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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第35話
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なんでもとは言われたが、優希の願いはひとつだけ――。
「じゃあ……俺の大事な人の所に連れて行ってっ!」
グスターヴァルの言葉を信じ、きゅっと唇を噛み締めると、真剣な顔でじっと見上げた。
「ユウキ……」
ぼそりと呟き、アリスが切なそうな表情でじっと優希を見つめている。
「大事な人を助けたい。魔女から取り戻したいっ!」
じっと黙っているグスターヴァルに向かって、真剣に、そして訴えるようにもう一度願いを言ったのだった。
グスターヴァルは優希を見下ろしながら爬虫類のような目を細める。
そして答えた。
「ふむ。分かった……叶えよう。それで魔女はどうする?」
「もちろん魔女も倒すっ! でも、まだ方法が分からないし、その前に海斗を助けたいっ!」
魔女のことも倒したいが早く海斗を助け出したかった。今も刻々と死が近づいているかもしれない。一刻も早く海斗に会いたい。助けたい。優希の願いはただそれだけだった。
「カイトというのは、お前が言った『大事な人』なのか?」
目を再び大きく開くと、グスターヴァルはじっと優希を見下ろす。
「うん、そうだよ。俺の恋人。魔女に連れ去られて殺されるかもしれないんだ……」
優希は答えた後でふと海斗のことを思い、泣きそうな気持ちになっていた。
大丈夫だと信じているけど、無事だと信じたいけど、今どうなっているのかが分からない。早く会いたい……。どんどん気持ちが苦しくなっていく。
「そうか。分かった。ではすぐに行こう。悪いが獣2匹は乗せてやれない。そこの子供とホワイトキャットだけ、私の背中に乗るがいい」
じっと優希を見つめると、そう言ってグスターヴァルは更に低く体を屈め、優希とアリスに乗るように促した。
「えっ?」
まさかドラゴンの背中にまで乗る日が来るとは……。優希はぱちぱちと目を瞬きさせる。
「俺らは仲間外れかよ」
ずっと岩陰から様子を見ていたライアンがぼそりと呟いている。やはりドラゴンに乗るなど、そうそうないことだ。がっかりしている様子がよく分かった。
「仕方ないよ。グスターヴァルが仲間になってくれただけでもよしとしようよ。じゃあ、俺たちは先にセバスチャンの森に帰るよ」
同じように岩陰で見守っていたジェイクはそう言うと、さっさと岩山を下りて行ってしまった。相変わらず行動が早い。
「おいっ、待て!」
ぎょっとした表情をすると、ライアンも慌てて後を追っていった。
動物の姿のままのふたりは軽く岩山を下りて行ってしまったのだった。
「……でも、どうしてホワイトキャットの味方をしてくれるの?」
ずっと黙っていたアリスが口を挟んできた。
確かにあの光のせいでグスターヴァルが弱っただけかと最初は思っていた。次にグスターヴァルが復活した時は本当に終わったと全員が思っていたのだ。
「私はこのエーテルの剣を守るためにここにいる。エーテルの剣を奪おうとする者は何者であろうが全て殺した。だが、ホワイトキャットは別だ。このエーテルの剣はホワイトキャットの物だからな。そして、お前がその『メタトロンの鏡』を遣えることこそ、お前がホワイトキャットである証拠だ」
グスターヴァルは前を見たまま淡々と答えるが、また新しい名前が出てきたことに優希はぱちぱちと再び瞬きをしていた。
「メタトロンって天使か何かの名前じゃ?」
昔、何かの漫画かゲームで見た気がする。優希はぼそりと呟くように、しかし誰に問うわけでもなく確認していた。
「『テンシ』? ワンダーランドにはそのようなものはいない。お前は異世界から来たのだな」
グスターヴァルがちらりと優希の方を見た。
「そっか、ワンダーランドでは天使って知らないんだ。実在するとも思ってないけど……あ、うん、そうだよ。俺はワンダーランドの住人じゃない」
優希はなるほどと頷くと、ハッとしてグスターヴァルの言葉に答えた。
「てか、鏡? 七色に光ってるけど、鏡じゃないよね?」
そういえば、と再びペンダントを出すとじっと見つめてみる。きらきらと七色の光を放っているだけである。自分の顔が映るような物には見えない。
「そうだな。しかし、それも『鏡』だ。さぁ時間がない、早く乗れ」
「うん、ありがとっ!」
すっかりグスターヴァルと仲良くなった優希はいつの間にか普通に会話をしていたのだった。そして誰もグスターヴァルを疑う者はいなかった。恐怖で少しおかしくなってしまっていたのかもしれない。ただ、優希以外の3人は『ホワイトキャット』の伝説を信じている為、グスターヴァルのことも信じていたのだった。
ごつごつとしたグスターヴァルの背中になんとか乗ったふたりだったが、ジェイクやライアンの背中とは違い、大きく、そしてとても硬い。とても跨げるサイズではないし、このまま空を飛んだら落ちてしまうのでは? そんな不安がよぎっていた。
「こいつに掴まれ」
いつの間に用意したのか、自身の首に巻かれたひも状の物を咥え、グスターヴァルが首をこちらに向けてきていた。そして優希とアリスの前にそれを落とした。
「これは念の為だ。心配するな、お前たちを落としはしない」
ふたりの不安を感じ取ったのか、グスターヴァルはそう言うと前を向いた。
「グスターヴァル、ありがとっ!」
優希は段々グスターヴァルのことが好きになっていた。あんなに怖いと思っていたのに、実は凄くいい奴なんじゃないかと思えてきたのだった。
「行くぞ」
そう言って大きな羽をばさりと広げる。そしてゆっくりと立ち上がった。
優希とアリスは用意してもらった紐をぎゅっと握り締める。馬ではないのだからこんな紐で大丈夫とはいえないだろうが、グスターヴァルの言葉を信じることにした。
きっと大丈夫だ。そう思った瞬間、ばさりとグスターヴァルの羽が羽ばたいた。そしてゆっくり岩山から離れたのだった。
「じゃあ……俺の大事な人の所に連れて行ってっ!」
グスターヴァルの言葉を信じ、きゅっと唇を噛み締めると、真剣な顔でじっと見上げた。
「ユウキ……」
ぼそりと呟き、アリスが切なそうな表情でじっと優希を見つめている。
「大事な人を助けたい。魔女から取り戻したいっ!」
じっと黙っているグスターヴァルに向かって、真剣に、そして訴えるようにもう一度願いを言ったのだった。
グスターヴァルは優希を見下ろしながら爬虫類のような目を細める。
そして答えた。
「ふむ。分かった……叶えよう。それで魔女はどうする?」
「もちろん魔女も倒すっ! でも、まだ方法が分からないし、その前に海斗を助けたいっ!」
魔女のことも倒したいが早く海斗を助け出したかった。今も刻々と死が近づいているかもしれない。一刻も早く海斗に会いたい。助けたい。優希の願いはただそれだけだった。
「カイトというのは、お前が言った『大事な人』なのか?」
目を再び大きく開くと、グスターヴァルはじっと優希を見下ろす。
「うん、そうだよ。俺の恋人。魔女に連れ去られて殺されるかもしれないんだ……」
優希は答えた後でふと海斗のことを思い、泣きそうな気持ちになっていた。
大丈夫だと信じているけど、無事だと信じたいけど、今どうなっているのかが分からない。早く会いたい……。どんどん気持ちが苦しくなっていく。
「そうか。分かった。ではすぐに行こう。悪いが獣2匹は乗せてやれない。そこの子供とホワイトキャットだけ、私の背中に乗るがいい」
じっと優希を見つめると、そう言ってグスターヴァルは更に低く体を屈め、優希とアリスに乗るように促した。
「えっ?」
まさかドラゴンの背中にまで乗る日が来るとは……。優希はぱちぱちと目を瞬きさせる。
「俺らは仲間外れかよ」
ずっと岩陰から様子を見ていたライアンがぼそりと呟いている。やはりドラゴンに乗るなど、そうそうないことだ。がっかりしている様子がよく分かった。
「仕方ないよ。グスターヴァルが仲間になってくれただけでもよしとしようよ。じゃあ、俺たちは先にセバスチャンの森に帰るよ」
同じように岩陰で見守っていたジェイクはそう言うと、さっさと岩山を下りて行ってしまった。相変わらず行動が早い。
「おいっ、待て!」
ぎょっとした表情をすると、ライアンも慌てて後を追っていった。
動物の姿のままのふたりは軽く岩山を下りて行ってしまったのだった。
「……でも、どうしてホワイトキャットの味方をしてくれるの?」
ずっと黙っていたアリスが口を挟んできた。
確かにあの光のせいでグスターヴァルが弱っただけかと最初は思っていた。次にグスターヴァルが復活した時は本当に終わったと全員が思っていたのだ。
「私はこのエーテルの剣を守るためにここにいる。エーテルの剣を奪おうとする者は何者であろうが全て殺した。だが、ホワイトキャットは別だ。このエーテルの剣はホワイトキャットの物だからな。そして、お前がその『メタトロンの鏡』を遣えることこそ、お前がホワイトキャットである証拠だ」
グスターヴァルは前を見たまま淡々と答えるが、また新しい名前が出てきたことに優希はぱちぱちと再び瞬きをしていた。
「メタトロンって天使か何かの名前じゃ?」
昔、何かの漫画かゲームで見た気がする。優希はぼそりと呟くように、しかし誰に問うわけでもなく確認していた。
「『テンシ』? ワンダーランドにはそのようなものはいない。お前は異世界から来たのだな」
グスターヴァルがちらりと優希の方を見た。
「そっか、ワンダーランドでは天使って知らないんだ。実在するとも思ってないけど……あ、うん、そうだよ。俺はワンダーランドの住人じゃない」
優希はなるほどと頷くと、ハッとしてグスターヴァルの言葉に答えた。
「てか、鏡? 七色に光ってるけど、鏡じゃないよね?」
そういえば、と再びペンダントを出すとじっと見つめてみる。きらきらと七色の光を放っているだけである。自分の顔が映るような物には見えない。
「そうだな。しかし、それも『鏡』だ。さぁ時間がない、早く乗れ」
「うん、ありがとっ!」
すっかりグスターヴァルと仲良くなった優希はいつの間にか普通に会話をしていたのだった。そして誰もグスターヴァルを疑う者はいなかった。恐怖で少しおかしくなってしまっていたのかもしれない。ただ、優希以外の3人は『ホワイトキャット』の伝説を信じている為、グスターヴァルのことも信じていたのだった。
ごつごつとしたグスターヴァルの背中になんとか乗ったふたりだったが、ジェイクやライアンの背中とは違い、大きく、そしてとても硬い。とても跨げるサイズではないし、このまま空を飛んだら落ちてしまうのでは? そんな不安がよぎっていた。
「こいつに掴まれ」
いつの間に用意したのか、自身の首に巻かれたひも状の物を咥え、グスターヴァルが首をこちらに向けてきていた。そして優希とアリスの前にそれを落とした。
「これは念の為だ。心配するな、お前たちを落としはしない」
ふたりの不安を感じ取ったのか、グスターヴァルはそう言うと前を向いた。
「グスターヴァル、ありがとっ!」
優希は段々グスターヴァルのことが好きになっていた。あんなに怖いと思っていたのに、実は凄くいい奴なんじゃないかと思えてきたのだった。
「行くぞ」
そう言って大きな羽をばさりと広げる。そしてゆっくりと立ち上がった。
優希とアリスは用意してもらった紐をぎゅっと握り締める。馬ではないのだからこんな紐で大丈夫とはいえないだろうが、グスターヴァルの言葉を信じることにした。
きっと大丈夫だ。そう思った瞬間、ばさりとグスターヴァルの羽が羽ばたいた。そしてゆっくり岩山から離れたのだった。
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