White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第32話

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 西の森――グスターヴァルが住むという岩山を前に、ふたりと2匹は先程までの元気はどこへやら、立ち止まったまま一歩も動けずにいた。
 森は枯れて何もなくなってしまっていたのだが、その向こうに聳え立つ黒く大きな岩山を前に、既に戦意喪失してしまっていた。その岩山から恐らくグスターヴァルと思われる呻き声なのか、もしかしたらいびきの可能性もあるが、先程から耳を塞ぎたくなる程の大きな音で「グゥルルーグゥルルー」と聞こえてくる。その度に音で振動しているのか地響きを感じていた。

「あの音って……グスターヴァルかな、やっぱり……」
「だろうね」
 ぼそりと呟いた優希の問い掛けにアリスもぼそりと呟くように答える。
 何となく小声になってしまう。
「グスターヴァルって一体どんな生き物なのかな。皆みたいに元人間ってことはないの?」
 誰に話すというわけでもなく、優希は再びぼそりと呟くように問い掛ける。
「見た人は生きて帰ってきていないっていうからね……誰も知らないよ。セバスチャンでさえ見たことないし、知らないんだから。あと、ずっと昔からの守り神だから、俺達みたいに元人間っていうのも考えられないね」
 ジェイクもぼそぼそと小声で答える。
 地響きする程の大きな音がしているのだから、小声で話す必要もない気もするが、万が一見つかってしまったら命はない――と思っている一同は、できるだけ寄り添うように近付いて言葉を交わしていた。
「ここまで来たんだから、行くしかないだろ」
 ちっと舌打ちをしながらライアンが呟く。残りの3人もそれぞれ顔を見合わす。
「そうだね。ここまで来て帰るなんて意味ないもんね。……じゃあ、まずは作戦会議だね」
 アリスは何かを決意するかのように岩山を見上げ、優希を見つめながら話した。
「作戦会議?」
「そう。このまま行ってもダメだと思う。ちゃんと作戦を立てないと」
 首を傾げる優希にアリスは人差し指をぴんと立てる。
「なるほど……」
「じゃあ、一旦あの岩陰に移動しよう」
 アリスの返事に優希は頷く。そしてジェイクが鼻先を近くにある岩山よりも少し小さめの岩の塊があるところをつんと指す。
「よし」
 ライアンが返事をする。
 そして2匹はふたりを乗せたままゆっくりと岩の塊がある所へと移動した。

 岩陰に隠れるようにジェイクとライアンはゆっくりと体を屈ませ、優希とアリスを下ろした。
「ありがと、ライアン」
 下りるとすぐに、優希は再びライアンの頭を撫でる。やはり気持ちがいいのか目を瞑って上を向いている。
「ジェイクもね、とりあえずここまでお疲れ様」
 アリスもジェイクの頭を撫でる。ジェイクは尻尾をゆらゆらと揺らしている。
 相変わらず大きなペットである。
「じゃあ、まずは役割分担ね」
 アリスはジェイクの横に腰を下ろすとそう話し始めた。
「役割?」
 優希もゆっくりとアリスとライアンの間に腰を下ろす。
「そう。まずは偵察隊。岩山に登ってグスターヴァルが寝てるかどうかを確かめる役」
「ええっ! それめちゃ怖いじゃんっ」
「シー」
 アリスの言葉に優希は思わず声を上げる。しかしすぐにアリスに睨まれた。
「ほめん……」
 思わず両手で口を塞ぎながら謝る優希。
「うん、確かに危ない役だけど、グスターヴァルが眠っているところを行かないと、剣を奪うのは難しいってセバスチャン言ってたでしょ?」
「確かに日が昇ってる間は眠っていることが多いから、その時がチャンスだって言ってたね」
 アリスの話に再び頷く。
「ふんっ、ってことは、その役は俺かジェイクってことだろう?」
 黙って聞いていたライアンが口を挟んだ。
「え?」
 優希はなぜふたりが適任なのか理解できずに首を傾げる。
「できるだけこっそり、かつ素早く動けるのは俺かジェイクだろ」
 首を傾げる優希に向かってライアンが答える。
「そっか」
 納得したものの、危ない役をふたりに任せるのはなんだか申し訳ない気持ちになる。元々は自分のことなのに。
「そうだね。じゃあ、ライアンよろしく」
 尻尾を振りながら淡々と話すジェイク。
「はぁっ?」
 思わず口がぽかんと開いてしまったライアン。
「だって、言い出しっぺだし、岩山を上るならライアンの虎のが得意でしょ。それに俺は毛が白いからあの岩山を上るには目立つし」
 しれっとして答える。そして更に続けた。
「あと、アリスとユウキだけ残すのは危ないから、どちらかが残らないと」
「ちいぃぃっっ!!」
 ジェイクの話に物凄い舌打ちをしながらライアンは横を向いてしまった。なんだかちょっと可哀そうになり、優希は思わずライアンの背中を撫でていた。
「ユウキ、甘やかさなくていいよ」
 アリスがぴしゃりと言い放った。ますます可哀そうである。
「じゃあ、偵察隊はライアンね」
 そして不貞腐れているライアンに向かってアリスが指を差した。
「おい、偵察隊って言うなら複数じゃないのか?」
「じゃあ、偵察係」
「ちっっ!」
 反論してみるが、あっさり返されてしまい再び舌打ちをしている。
 そんなライアンを無視してアリスは再び話し始める。
「で、『オーケー』だった場合は残りの3人も岩山に向かう。あ、ライアンは1回戻ってね。ユウキを背中に乗せて登ってもらわないといけないから」
「ちっ……ったく、分かったよ。てか、『エヌジー』だった場合はどうすんだよ」
 全く損な役回りではあるが、優希の為ならと先程よりは小さめに舌打ちをしつつ承諾するライアン。しかし、ふと疑問ができてアリスに尋ねた。
「それはご愁傷様だよね。ライアン」
「はぁっ?」
「まぁまぁ、そこはライアン、急いで引き返してきてよ。できるだけ見つからないようにね」
 相変わらずなアリスの返答にさすがに頭に来たライアンが思わず声を上げるが、ジェイクが落ち着くように宥めていた。
「まったく、静かにね。で、次ね。岩山に登ったら、ここからが重要だよ、ユウキ。剣の場所を探して、見つけたら奪うのはホワイトキャットじゃないとできないと思う」
「えっ?」
 ライアンを一瞥した後、アリスは優希に向かって真剣な顔で話す。
 アリスの話に再び優希は声を上げてしまい、慌てて手で口を塞ぐ。そして自信なさげにぼそりと聞き返す。
「お、俺が?」
「そうだよ。ユウキならできるよ。セバスチャンも言ってたでしょ。大丈夫、自信を持ってっ。僕達もサポートするから。あと、さっきのペンダントもきっと守ってくれるよ。ルイがくれたお守りなんだからっ」
 そう言ってアリスはにこりと微笑んだ。
 優希は思わず『これが作戦会議なのか?』と疑問と不安でいっぱいになっていたのだった。
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