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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第26話
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虎と大きな白い犬は牙をむき出しにし、飛び掛かり絡み合う。大きな体が地面に転がり、ジェイクの白い毛が汚れている。そしてお互いに転がりながら自らの爪や牙で相手を攻撃している。ふたりは完全に猛獣同士の戦いをしていたのだった。
そして虎と大きな犬の、呻き声と吠える声が上がる。
「ガウゥッ」
「ギャンッ!」
2匹を少し離れた所から見守っていたアリスと優希だったが、ジェイクの鳴き声に思わず心臓がどきんと高く鳴った。
「ジェイクっ!」
アリスが思わず飛び出そうとしたが、
「来るなっ!」
すぐにジェイクによって止められてしまった。
ライアンに噛まれ、背中の方が赤くなっているのが見える。白い毛に、赤い色がじわじわと滲んでいるのがよく分かる。それでも、虎に噛まれてこの程度に済んでまだマシな方なのかもしれない。下手すれば食われてしまうのだから。
「ジェイク……」
辛そうに唇を噛み締めるアリス。両手の拳をぎゅっと握り締めている。
そして優希はただ怖くて見ていることしかできなかった。こんな大きな虎に襲われたら自分だったら死んでしまうだろう、そう思っていた。足が竦んでしまって全く動けずにいたのだった。声を出すことすらできずに。
低い体勢でじっと睨み付けているライアンを、ジェイクもまた体を低くして唸る。ジェイクも犬にしては人が乗れるくらいの大きな体ではあったが、ライアンの方がもう少し大きく、そして虎の体は戦いに向いていた。
――勝ち目はない、誰もがそう思った瞬間だった。優希の胸の辺りが突然ぽかぽかと熱くなっていた。まるでカイロでも当てているかのように温かい。そして少しずつ熱を持ち始めているように感じ、優希はなんだろう? と手探りで自分の胸元に触れる。すると何か固いものが手に当たった。
「あっ」
すっかり忘れてしまっていたが、瑠依から貰ったお守り、あのペンダントだ。そういえば猫になっている間、服やこのペンダントはどうなっているんだろうか? という疑問が再び浮かんだが、今はそれどころではない。このペンダント、お守りというのだから何か力があるかも? と優希は思った。
そして、温かくなっているそのペンダントをそっと服から取り出す。すると突然、目の前が眩しいくらいの光に包まれた。思わずそこにいた全員が目を瞑る。
「眩しっ……」
優希は右手でペンダントを持ったまま、左手で目を覆う。
「うわっ!」
どこからか誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。アリスでもジェイクの声でもない。だとすると……。
数秒後、手の隙間から見えていた光がゆっくり消えていくのを感じた。そして光をほとんど感じなくなった時、優希はゆっくり目を開け、左手を下ろした。
光はすっかり消えている。ちらりと右手にあるペンダントを見る。さっき光ったのはこのペンダントだろうか?
あまりに眩しくてどこから光が放出されていたのか分からなかった。
「うぅっ……」
ぼんやりとペンダントを見ていた時、少し離れた所から呻き声が聞こえた。
ハッとして優希は声の方を見た。
そこにはぐったりと倒れている若い男性の姿があった。ジェイクではない。茶色い髪色でふわりとしたくせ毛。うつ伏せに倒れており顔は見えない。
「ライアンっ」
ふと横の方でアリスが叫んだのが聞こえた。
あれがライアン? 人間の姿に戻った?
優希は何が何だか分からないといった様子で、倒れているライアンをじっと見つめる。
「ライアンっ」
もう一度声を上げ、アリスがライアンのそばへと駆け寄る。しかし、すぐにジェイクがアリスの前に立ちはだかった。ジェイクは犬の姿のままだ。
「ダメだよ、アリス」
そう言ってぐいぐいとアリスをライアンから離すように体を押し付ける。
「大丈夫だよ、ジェイク。人間の姿に戻ってるんだし」
「だから危ないんでしょっ!」
押してくるジェイクの体を両手で押さえアリスは首を傾げるが、すぐにジェイクが声を上げる。珍しく怒ったような口調であった。
「くそっ、いてぇ……」
頭を摩りながらライアンが上体を起こした。そしてゆっくり振り返る。
またここにもイケメンだ、と優希は思った。
くっきり二重の大きな明るい黄色がかった茶色の上がり目に、すっと筋の通った鼻。そして厚めの下唇。ジェイクのような外国人顔ではないものの、漫画やアニメに出てくるようなハンサムで色気のある顔を歪めながらジェイクとアリスを見ている。
「なんなんだ、さっきの光は。なんで俺だけ人間に戻ったんだ?」
人間に戻ったというのに不機嫌そうに呟いている。
確かに言われた通りである。さっきの光が原因だとしても、なぜライアンだけ人間に戻っているのか。アリスは変わらず猫耳と尻尾の付いた獣人でジェイクは完全な白い犬のままだった。
優希も特には変化して――と思っていた瞬間、突然アリスが声を上げた。
「ホワイトキャットっ!」
目を大きくぱちぱちさせながら優希の方を指差している。
「え?」
なぜそんな驚いた顔をされているのか分からず優希はこてんと首を傾げる。
「あれ? アリスとお揃いだね」
アリスの声で優希を振り返ったジェイクもおすわりをしてじっと見つめている。
「お揃い?」
優希は首を反対側にこてんと傾ける。
「なんだあれ。まぁ間違いなくホワイトキャットってことか」
離れた所からライアンも呆れたように呟いていた。
「?」
「耳と尻尾」
まだ不思議そうに首を傾げている優希に向かって、アリスが自分の耳と尻尾を指差して示した。
「耳と……しっぽ?…………っ!?」
アリスの言葉で優希はペンダントを再び服の中にしまうと、なんとなく自分の頭、そしてお尻の方を手で触ってみた。そして気が付いた。手にふわふわとした毛の感触があったことを。
「ええええええっ!!!!」
優希の絶叫が響き渡っていた。
そして虎と大きな犬の、呻き声と吠える声が上がる。
「ガウゥッ」
「ギャンッ!」
2匹を少し離れた所から見守っていたアリスと優希だったが、ジェイクの鳴き声に思わず心臓がどきんと高く鳴った。
「ジェイクっ!」
アリスが思わず飛び出そうとしたが、
「来るなっ!」
すぐにジェイクによって止められてしまった。
ライアンに噛まれ、背中の方が赤くなっているのが見える。白い毛に、赤い色がじわじわと滲んでいるのがよく分かる。それでも、虎に噛まれてこの程度に済んでまだマシな方なのかもしれない。下手すれば食われてしまうのだから。
「ジェイク……」
辛そうに唇を噛み締めるアリス。両手の拳をぎゅっと握り締めている。
そして優希はただ怖くて見ていることしかできなかった。こんな大きな虎に襲われたら自分だったら死んでしまうだろう、そう思っていた。足が竦んでしまって全く動けずにいたのだった。声を出すことすらできずに。
低い体勢でじっと睨み付けているライアンを、ジェイクもまた体を低くして唸る。ジェイクも犬にしては人が乗れるくらいの大きな体ではあったが、ライアンの方がもう少し大きく、そして虎の体は戦いに向いていた。
――勝ち目はない、誰もがそう思った瞬間だった。優希の胸の辺りが突然ぽかぽかと熱くなっていた。まるでカイロでも当てているかのように温かい。そして少しずつ熱を持ち始めているように感じ、優希はなんだろう? と手探りで自分の胸元に触れる。すると何か固いものが手に当たった。
「あっ」
すっかり忘れてしまっていたが、瑠依から貰ったお守り、あのペンダントだ。そういえば猫になっている間、服やこのペンダントはどうなっているんだろうか? という疑問が再び浮かんだが、今はそれどころではない。このペンダント、お守りというのだから何か力があるかも? と優希は思った。
そして、温かくなっているそのペンダントをそっと服から取り出す。すると突然、目の前が眩しいくらいの光に包まれた。思わずそこにいた全員が目を瞑る。
「眩しっ……」
優希は右手でペンダントを持ったまま、左手で目を覆う。
「うわっ!」
どこからか誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。アリスでもジェイクの声でもない。だとすると……。
数秒後、手の隙間から見えていた光がゆっくり消えていくのを感じた。そして光をほとんど感じなくなった時、優希はゆっくり目を開け、左手を下ろした。
光はすっかり消えている。ちらりと右手にあるペンダントを見る。さっき光ったのはこのペンダントだろうか?
あまりに眩しくてどこから光が放出されていたのか分からなかった。
「うぅっ……」
ぼんやりとペンダントを見ていた時、少し離れた所から呻き声が聞こえた。
ハッとして優希は声の方を見た。
そこにはぐったりと倒れている若い男性の姿があった。ジェイクではない。茶色い髪色でふわりとしたくせ毛。うつ伏せに倒れており顔は見えない。
「ライアンっ」
ふと横の方でアリスが叫んだのが聞こえた。
あれがライアン? 人間の姿に戻った?
優希は何が何だか分からないといった様子で、倒れているライアンをじっと見つめる。
「ライアンっ」
もう一度声を上げ、アリスがライアンのそばへと駆け寄る。しかし、すぐにジェイクがアリスの前に立ちはだかった。ジェイクは犬の姿のままだ。
「ダメだよ、アリス」
そう言ってぐいぐいとアリスをライアンから離すように体を押し付ける。
「大丈夫だよ、ジェイク。人間の姿に戻ってるんだし」
「だから危ないんでしょっ!」
押してくるジェイクの体を両手で押さえアリスは首を傾げるが、すぐにジェイクが声を上げる。珍しく怒ったような口調であった。
「くそっ、いてぇ……」
頭を摩りながらライアンが上体を起こした。そしてゆっくり振り返る。
またここにもイケメンだ、と優希は思った。
くっきり二重の大きな明るい黄色がかった茶色の上がり目に、すっと筋の通った鼻。そして厚めの下唇。ジェイクのような外国人顔ではないものの、漫画やアニメに出てくるようなハンサムで色気のある顔を歪めながらジェイクとアリスを見ている。
「なんなんだ、さっきの光は。なんで俺だけ人間に戻ったんだ?」
人間に戻ったというのに不機嫌そうに呟いている。
確かに言われた通りである。さっきの光が原因だとしても、なぜライアンだけ人間に戻っているのか。アリスは変わらず猫耳と尻尾の付いた獣人でジェイクは完全な白い犬のままだった。
優希も特には変化して――と思っていた瞬間、突然アリスが声を上げた。
「ホワイトキャットっ!」
目を大きくぱちぱちさせながら優希の方を指差している。
「え?」
なぜそんな驚いた顔をされているのか分からず優希はこてんと首を傾げる。
「あれ? アリスとお揃いだね」
アリスの声で優希を振り返ったジェイクもおすわりをしてじっと見つめている。
「お揃い?」
優希は首を反対側にこてんと傾ける。
「なんだあれ。まぁ間違いなくホワイトキャットってことか」
離れた所からライアンも呆れたように呟いていた。
「?」
「耳と尻尾」
まだ不思議そうに首を傾げている優希に向かって、アリスが自分の耳と尻尾を指差して示した。
「耳と……しっぽ?…………っ!?」
アリスの言葉で優希はペンダントを再び服の中にしまうと、なんとなく自分の頭、そしてお尻の方を手で触ってみた。そして気が付いた。手にふわふわとした毛の感触があったことを。
「ええええええっ!!!!」
優希の絶叫が響き渡っていた。
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