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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第30話
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一方、優希達4人の戦士は、というと――。
「ふむ」
ジェイクがおすわりをして首を何やら傾げている。
どうしたのかと優希もまた、首を傾げながらジェイクを見つめる。
「どうかした? ジェイク」
「うん……あんまり時間もないしね。あまり気は進まないのだけど」
そう言って四つ足で立ち上がる。つんと鼻先を上に上げて何かを覚悟したかのような真剣な表情をしている。そしてゆっくりと歩き出し、ライアンのそばへと近寄る。
「ライアン」
「は? なんだよ」
ライアンの横でぴたりと止まると、見上げながらライアンを呼ぶ。
そして不機嫌そうにライアンがジェイクを見下ろした。
「もうちょっと屈んでくれる?」
「なんでだよ」
四つ足で立ったままじっとライアンを見上げながらジェイクは真剣な表情のままであった。そんな様子を見ながらも、やはり面倒臭そうにライアンは片目を細め言うことを聞いてくれない。
「いいから」
しかし、珍しくジェイクが強い口調で言い返した。
「ったく、これでいいか?」
ライアンは仕方なさそうに両膝に両手をつく形で体を少し屈める。
「もう少し下を向いてみて」
「は?」
「早く」
何をしようとしているのか、尚もジェイクはライアンに要求するが、当然意味が分からないライアンは眉間に皺を寄せながら反論する。しかしすぐにジェイクが急かす様に続けたのだった。
「ったく、なんなんだよ……」
そう言ってライアンが顔をジェイクの方に近付けたその瞬間――。
ぺろんっ
「ふっ……うわっ! 何しやがるっ!」
突然ジェイクがライアンの口をぺろりと舐めたのだ。ぎょっとして思わず後ろに転がりそうになった――が、体はぺたんとそのまま地面へとうつ伏せするように、いや、うつ伏せしてしまっていた。
「はっ?」
思わず自分の手を見て更にぎょっとするライアン。いつの間にか虎の姿に戻っていたのだ。
「なっ……なっ! てめっ! 何しやがるっ!」
漸く状況を理解したライアンが吠える。ジェイクに口を舐められたことによって虎の姿になってしまったのだ。
ジェイクは前回、優希にしたようにライアンだけ姿を変えさせたのだ。ジェイク自身は犬の姿のままであった。
「俺だって君にこんなことはしたくないよ。ユウキやアリスにするならともかく。でもそうは言ってられないからね。時間があまりない。ライアンはユウキを背中に乗せていって。俺はアリスを乗せるから」
ジェイクはぷるぷると頭を振った後、ライアンに向かってそう説明した。
どうやら優希とアリスを背中に乗せて走っていこうとしているようだ。
「なるほど。確かに全員で歩いていくよりも早いかもね」
そう言ってアリスはぽんと手を打つ。
「くそっ、せっかく人の姿に戻れたってのに……」
伏せの状態のままライアンはぶつぶつと文句を垂れていた。
「それに、グスターヴァルと対峙することになったら、動物の姿でいる方がいいかもしれないし」
「対峙っ? そんなことあってたまるかっ!」
ジェイクは尾をふるんと強く振ると、ちらりとライアンを見る。そして、その横でライアンは立ち上がると更に不満そうに声を上げる。
2人の会話を聞いていて『確かにそうかもしれない』と優希は思った。人の姿よりも虎や大きな犬の姿の方が戦力になる気もする。ただ、自分は人の姿でも動物の姿でも全くの戦力外なのだが……。なんだか悲しくなってしまった。優希の気持ちに反映して猫の耳がたらんと下がってしまっていた。
そんな優希に気が付くことなくジェイクが声を上げた。
「行くよっ」
「さ、アリス、乗って。しっかり掴まってね」
そして不貞腐れているライアンのことは無視して伏せの姿勢を取ると、アリスの方を見て声を掛ける。
「うん、ありがとっ」
アリスもそう言ってジェイクの背中に跨った。ふわりとした毛が少しくすぐったくて、ふふっと笑う。
「……ちっ、なんなんだよ……」
再びぶつぶつと文句を垂れるライアン。
しかし、ジェイクとアリスのやり取りを見た後、ちらりと優希の方を見上げる。困った顔で、猫の耳を少したらんと垂らしている優希はなんとも可愛らしい。ふと、『この可愛らしいホワイトキャットを背中に乗せるのも悪くないな』と思ったライアンは、「ちっ」ともう一度舌打ちしながらも、ゆっくりと伏せの姿勢をとる。
「ほら、乗れよ」
伏せをしている虎の姿はなんだか可愛く見える。
優希は言われた瞬間どきんと心臓が大きく鳴ったが、虎に乗れる機会なんて絶対にありえない。ちょっと興味もあった為か、ゆっくりとライアンへと近付く。
「お、落とさないでね」
ドキドキとしながらもゆっくりとライアンの背中に跨る。ジェイクの背中もふかふかであったが、ライアン――虎の背中はもこもこの毛にしっかりとした筋肉を感じ、何とも言えない高揚感があった。手触りも凄く良い。やはり大きな猫なのだと感じていた。
「しっかり掴まってろよ。誰かを乗せたことなんてないからな」
ゆっくりと四つ足で立ち上がる。そしてちらりと背中に乗る優希を見て、少しだけ照れくさそうな顔をしているのが分かった。
(ライアンってツンデレなのかな?)
自分のことは棚に上げ、優希はそんなことを考えていた。
「よし、行こうっ」
ジェイクの掛け声で2匹の動物が勢いよく走り出した。
「ふむ」
ジェイクがおすわりをして首を何やら傾げている。
どうしたのかと優希もまた、首を傾げながらジェイクを見つめる。
「どうかした? ジェイク」
「うん……あんまり時間もないしね。あまり気は進まないのだけど」
そう言って四つ足で立ち上がる。つんと鼻先を上に上げて何かを覚悟したかのような真剣な表情をしている。そしてゆっくりと歩き出し、ライアンのそばへと近寄る。
「ライアン」
「は? なんだよ」
ライアンの横でぴたりと止まると、見上げながらライアンを呼ぶ。
そして不機嫌そうにライアンがジェイクを見下ろした。
「もうちょっと屈んでくれる?」
「なんでだよ」
四つ足で立ったままじっとライアンを見上げながらジェイクは真剣な表情のままであった。そんな様子を見ながらも、やはり面倒臭そうにライアンは片目を細め言うことを聞いてくれない。
「いいから」
しかし、珍しくジェイクが強い口調で言い返した。
「ったく、これでいいか?」
ライアンは仕方なさそうに両膝に両手をつく形で体を少し屈める。
「もう少し下を向いてみて」
「は?」
「早く」
何をしようとしているのか、尚もジェイクはライアンに要求するが、当然意味が分からないライアンは眉間に皺を寄せながら反論する。しかしすぐにジェイクが急かす様に続けたのだった。
「ったく、なんなんだよ……」
そう言ってライアンが顔をジェイクの方に近付けたその瞬間――。
ぺろんっ
「ふっ……うわっ! 何しやがるっ!」
突然ジェイクがライアンの口をぺろりと舐めたのだ。ぎょっとして思わず後ろに転がりそうになった――が、体はぺたんとそのまま地面へとうつ伏せするように、いや、うつ伏せしてしまっていた。
「はっ?」
思わず自分の手を見て更にぎょっとするライアン。いつの間にか虎の姿に戻っていたのだ。
「なっ……なっ! てめっ! 何しやがるっ!」
漸く状況を理解したライアンが吠える。ジェイクに口を舐められたことによって虎の姿になってしまったのだ。
ジェイクは前回、優希にしたようにライアンだけ姿を変えさせたのだ。ジェイク自身は犬の姿のままであった。
「俺だって君にこんなことはしたくないよ。ユウキやアリスにするならともかく。でもそうは言ってられないからね。時間があまりない。ライアンはユウキを背中に乗せていって。俺はアリスを乗せるから」
ジェイクはぷるぷると頭を振った後、ライアンに向かってそう説明した。
どうやら優希とアリスを背中に乗せて走っていこうとしているようだ。
「なるほど。確かに全員で歩いていくよりも早いかもね」
そう言ってアリスはぽんと手を打つ。
「くそっ、せっかく人の姿に戻れたってのに……」
伏せの状態のままライアンはぶつぶつと文句を垂れていた。
「それに、グスターヴァルと対峙することになったら、動物の姿でいる方がいいかもしれないし」
「対峙っ? そんなことあってたまるかっ!」
ジェイクは尾をふるんと強く振ると、ちらりとライアンを見る。そして、その横でライアンは立ち上がると更に不満そうに声を上げる。
2人の会話を聞いていて『確かにそうかもしれない』と優希は思った。人の姿よりも虎や大きな犬の姿の方が戦力になる気もする。ただ、自分は人の姿でも動物の姿でも全くの戦力外なのだが……。なんだか悲しくなってしまった。優希の気持ちに反映して猫の耳がたらんと下がってしまっていた。
そんな優希に気が付くことなくジェイクが声を上げた。
「行くよっ」
「さ、アリス、乗って。しっかり掴まってね」
そして不貞腐れているライアンのことは無視して伏せの姿勢を取ると、アリスの方を見て声を掛ける。
「うん、ありがとっ」
アリスもそう言ってジェイクの背中に跨った。ふわりとした毛が少しくすぐったくて、ふふっと笑う。
「……ちっ、なんなんだよ……」
再びぶつぶつと文句を垂れるライアン。
しかし、ジェイクとアリスのやり取りを見た後、ちらりと優希の方を見上げる。困った顔で、猫の耳を少したらんと垂らしている優希はなんとも可愛らしい。ふと、『この可愛らしいホワイトキャットを背中に乗せるのも悪くないな』と思ったライアンは、「ちっ」ともう一度舌打ちしながらも、ゆっくりと伏せの姿勢をとる。
「ほら、乗れよ」
伏せをしている虎の姿はなんだか可愛く見える。
優希は言われた瞬間どきんと心臓が大きく鳴ったが、虎に乗れる機会なんて絶対にありえない。ちょっと興味もあった為か、ゆっくりとライアンへと近付く。
「お、落とさないでね」
ドキドキとしながらもゆっくりとライアンの背中に跨る。ジェイクの背中もふかふかであったが、ライアン――虎の背中はもこもこの毛にしっかりとした筋肉を感じ、何とも言えない高揚感があった。手触りも凄く良い。やはり大きな猫なのだと感じていた。
「しっかり掴まってろよ。誰かを乗せたことなんてないからな」
ゆっくりと四つ足で立ち上がる。そしてちらりと背中に乗る優希を見て、少しだけ照れくさそうな顔をしているのが分かった。
(ライアンってツンデレなのかな?)
自分のことは棚に上げ、優希はそんなことを考えていた。
「よし、行こうっ」
ジェイクの掛け声で2匹の動物が勢いよく走り出した。
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