ?」
「うわっ」
 ごろりと横になった途端、すぐ前から声が聞こえて思わず声を上げてしまった。
「シー。優希、どこ行ってたんだ?」
 海斗であった。今起きたのか、それとも実はずっと起きていたのか。
「う、ごめっ。えっと、トイレに」
「そうか……黙って行くなよ」
 小声で謝る優希に納得しながらも、海斗はむすっとして答える。
「だって、それで起こすのも悪いと思って」
「起きた時に優希がいない方が嫌だ」
 そう言って海斗は再びぎゅっと優希を抱き締めた。
「うっ……ごめんって。てか、俺はどこにも行かないってば」
「分かってる。でも、もう会えなくなるのはごめんだ」
 優希の頭に顔を埋め、海斗はぼそぼそと話す。
 さすがに今回は怒ることもできない。優希はそっと海斗の背中に手を回すとぎゅっと抱き締め返した。
「うん。俺も」
 そっと囁くように答える。
 そして、再び眠気が襲ってきた。しかし、うとうととしながら優希はふとあることに気が付いた。海斗にキスされても猫に変わっていない自分を。
(あれ? なんでだろう?)
 そう思いながらも眠気に勝てず、そのまま眠りについてしまった。
 海斗もまた、優希を抱き締めたまま眠りについていた。
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