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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第39話
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呆然とドラゴンが去った空を眺めている横で、ゆっくりとエリスが立ち上がった。
恐怖と驚きでしゃがみ込んだままだったが、海斗が叫んだ名前の主、『ユウキ』の姿をエリスも目撃していた。そしてじっと空を見ている海斗を見上げた。
「さっきの……もしかして、カイトの恋人?」
先程の海斗との会話から恋人はいないと思っていたのだが、全て見ていたエリスは、海斗が『ユウキ』と呼んでいたあの人間が、海斗の恋人ではないかと思ったのだった。
「あぁ……そうだよ。俺の大事な……俺の天使だ。まさか、優希もここに来てたなんて……」
海斗は空を見上げたまま呟くようにして答える。そして、今この世界に優希が来ていることを再び確信し、胸が熱くなっていた。
「……『テンシ』?」
エリスはきょとんと首を傾げる。ワンダーランドでは『天使』という存在はない。なんのことを言っているのかと不思議そうに問い掛けた。
「あ? あぁ。いや、俺の最愛の人だよ」
ふとエリスを見下ろし、なぜ首を傾げているのかと疑問に思った海斗だったが、この世界に天使はいないのか、と考え、柔らかく笑うとそう答えたのだった。
「そうなんだ……カイト、恋人いたんだね」
自分が落ち込む必要なんてないのに、なぜだか気持ちが沈んでしまう。『好き』とかそういう気持ちではない。どちらかと言うと『同士』に近い感情かもしれない。
エリスはなんとなく寂しさを感じていた。
「どうかしたのか? お前もいるんだろ? 恋人」
「はっ!? いないよっ、なんで!?」
俯いてしまったエリスの様子を不思議そうに見ていた海斗はふと問い掛けた。
しかし、すぐにバッと顔を上げ、真っ赤な顔で反論するエリス。驚いた顔をしている。
「そうなのか? 俺の勘だけど、エリスの恋人、俺に似てるだろ?」
「はっ? 似てないよっ!」
「ふっ、やっぱりいるんじゃないか」
にやりと口の端を上げながら問い掛ける海斗に、今度は不機嫌な顔でエリスが反論する。しかし、その返答で再び海斗が柔らかく微笑んだ。
「っ!? ち、違うってっ! こ、恋人じゃないっ! そんな……あの人は、俺のことなんてなんとも思ってない。他に好きな人がいるんだから……」
真っ赤な顔で声を上げたエリスだったが、自分で話しながら段々と悲しくなり俯いてしまった。
「……そうか。悪かった」
落ち込むエリスを見て、申し訳なさそうに海斗が謝る。そしてエリスの頭をそっと撫でる。海斗は二人兄弟の弟だったが、エリスといると、まるで弟ができたような気持ちになっていたのだった。優希とは違う感情をエリスに向けていた。
「べ、別にっ! てか、触らないでってばっ」
かぁっと顔を赤らめ顔を上げると、エリスは慌てて海斗の手を払い除ける。
しかし次の瞬間、海斗を見つめたまま突然真面目な顔になり、黙り込んでしまった。
「どうした?」
首を傾げながらエリスを覗き込むようにして見る。こんな真剣な顔のエリスを見るのは初めてだった。
「……カイト、恋人のそばに行きたいよね……会いたいよね?」
エリスは真剣な表情のまま、じっと海斗を見つめ、問い掛ける。
「……エリス。…………そうだな。会いたい」
一瞬驚いた顔をしてエリスを見下ろす。しかし先程の優希の姿を思い出し、正直に答えたのだった。
「分かった。俺が、ふたりを会わせてあげる。カイトを逃がしてあげる」
海斗の答えを聞くと何かを決意したようにエリスが答える。
「えっ? 逃がすって、どうやって……」
言われた言葉に唖然とした。ずっと考えていたことだったが、まさかエリスが逃がしてくれる? しかし、どうやって。海斗の頭の中を色々な考えが巡っていた。
「秘密の抜け道があるんだ」
☆☆☆
一方その頃、優希はアリスの言葉に愕然としていた。裏切った?
「どういうこと? だって、アリスの兄弟なんでしょ?」
動揺しながらもアリスを窺うように尋ねる。
「……あいつがパンドラの箱を開けたんだ」
「パンドラの箱?」
アリスは睨み付けるようにじっと前を見ながらぼそりと話し始めた。
「1年前まで、ワンダーランドは本当に美しい所だったんだ。でも、エリスが、決して触れてはいけないパンドラの箱を開けたんだ……。僕たちはいつも城の中で遊んでいて。ルイ、あ、ルイは王子なんだ。今は魔女のせいで人間の世界に行ってるけど」
アリスの話に更に優希は驚愕した。『瑠依が王子?』と思わず目を丸くしていた。
「あの日、エリスは城で留守番をしていたのだけど、『秘密の部屋』と言われる場所を見つけ出して、触れてはならない『パンドラの箱』も見つけたんだ。そして開けてしまった……。ワンダーランドでは、ホワイトキャットの伝説と、もう1つ言い伝えがあったんだ。『パンドラの箱が開くとき、ワンダーランドに闇が訪れる』」
そしてアリスは真剣な表情で話を続ける。
「言い伝えの通り、パンドラの箱を開けてしまって魔女が現れた。……魔女は何百年も前にルイのご先祖様が封印していたんだ。悪さをして、罰として。でも、封印された魔女は開放されることなく、何年も何十年も経って、封印したルイの先祖、そして王族自体を呪うようになったっていう話。だからその封印された箱は決して開けてはならないと、城の中にある、誰にも見つからない秘密の部屋に隠したんだ」
「その、秘密の部屋はどうしてエリスは見つけられたの?」
話の中で不思議に思った優希が口を挟んだ。
「秘密の部屋への入り口が、ルイの部屋にあったんだ。誰にも見つからないように隠されていたその入り口を見つけたエリスが中に入ったんだ。ルイにも内緒で」
アリスは優希の方を見ると、悔しそうな表情で答える。
「そうだったんだ……」
優希はなんとも言えない表情で俯いてしまう。
「あいつが箱を開けたせいで、魔女が現れて城を乗っ取った。でも、エリスは魔女と取り引きしたんだ」
悔しそうにぎゅっと唇を噛んでいる。
「アリス……取り引きって……」
優希はそんなアリスの様子を心配そうに見つめながら尋ねる。
「魔女の使いになる代わりに、僕を殺そうとしたんだ」
恐怖と驚きでしゃがみ込んだままだったが、海斗が叫んだ名前の主、『ユウキ』の姿をエリスも目撃していた。そしてじっと空を見ている海斗を見上げた。
「さっきの……もしかして、カイトの恋人?」
先程の海斗との会話から恋人はいないと思っていたのだが、全て見ていたエリスは、海斗が『ユウキ』と呼んでいたあの人間が、海斗の恋人ではないかと思ったのだった。
「あぁ……そうだよ。俺の大事な……俺の天使だ。まさか、優希もここに来てたなんて……」
海斗は空を見上げたまま呟くようにして答える。そして、今この世界に優希が来ていることを再び確信し、胸が熱くなっていた。
「……『テンシ』?」
エリスはきょとんと首を傾げる。ワンダーランドでは『天使』という存在はない。なんのことを言っているのかと不思議そうに問い掛けた。
「あ? あぁ。いや、俺の最愛の人だよ」
ふとエリスを見下ろし、なぜ首を傾げているのかと疑問に思った海斗だったが、この世界に天使はいないのか、と考え、柔らかく笑うとそう答えたのだった。
「そうなんだ……カイト、恋人いたんだね」
自分が落ち込む必要なんてないのに、なぜだか気持ちが沈んでしまう。『好き』とかそういう気持ちではない。どちらかと言うと『同士』に近い感情かもしれない。
エリスはなんとなく寂しさを感じていた。
「どうかしたのか? お前もいるんだろ? 恋人」
「はっ!? いないよっ、なんで!?」
俯いてしまったエリスの様子を不思議そうに見ていた海斗はふと問い掛けた。
しかし、すぐにバッと顔を上げ、真っ赤な顔で反論するエリス。驚いた顔をしている。
「そうなのか? 俺の勘だけど、エリスの恋人、俺に似てるだろ?」
「はっ? 似てないよっ!」
「ふっ、やっぱりいるんじゃないか」
にやりと口の端を上げながら問い掛ける海斗に、今度は不機嫌な顔でエリスが反論する。しかし、その返答で再び海斗が柔らかく微笑んだ。
「っ!? ち、違うってっ! こ、恋人じゃないっ! そんな……あの人は、俺のことなんてなんとも思ってない。他に好きな人がいるんだから……」
真っ赤な顔で声を上げたエリスだったが、自分で話しながら段々と悲しくなり俯いてしまった。
「……そうか。悪かった」
落ち込むエリスを見て、申し訳なさそうに海斗が謝る。そしてエリスの頭をそっと撫でる。海斗は二人兄弟の弟だったが、エリスといると、まるで弟ができたような気持ちになっていたのだった。優希とは違う感情をエリスに向けていた。
「べ、別にっ! てか、触らないでってばっ」
かぁっと顔を赤らめ顔を上げると、エリスは慌てて海斗の手を払い除ける。
しかし次の瞬間、海斗を見つめたまま突然真面目な顔になり、黙り込んでしまった。
「どうした?」
首を傾げながらエリスを覗き込むようにして見る。こんな真剣な顔のエリスを見るのは初めてだった。
「……カイト、恋人のそばに行きたいよね……会いたいよね?」
エリスは真剣な表情のまま、じっと海斗を見つめ、問い掛ける。
「……エリス。…………そうだな。会いたい」
一瞬驚いた顔をしてエリスを見下ろす。しかし先程の優希の姿を思い出し、正直に答えたのだった。
「分かった。俺が、ふたりを会わせてあげる。カイトを逃がしてあげる」
海斗の答えを聞くと何かを決意したようにエリスが答える。
「えっ? 逃がすって、どうやって……」
言われた言葉に唖然とした。ずっと考えていたことだったが、まさかエリスが逃がしてくれる? しかし、どうやって。海斗の頭の中を色々な考えが巡っていた。
「秘密の抜け道があるんだ」
☆☆☆
一方その頃、優希はアリスの言葉に愕然としていた。裏切った?
「どういうこと? だって、アリスの兄弟なんでしょ?」
動揺しながらもアリスを窺うように尋ねる。
「……あいつがパンドラの箱を開けたんだ」
「パンドラの箱?」
アリスは睨み付けるようにじっと前を見ながらぼそりと話し始めた。
「1年前まで、ワンダーランドは本当に美しい所だったんだ。でも、エリスが、決して触れてはいけないパンドラの箱を開けたんだ……。僕たちはいつも城の中で遊んでいて。ルイ、あ、ルイは王子なんだ。今は魔女のせいで人間の世界に行ってるけど」
アリスの話に更に優希は驚愕した。『瑠依が王子?』と思わず目を丸くしていた。
「あの日、エリスは城で留守番をしていたのだけど、『秘密の部屋』と言われる場所を見つけ出して、触れてはならない『パンドラの箱』も見つけたんだ。そして開けてしまった……。ワンダーランドでは、ホワイトキャットの伝説と、もう1つ言い伝えがあったんだ。『パンドラの箱が開くとき、ワンダーランドに闇が訪れる』」
そしてアリスは真剣な表情で話を続ける。
「言い伝えの通り、パンドラの箱を開けてしまって魔女が現れた。……魔女は何百年も前にルイのご先祖様が封印していたんだ。悪さをして、罰として。でも、封印された魔女は開放されることなく、何年も何十年も経って、封印したルイの先祖、そして王族自体を呪うようになったっていう話。だからその封印された箱は決して開けてはならないと、城の中にある、誰にも見つからない秘密の部屋に隠したんだ」
「その、秘密の部屋はどうしてエリスは見つけられたの?」
話の中で不思議に思った優希が口を挟んだ。
「秘密の部屋への入り口が、ルイの部屋にあったんだ。誰にも見つからないように隠されていたその入り口を見つけたエリスが中に入ったんだ。ルイにも内緒で」
アリスは優希の方を見ると、悔しそうな表情で答える。
「そうだったんだ……」
優希はなんとも言えない表情で俯いてしまう。
「あいつが箱を開けたせいで、魔女が現れて城を乗っ取った。でも、エリスは魔女と取り引きしたんだ」
悔しそうにぎゅっと唇を噛んでいる。
「アリス……取り引きって……」
優希はそんなアリスの様子を心配そうに見つめながら尋ねる。
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