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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第40話

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 アリスの話に愕然とする。兄弟が、双子の兄弟なのに、殺そうとした?
「そんな……」
 辛そうな顔でぼそりと呟く優希には気が付かず、アリスは話を続けた。
「でも、ルイが、ルイが僕を助けてくれた。あの時、僕もルイも城にいなかったんだけど、ふたりとも魔女に操られた兵士に捕らえられて。魔女の前に連れてこられたんだ。あの場にエリスもいた……。エリスの前で、魔女は僕に向かって言ったんだ。『お前の弟は、お前が邪魔なんだそうだ』って」
 そう言ってぎゅっと右手を握り締める。爪が手の平に食い込んでじわりと赤くなっていた。その横で、優希は何も言葉が出ず、じっとアリスを見つめることしかできなかった。
「ほんとに驚いたよ。僕はずっとエリスのことが大好きだったし、エリスもそうだと思ってたから……。でも、違ったんだ。僕のことが邪魔だから、魔女に頼んで殺そうとしたんだ……。その後、僕は呆然としてしまって、魔女が僕に向かって何か魔法をかけようとしていることに気が付かなかった。でも……一緒に捕らえられていたルイが、兵士を振り切って僕と魔女の間に立ちはだかったんだ……。魔女の魔法を受けたルイは小さな猫の置物に変わってしまった……。僕も、その時の魔法が少しだけかかって、今のこの姿に変わったんだ」
 先程までの怒りはなくなり、アリスの目には涙が溜まっていた。
 アリスが完全な動物ではなかった理由――本当は知らなかったんじゃない、言えなかったんだ……。でも、猫の置物? 
 ふと何かが引っかかった気がした。
 首を傾げる優希には気が付かず、アリスが続ける。
「猫の置物に変えられたルイは、魔女が鏡を使って、人間の世界、ユウキ達がいた世界に追放したんだ。ルイは、僕のせいで……。でも、ユウキの話を聞いて、無事だって分かって、本当に嬉しかった。ルイは、ちゃんと生きてた……」
 アリスは話しながら涙を流していた。悔しさと悲しさ、そして嬉しさが入り混じっている。
(猫の置物……あっ!)
 優希の中で先程引っかかっていた何かが頭に浮かび上がった。瑠依の店の中で見た、あの猫の置物だ。
(そっか、あの猫の置物が……じゃあ、瑠依さんはやっぱりルイさんではない?)
 しかし、自分の考えたことに蓋をした。
 もし、瑠依=ルイではなかった場合、あの猫の置物がアリスの言う『ルイ』ということになってしまう。そうなると、アリスはまた悲しんでしまう……。
 瑠依が王子とは思えないが、きっとそうなんだと思い込むことにした。
「……魔女はその後も魔法を掛けて、ワンダーランドにいる住人が、兵士以外全員が動物に変えられた。城の住人も、魔女に逆らうものは全員……」
「え? でも、アリスもエリスも変わらなかったんだよね? それにアリスはどうして助かったの? 瑠依さんが助けてくれたとはいっても……」
 アリスの話にふと疑問を抱いた。エリスの姿。そして、先程魔女はアリスを殺そうとしてたと言っていたのに。
「……たぶん、エリスは魔女と取り引きしてたから。僕は……一度魔法に掛かっていたからかもしれない。でも、本当のところは分からない。……それから、僕がこうして生きているのは、犬に変えられたジェイクが助けてくれたんだ」
 優希の言葉に何か傷ついたような表情をしたアリスだったが、ぽつりぽつりと答えていった。
「え? ジェイクが?」
 驚いて声を上げる。そしてすぐにアリスが話を続けた。
「うん、ジェイクは僕たちが捕まったところを見ていたみたいで、ずっと後をつけてきてたんだって。魔女が最初に魔法を掛けた時、ジェイクも僕を助けようとしたけど、体が動かなかったって言って謝ってた。ジェイクのせいじゃないのにね……。でも、僕が危ないのは変わらないって思って、魔女が次の魔法を掛けた瞬間、自分は犬になってしまったのに、飛び出してきて、僕を背中に乗せて城から逃げたんだ。……追いかけられなかったところをみると、僕を殺すことはやめたみたい。魔女にとっては、邪魔なルイの存在をなくせて満足だったんだろうね」
「そんな……」
 アリスが助かったことは喜ばしいことだけど、瑠依のことを思うと優希は切なくなっていた。瑠依は本当にルイなのだろうか。それとも別人なのか。
「ルイは僕とエリスのせいで……ほんと酷い話だよね。でも、無事なら良かった。こんなワンダーランドにいるよりもきっと幸せでいると思うし」
「…………」
 どんな思いで話しているのか想像できず、優希は声を掛けることができなかった。
「あ、あとね。言い忘れてたんだけど、アンおばさん達も城の使用人だったんだ」
「えっ?」
 先程までとは一転、笑顔を取り戻すとアリスが優希の方を見て思い出したように話した。そして優希はアリスの話に驚いて声を上げる。ずっと4人は家族なんだと思っていた。いや、使用人というだけで家族なのかもしれないが。
「アンおばさんとダニーおじさんは夫婦なんだけど、アンおばさんがメイド頭で、ダニーおじさんは料理人。トムはフットマンだったんだ。……キティは、実は王女なんだ。ルイの妹なんだよ。本当はキャサリンっていう名前なんだ。キティは愛称」
「ええっ!」
 アン達が城の使用人だったことも驚きだったが、あそこにいたリスの1匹に王女がいたとは……。優希は開いた口が塞がらなくなっていた。
「ふふっ、驚きすぎだよ、ユウキ。ルイと友達なんだから気にすることないよ。キティは僕も友達なんだ。よく城で一緒に遊んだよ。……キティ達はね、セバスチャンが助けてくれたんだ。セバスチャンと、イーサンが……」
 笑顔で話していたアリスは再び暗い顔になってしまった。『イーサン』という初めて聞く名前とアリスの様子に、優希は心配そうにじっと見つめていた。
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