White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

文字の大きさ
上 下
71 / 226
Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第30話

しおりを挟む
 一方、優希達4人の戦士は、というと――。

「ふむ」
 ジェイクがおすわりをして首を何やら傾げている。
 どうしたのかと優希もまた、首を傾げながらジェイクを見つめる。
「どうかした? ジェイク」
「うん……あんまり時間もないしね。あまり気は進まないのだけど」
 そう言って四つ足で立ち上がる。つんと鼻先を上に上げて何かを覚悟したかのような真剣な表情をしている。そしてゆっくりと歩き出し、ライアンのそばへと近寄る。
「ライアン」
「は? なんだよ」
 ライアンの横でぴたりと止まると、見上げながらライアンを呼ぶ。
 そして不機嫌そうにライアンがジェイクを見下ろした。
「もうちょっと屈んでくれる?」
「なんでだよ」
 四つ足で立ったままじっとライアンを見上げながらジェイクは真剣な表情のままであった。そんな様子を見ながらも、やはり面倒臭そうにライアンは片目を細め言うことを聞いてくれない。
「いいから」
 しかし、珍しくジェイクが強い口調で言い返した。
「ったく、これでいいか?」
 ライアンは仕方なさそうに両膝に両手をつく形で体を少し屈める。
「もう少し下を向いてみて」
「は?」
「早く」
 何をしようとしているのか、尚もジェイクはライアンに要求するが、当然意味が分からないライアンは眉間に皺を寄せながら反論する。しかしすぐにジェイクが急かす様に続けたのだった。
「ったく、なんなんだよ……」
 そう言ってライアンが顔をジェイクの方に近付けたその瞬間――。

 ぺろんっ

「ふっ……うわっ! 何しやがるっ!」
 突然ジェイクがライアンの口をぺろりと舐めたのだ。ぎょっとして思わず後ろに転がりそうになった――が、体はぺたんとそのまま地面へとうつ伏せするように、いや、うつ伏せしてしまっていた。
「はっ?」
 思わず自分の手を見て更にぎょっとするライアン。いつの間にか虎の姿に戻っていたのだ。
「なっ……なっ! てめっ! 何しやがるっ!」
 漸く状況を理解したライアンが吠える。ジェイクに口を舐められたことによって虎の姿になってしまったのだ。
 ジェイクは前回、優希にしたようにライアンだけ姿を変えさせたのだ。ジェイク自身は犬の姿のままであった。
「俺だって君にこんなことはしたくないよ。ユウキやアリスにするならともかく。でもそうは言ってられないからね。時間があまりない。ライアンはユウキを背中に乗せていって。俺はアリスを乗せるから」
 ジェイクはぷるぷると頭を振った後、ライアンに向かってそう説明した。
 どうやら優希とアリスを背中に乗せて走っていこうとしているようだ。
「なるほど。確かに全員で歩いていくよりも早いかもね」
 そう言ってアリスはぽんと手を打つ。
「くそっ、せっかく人の姿に戻れたってのに……」
 伏せの状態のままライアンはぶつぶつと文句を垂れていた。
「それに、グスターヴァルと対峙することになったら、動物の姿でいる方がいいかもしれないし」
「対峙っ? そんなことあってたまるかっ!」
 ジェイクは尾をふるんと強く振ると、ちらりとライアンを見る。そして、その横でライアンは立ち上がると更に不満そうに声を上げる。
 2人の会話を聞いていて『確かにそうかもしれない』と優希は思った。人の姿よりも虎や大きな犬の姿の方が戦力になる気もする。ただ、自分は人の姿でも動物の姿でも全くの戦力外なのだが……。なんだか悲しくなってしまった。優希の気持ちに反映して猫の耳がたらんと下がってしまっていた。
 そんな優希に気が付くことなくジェイクが声を上げた。
「行くよっ」
「さ、アリス、乗って。しっかり掴まってね」
 そして不貞腐れているライアンのことは無視して伏せの姿勢を取ると、アリスの方を見て声を掛ける。
「うん、ありがとっ」
 アリスもそう言ってジェイクの背中に跨った。ふわりとした毛が少しくすぐったくて、ふふっと笑う。
「……ちっ、なんなんだよ……」
 再びぶつぶつと文句を垂れるライアン。
 しかし、ジェイクとアリスのやり取りを見た後、ちらりと優希の方を見上げる。困った顔で、猫の耳を少したらんと垂らしている優希はなんとも可愛らしい。ふと、『この可愛らしいホワイトキャットを背中に乗せるのも悪くないな』と思ったライアンは、「ちっ」ともう一度舌打ちしながらも、ゆっくりと伏せの姿勢をとる。
「ほら、乗れよ」
 伏せをしている虎の姿はなんだか可愛く見える。
 優希は言われた瞬間どきんと心臓が大きく鳴ったが、虎に乗れる機会なんて絶対にありえない。ちょっと興味もあった為か、ゆっくりとライアンへと近付く。
「お、落とさないでね」
 ドキドキとしながらもゆっくりとライアンの背中に跨る。ジェイクの背中もふかふかであったが、ライアン――虎の背中はもこもこの毛にしっかりとした筋肉を感じ、何とも言えない高揚感があった。手触りも凄く良い。やはり大きな猫なのだと感じていた。
「しっかり掴まってろよ。誰かを乗せたことなんてないからな」
 ゆっくりと四つ足で立ち上がる。そしてちらりと背中に乗る優希を見て、少しだけ照れくさそうな顔をしているのが分かった。
(ライアンってツンデレなのかな?)
 自分のことは棚に上げ、優希はそんなことを考えていた。
「よし、行こうっ」
 ジェイクの掛け声で2匹の動物が勢いよく走り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...