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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第23話
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「セバスチャンっ」
優希も思わず声を上げる。なぜか分からないが妙な安心感があった。家に帰ってきたような、そんな感覚だった。
「ホワイトキャット……無事で良かった。で? ジェイクは俺に何の用なんだ?」
木の上からちらりと優希を見下ろし、セバスチャンはぼそりと呟いた。そしてジェイクの方を見ると、何とも冷たい口調でそう訊いたのだった。
「セバスチャン……そんな言い方はないだろう? 大事なホワイトキャットを守ったのに……」
ジェイクはおすわりすると耳と尻尾をたらんと垂らし、しょぼくれた様子で上目遣いにセバスチャンを見る。
「ふんっ、そんなのは当たり前だろう? それくらいしか能がないんだからな」
「ちょっとっ、俺に対して当たりが強くない?」
ふいっと横を向くセバスチャンに、ジェイクは4本足で立ち上がると思わず声を上げる。
「ホワイトキャット?」
そんなやり取りをしていると、後ろの方からアリスの声が聞こえて、優希は急いでそちらを振り返った。
「アリスっ!」
ちょうど後ろの方向からこちらに向かって歩いてきていたアリスの姿を見つけ、優希は嬉しそうに声を上げる。その声を聞いてアリスが駆け寄ってきた。
「良かったっ! ホワイトキャットっ! 無事だったんだねっ!」
ぎゅうっとアリスに抱きつかれて優希は驚きと共に顔が赤くなる。こんな美少年に抱きつかれることなんて生まれて初めてである。
「う、うん……なんとか」
「ユウキは俺が助けてここまで連れて来たんだからね」
アリスに抱きつかれたまま狼狽える優希をちらりと見上げ、横からジェイクが口を挟んだ。
「ユウキ?」
ジェイクの言葉にアリスは優希から離れ、ことんと首を傾げる。
「ユウキだよ。ね?」
そう言ってジェイクは優希を見上げている。
「あっ! そうだった。アリスにはまだ名乗ってなかったね。ごめんね。俺、優希っていうんだ。相澤優希」
一瞬何の話をしているんだろう? と優希も一緒に首を傾げていたのだが、ふとアリスに名乗っていなかったことを思い出し、慌てて自分の名前を言ったのだった。
「ユウキ? ホワイトキャットの名前?」
アリスはじっと優希を見つめている。ぴんと立った耳と大きな瞳に見つめられ、優希はなんだか緊張していた。
「う、うん。そうだよ。優希っていうんだ」
「ふぅ~ん。へ~え。で、なんでジェイクは知ってるの?」
緊張している優希をちらりと見た後、今度はジェイクに向き直ってじろりと見下ろす。
「なんでって、教えてもらったからだよ。何か問題?」
ジェイクはおすわりするとしれっと答える。その瞬間、アリスの耳がぴくぴくっと動き、尻尾がぶわっと逆立ったのが見えた。
その様子を見て優希は「えっ」と呟き、2人の様子をおろおろと見つめていた。
「問題? すっごい問題だよっ! 僕だって知らなかったのになんでジェイクが知ってるんだよっ! まさか一晩中ずっと一緒だったの? 何? もしかして浮気?」
アリスはジェイクの前に移動すると、腰に手を当てぐいっと顔をジェイクに寄せて問い詰める様に言葉を並べた。
「え……?」
そばで2人の様子を動揺しながら見ていた優希は、アリスの言葉に思わずぽかんと口が開いてしまった。
(浮気?)
一体、誰と誰が浮気をして、一体誰が浮気をされたというのか。
「何言ってるの? 浮気じゃないよ。そんなことするわけないだろ? 俺はアリス一筋なんだから」
ジェイクがそう言ってアリスの顔に自分の顔をするりと頬ずりするように当てる。
「どうだかっ」
そう言ってアリスはジェイクをどんと突き飛ばすように両手で押すと、ぱっとジェイクから離れ後ろを向いて腕を組む。相変わらず耳も尻尾もぴんと立っている。尻尾は毛が逆立ったままおさまっていないようだ。
「え、ちょっと待って……え? ジェイクとアリスは付き合ってるの?」
2人の会話を聞いて漸く合点のいった優希は、驚いた表情で2人に向かって問い掛ける。
「そうだよ。好きな子がいるって言ったでしょ?」
相変わらずジェイクはしれっとして優希の質問に答えていた。
「ふむ……。ジェイクとホワイトキャットはキスしたんじゃないのか?」
すると突然、今まで黙って見ていたセバスチャンが口を挟んだ。その言葉に優希はぎょっとして顔を赤らめる。そしてアリスの尻尾が更に逆立つ。
「はあぁあ?」
アリスの大きな目が更に大きくなってジェイクを睨んでいる。
優希はその様子を見て今度は青ざめていた。人間に戻す為とはいえ、浮気でもないとはいえ、事実ではあることに何とも後ろめたさを感じてしまった。そして、『なんで余計なことを言うんだ』と、火に油を注いだセバスチャンのことを恨めしくも思っていたのだった。
「ど・お・い・う・こ・と?」
ぎろりと睨むアリスにジェイクはふぅと深く溜め息をついた。
「だから、浮気じゃないって。ホワイトキャットを人間に戻すにはキスすることが条件なんだよ。知ってるでしょ?」
再び4本足で立ち上がると睨むアリスに近付きながら話す。アリスはそんなジェイクをじっと睨み付けたまま見下ろしていた。
「それ、他に方法ってないんだよね?」
2人のやり取りを見守っていた優希だったが、ふと思い出したようにセバスチャンを見上げ尋ねてみた。
「うむ。そうだな。俺は他に方法は知らん。あるかもしれんが」
セバスチャンは淡々と答える。そもそもなぜその方法を知っているのか――。
「この方法ってなんで分かったの?」
疑問に思ったことをすぐに口に出して聞いてみた。誰かがそうしたのを見たのか、それともセバスチャン自身が?
「秘密だ」
「えーっ!」
しれっと答えて横を向いてしまったセバスチャンに、思わず優希は声を上げる。
「もういいよ。ジェイクは後でお仕置きね。それより早くグスターヴァルの所に行かないと」
いつの間にか膨らんでいた尻尾も元通りになっていたアリスが淡々と話す。ちらりとジェイクを睨み付けた後で。
「そうだったっ!」
アリスの言葉で優希も大事なことを思い出す。エーテルの剣を奪いに行かないといけないのだ。海斗を助ける為に。
「あ、そうだ。ジェイクも一緒に来てよ。なんかあった時に役に立つでしょ」
アリスがぽんと手を打つ。しかし言ってる内容はなかなか酷い。
「言い方。まぁ行くつもりでいたよ。ユウキとも約束したし」
「ふぅん?」
なんだか2人のやり取りがピリピリとしていて、優希はいたたまれない気持ちになっていた。
「そうだな、それがいいだろう。ジェイクも2人を助けてやってくれ」
2人の空気を変えるように、セバスチャンが上からそう話した。その声で優希も上を見上げた。セバスチャンは大きく羽を広げている。大きな梟だと思ったが、羽を広げると更に大きく見えた。まるで黒いマントのようにも見える。
「もちろんだよ」
ジェイクはそう言っておすわりすると、すっと右の前足を上げて話す。
その様子を『なんか可愛い』と思ってしまった優希であった。そしてそのジェイクの態度は、さっきまで怒っていたアリスの気持ちも優希と同じようにしていたのだから、なかなかの策士かもしれない。
優希も思わず声を上げる。なぜか分からないが妙な安心感があった。家に帰ってきたような、そんな感覚だった。
「ホワイトキャット……無事で良かった。で? ジェイクは俺に何の用なんだ?」
木の上からちらりと優希を見下ろし、セバスチャンはぼそりと呟いた。そしてジェイクの方を見ると、何とも冷たい口調でそう訊いたのだった。
「セバスチャン……そんな言い方はないだろう? 大事なホワイトキャットを守ったのに……」
ジェイクはおすわりすると耳と尻尾をたらんと垂らし、しょぼくれた様子で上目遣いにセバスチャンを見る。
「ふんっ、そんなのは当たり前だろう? それくらいしか能がないんだからな」
「ちょっとっ、俺に対して当たりが強くない?」
ふいっと横を向くセバスチャンに、ジェイクは4本足で立ち上がると思わず声を上げる。
「ホワイトキャット?」
そんなやり取りをしていると、後ろの方からアリスの声が聞こえて、優希は急いでそちらを振り返った。
「アリスっ!」
ちょうど後ろの方向からこちらに向かって歩いてきていたアリスの姿を見つけ、優希は嬉しそうに声を上げる。その声を聞いてアリスが駆け寄ってきた。
「良かったっ! ホワイトキャットっ! 無事だったんだねっ!」
ぎゅうっとアリスに抱きつかれて優希は驚きと共に顔が赤くなる。こんな美少年に抱きつかれることなんて生まれて初めてである。
「う、うん……なんとか」
「ユウキは俺が助けてここまで連れて来たんだからね」
アリスに抱きつかれたまま狼狽える優希をちらりと見上げ、横からジェイクが口を挟んだ。
「ユウキ?」
ジェイクの言葉にアリスは優希から離れ、ことんと首を傾げる。
「ユウキだよ。ね?」
そう言ってジェイクは優希を見上げている。
「あっ! そうだった。アリスにはまだ名乗ってなかったね。ごめんね。俺、優希っていうんだ。相澤優希」
一瞬何の話をしているんだろう? と優希も一緒に首を傾げていたのだが、ふとアリスに名乗っていなかったことを思い出し、慌てて自分の名前を言ったのだった。
「ユウキ? ホワイトキャットの名前?」
アリスはじっと優希を見つめている。ぴんと立った耳と大きな瞳に見つめられ、優希はなんだか緊張していた。
「う、うん。そうだよ。優希っていうんだ」
「ふぅ~ん。へ~え。で、なんでジェイクは知ってるの?」
緊張している優希をちらりと見た後、今度はジェイクに向き直ってじろりと見下ろす。
「なんでって、教えてもらったからだよ。何か問題?」
ジェイクはおすわりするとしれっと答える。その瞬間、アリスの耳がぴくぴくっと動き、尻尾がぶわっと逆立ったのが見えた。
その様子を見て優希は「えっ」と呟き、2人の様子をおろおろと見つめていた。
「問題? すっごい問題だよっ! 僕だって知らなかったのになんでジェイクが知ってるんだよっ! まさか一晩中ずっと一緒だったの? 何? もしかして浮気?」
アリスはジェイクの前に移動すると、腰に手を当てぐいっと顔をジェイクに寄せて問い詰める様に言葉を並べた。
「え……?」
そばで2人の様子を動揺しながら見ていた優希は、アリスの言葉に思わずぽかんと口が開いてしまった。
(浮気?)
一体、誰と誰が浮気をして、一体誰が浮気をされたというのか。
「何言ってるの? 浮気じゃないよ。そんなことするわけないだろ? 俺はアリス一筋なんだから」
ジェイクがそう言ってアリスの顔に自分の顔をするりと頬ずりするように当てる。
「どうだかっ」
そう言ってアリスはジェイクをどんと突き飛ばすように両手で押すと、ぱっとジェイクから離れ後ろを向いて腕を組む。相変わらず耳も尻尾もぴんと立っている。尻尾は毛が逆立ったままおさまっていないようだ。
「え、ちょっと待って……え? ジェイクとアリスは付き合ってるの?」
2人の会話を聞いて漸く合点のいった優希は、驚いた表情で2人に向かって問い掛ける。
「そうだよ。好きな子がいるって言ったでしょ?」
相変わらずジェイクはしれっとして優希の質問に答えていた。
「ふむ……。ジェイクとホワイトキャットはキスしたんじゃないのか?」
すると突然、今まで黙って見ていたセバスチャンが口を挟んだ。その言葉に優希はぎょっとして顔を赤らめる。そしてアリスの尻尾が更に逆立つ。
「はあぁあ?」
アリスの大きな目が更に大きくなってジェイクを睨んでいる。
優希はその様子を見て今度は青ざめていた。人間に戻す為とはいえ、浮気でもないとはいえ、事実ではあることに何とも後ろめたさを感じてしまった。そして、『なんで余計なことを言うんだ』と、火に油を注いだセバスチャンのことを恨めしくも思っていたのだった。
「ど・お・い・う・こ・と?」
ぎろりと睨むアリスにジェイクはふぅと深く溜め息をついた。
「だから、浮気じゃないって。ホワイトキャットを人間に戻すにはキスすることが条件なんだよ。知ってるでしょ?」
再び4本足で立ち上がると睨むアリスに近付きながら話す。アリスはそんなジェイクをじっと睨み付けたまま見下ろしていた。
「それ、他に方法ってないんだよね?」
2人のやり取りを見守っていた優希だったが、ふと思い出したようにセバスチャンを見上げ尋ねてみた。
「うむ。そうだな。俺は他に方法は知らん。あるかもしれんが」
セバスチャンは淡々と答える。そもそもなぜその方法を知っているのか――。
「この方法ってなんで分かったの?」
疑問に思ったことをすぐに口に出して聞いてみた。誰かがそうしたのを見たのか、それともセバスチャン自身が?
「秘密だ」
「えーっ!」
しれっと答えて横を向いてしまったセバスチャンに、思わず優希は声を上げる。
「もういいよ。ジェイクは後でお仕置きね。それより早くグスターヴァルの所に行かないと」
いつの間にか膨らんでいた尻尾も元通りになっていたアリスが淡々と話す。ちらりとジェイクを睨み付けた後で。
「そうだったっ!」
アリスの言葉で優希も大事なことを思い出す。エーテルの剣を奪いに行かないといけないのだ。海斗を助ける為に。
「あ、そうだ。ジェイクも一緒に来てよ。なんかあった時に役に立つでしょ」
アリスがぽんと手を打つ。しかし言ってる内容はなかなか酷い。
「言い方。まぁ行くつもりでいたよ。ユウキとも約束したし」
「ふぅん?」
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「そうだな、それがいいだろう。ジェイクも2人を助けてやってくれ」
2人の空気を変えるように、セバスチャンが上からそう話した。その声で優希も上を見上げた。セバスチャンは大きく羽を広げている。大きな梟だと思ったが、羽を広げると更に大きく見えた。まるで黒いマントのようにも見える。
「もちろんだよ」
ジェイクはそう言っておすわりすると、すっと右の前足を上げて話す。
その様子を『なんか可愛い』と思ってしまった優希であった。そしてそのジェイクの態度は、さっきまで怒っていたアリスの気持ちも優希と同じようにしていたのだから、なかなかの策士かもしれない。
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