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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第43話
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「すぐに追うんだっ! 必ず捕まえろっ!」
兵士の声が響き渡っていた。
城中の兵士が一斉に城の外へと飛び出していく。動物、兵士、そして黒い大きな馬に乗ったジャック。
「逃がしませんよ、子犬くん」
ジャックはにやりとすると、馬を鞭で打ちつけた。
「カイト……」
その様子をエリスは狭い部屋の中の小さな窓からじっと見下ろしていた。
海斗を逃がしたことがバレてしまい、ジャックによって城の最上階にある牢屋の中に閉じ込められたのだ。
「絶対に捕まらないで……」
きっと大丈夫だと心に思いながらも、エリスは不安な気持ちでいっぱいになっていた。
☆☆☆
「くっっ……」
暗闇の中、物凄いスピードでどんどん下っているのは分かった。しかし、どこまで続いているのか一向に出口が見えない。中は丸い空洞のようになっており、海斗にとっては少し狭いようだった。頭を打たないよう、寝転がった状態で滑ってはいるが、真っすぐではなく、ぐにゃぐにゃと曲がっているようで、時々体を打ち付けながらもスピードは落ちることなく下っている。
(出口はどこだ?)
時間が長く感じてしまう。一体どれだけの長さがあるのか――。
そう思った瞬間、突然前の方が明るくなってきた。
(出口か?)
思わず足に力を入れる。出口を抜けた瞬間の衝撃を避けるためだ。
少しだけスピードが落ちたが、目の前が明るくなった途端、海斗はそのまま転がるように出口から飛び出してしまった。慌てて頭を手でガードする。
「いてっ……」
ごろごろと体が横に転がった。そして周りにある枯れ葉が体に付く。
体を起こし、ふと今出てきた方を見る。山のような丘のような所にまるで小さめの土管を埋めたような出口が見えた。
あそこから出たのか、と考えつつ、再び先程感じた不安が蘇る。
出口をじっと見つめるが、エリスが来る様子はなかった。
やはりあの場に残ったのだ。自分を助ける為に。
海斗はぎゅっと唇を噛み締めると、エリスの言葉を思い出していた。
ハッとして振り返る。前方に森が見える。距離はおよそ300メートル程。
「エリス……」
ぼそりと呟く。エリスのことが心配ではあるが、助けてくれた行為を無駄にはしたくない。
海斗は拳を握り締め、ゆっくりと立ち上がる。そして森に向かって走り出した。
しかし、先程まで土管の中のような所を下っていた際に、自分が思う以上に体に力が入っていたのか上手く足が動かない。走っているはずなのに足がもつれてちっとも前に進まない。
(動けっ!)
必死に足を動かす――と、その時、何かの足音が聞こえてきた。動物? 人?
どこからか沢山の足音が聞こえる。
(まさか……)
走りながら海斗はさぁっと青ざめる。もう見つかってしまったのかもしれない。
あの足音は恐らく城からの追手だろう。そう思ったら余計に足が絡まりそうになっていた。
(ダメだっ)
捕まるわけにはいかない。エリスの為にも。
あと200メートル。なぜこんなに走れないのか。時間がゆっくりと感じられた。
そして、今度は馬の蹄の音が聞こえてきた。結構近くだ。
エリスの言葉通り、海斗は振り返ることなく走り続ける。しかし上手く足が動かない。普段ならとっくに着いているはずの距離がまだまだ先に見える。
嫌な汗が流れる。一瞬諦めかけたその時、すぐ近くで再び何かの足音が聞こえた。
動物の走る音だ。
(もうダメだ……)
あと少しなのに――そう思った時、すぐ横から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「おいっ! カイトっ!」
驚いて横を見ると、白い大きな犬が自分と並走していた。
(犬っ!?)
思った以上にでかい。虎かライオンくらいあるだろうか。いやもっと大きいかもしれない。本当にこれは犬なのか? そしてさっき名前を呼んだのは誰なのか?
「お前カイトだろう? 俺に乗れっ」
走りながら唖然としている海斗をよそに、白い大きな犬、ジェイクが声を掛けた。
ジェイクのことは初めて見たのだが、自分の名前を知っていることを信じ、海斗は必死にジェイクに掴まった。なんとか背中に跨ることができた。しかし、掴まるだけで精一杯の状態で、海斗は体を倒した状態のまま、ぎゅっとジェイクの首にしがみつく。
「行くぞっ」
そう言ってジェイクが走るスピードを一気に上げた。その瞬間、すぐ後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。先程聞こえた音だ。すぐ後ろに迫っている。しかし森は目の前だ。
ジェイクは追いつかれないよう、更にスピードを上げ、跳ぶようにして走る。
そして、そのまま森の中へと大きく跳んだ。
すぐ後ろに迫ったジャックが手を伸ばす――。
ガサガサッと落ち葉が擦れる音と共に、ジェイクがぴたりと立ち止まった。
海斗はゆっくりと体を起こす。森の入り口の前で、大きな黒い馬に乗ったジャックがこちらを睨みつけている。どうやら森の中には入れないようだった。悔しそうに歯ぎしりをしている。
「…………」
海斗はその様子を呆然と見ていた。すると、
「間に合って良かったよ」
ふと下から声がした。
「っ!?」
海斗は驚いて見下ろす。白い大きな犬がこちらを見ている。
――まさか、この犬が喋ったのか?
さっきも話し掛けられていたのだが、必死だった海斗は漸く頭がはっきりとして理解したのだった。
ただでさえ、犬の背中に乗るなんて思いもよらなかった。自分の家の犬達でも背中に乗ることは叶わないだろう。まさか自分が犬に乗ることになるとは……。
「カイトだろ? 俺はジェイク。よろしくね」
「なっ……」
ジェイクの言葉に開いた口が塞がらなくなった。本当に喋っている。いや、城の中でも喋る動物を見てはいたが……。
「俺は味方だから心配しないでいいよ。ユウキが待ってる」
ジェイクはそう続けた。『ユウキ』の名前に海斗はぴくりと反応した。
「優希?」
「そうだよ。さぁ、行こう」
そう言ってジェイクは海斗を背中に乗せたまま、ゆっくり森の中を歩き始めた。
兵士の声が響き渡っていた。
城中の兵士が一斉に城の外へと飛び出していく。動物、兵士、そして黒い大きな馬に乗ったジャック。
「逃がしませんよ、子犬くん」
ジャックはにやりとすると、馬を鞭で打ちつけた。
「カイト……」
その様子をエリスは狭い部屋の中の小さな窓からじっと見下ろしていた。
海斗を逃がしたことがバレてしまい、ジャックによって城の最上階にある牢屋の中に閉じ込められたのだ。
「絶対に捕まらないで……」
きっと大丈夫だと心に思いながらも、エリスは不安な気持ちでいっぱいになっていた。
☆☆☆
「くっっ……」
暗闇の中、物凄いスピードでどんどん下っているのは分かった。しかし、どこまで続いているのか一向に出口が見えない。中は丸い空洞のようになっており、海斗にとっては少し狭いようだった。頭を打たないよう、寝転がった状態で滑ってはいるが、真っすぐではなく、ぐにゃぐにゃと曲がっているようで、時々体を打ち付けながらもスピードは落ちることなく下っている。
(出口はどこだ?)
時間が長く感じてしまう。一体どれだけの長さがあるのか――。
そう思った瞬間、突然前の方が明るくなってきた。
(出口か?)
思わず足に力を入れる。出口を抜けた瞬間の衝撃を避けるためだ。
少しだけスピードが落ちたが、目の前が明るくなった途端、海斗はそのまま転がるように出口から飛び出してしまった。慌てて頭を手でガードする。
「いてっ……」
ごろごろと体が横に転がった。そして周りにある枯れ葉が体に付く。
体を起こし、ふと今出てきた方を見る。山のような丘のような所にまるで小さめの土管を埋めたような出口が見えた。
あそこから出たのか、と考えつつ、再び先程感じた不安が蘇る。
出口をじっと見つめるが、エリスが来る様子はなかった。
やはりあの場に残ったのだ。自分を助ける為に。
海斗はぎゅっと唇を噛み締めると、エリスの言葉を思い出していた。
ハッとして振り返る。前方に森が見える。距離はおよそ300メートル程。
「エリス……」
ぼそりと呟く。エリスのことが心配ではあるが、助けてくれた行為を無駄にはしたくない。
海斗は拳を握り締め、ゆっくりと立ち上がる。そして森に向かって走り出した。
しかし、先程まで土管の中のような所を下っていた際に、自分が思う以上に体に力が入っていたのか上手く足が動かない。走っているはずなのに足がもつれてちっとも前に進まない。
(動けっ!)
必死に足を動かす――と、その時、何かの足音が聞こえてきた。動物? 人?
どこからか沢山の足音が聞こえる。
(まさか……)
走りながら海斗はさぁっと青ざめる。もう見つかってしまったのかもしれない。
あの足音は恐らく城からの追手だろう。そう思ったら余計に足が絡まりそうになっていた。
(ダメだっ)
捕まるわけにはいかない。エリスの為にも。
あと200メートル。なぜこんなに走れないのか。時間がゆっくりと感じられた。
そして、今度は馬の蹄の音が聞こえてきた。結構近くだ。
エリスの言葉通り、海斗は振り返ることなく走り続ける。しかし上手く足が動かない。普段ならとっくに着いているはずの距離がまだまだ先に見える。
嫌な汗が流れる。一瞬諦めかけたその時、すぐ近くで再び何かの足音が聞こえた。
動物の走る音だ。
(もうダメだ……)
あと少しなのに――そう思った時、すぐ横から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「おいっ! カイトっ!」
驚いて横を見ると、白い大きな犬が自分と並走していた。
(犬っ!?)
思った以上にでかい。虎かライオンくらいあるだろうか。いやもっと大きいかもしれない。本当にこれは犬なのか? そしてさっき名前を呼んだのは誰なのか?
「お前カイトだろう? 俺に乗れっ」
走りながら唖然としている海斗をよそに、白い大きな犬、ジェイクが声を掛けた。
ジェイクのことは初めて見たのだが、自分の名前を知っていることを信じ、海斗は必死にジェイクに掴まった。なんとか背中に跨ることができた。しかし、掴まるだけで精一杯の状態で、海斗は体を倒した状態のまま、ぎゅっとジェイクの首にしがみつく。
「行くぞっ」
そう言ってジェイクが走るスピードを一気に上げた。その瞬間、すぐ後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。先程聞こえた音だ。すぐ後ろに迫っている。しかし森は目の前だ。
ジェイクは追いつかれないよう、更にスピードを上げ、跳ぶようにして走る。
そして、そのまま森の中へと大きく跳んだ。
すぐ後ろに迫ったジャックが手を伸ばす――。
ガサガサッと落ち葉が擦れる音と共に、ジェイクがぴたりと立ち止まった。
海斗はゆっくりと体を起こす。森の入り口の前で、大きな黒い馬に乗ったジャックがこちらを睨みつけている。どうやら森の中には入れないようだった。悔しそうに歯ぎしりをしている。
「…………」
海斗はその様子を呆然と見ていた。すると、
「間に合って良かったよ」
ふと下から声がした。
「っ!?」
海斗は驚いて見下ろす。白い大きな犬がこちらを見ている。
――まさか、この犬が喋ったのか?
さっきも話し掛けられていたのだが、必死だった海斗は漸く頭がはっきりとして理解したのだった。
ただでさえ、犬の背中に乗るなんて思いもよらなかった。自分の家の犬達でも背中に乗ることは叶わないだろう。まさか自分が犬に乗ることになるとは……。
「カイトだろ? 俺はジェイク。よろしくね」
「なっ……」
ジェイクの言葉に開いた口が塞がらなくなった。本当に喋っている。いや、城の中でも喋る動物を見てはいたが……。
「俺は味方だから心配しないでいいよ。ユウキが待ってる」
ジェイクはそう続けた。『ユウキ』の名前に海斗はぴくりと反応した。
「優希?」
「そうだよ。さぁ、行こう」
そう言ってジェイクは海斗を背中に乗せたまま、ゆっくり森の中を歩き始めた。
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