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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第38話
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時は海斗と再会する10分程前のこと。
グスターヴァルの背中に乗って、海斗がいるという場所に向かっていた優希とアリス。
「ユウキ、いつの間にか人間の姿に戻ったっていうか、耳と尻尾なくなっちゃったね」
突然アリスが思い出したように話し出した。
「え?」
必死になっていて全く気が付いていなかった。そっと頭に触れてみるが確かにふわりとした感触がなくなっている。
「ほんとだ……いつ消えたんだろ?」
「ふむ、確かに頭に動物の耳があったような気がするな。だが私がお前に話をした時には普通の人間だったぞ」
ふたりの話を聞いていたのか、グスターヴァルが優希の疑問に答える。
もしかしたら、『メタトロンの鏡』が光った時に、ライアンを人の姿に戻したように、自分も元の姿に戻ったのだろうか? と優希は考えながら、戻ることができてほっとしていた。
そしてふと気になることがあり、グスターヴァルに問い掛ける。
「そういえばグスターヴァル、海斗がいる場所は分かるの?」
お願いしたものの、一体どこに連れて行ってくれるのか見当もつかなかったのだ。
「あぁ、分かっている。魔女がいる城の中だ」
「魔女の城っ!?」
グスターヴァルが答える。そしてその答えにぎょっとしてしまう。
捕まっているのだから魔女の近くにいることは分かっていたことだが、いざ『魔女の城』と聞くと恐ろしくなってしまった。
「そうだ。助けると言っただろう? ただし、行ったからといって、助けられるとは限らないぞ。恐らくお前の大事な人はその城の中に捕まっているだろうからな」
「そうだよね……。せめて、姿だけでも見られれば……」
優希はグスターヴァルの話を聞いて肩を落としていた。思わず勢いで来てしまったが、簡単に海斗を助けることなど叶わないだろう。グスターヴァルがいる為、強気になってはいたが、魔女が海斗を人質にしてしまったら、こちらは何も手出しができない。その前に海斗を殺されてしまうかもしれない。再び優希の目に涙が溜まる。
「ユウキ……」
じっと黙って見つめていたアリスがそっと優希の背中をさすった。
「ごめっ、大丈夫っ」
優希は手で目をごしごしと拭き、再び前を見つめる。
何かひとつでも手掛かりが掴めれば。なんとかして海斗を助けたい、そう心に決意していた。
「もうすぐ魔女の城だ」
それから数分後、グスターヴァルが優希達に向かって声を掛ける。
優希はグスターヴァルの背中の上から恐る恐る地上を見下ろした。
最初に言われた通り、背中に乗っていても風を感じることもなく、振動もない。周りに空や雲が見えるだけで怖い思いは一切なかった。魔法か何かなのだろうか?
ずっと快適な空の旅……ではなく、飛行を続けていたが、さすがに下を見下ろすのはぞっとする。尋常ではない高さなのだ。ここから落ちたら間違いなく助からないだろう……。
「あ……」
隣でアリスが何かを発見したようだ。少し先に暗く鬱蒼とした森の中に黒い何か大きな建物のような物が見える。あれが魔女の城なのだろうか?
森が近付き、そして少しずつ城の全貌が見えてきた。黒く大きな城の天辺には何か尖ったものが付いているのが見えた。何かを突き刺すような、あれは一体なんなのか。
「気持ち悪い城……」
思わずぼそりと呟いた。
「前はあんなじゃなかったんだけどね……」
すると横でアリスもぼそりと呟いている。アリスは城を知っているようだった。
魔女が現れてから建てられたものではないようだ。
「少し近付くぞ」
そう言ってグスターヴァルが少しずつ高度を下げる。城がどんどん近付いてくる。
すると、城の端の方に広く平らな場所があることが確認できた。白いものがちらりと見え、優希はなんとなしにそちらをじっと見つめた。
少しずつ、そしてはっきりと光景が見えてくる。その場所に誰かがいる。ふたりいるようだ。もし、城の兵士だとしたら見つかってしまったら大変である。
しかし、なぜだか物凄く胸がざわざわとして、優希はじっとその人物達を見つめた。
「っ!?」
そしてグスターヴァルが城を通り過ぎる瞬間、優希は見つけた。海斗の姿を。
「海斗……海斗だっ! あそこに海斗がいるっ! グスターヴァル、戻ってっ!」
通り過ぎた後、呟くように話し始めた優希は、ハッとしてグスターヴァルに向かって大声で叫んだ。
そこにいたのは海斗だったのだ。
「御意」
グスターヴァルが優希の声に答え、くるりと体を旋回させた。
再び城の上に向かう。
優希は力一杯に叫ぶ。
「海斗っ!」
気が付いてほしい、海斗への想いと、そして嬉しさで胸が一杯になる。
するとその声に気が付いたのか、城の屋上に立っていた海斗がグスターヴァルの方を見た。
そしてもう一度叫ぶ。
「海斗っ!」
叫んだすぐ後で、海斗の声が聞こえた。
「優希っ!!」
気が付いてくれた。海斗が、自分を。優希は再び涙が溢れてくる。今度は悲しい涙ではない、嬉しい涙だった。
「グスターヴァル、お願い、もう1回っ、もう少し近付いてっ」
「ふむ。やってみるが、あそこに近付くのは難しい。私の体が大きすぎて近付きすぎると城を壊しかねない」
「分かった……もう少しだけでいいから」
「承知した」
再びグスターヴァルが旋回する。海斗を助けたい。なんとかして――。
そして海斗に近付く。
「優希っ!」
海斗が叫んで手を伸ばしている。その手を掴みたい。優希も必死に手を伸ばす。
「海斗っ!」
しかし、ふたりの手は届かない。必死に伸ばしてもグスターヴァルの腹にも届かないのだ。これ以上近付けば城に接触してしまう。
「悪いがもう無理だ。出直すぞ」
「……分かった。でも、もう一度だけ、海斗に近付いて。ちゃんと伝えたい……」
優希は溢れる涙を拭きながらグスターヴァルに話した。
「……御意」
そう言ってグスターヴァルが最後の旋回をする。再び海斗に近付く。そして、通り過ぎる瞬間に優希が力一杯叫んだ。手を伸ばしながら。
「海斗っ! 待っててっ! 絶対に助けるからっ!」
涙がどんどん溢れてくる。嬉しさと悔しさと、やっと会えた喜びと。色んな思いが優希の中を駆け巡る。涙を拭うことなく、海斗に向かって叫んでいた。
見つけた。やっと会えた。無事だった……。優希は涙が止まらなかった。海斗への想いがどんどん溢れてくる。怖い思いも不安な思いもあった。でも、海斗に会えた。今はそれだけで十分だった。
☆☆☆
グスターヴァルはゆっくりと羽ばたいていた。優希が落ち着くまでアリスも黙って横に座っている。
「ごめんね、もう大丈夫……海斗、やっと会えた」
ショルダーバッグの中からハンカチを取り出すと、優希は涙を拭って笑顔を作った。
「うん。良かったね」
アリスもにこりと微笑する。
「そういえば、さっき海斗と一緒に男の子がいた気がする。しゃがんでてはっきりとは見えなかったけど、可愛い感じの……」
涙がおさまり、ハンカチをしまうと、優希は先程のことを思い出すようにして話した。
「あれはエリスだよ。僕の兄弟。言ったでしょ、双子の兄弟がいるって」
アリスは無表情に優希の言葉に答えた。一体何を思っているのか、表情からは読み取れない。
「あ、エリス! そうだったんだ……ってことはエリスも囚われてるってこと?」
そしてアリスの言葉で優希はあの湖で聞いた話を思い出したのだった。しかし、城にいるということは……。
「そうとも言うけど、そうじゃない」
「どういうこと?」
淡々と答えるアリスに優希は首を傾げながら尋ねる。
「あいつは、僕たちを裏切ったんだ……」
無表情の中に、少しだけ強い光を感じる目でアリスが答えたのだった。
グスターヴァルの背中に乗って、海斗がいるという場所に向かっていた優希とアリス。
「ユウキ、いつの間にか人間の姿に戻ったっていうか、耳と尻尾なくなっちゃったね」
突然アリスが思い出したように話し出した。
「え?」
必死になっていて全く気が付いていなかった。そっと頭に触れてみるが確かにふわりとした感触がなくなっている。
「ほんとだ……いつ消えたんだろ?」
「ふむ、確かに頭に動物の耳があったような気がするな。だが私がお前に話をした時には普通の人間だったぞ」
ふたりの話を聞いていたのか、グスターヴァルが優希の疑問に答える。
もしかしたら、『メタトロンの鏡』が光った時に、ライアンを人の姿に戻したように、自分も元の姿に戻ったのだろうか? と優希は考えながら、戻ることができてほっとしていた。
そしてふと気になることがあり、グスターヴァルに問い掛ける。
「そういえばグスターヴァル、海斗がいる場所は分かるの?」
お願いしたものの、一体どこに連れて行ってくれるのか見当もつかなかったのだ。
「あぁ、分かっている。魔女がいる城の中だ」
「魔女の城っ!?」
グスターヴァルが答える。そしてその答えにぎょっとしてしまう。
捕まっているのだから魔女の近くにいることは分かっていたことだが、いざ『魔女の城』と聞くと恐ろしくなってしまった。
「そうだ。助けると言っただろう? ただし、行ったからといって、助けられるとは限らないぞ。恐らくお前の大事な人はその城の中に捕まっているだろうからな」
「そうだよね……。せめて、姿だけでも見られれば……」
優希はグスターヴァルの話を聞いて肩を落としていた。思わず勢いで来てしまったが、簡単に海斗を助けることなど叶わないだろう。グスターヴァルがいる為、強気になってはいたが、魔女が海斗を人質にしてしまったら、こちらは何も手出しができない。その前に海斗を殺されてしまうかもしれない。再び優希の目に涙が溜まる。
「ユウキ……」
じっと黙って見つめていたアリスがそっと優希の背中をさすった。
「ごめっ、大丈夫っ」
優希は手で目をごしごしと拭き、再び前を見つめる。
何かひとつでも手掛かりが掴めれば。なんとかして海斗を助けたい、そう心に決意していた。
「もうすぐ魔女の城だ」
それから数分後、グスターヴァルが優希達に向かって声を掛ける。
優希はグスターヴァルの背中の上から恐る恐る地上を見下ろした。
最初に言われた通り、背中に乗っていても風を感じることもなく、振動もない。周りに空や雲が見えるだけで怖い思いは一切なかった。魔法か何かなのだろうか?
ずっと快適な空の旅……ではなく、飛行を続けていたが、さすがに下を見下ろすのはぞっとする。尋常ではない高さなのだ。ここから落ちたら間違いなく助からないだろう……。
「あ……」
隣でアリスが何かを発見したようだ。少し先に暗く鬱蒼とした森の中に黒い何か大きな建物のような物が見える。あれが魔女の城なのだろうか?
森が近付き、そして少しずつ城の全貌が見えてきた。黒く大きな城の天辺には何か尖ったものが付いているのが見えた。何かを突き刺すような、あれは一体なんなのか。
「気持ち悪い城……」
思わずぼそりと呟いた。
「前はあんなじゃなかったんだけどね……」
すると横でアリスもぼそりと呟いている。アリスは城を知っているようだった。
魔女が現れてから建てられたものではないようだ。
「少し近付くぞ」
そう言ってグスターヴァルが少しずつ高度を下げる。城がどんどん近付いてくる。
すると、城の端の方に広く平らな場所があることが確認できた。白いものがちらりと見え、優希はなんとなしにそちらをじっと見つめた。
少しずつ、そしてはっきりと光景が見えてくる。その場所に誰かがいる。ふたりいるようだ。もし、城の兵士だとしたら見つかってしまったら大変である。
しかし、なぜだか物凄く胸がざわざわとして、優希はじっとその人物達を見つめた。
「っ!?」
そしてグスターヴァルが城を通り過ぎる瞬間、優希は見つけた。海斗の姿を。
「海斗……海斗だっ! あそこに海斗がいるっ! グスターヴァル、戻ってっ!」
通り過ぎた後、呟くように話し始めた優希は、ハッとしてグスターヴァルに向かって大声で叫んだ。
そこにいたのは海斗だったのだ。
「御意」
グスターヴァルが優希の声に答え、くるりと体を旋回させた。
再び城の上に向かう。
優希は力一杯に叫ぶ。
「海斗っ!」
気が付いてほしい、海斗への想いと、そして嬉しさで胸が一杯になる。
するとその声に気が付いたのか、城の屋上に立っていた海斗がグスターヴァルの方を見た。
そしてもう一度叫ぶ。
「海斗っ!」
叫んだすぐ後で、海斗の声が聞こえた。
「優希っ!!」
気が付いてくれた。海斗が、自分を。優希は再び涙が溢れてくる。今度は悲しい涙ではない、嬉しい涙だった。
「グスターヴァル、お願い、もう1回っ、もう少し近付いてっ」
「ふむ。やってみるが、あそこに近付くのは難しい。私の体が大きすぎて近付きすぎると城を壊しかねない」
「分かった……もう少しだけでいいから」
「承知した」
再びグスターヴァルが旋回する。海斗を助けたい。なんとかして――。
そして海斗に近付く。
「優希っ!」
海斗が叫んで手を伸ばしている。その手を掴みたい。優希も必死に手を伸ばす。
「海斗っ!」
しかし、ふたりの手は届かない。必死に伸ばしてもグスターヴァルの腹にも届かないのだ。これ以上近付けば城に接触してしまう。
「悪いがもう無理だ。出直すぞ」
「……分かった。でも、もう一度だけ、海斗に近付いて。ちゃんと伝えたい……」
優希は溢れる涙を拭きながらグスターヴァルに話した。
「……御意」
そう言ってグスターヴァルが最後の旋回をする。再び海斗に近付く。そして、通り過ぎる瞬間に優希が力一杯叫んだ。手を伸ばしながら。
「海斗っ! 待っててっ! 絶対に助けるからっ!」
涙がどんどん溢れてくる。嬉しさと悔しさと、やっと会えた喜びと。色んな思いが優希の中を駆け巡る。涙を拭うことなく、海斗に向かって叫んでいた。
見つけた。やっと会えた。無事だった……。優希は涙が止まらなかった。海斗への想いがどんどん溢れてくる。怖い思いも不安な思いもあった。でも、海斗に会えた。今はそれだけで十分だった。
☆☆☆
グスターヴァルはゆっくりと羽ばたいていた。優希が落ち着くまでアリスも黙って横に座っている。
「ごめんね、もう大丈夫……海斗、やっと会えた」
ショルダーバッグの中からハンカチを取り出すと、優希は涙を拭って笑顔を作った。
「うん。良かったね」
アリスもにこりと微笑する。
「そういえば、さっき海斗と一緒に男の子がいた気がする。しゃがんでてはっきりとは見えなかったけど、可愛い感じの……」
涙がおさまり、ハンカチをしまうと、優希は先程のことを思い出すようにして話した。
「あれはエリスだよ。僕の兄弟。言ったでしょ、双子の兄弟がいるって」
アリスは無表情に優希の言葉に答えた。一体何を思っているのか、表情からは読み取れない。
「あ、エリス! そうだったんだ……ってことはエリスも囚われてるってこと?」
そしてアリスの言葉で優希はあの湖で聞いた話を思い出したのだった。しかし、城にいるということは……。
「そうとも言うけど、そうじゃない」
「どういうこと?」
淡々と答えるアリスに優希は首を傾げながら尋ねる。
「あいつは、僕たちを裏切ったんだ……」
無表情の中に、少しだけ強い光を感じる目でアリスが答えたのだった。
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