White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第37話

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 扉の向こう側は綺麗な青空でも広がっているかと期待していたのだが――。
「あまりいい天気とは言えないな」
 屋上に一歩足を踏み入れた瞬間、眉間に皺を寄せながら海斗がぼそりと呟いた。
「仕方ないよ。俺もずっと太陽は見てない。ずっとこんな感じの天気だよ」
 エリスは洗濯籠を両手で持つと、物干し竿がある所までゆっくりと歩き出す。
「そうなのか……こんな天気で乾くのか?」
 海斗もゆっくりとエリスの後ろを歩きながら空を見上げる。
「まぁ、カラッとは乾かないけど、中で乾かすよりはいいよ。ほら、海斗も手伝って。まさか何もしないつもりじゃないよね?」
 エリスは洗濯籠を地面に置くと、タオルを1枚取り、海斗を振り返った。
「はいはい、分かりましたよ。でも、洗濯なんてしたことないから、どうなっても知らないぞ?」
 海斗は腰を屈め、洗濯籠から大きなバスタオルを取り出す。
「え? ないの?」
「あぁ、やってくれる人がいるから、自分でやる必要ないからな」
 エリスはタオルを持ったまま、ぎょっとして声を上げる。そして海斗はバスタオルを広げながら、『これはどうするんだ?』と考えながらエリスの問いに淡々と答える。
「ふぅん、お母さんとか?」
「いや、母さんは家にはいない」
「そうなの? じゃあ誰がやってくれてるの? こ、恋人とか……?」
 タオルを干しながらエリスは不思議そうに問い返す。すぐに海斗に否定され、今度はなぜだか緊張しながら上目遣いに海斗を見上げた。
「恋人か……それもいいな。残念だが今は違う。執事が家事をやってくれてるんだ」
 エリスの言葉に海斗はふと優希が洗濯物を干す姿を思い浮かべた。一緒に暮らせる日がくれば、そういった光景も、もしかしたら今エリスとやっているみたいに一緒に家事をしたりすることもあるかもしれない、そんなことを考えた。
「そ、そうなんだ……てか、執事?」
 なんとなくほっとしたエリスであったが、『執事』の名前を聞いてぎょっとした。
「あぁ、何か問題か?」
「え? カイトって王子か何かなの?」
「ぶっ……なんだよ、王子って……違うよ、俺達の住む世界、というか、国には王子はいない」
 エリスの問い掛けに思わず吹き出してしまった。ここに優希がいたら間違いなく大笑いしていそうである。
「へぇ、そうなんだ。なんか海斗の態度とか見てて、王子ならちょっと分かるような気がしたから」
 エリスはそう言いながらある『人物』を思い浮かべていた。人を揶揄ったり、高圧的な態度だったり……『彼』に少しだけ似ている、と思っていたのだった。
「ところでエリスの家族はどうしているんだ? ここにいるのか?」
 ふと思いつき、今度は海斗がエリスに問い掛けた。
「……両親はいないよ。子供の頃に死んじゃったから……。兄弟は……双子の兄がいるんだけど、ここにはいないよ……」
 急に顔が暗くなり、エリスは俯いてしまった。
「……そうか。……悪い」
 エリスの様子を見て申し訳ない気持ちになり、海斗はぼそりと話すと、エリスの頭を優しく撫でた。
「ちょっ! さ、触らないでよっ!」
 海斗の行動に一転、再び真っ赤な顔でエリスは海斗の手を払った。
 ――その時、何か遠くで光る物を見た気がしてぴたりと固まった。
「どうかしたか?」
 エリスが海斗の手を払った状態のまま、ある一点を見ていることに気が付き不思議そうに声を掛けた。
「なんだろう、あれ……」
 光が見えた方向に、何か黒く大きな物がいる。空に。
「え?」
 エリスが見ている方向を海斗も見上げた。雲の影にぼんやりと何か黒い大きな物が見える。あれはなんだ……?
 と、突然風が大きく吹いた。エリスは慌ててタオルを掴む。海斗も持っていたバスタオルを飛ばされないよう両手で掴む。

 ゴオォォッ

 何の音だ? 風か? 何かが羽ばたいているような音にも聞こえる。しかし、こんなでかい音は聞いたことがない。
 強い風に海斗は右手で髪を押さえながら再び空を見上げる。黒い、大きな何かが見えた。
「なっ!」
 先程遠くに見えていた黒い何かが自分達のすぐ上を轟音と共に過ぎ去った瞬間であった。海斗は目を見開いて一体何が通ったのかと振り返る。
 鳥? いや、鳥とかそんなサイズではない。飛行機? いや違う。羽ばたく音が聞こえた。では一体何なのか?
 その黒い物体は旋回して再びこちらに向かってきている。

「……っは? ドラゴン!?」
「わっ!」
 向かってくる黒く大きな物体の正体――アニメや映画で見たことがある、あのドラゴンだった。そしてすぐ横でエリスが叫んで頭を抱えながらしゃがみ込んだ。
「嘘だろ……」
 自分は夢でも見ているのか。ありえない。こんな光景……。そう思った瞬間――。

「海斗っ!」

 なぜか上から自分が一番会いたい人に呼ばれた気がした。
 呆然と空を眺めていた海斗はハッとしてその声を辿る。

「海斗っ!」

 声と共に先程の大きな黒いドラゴンが自分のすぐそばまで来ていた。そして、そのドラゴンの背中に――。

「優希っ!!」

 信じられない光景があった。ドラゴンの上に優希の姿を見た。まさか、自分はついにおかしくなったのか?
 そう思いながらも大声でその名前を叫んでいた。
 ドラゴンは海斗を通り過ぎた後、もう一度旋回する。ゴオッという轟音と共に、今度ははっきりと確認する。
 優希だ! ドラゴンの背中に優希がいる。

「優希っ!」
 思わず手を伸ばした。力一杯。
「海斗っ!」
 優希もドラゴンの上から手を伸ばしている――が、ふたりの距離は遠すぎて、とても手は届かない……。
 ドラゴンが大きすぎてこれ以上城に近付けないのだ。
 再びドラゴンが旋回する。そして――。
「海斗っ! 待っててっ! 絶対に助けるからっ!」
 通り過ぎる瞬間、涙を流しながら優希が叫んでいる。手を伸ばしながら。

「優希……」
 ドラゴンはそのまま空を飛んでいく。ゆっくりと羽ばたきながら。
 海斗は呆然としながらその光景を眺めていた。
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