White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第47話

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 森の木から少し離れた場所で、優希は先程ジェイクに教えてもらったように箱を地面に置き、横に付いている赤いボタンを押してみた。すると、箱がぷしゅっと音をさせ突然大きく膨らんだ。
 音がした瞬間、海斗は優希の腕を掴み引き寄せていた。当たることはなかっただろうが、あまり近付いては危ないと思ったのだ。
 1面が10センチ角くらいだった小さな箱は、ビニール製の大きな直方体のテントになった。高さは優希の背の高さより少し低い、160センチくらいか。長さは2メートルより少し長いくらいか? テントにしては小さめだが寝る為だけのものだ。このサイズであれば海斗でも寝られるだろう。
 入り口と思われる手前の方を覗いてみると、真ん中が割れていて簡単に中に入れるようになっていた。ファスナーやボタン等は付いていない。ジェイクが言った通り、テント型の簡易ベッドのようだ。
「すごーいっ!」
 優希は思わず感嘆の声を上げる。そっと真ん中の割れ目から中を覗いてみると、テントの中は全てがベッドになっている。地面から50センチ程の高さがあるエアーベッドだ。とはいえ布団や枕はない。マットレスだけのようだった。中でごろんと寝転がることができるくらいだろう。それでも地面に直接寝るよりはずっといい。
 優希は靴を脱いで中に入ってみた。
 靴をテントの外に置き、エアーベッドへと乗ってみる。思わず声が出た。
「うわっ」
 思ったよりもふかふかしている。もっと硬いと思っていた優希は気持ち良くて足を伸ばして座った状態のままゆらゆらと揺らしてみる。
「こら、優希。遊ぶな。壊れたらどうする」
 海斗も靴を脱いで中に入ってきた。海斗には少し狭いらしく、四つん這いの状態で移動してきていた。
「あ……」
 注意されたことではなく、一緒に寝るのだということを瞬時に察した優希は顔を赤らめながらどきっと心臓が強く鳴っていた。
「もうちょっとそっちに行ってくれ。寝れないだろう?」
 海斗は特に何も気にすることなく、真ん中を占拠していた優希の肩を軽く叩く。
「あ、ごめんっ」
 慌てて隅っこへと移動する。しかしすぐに海斗に腕を掴まれ戻された。
「へっ?」
「そんなに隅に行かなくていい」
 驚いた優希をぎゅっと後ろから抱き締めると海斗はそのままぼふんとベッドに優希ごと横になった。
「ちょ、ちょっとっ」
 優希は驚いて声を上げる。
「いいだろ? 別に、これくらい。何もしないから。やっと優希に会えたんだからくっついてたい」
 そう言って海斗は優希を更に強く抱き締める。
 海斗の言葉で恥ずかしくて真っ赤な顔になる優希。
「く、苦し……」
 しかし、嫌がることはなかったが強く抱き締められて苦しくなってしまった。
「悪い……」
 ハッとして海斗は慌てて手を緩める。気持ちが高ぶりすぎて思わず強く抱き締め過ぎてしまったらしい。それでも、ぎゅっと後ろから抱き締めたまま優希の髪に顔を埋めながらぼそりと話す。
「……うちのベッド程じゃないけど、まぁまぁだな」
 耳元で海斗の声が聞こえて優希はびくんと体を震わせる。何もしないとは言われたものの、この状態では緊張してしまう。海斗の体温を感じるだけでドキドキする。
「優希?」
 返事をしない優希を、海斗は不思議そうに少し体を起こして覗き込むようにして見る。
「ちょ、見ないでっ」
 相変わらず赤い顔をしていた優希はぷいっと顔を背ける。
「ったく、もっと恥ずかしいことしたんだから今更だろ?」
「ちょっ――っ!」
 不貞腐れたように呟く海斗の言葉に思わず優希は振り返り声を上げたのだが、その瞬間、海斗にキスされた。ふわりと重なる海斗の唇。柔らかく、温かい。しかしそう思った次の瞬間には唇が離れた。優希は思わずきょとんとする。
 しかし、海斗は優希を自分の方へ向かせるようにぐるりと回転させると、再びぎゅっと抱き締めてきた。
「海斗っ」
 胸の辺りに顔を埋めさせられながらも必死に声を上げる。
「優希、こっち見て」
 そう言って少し体を離す海斗。じっと覗き込むようにして見ている。
「なに……」
 恥ずかしそうに上目遣いで海斗を見る。すると両手で顔を掴まれ再び唇を重ねられる。
「んっ……」
 しかしまたすぐに離れる。一体なんなんだと優希は軽く海斗を睨み付けた。
「もっと優希に触れたいけど……今はちょっとな。だからちょっとだけ」
 そう言って今度は優希の頬にキスをする。そして再びぎゅっと抱き締める。
「もうっ……」
 抱き締められたまま優希は頬を膨らませる。恥ずかしいし、意味が分からないと思いつつも、海斗の体温と匂いと感触を再び感じることができて、少しだけ幸せな気持ちになっていた。セバスチャンは魂が作った体だと言っていたが信じられない。今、感じている匂いも感触も全て海斗のものなのだ。
 そしてふと、海斗の部屋で酷いことを言ってしまったことを思い出した。
「海斗……あのさ、ごめんね。……大嫌いなんて言っちゃって……」
 抱き締められたまま優希は海斗の胸の辺りに顔を埋め、ぼそりと話す。
「ふっ……そんなこと。いつものことだろ? 気にしてないよ。俺の方こそ怒らせてごめん。ってか、なんで怒ったのか分かんないんだけど」
 くすりと笑うと優希の頭を撫でながら答える。そしてあの時の疑問をぶつけてみた。
「え?……なんだっけ。俺もよく覚えてないや」
 優希自身もなんで怒ったのか未だに分からないままであった。
「なんだそりゃ」
 そんな優希に海斗は呆れたように呟く。
「しょうがないじゃん、とにかく腹が立ったんだもん」
 ぶすっと頬を膨らます。
「分かった分かった。だから気にしてないって。……もう寝よう、優希」
 海斗は優希を撫でながら宥める。そしてぴたりと手を止めると再びぎゅっと優希を抱き締めた。
「うん……おやすみ、海斗」
「おやすみ、優希」
 優希はそっと海斗の背中に手を回し、目を瞑った。そんな優希を愛しく思いながら海斗も目を瞑る。



 ☆☆☆



 そしてセバスチャン、アン、ダニー、トムとキティ、そしてライアンも食事を終え、それぞれ眠りに入る。
 セバスチャンは木の上で。リス達は枯れ葉の上で、ライアンもその近くにどすんと腰を下ろし丸くなる。すると、とことことキティがライアンのそばに近寄ってきた。ライアンとリス達はすっかり仲良くなっていたのだった。
「どうした?」
 ライアンがキティに声を掛ける。
「うん、ちょっと寒くて。そばで眠ってもいい?」
 キティは2本足で立ち、首を傾げながらライアンに話す。
「あぁ、いいよ。俺の腹の所ででも寝ればいいよ」
「うん、ありがとう」
 キティはライアンに承諾してもらい、嬉しそうにそっと移動するとぽすんとそのままライアンの腹に頭を乗せる形で横になった。
「ふふっ、あったかい」
「潰さないように努力する」
 サイズがかなり違うふたりである。寝返りでも打たない限りは大丈夫だと思うが、小さなリスのキティを気遣う虎の姿のライアン。
「うん、ありがと。おやすみ、ライアン」
「おやすみ」
 そうして森の夜は静かに更けていった。
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