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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第24話
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2人と1匹――正確には人が1人、獣人1人、犬1匹で、再びグスターヴァルが住むという西の森へと向かう。
先程までいた森を抜けると、枯れた草花が広がる草原が見えてきた。一面茶色や黄土色のような、とても綺麗とは言えない景色に一同は憂鬱な気持ちになっていた。
セバスチャンがいた森は、セバスチャンが守っている為、今も尚、青々とした木々や色とりどりの草花が咲き誇っているらしい、とアリスから優希は聞いていた。そして今はもう、あの森しか草花や木がちゃんと育っている場所はないと思われる……とのことだった。
「ここも本当はとても綺麗な草原だったんだ。一面綺麗な黄緑色で、春になると黄色の花がいっぱい咲いて……ワンダーランドは本当に素晴らしい所だったのに……」
歩きながらアリスがぐっと唇を噛み締めながら呟いた。
「そうなんだ……。魔女を倒せば、元の世界に、元のワンダーランドに戻るのかな」
アリスの言葉を聞きながら、優希はぎゅっと拳を握り締める。自分に何ができるか分からないけど、少しでも役に立ちたい、そう思っていた。
「そうだね。ホワイトキャットが来てくれたから、きっと元に戻ると思うよ」
横を歩くジェイクが尻尾を揺らしながら優希を見上げた。
「うんっ、そうだよっ! 僕達にはホワイトキャットがついてるんだからっ」
俯きながら歩いていたアリスは、ジェイクの言葉を聞きパッと顔を上げる。そして大きな目を輝かせながら優希をじっと見つめたのだった。
「ええっ……なんか俺、責任重大?」
先程自分にも何かできることが……と考えていた優希だったが、急に2人から期待の目を向けられプレッシャーを感じていた。
「ふふっ、大丈夫だよっ。皆でワンダーランドを取り戻そうよっ」
落ち込んでいたアリスはすっかり元気を取り戻したようだ。黒い猫耳もぴんと上がり、尻尾も上がってゆらゆらと揺れている。
その様子を『可愛いな』と見つめながら、優希は「うん」と頷くのだった。
森を出てから2時間。少し先に川が見えてきた。しかし川は土色をしており、とても生き物が住めるような状況ではなかった。川までこんな状態になってしまっているとは。このままではワンダーランドは本当に滅びてしまうのではないだろうか、と優希は心を痛めていた。
「西の森まではあとどれくらい?」
気持ちが沈むのは体の疲れも関係しているのかもしれない。既に歩き始めて10キロ程歩いていると思われる。
優希はこれまでの疲れも溜まってぐったりとしていた。
「う~ん、まだあるかなぁ。お昼前には着けるとは思うけど……。もう少し行くと湖があるんだ。あそこはまだ水が綺麗なはずだから着いたら少し休もう」
ジェイクはすっかり元気のなくなっている優希に気が付き、じっと見上げながらそう提案した。
「湖っ。ちょっと楽しみ」
「昔は本当に綺麗な湖だったんだっ。赤い花が沢山咲いててね」
ジェイクの話で優希は少しだけ元気を取り戻す。そして2人の会話にアリスも入ってきた。昔を思い出しているのか耳をぴくぴくとさせながらふふっと笑っている。
「昔はよく皆で遊びに行ってたね」
ジェイクも少し上を見上げながら尻尾を揺らす。
「へぇ……皆って?」
頷きながらもジェイクの言葉が気になり、優希はちらりと横を歩くジェイクを見下ろす。
「うん、俺とアリスとエリスとルイ。あの頃は皆一緒で楽しかったなぁ」
ふんふんと鼻を鳴らしながらジェイクが答える。
「エリス? ルイは瑠依さんなのかな……」
初めて出てくる名前に優希は首を傾げる。そして『ルイ』の名前を聞いてあの青年を思い出していた。
「エリスは僕の双子の兄弟だよ」
そう言って横から覗き込むようにしてアリスが答えた。
「え? アリスの双子の兄弟っ!?」
思わず声を上げてしまった。こんな可愛い男の子がもう1人いるなんて……。
「うん、いつも4人で遊んでた。……あの頃に戻れるのかな」
明るく返事をしたアリスだったが、両手を頭の後ろで組むと、再び落ち込んだ表情になっていた。
きっと綺麗な湖と花々の中で、4人で楽しく話したり遊んだりしていたのだろう。瑠依も優しそうな雰囲気であったし、アリスもジェイクも明るい。そしてまだ会ったことはないが、きっとエリスもアリスに似て、可愛らしく明るい少年なんだろうと想像する。優希は2人の話を聞きながら、なんとかして元通りにしないと、と再び気合いを入れていた。
「ほら、あそこだよ」
話をしているうちに湖の近くまで辿り着いていた。ジェイクは鼻を先の方角に向け、優希に声を掛ける。
ジェイクが言った先には大きな木が1本立っているのが見えた。しかしそれも枯れてしまって葉はひとつもない。恐らく元々はとても緑がいっぱいに広がっていた、大きな木だったんだろうというのが窺える程、立派な木である。
そしてその木の向こう……今までの景色とは違う、深い緑色が一面に広がる何かが見えた。
「え……」
ぼそりと呟いたかと思うと、突然アリスが走り出した。
「アリスっ」
優希もそんなアリスに驚いて後を追う。だが、疲れが溜まっているのを忘れていたのか、走り出した途端に足が絡まって転びそうになる。
「ユウキっ」
すぐにジェイクが自分の体を寄せて優希を支えた。優希はなんとか転ばずに、自分の腰の横にするりと入ってきたジェイクに凭れかかる。ふわりとした感触に思わず体の力が抜け、そのまま座り込んでしまった。
「ユウキ、大丈夫?」
ジェイクが心配そうに優希を振り返る。と、先程走って湖へ向かっていたアリスの叫んだ声が聞こえた。
どうしたのかと2人はアリスの方に目をやる。
「そんな……」
アリスは湖を見て愕然としていた。顔は青ざめ、口を押えてそのまま崩れるように座り込んでしまった。
「ユウキ、俺に乗って」
アリスを見ていたジェイクは、伏せをして優希の方をちらりと見る。動けなくなってしまった優希を乗せてくれるというのだ。
アリスの様子も心配の為、優希は頷くとゆっくりジェイクの背中に乗る。そしてそれを確認するとジェイクは立ち上がってアリスの元へと歩き出した。
先程までいた森を抜けると、枯れた草花が広がる草原が見えてきた。一面茶色や黄土色のような、とても綺麗とは言えない景色に一同は憂鬱な気持ちになっていた。
セバスチャンがいた森は、セバスチャンが守っている為、今も尚、青々とした木々や色とりどりの草花が咲き誇っているらしい、とアリスから優希は聞いていた。そして今はもう、あの森しか草花や木がちゃんと育っている場所はないと思われる……とのことだった。
「ここも本当はとても綺麗な草原だったんだ。一面綺麗な黄緑色で、春になると黄色の花がいっぱい咲いて……ワンダーランドは本当に素晴らしい所だったのに……」
歩きながらアリスがぐっと唇を噛み締めながら呟いた。
「そうなんだ……。魔女を倒せば、元の世界に、元のワンダーランドに戻るのかな」
アリスの言葉を聞きながら、優希はぎゅっと拳を握り締める。自分に何ができるか分からないけど、少しでも役に立ちたい、そう思っていた。
「そうだね。ホワイトキャットが来てくれたから、きっと元に戻ると思うよ」
横を歩くジェイクが尻尾を揺らしながら優希を見上げた。
「うんっ、そうだよっ! 僕達にはホワイトキャットがついてるんだからっ」
俯きながら歩いていたアリスは、ジェイクの言葉を聞きパッと顔を上げる。そして大きな目を輝かせながら優希をじっと見つめたのだった。
「ええっ……なんか俺、責任重大?」
先程自分にも何かできることが……と考えていた優希だったが、急に2人から期待の目を向けられプレッシャーを感じていた。
「ふふっ、大丈夫だよっ。皆でワンダーランドを取り戻そうよっ」
落ち込んでいたアリスはすっかり元気を取り戻したようだ。黒い猫耳もぴんと上がり、尻尾も上がってゆらゆらと揺れている。
その様子を『可愛いな』と見つめながら、優希は「うん」と頷くのだった。
森を出てから2時間。少し先に川が見えてきた。しかし川は土色をしており、とても生き物が住めるような状況ではなかった。川までこんな状態になってしまっているとは。このままではワンダーランドは本当に滅びてしまうのではないだろうか、と優希は心を痛めていた。
「西の森まではあとどれくらい?」
気持ちが沈むのは体の疲れも関係しているのかもしれない。既に歩き始めて10キロ程歩いていると思われる。
優希はこれまでの疲れも溜まってぐったりとしていた。
「う~ん、まだあるかなぁ。お昼前には着けるとは思うけど……。もう少し行くと湖があるんだ。あそこはまだ水が綺麗なはずだから着いたら少し休もう」
ジェイクはすっかり元気のなくなっている優希に気が付き、じっと見上げながらそう提案した。
「湖っ。ちょっと楽しみ」
「昔は本当に綺麗な湖だったんだっ。赤い花が沢山咲いててね」
ジェイクの話で優希は少しだけ元気を取り戻す。そして2人の会話にアリスも入ってきた。昔を思い出しているのか耳をぴくぴくとさせながらふふっと笑っている。
「昔はよく皆で遊びに行ってたね」
ジェイクも少し上を見上げながら尻尾を揺らす。
「へぇ……皆って?」
頷きながらもジェイクの言葉が気になり、優希はちらりと横を歩くジェイクを見下ろす。
「うん、俺とアリスとエリスとルイ。あの頃は皆一緒で楽しかったなぁ」
ふんふんと鼻を鳴らしながらジェイクが答える。
「エリス? ルイは瑠依さんなのかな……」
初めて出てくる名前に優希は首を傾げる。そして『ルイ』の名前を聞いてあの青年を思い出していた。
「エリスは僕の双子の兄弟だよ」
そう言って横から覗き込むようにしてアリスが答えた。
「え? アリスの双子の兄弟っ!?」
思わず声を上げてしまった。こんな可愛い男の子がもう1人いるなんて……。
「うん、いつも4人で遊んでた。……あの頃に戻れるのかな」
明るく返事をしたアリスだったが、両手を頭の後ろで組むと、再び落ち込んだ表情になっていた。
きっと綺麗な湖と花々の中で、4人で楽しく話したり遊んだりしていたのだろう。瑠依も優しそうな雰囲気であったし、アリスもジェイクも明るい。そしてまだ会ったことはないが、きっとエリスもアリスに似て、可愛らしく明るい少年なんだろうと想像する。優希は2人の話を聞きながら、なんとかして元通りにしないと、と再び気合いを入れていた。
「ほら、あそこだよ」
話をしているうちに湖の近くまで辿り着いていた。ジェイクは鼻を先の方角に向け、優希に声を掛ける。
ジェイクが言った先には大きな木が1本立っているのが見えた。しかしそれも枯れてしまって葉はひとつもない。恐らく元々はとても緑がいっぱいに広がっていた、大きな木だったんだろうというのが窺える程、立派な木である。
そしてその木の向こう……今までの景色とは違う、深い緑色が一面に広がる何かが見えた。
「え……」
ぼそりと呟いたかと思うと、突然アリスが走り出した。
「アリスっ」
優希もそんなアリスに驚いて後を追う。だが、疲れが溜まっているのを忘れていたのか、走り出した途端に足が絡まって転びそうになる。
「ユウキっ」
すぐにジェイクが自分の体を寄せて優希を支えた。優希はなんとか転ばずに、自分の腰の横にするりと入ってきたジェイクに凭れかかる。ふわりとした感触に思わず体の力が抜け、そのまま座り込んでしまった。
「ユウキ、大丈夫?」
ジェイクが心配そうに優希を振り返る。と、先程走って湖へ向かっていたアリスの叫んだ声が聞こえた。
どうしたのかと2人はアリスの方に目をやる。
「そんな……」
アリスは湖を見て愕然としていた。顔は青ざめ、口を押えてそのまま崩れるように座り込んでしまった。
「ユウキ、俺に乗って」
アリスを見ていたジェイクは、伏せをして優希の方をちらりと見る。動けなくなってしまった優希を乗せてくれるというのだ。
アリスの様子も心配の為、優希は頷くとゆっくりジェイクの背中に乗る。そしてそれを確認するとジェイクは立ち上がってアリスの元へと歩き出した。
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