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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第31話
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虎と大きな白い犬が並列に走っていると、進行方向に山のような岩肌のようなものが見えてきた。まだまだ遠いがあれは一体なんなのだろう? と優希は首を傾げる。
「ユウキ、あれが西の森だよ」
走りながらジェイクが優希の疑問に答えるように話し掛けてきた。
「えっ? 西の森って、あれどう見ても山っていうか、岩山っていうか……」
まさかな答えに優希は驚いて目をぱちぱちとさせる。どう見ても森には見えない。
「うん、元々は周りに森があったはずなんだけどね。見ての通り、木が全部枯れちゃって岩山だけ残っているんだよ。あの山にグスターヴァルが住んでるって話だよ」
「そうなんだ……あ、そういえば……」
なるほどとジェイクの話を聞きながら、そういえばセバスチャンからも高い岩山にいるって聞いたことを思い出した。
「ちょっと休もうか」
そう言ってジェイクは徐々にスピードを落としていく。それに反応してライアンもスピードを落とした。急に立ち止まらなかったのは、上に乗っている優希とアリスへの反動を考えてのことだった。
数歩歩いてゆっくりと立ち止まる。そして、アリスが下りやすいようにゆっくりと体を屈めた。
「ジェイク、ありがとっ」
気を遣ってくれるジェイクにお礼を言ってアリスはゆっくりと背中から下りた。
その横に並ぶようにライアンも止まり、ゆっくりと体を屈める。
「あ、ありがと」
優希は何となくライアンの頭を2、3回撫でるとゆっくりと自分も下りる。
頭を撫でられたことがまんざらでもなかったのか、ライアンは気持ち良さそうに目を瞑って頭をぐいっと上げている。
「いいな……アリスも撫でて」
ふとジェイクが羨ましそうに呟いた後、アリスの腰の辺りをすりすりと頭で擦り付けた。
「ふふっ、甘えん坊だなぁ」
アリスは楽しそうに笑うと、両手でジェイクの頭をよしよしと何度も撫でていた。
(なんかペットみたい)
思わずジェイクとライアンのそんな姿に優希の心はほっこりとしていた。
「お腹すいたねー」
ふと思い出したようにアリスが言った。確かにずっと何も食べていない。優希はここに来る前、つまり海斗の家でも食べていなかったので丸1日以上、何も食べていなかった。
(そうだった……)
あまりにも色んなことが起こり過ぎていた為、空腹のことなどすっかり忘れていた。アリスの言葉で急に思い出した優希は突然お腹がぐぅっと鳴っていた。
思わず赤面する優希。慌ててお腹を押さえる。
「き、昨日から何も食べてなくてっ」
何となく言い訳をしてしまう。
「ふふっ。ちょっと待っててね」
そう言って、アリスが背負っていた黒い小さなリュックを下ろし、中をごそごそとし出した。
優希は不思議そうに首を傾げる。
すると、中から1つの小さな黒い箱のようなものを取り出し、優希の目の前に出して見せたのだった。
「何? 箱?」
目の前の箱を見ながら目をぱちぱちとさせながら優希は反対側に首を傾げた。
「『どこでもご飯』だよっ」
にこりと笑ってアリスが答える。
(どこ○もド○?)
思わず突っ込みそうになってしまった。
「じゃあ、ユウキ。食べたいものを思い浮かべてみて」
笑顔で優希を見ながらアリスが話す。一体どういうことなのか?
「え? どういうこと? 思い浮かべるって……」
「これは食べたい物を思い浮かべるだけで出してくれる魔法の箱なんだ」
首を傾げる優希ににこりと笑って答えるアリス。
「なんでもっ?」
「そう、なんでも」
そんな便利なものがあるなんて、と思わず声を上げる。
「じゃ、じゃあ……」
なんでも、と言われたものの、なんとなく食べやすいものを頭に思い浮かべてしまった。
すると、突然アリスが手に持っていた箱がふわりと柔らかく光る。そして――。
「あっ」
なんと目の前にふわりと1つの『おにぎり』が浮かんでいたのだった。
「ユウキ、手に取って」
アリスに言われた通り、優希はその浮かんでいるおにぎりを掴んでみた。見たところ普通のおにぎりだ。
「これ、ほんとに食べられるの?」
「もちろんっ!」
疑う訳ではないが、なんとなく心配になりじっと上目遣いでアリスを見つめるが、すぐに満面の笑みで返事が返ってきた。
「食べてみてっ」
アリスに勧められ、優希はどきどきと心臓が速く鳴っているのを感じながらもそっとおにぎりを口へと運んだ。ぱくりと一口。もぐもぐと口を動かす。
ごくんと口の中のものを飲み込むと、
「ほんとにおにぎりだっ!」
思わず感嘆の声を上げた。自分が思った通りのふっくらした『おかかのおにぎり』だった。
「凄いっ! こんなことできるんだねっ!……あ、いただきますしてなかった。いただきますっ」
目を輝かせながら手の中のおにぎりを見つめ、声を上げる優希。そして『いただきます』と言ってから食べていなかったことを思い出し慌てて言うのだった。
「ふふっ、凄いでしょ。これもルイから貰ったんだよ。何かの為にって子供の頃に貰ってたんだけど、凄い役に立ってるよ。なんでも出せるから、食べたい物を思い浮かべてみてね」
そう言ってアリスも何かを思い浮かべたのか、再び箱がふわりと光る。
出てきたのはサンドイッチだった。ハムとレタスとトマトが入っているのが見える。
「す、すご……」
おにぎりを持ったまま、優希は呆然と見つめる。
「ユウキ、それはなぁに?」
優希が持っているおにぎりが珍しいようで、サンドイッチを手にしたアリスが覗き込むようにして見てきた。
「これは『おにぎり』って言って、俺達の世界では定番のご飯だよ。持って食べやすいし美味しいんだ」
優希は食べかけのおにぎりを具が見えるようにアリスに見せ、説明する。
「へぇ……面白いね。でも美味しいの? 黒いし、中の茶色いし……」
見た目が美味しそうに見えなかったのか、アリスは顔を背けて優希に尋ねる。
「美味しいよ。中は『おかか』だよ。魚だからアリスも好きだと思うんだけど……」
なんとなくアリスの見た目で判断する。
「ふぅん……」
しかし、アリスはまだ疑いの目で見ている。
「一口だけ食べてみてよ。美味しいから」
そう言って優希はおにぎりをアリスの目の前に差し出す。一瞬ぴくんと猫の耳を立ち上げたアリスだったが、目の前のおにぎりをくんくんと匂う。
「匂いは美味しそう……じゃあ、一口だけ……」
ふわりと鼻に届いた匂いに何となく惹かれ、アリスはそっとおにぎりに口を近付ける。そして一口ぱくりと口の中に入れてみた。
「っ!?」
ちょうどおかがが沢山入ったところを口にしたアリスはぴんと猫耳を立て、目を大きくぱちぱちとしている。
「どう?」
「凄いっ! 美味しいっ!」
ごくんと飲み込むと、心配そうな優希をよそにアリスは目を輝かせながら声を上げた。
――その頃、動物2匹は……というと、いつの間にか勝手に食べ物を思い浮かべたのか、もぐもぐと何かを食べていた。
2匹とも大きなステーキにかぶりついている。さすがは肉食である。
「うまっ」
美味しいステーキを食べながらご機嫌である。
それぞれ食べたいものを思い浮かべては食べ、和やかなランチタイムを過ごしていた。
腹が減っては戦はできぬ。
しっかりと食べて、いよいよグスターヴァルが住む西の森へ――。
「ユウキ、あれが西の森だよ」
走りながらジェイクが優希の疑問に答えるように話し掛けてきた。
「えっ? 西の森って、あれどう見ても山っていうか、岩山っていうか……」
まさかな答えに優希は驚いて目をぱちぱちとさせる。どう見ても森には見えない。
「うん、元々は周りに森があったはずなんだけどね。見ての通り、木が全部枯れちゃって岩山だけ残っているんだよ。あの山にグスターヴァルが住んでるって話だよ」
「そうなんだ……あ、そういえば……」
なるほどとジェイクの話を聞きながら、そういえばセバスチャンからも高い岩山にいるって聞いたことを思い出した。
「ちょっと休もうか」
そう言ってジェイクは徐々にスピードを落としていく。それに反応してライアンもスピードを落とした。急に立ち止まらなかったのは、上に乗っている優希とアリスへの反動を考えてのことだった。
数歩歩いてゆっくりと立ち止まる。そして、アリスが下りやすいようにゆっくりと体を屈めた。
「ジェイク、ありがとっ」
気を遣ってくれるジェイクにお礼を言ってアリスはゆっくりと背中から下りた。
その横に並ぶようにライアンも止まり、ゆっくりと体を屈める。
「あ、ありがと」
優希は何となくライアンの頭を2、3回撫でるとゆっくりと自分も下りる。
頭を撫でられたことがまんざらでもなかったのか、ライアンは気持ち良さそうに目を瞑って頭をぐいっと上げている。
「いいな……アリスも撫でて」
ふとジェイクが羨ましそうに呟いた後、アリスの腰の辺りをすりすりと頭で擦り付けた。
「ふふっ、甘えん坊だなぁ」
アリスは楽しそうに笑うと、両手でジェイクの頭をよしよしと何度も撫でていた。
(なんかペットみたい)
思わずジェイクとライアンのそんな姿に優希の心はほっこりとしていた。
「お腹すいたねー」
ふと思い出したようにアリスが言った。確かにずっと何も食べていない。優希はここに来る前、つまり海斗の家でも食べていなかったので丸1日以上、何も食べていなかった。
(そうだった……)
あまりにも色んなことが起こり過ぎていた為、空腹のことなどすっかり忘れていた。アリスの言葉で急に思い出した優希は突然お腹がぐぅっと鳴っていた。
思わず赤面する優希。慌ててお腹を押さえる。
「き、昨日から何も食べてなくてっ」
何となく言い訳をしてしまう。
「ふふっ。ちょっと待っててね」
そう言って、アリスが背負っていた黒い小さなリュックを下ろし、中をごそごそとし出した。
優希は不思議そうに首を傾げる。
すると、中から1つの小さな黒い箱のようなものを取り出し、優希の目の前に出して見せたのだった。
「何? 箱?」
目の前の箱を見ながら目をぱちぱちとさせながら優希は反対側に首を傾げた。
「『どこでもご飯』だよっ」
にこりと笑ってアリスが答える。
(どこ○もド○?)
思わず突っ込みそうになってしまった。
「じゃあ、ユウキ。食べたいものを思い浮かべてみて」
笑顔で優希を見ながらアリスが話す。一体どういうことなのか?
「え? どういうこと? 思い浮かべるって……」
「これは食べたい物を思い浮かべるだけで出してくれる魔法の箱なんだ」
首を傾げる優希ににこりと笑って答えるアリス。
「なんでもっ?」
「そう、なんでも」
そんな便利なものがあるなんて、と思わず声を上げる。
「じゃ、じゃあ……」
なんでも、と言われたものの、なんとなく食べやすいものを頭に思い浮かべてしまった。
すると、突然アリスが手に持っていた箱がふわりと柔らかく光る。そして――。
「あっ」
なんと目の前にふわりと1つの『おにぎり』が浮かんでいたのだった。
「ユウキ、手に取って」
アリスに言われた通り、優希はその浮かんでいるおにぎりを掴んでみた。見たところ普通のおにぎりだ。
「これ、ほんとに食べられるの?」
「もちろんっ!」
疑う訳ではないが、なんとなく心配になりじっと上目遣いでアリスを見つめるが、すぐに満面の笑みで返事が返ってきた。
「食べてみてっ」
アリスに勧められ、優希はどきどきと心臓が速く鳴っているのを感じながらもそっとおにぎりを口へと運んだ。ぱくりと一口。もぐもぐと口を動かす。
ごくんと口の中のものを飲み込むと、
「ほんとにおにぎりだっ!」
思わず感嘆の声を上げた。自分が思った通りのふっくらした『おかかのおにぎり』だった。
「凄いっ! こんなことできるんだねっ!……あ、いただきますしてなかった。いただきますっ」
目を輝かせながら手の中のおにぎりを見つめ、声を上げる優希。そして『いただきます』と言ってから食べていなかったことを思い出し慌てて言うのだった。
「ふふっ、凄いでしょ。これもルイから貰ったんだよ。何かの為にって子供の頃に貰ってたんだけど、凄い役に立ってるよ。なんでも出せるから、食べたい物を思い浮かべてみてね」
そう言ってアリスも何かを思い浮かべたのか、再び箱がふわりと光る。
出てきたのはサンドイッチだった。ハムとレタスとトマトが入っているのが見える。
「す、すご……」
おにぎりを持ったまま、優希は呆然と見つめる。
「ユウキ、それはなぁに?」
優希が持っているおにぎりが珍しいようで、サンドイッチを手にしたアリスが覗き込むようにして見てきた。
「これは『おにぎり』って言って、俺達の世界では定番のご飯だよ。持って食べやすいし美味しいんだ」
優希は食べかけのおにぎりを具が見えるようにアリスに見せ、説明する。
「へぇ……面白いね。でも美味しいの? 黒いし、中の茶色いし……」
見た目が美味しそうに見えなかったのか、アリスは顔を背けて優希に尋ねる。
「美味しいよ。中は『おかか』だよ。魚だからアリスも好きだと思うんだけど……」
なんとなくアリスの見た目で判断する。
「ふぅん……」
しかし、アリスはまだ疑いの目で見ている。
「一口だけ食べてみてよ。美味しいから」
そう言って優希はおにぎりをアリスの目の前に差し出す。一瞬ぴくんと猫の耳を立ち上げたアリスだったが、目の前のおにぎりをくんくんと匂う。
「匂いは美味しそう……じゃあ、一口だけ……」
ふわりと鼻に届いた匂いに何となく惹かれ、アリスはそっとおにぎりに口を近付ける。そして一口ぱくりと口の中に入れてみた。
「っ!?」
ちょうどおかがが沢山入ったところを口にしたアリスはぴんと猫耳を立て、目を大きくぱちぱちとしている。
「どう?」
「凄いっ! 美味しいっ!」
ごくんと飲み込むと、心配そうな優希をよそにアリスは目を輝かせながら声を上げた。
――その頃、動物2匹は……というと、いつの間にか勝手に食べ物を思い浮かべたのか、もぐもぐと何かを食べていた。
2匹とも大きなステーキにかぶりついている。さすがは肉食である。
「うまっ」
美味しいステーキを食べながらご機嫌である。
それぞれ食べたいものを思い浮かべては食べ、和やかなランチタイムを過ごしていた。
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