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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第36話
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まるで囚われの姫となっている海斗。
見た目的には姫ではなく王子なのだが、見た目が姫な優希がこれだけ頑張っているのだから、やはり海斗が姫なのだろう。クッ○大王に攫われたピー○姫の如く……。
しかし海斗自身、ただ捕まっているという訳ではなかった。
最初に連れてこられたあの広い部屋で、鎖に繋がれ甚振られ続けていた時は、さすがにほんの僅かではあるが絶望感を感じていたのだが、今は違う。
部屋を移動し、出られないこと以外は自由である。なんとかしてここから脱出する方法を模索していたのだった。
今いる40畳程の部屋。窓はない。シャワールームやトイレにも窓はない。小さな換気扇が付いているだけであった。つまり、出るにはエリスが出入りをしている扉だけである。
可愛い監視役はほとんどの時間は海斗を見張るためにこの部屋の中にいるが、時々食事の準備の為に食材を取りに部屋を出ることがある。それ以外にも何か用事があるのか時々部屋を留守にすることがあった。その際に、海斗は扉から出られないかどうかを確認していたのだが、外から施錠されているらしく、扉はびくともしなかった。鍵を壊すような道具もない。
エリスが鍵を閉め忘れることもあるかもしれないと、毎回確認をするのだが、やはり開かなかった。もしかすると、監視役はエリスだけでなく、扉の向こうに兵士が見張っている可能性もあった。
あとは――。
「エリスが朗報を持ってきてくれるといいんだが……」
ぼそりと呟く。
どこでもいい。この部屋を出て、なんとか脱出方法を考えなければならない。
なんとかしてここを出なければ。
海斗が眉間に皺を寄せながら考え事をしていた時、扉がギギッと音を立てて開いた。エリスが戻ってきたのだ。
「エリス、おかえり」
ふと表情を和らげ、にこりと笑みを作るとエリスに話し掛ける。
「っ!? た、ただいま……」
エリスは海斗のふいにするこういった表情に弱いらしい。意地悪そうな顔や不機嫌な顔、真面目な顔等、他の表情には一切反応しないのだが、時々見せる優しい笑顔に一瞬だがドキッと心臓が高鳴っていることにエリス自身は気が付いていなかった。
「で? どうだった? 出られそう?」
今度は一転、にやりと口角を上げ、海斗がエリスをじっと見つめる。すぐにエリスはムッとした表情に変わった。
「ダメに決まってんじゃん。……あ、でも、屋上だったらいいって。洗濯物を干すのに屋上に行くんだけど、そこだったらオーケーが出たよ。まぁ気分転換も必要だろうからって。それでいい?」
頬を膨らませながらも、エリスは誰かにちゃんと許可を貰ってきてくれたらしかった。屋上だろうとどこだろうと、この部屋から出られるのであれば十分である。
「ふっ、上出来だよ。ありがとう」
再び優しく海斗が笑う。
「っ!? お、俺は、カイトの家来でもなんでもないんだからねっ! 偉そうにしないでよっ」
海斗に褒められ、そして優しく笑い掛けられ、全身の熱が顔に集中したかのように真っ赤な顔をして声を上げる。しかし、エリスはすぐに頬を膨らませながらぷいっと横を向いてしまった。
そんなエリスを『可愛いな』と思いながら海斗は眺めていた。そして同時に早く優希に会いたくなっていた。優希の怒った顔も見たい。だが、今一番見たいのは天使のような優希の笑顔。必ず戻る。そう心に強く決意していた。
☆☆☆
「じゃあ、ちゃんとついてきてね。そこら辺中に兵士がいるんだから、逃げようなんて考えないでね。どうせすぐ捕まるんだから。それに逃げようとしたらそれこそ牢屋に入れられちゃうかもしれないんだからねっ」
先程エリスが言ったように、洗濯物を干す為、これから屋上へと向かうところだった。部屋を出た所でエリスは左に洗濯物が入った籠を抱え、右の人差し指を海斗に向けながら言い聞かせる。
「分かってるよ。逃げようなんてしないから、可愛い子ちゃん」
「なっ! ふ、ふざけないでよっ! その言い方、アイツみたいですっごく嫌だっ!」
ウインクしながら冗談っぽく答える海斗に、顔を真っ赤にしながらエリスが怒る。
「冗談だよ。そんなに怒るなよ。もう言わないから。……俺も別にそんなキャラじゃない。なんとなく外に出られてテンションが上がってるだけだ」
思わず口に出したものの、自分で言って少し恥ずかしくなったのか、海斗は髪をかき上げながらエリスを見下ろした。顔は少し照れくさそうにしながら。
「ふんっ。もうっ、行くよっ」
「はいはい」
エリスは頬を膨らませぷいっと前を向いて歩き出した。海斗もやれやれと肩を竦めながらエリスに続いた。
長い廊下を歩いていく。エリスの言う通り、至る所に兵士と思われる者、そして動物達が立っていたり、うろついたりしている。あの動物達はなんなのか。犬や猿、鹿やうさぎ、そして大きな熊もいる。動物園、サファリパーク、色んな言葉が浮かんだがどれも違う気がした。しかも、離れてはいたが動物達が人間の言葉を発しているのを聞いているのだ。ここへ連れてこられた時から感じていた。やはり、ここは普通じゃない。まるでファンタジーの世界に迷い込んだようだった。
ここを脱出したとして、本当に自分は元の世界に戻ることはできるのだろうか。あの鏡の世界とは訳が違う……海斗は歩きながら左手を口に当てながら考えていた。
途中、廊下を左に曲がり再び真っすぐ歩く、すると前方方向に電気ではない明るい光が漏れているのが見えてきた。外の光だろうか?
そして、廊下の突き当たりまで来ると高い壁になっており、高い位置にすりガラスのような大きなガラス窓があった。先程の光はここから漏れていたのだ。
その手前でエリスがくるりと右に90度曲がる。海斗も後を続くとそこは長い階段があった。
どうやらここから屋上に行くらしい。何段あるのかは分からないが、真っすぐに伸びた、そこまで傾斜のきつくない階段が続いている。その先にうっすら光が見える。屋上への扉だろうか?
エリスに続いて階段を上っていくと、踊り場はないものの、通常の建物で言うと3階分くらいの階段の数くらい上ったところで先程見えた扉に辿り着いた。階段の下から見ると随分距離があるように見えていたが、さほど距離はなく、なんなく登りきることができた。確かに毎日洗濯の為にこの階段を上っているとしたら、あまり長い階段ではこの小さな体はくたびれてしまっているかもしれない。
「ここから屋上に出られるんだ」
一番上まで来ると、扉の取っ手を掴み、エリスが海斗を振り返った。
「なるほど」
一段下から海斗が答える。エリスと目線が近くなっている。
急にドキンと心臓が大きく鳴ったエリスだったが、慌てて顔を戻すとゆっくりと扉を開いた――。
見た目的には姫ではなく王子なのだが、見た目が姫な優希がこれだけ頑張っているのだから、やはり海斗が姫なのだろう。クッ○大王に攫われたピー○姫の如く……。
しかし海斗自身、ただ捕まっているという訳ではなかった。
最初に連れてこられたあの広い部屋で、鎖に繋がれ甚振られ続けていた時は、さすがにほんの僅かではあるが絶望感を感じていたのだが、今は違う。
部屋を移動し、出られないこと以外は自由である。なんとかしてここから脱出する方法を模索していたのだった。
今いる40畳程の部屋。窓はない。シャワールームやトイレにも窓はない。小さな換気扇が付いているだけであった。つまり、出るにはエリスが出入りをしている扉だけである。
可愛い監視役はほとんどの時間は海斗を見張るためにこの部屋の中にいるが、時々食事の準備の為に食材を取りに部屋を出ることがある。それ以外にも何か用事があるのか時々部屋を留守にすることがあった。その際に、海斗は扉から出られないかどうかを確認していたのだが、外から施錠されているらしく、扉はびくともしなかった。鍵を壊すような道具もない。
エリスが鍵を閉め忘れることもあるかもしれないと、毎回確認をするのだが、やはり開かなかった。もしかすると、監視役はエリスだけでなく、扉の向こうに兵士が見張っている可能性もあった。
あとは――。
「エリスが朗報を持ってきてくれるといいんだが……」
ぼそりと呟く。
どこでもいい。この部屋を出て、なんとか脱出方法を考えなければならない。
なんとかしてここを出なければ。
海斗が眉間に皺を寄せながら考え事をしていた時、扉がギギッと音を立てて開いた。エリスが戻ってきたのだ。
「エリス、おかえり」
ふと表情を和らげ、にこりと笑みを作るとエリスに話し掛ける。
「っ!? た、ただいま……」
エリスは海斗のふいにするこういった表情に弱いらしい。意地悪そうな顔や不機嫌な顔、真面目な顔等、他の表情には一切反応しないのだが、時々見せる優しい笑顔に一瞬だがドキッと心臓が高鳴っていることにエリス自身は気が付いていなかった。
「で? どうだった? 出られそう?」
今度は一転、にやりと口角を上げ、海斗がエリスをじっと見つめる。すぐにエリスはムッとした表情に変わった。
「ダメに決まってんじゃん。……あ、でも、屋上だったらいいって。洗濯物を干すのに屋上に行くんだけど、そこだったらオーケーが出たよ。まぁ気分転換も必要だろうからって。それでいい?」
頬を膨らませながらも、エリスは誰かにちゃんと許可を貰ってきてくれたらしかった。屋上だろうとどこだろうと、この部屋から出られるのであれば十分である。
「ふっ、上出来だよ。ありがとう」
再び優しく海斗が笑う。
「っ!? お、俺は、カイトの家来でもなんでもないんだからねっ! 偉そうにしないでよっ」
海斗に褒められ、そして優しく笑い掛けられ、全身の熱が顔に集中したかのように真っ赤な顔をして声を上げる。しかし、エリスはすぐに頬を膨らませながらぷいっと横を向いてしまった。
そんなエリスを『可愛いな』と思いながら海斗は眺めていた。そして同時に早く優希に会いたくなっていた。優希の怒った顔も見たい。だが、今一番見たいのは天使のような優希の笑顔。必ず戻る。そう心に強く決意していた。
☆☆☆
「じゃあ、ちゃんとついてきてね。そこら辺中に兵士がいるんだから、逃げようなんて考えないでね。どうせすぐ捕まるんだから。それに逃げようとしたらそれこそ牢屋に入れられちゃうかもしれないんだからねっ」
先程エリスが言ったように、洗濯物を干す為、これから屋上へと向かうところだった。部屋を出た所でエリスは左に洗濯物が入った籠を抱え、右の人差し指を海斗に向けながら言い聞かせる。
「分かってるよ。逃げようなんてしないから、可愛い子ちゃん」
「なっ! ふ、ふざけないでよっ! その言い方、アイツみたいですっごく嫌だっ!」
ウインクしながら冗談っぽく答える海斗に、顔を真っ赤にしながらエリスが怒る。
「冗談だよ。そんなに怒るなよ。もう言わないから。……俺も別にそんなキャラじゃない。なんとなく外に出られてテンションが上がってるだけだ」
思わず口に出したものの、自分で言って少し恥ずかしくなったのか、海斗は髪をかき上げながらエリスを見下ろした。顔は少し照れくさそうにしながら。
「ふんっ。もうっ、行くよっ」
「はいはい」
エリスは頬を膨らませぷいっと前を向いて歩き出した。海斗もやれやれと肩を竦めながらエリスに続いた。
長い廊下を歩いていく。エリスの言う通り、至る所に兵士と思われる者、そして動物達が立っていたり、うろついたりしている。あの動物達はなんなのか。犬や猿、鹿やうさぎ、そして大きな熊もいる。動物園、サファリパーク、色んな言葉が浮かんだがどれも違う気がした。しかも、離れてはいたが動物達が人間の言葉を発しているのを聞いているのだ。ここへ連れてこられた時から感じていた。やはり、ここは普通じゃない。まるでファンタジーの世界に迷い込んだようだった。
ここを脱出したとして、本当に自分は元の世界に戻ることはできるのだろうか。あの鏡の世界とは訳が違う……海斗は歩きながら左手を口に当てながら考えていた。
途中、廊下を左に曲がり再び真っすぐ歩く、すると前方方向に電気ではない明るい光が漏れているのが見えてきた。外の光だろうか?
そして、廊下の突き当たりまで来ると高い壁になっており、高い位置にすりガラスのような大きなガラス窓があった。先程の光はここから漏れていたのだ。
その手前でエリスがくるりと右に90度曲がる。海斗も後を続くとそこは長い階段があった。
どうやらここから屋上に行くらしい。何段あるのかは分からないが、真っすぐに伸びた、そこまで傾斜のきつくない階段が続いている。その先にうっすら光が見える。屋上への扉だろうか?
エリスに続いて階段を上っていくと、踊り場はないものの、通常の建物で言うと3階分くらいの階段の数くらい上ったところで先程見えた扉に辿り着いた。階段の下から見ると随分距離があるように見えていたが、さほど距離はなく、なんなく登りきることができた。確かに毎日洗濯の為にこの階段を上っているとしたら、あまり長い階段ではこの小さな体はくたびれてしまっているかもしれない。
「ここから屋上に出られるんだ」
一番上まで来ると、扉の取っ手を掴み、エリスが海斗を振り返った。
「なるほど」
一段下から海斗が答える。エリスと目線が近くなっている。
急にドキンと心臓が大きく鳴ったエリスだったが、慌てて顔を戻すとゆっくりと扉を開いた――。
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