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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第41話
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「もうすぐ森に着くぞ」
アリスと優希が話していたところにグスターヴァルが突然声を掛けてきた。
森というのは、恐らくセバスチャン達がいる森のことだろう。あそこ以外にはほぼ森はなくなったという話だった。
「うん、分かった。ありがとう」
優希はグスターヴァルにお礼を言うと、そっと地上の方を見下ろした。
少し先にうっすらと森が見えてきていた。
「僕の話はこれでおしまいっ」
すると突然アリスが話を終わらせてしまった。まだ途中のような気がしていたのだが、先程の様子を見ていた優希はそれ以上聞くことができなかった。
☆☆☆
グスターヴァルがゆっくりと高度を落としているのが分かった。優希達に負担が掛からないようにできるだけ遠い位置から高度を少しずつ落としているようだった。魔法が掛けられているとはいえ、とても気を遣ってくれているようだ。
あんなに恐ろしかったグスターヴァルが今では愛おしく感じてしまう。
「地上に下りる」
そう言ってグスターヴァルは更に高度を下げていく。いつの間にかすぐ近くまで地上が近付いていた。
「森だっ」
アリスが前方に森を確認して叫んでいた。やっと帰ってきた。時間にすると数時間程であったが、もう何日も経っているような気さえしてくる。
再び家に帰って来たかのような安心感を感じていた。
グスターヴァルは森の目の前にゆっくりと着地した。そして体を屈め、優希達を振り返った。
「下りられるか?」
大きな瞳でじっと優希を見つめている。顔は相変わらず怖いがまるで紳士のようだ。
「うん、大丈夫だと思う……」
そう言ってそーっと立とうとすると、グスターヴァルの背中の上で足を崩していたとはいえ、座りっぱなしだった優希はよろりと倒れそうになる。慌ててアリスが支えてくれた。
「ご、ごめっ」
足がじんわりと痺れているようだった。
「大丈夫?」
アリスは平気なのか、特に痛そうな様子はない。
「ふむ……アリス、先に行ってあの獣たちを呼んできてくれないか?」
グスターヴァルは何か考えるようにすると、アリスに向かって声を掛ける。
「分かった」
アリスはそう返事をすると、一旦優希を座らせ、グスターヴァルの背中からぴょんと軽く飛び下りた。なんとも元気そうである。
そしてそのまま森の中へと走っていった。
「うぅっ……グスターヴァル、ごめん」
なんとなく謝ってしまう優希であった。
「ふん、謝る必要はない。アリスがあの獣たちを連れてきたら背中に乗せてもらえ。私では森の中までは運ぶことができないからな」
本当に見た目に反して優しくて紳士だよな、と思わず惚れてしまいそうになっていた。
グスターヴァルが人間ではなくて良かったとさえ思えてきていた。
少ししてアリスを乗せたジェイクと、ライアンがこちらに走ってくるのが見えた。
西の森の岩山から結構距離があった筈なのに、2匹は既に森に帰っていたようだ。さすが動物。移動も速い。
「ユウキっ!」
ジェイクが叫んでいる。ふたり共すっかりグスターヴァルに対する恐怖心はなくなっているようだった。
「来たな……」
そう言うと、グスターヴァルはぐるっと首をこちらに向けてきた。
「っ!?」
さすがに目の前にグスターヴァルの顔が近付き、思わずびくりと体が強張ってしまった。エーテルの剣を両手で掴んだまま体が固まる。
大丈夫になったとはいえ、迫力がありすぎる。
――と思ったのもつかの間、突然優希の体をグスターヴァルがぱくんと咥えたのだった。
そのままふわりと体が浮く。
「うっ、うわっ!」
痛くはないが、腰の辺りをグスターヴァルに咥えられ、思わず声を上げる。
「ユウキっ!」
「ユウキっ!」
「ホワイトキャットっ!」
アリスとジェイク、ライアンも同時に声を上げる。食べられるわけではないが、さすがにドラゴンに咥えられて、そこにいた全員が驚きと恐怖で顔を真っ青にさせていた。
しかし、すぐにグスターヴァルは首をぐるりと動かし、呆然としていたライアンの背中の上でそっと口を離し、優希を置いた。
「び、びっくりした……」
ライアンの背中の上でエーテルの剣を握り締めたまま、うつ伏せの状態で優希は冷や汗をかいていた。
「ホワイトキャットは足を痛めているようだから運んでやれ」
グスターヴァルはライアンの頭上からじろりと見下ろし、指示をした。
「わ、分かった」
一瞬びくりと体を震わせたライアンであったが、すぐに顔を上げ、グスターヴァルに答える。
「……では、ホワイトキャット。何かあれば私を呼ぶといい。お前の声はどこにいても私に届く。いつ何時であろうとお前の所に必ず行く。私はお前のものなのだからな」
今度は優希の方に顔を向けると低く、そして落ち着いた声でそう話した。
「……分かった。グスターヴァル、ありがとう」
うつ伏していた優希は上体を起こすと、グスターヴァルを見上げて頷いた。そして満面の笑みでお礼を言った。
「お前が私の主で良かった。ではな」
じっと優希を見つめた後、グスターヴァルはそう言ってゆっくりと羽を広げ飛び立った。
グスターヴァルが飛び立った瞬間、強い風が吹いた。
優希は風圧で飛んでくる砂に当たらないよう腕を顔の前にガードする。そして空を見上げる。ゆっくりと飛び去って行くグスターヴァルの姿が見えた。
「グスターヴァル……」
なんだか切ない気持ちになった優希はグスターヴァルの姿をじっと見つめていたのだった。
アリスと優希が話していたところにグスターヴァルが突然声を掛けてきた。
森というのは、恐らくセバスチャン達がいる森のことだろう。あそこ以外にはほぼ森はなくなったという話だった。
「うん、分かった。ありがとう」
優希はグスターヴァルにお礼を言うと、そっと地上の方を見下ろした。
少し先にうっすらと森が見えてきていた。
「僕の話はこれでおしまいっ」
すると突然アリスが話を終わらせてしまった。まだ途中のような気がしていたのだが、先程の様子を見ていた優希はそれ以上聞くことができなかった。
☆☆☆
グスターヴァルがゆっくりと高度を落としているのが分かった。優希達に負担が掛からないようにできるだけ遠い位置から高度を少しずつ落としているようだった。魔法が掛けられているとはいえ、とても気を遣ってくれているようだ。
あんなに恐ろしかったグスターヴァルが今では愛おしく感じてしまう。
「地上に下りる」
そう言ってグスターヴァルは更に高度を下げていく。いつの間にかすぐ近くまで地上が近付いていた。
「森だっ」
アリスが前方に森を確認して叫んでいた。やっと帰ってきた。時間にすると数時間程であったが、もう何日も経っているような気さえしてくる。
再び家に帰って来たかのような安心感を感じていた。
グスターヴァルは森の目の前にゆっくりと着地した。そして体を屈め、優希達を振り返った。
「下りられるか?」
大きな瞳でじっと優希を見つめている。顔は相変わらず怖いがまるで紳士のようだ。
「うん、大丈夫だと思う……」
そう言ってそーっと立とうとすると、グスターヴァルの背中の上で足を崩していたとはいえ、座りっぱなしだった優希はよろりと倒れそうになる。慌ててアリスが支えてくれた。
「ご、ごめっ」
足がじんわりと痺れているようだった。
「大丈夫?」
アリスは平気なのか、特に痛そうな様子はない。
「ふむ……アリス、先に行ってあの獣たちを呼んできてくれないか?」
グスターヴァルは何か考えるようにすると、アリスに向かって声を掛ける。
「分かった」
アリスはそう返事をすると、一旦優希を座らせ、グスターヴァルの背中からぴょんと軽く飛び下りた。なんとも元気そうである。
そしてそのまま森の中へと走っていった。
「うぅっ……グスターヴァル、ごめん」
なんとなく謝ってしまう優希であった。
「ふん、謝る必要はない。アリスがあの獣たちを連れてきたら背中に乗せてもらえ。私では森の中までは運ぶことができないからな」
本当に見た目に反して優しくて紳士だよな、と思わず惚れてしまいそうになっていた。
グスターヴァルが人間ではなくて良かったとさえ思えてきていた。
少ししてアリスを乗せたジェイクと、ライアンがこちらに走ってくるのが見えた。
西の森の岩山から結構距離があった筈なのに、2匹は既に森に帰っていたようだ。さすが動物。移動も速い。
「ユウキっ!」
ジェイクが叫んでいる。ふたり共すっかりグスターヴァルに対する恐怖心はなくなっているようだった。
「来たな……」
そう言うと、グスターヴァルはぐるっと首をこちらに向けてきた。
「っ!?」
さすがに目の前にグスターヴァルの顔が近付き、思わずびくりと体が強張ってしまった。エーテルの剣を両手で掴んだまま体が固まる。
大丈夫になったとはいえ、迫力がありすぎる。
――と思ったのもつかの間、突然優希の体をグスターヴァルがぱくんと咥えたのだった。
そのままふわりと体が浮く。
「うっ、うわっ!」
痛くはないが、腰の辺りをグスターヴァルに咥えられ、思わず声を上げる。
「ユウキっ!」
「ユウキっ!」
「ホワイトキャットっ!」
アリスとジェイク、ライアンも同時に声を上げる。食べられるわけではないが、さすがにドラゴンに咥えられて、そこにいた全員が驚きと恐怖で顔を真っ青にさせていた。
しかし、すぐにグスターヴァルは首をぐるりと動かし、呆然としていたライアンの背中の上でそっと口を離し、優希を置いた。
「び、びっくりした……」
ライアンの背中の上でエーテルの剣を握り締めたまま、うつ伏せの状態で優希は冷や汗をかいていた。
「ホワイトキャットは足を痛めているようだから運んでやれ」
グスターヴァルはライアンの頭上からじろりと見下ろし、指示をした。
「わ、分かった」
一瞬びくりと体を震わせたライアンであったが、すぐに顔を上げ、グスターヴァルに答える。
「……では、ホワイトキャット。何かあれば私を呼ぶといい。お前の声はどこにいても私に届く。いつ何時であろうとお前の所に必ず行く。私はお前のものなのだからな」
今度は優希の方に顔を向けると低く、そして落ち着いた声でそう話した。
「……分かった。グスターヴァル、ありがとう」
うつ伏していた優希は上体を起こすと、グスターヴァルを見上げて頷いた。そして満面の笑みでお礼を言った。
「お前が私の主で良かった。ではな」
じっと優希を見つめた後、グスターヴァルはそう言ってゆっくりと羽を広げ飛び立った。
グスターヴァルが飛び立った瞬間、強い風が吹いた。
優希は風圧で飛んでくる砂に当たらないよう腕を顔の前にガードする。そして空を見上げる。ゆっくりと飛び去って行くグスターヴァルの姿が見えた。
「グスターヴァル……」
なんだか切ない気持ちになった優希はグスターヴァルの姿をじっと見つめていたのだった。
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