White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第22話

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 自分は人間の姿に戻ったにも拘わらず、動物の姿のままのジェイクを見て優希は唖然としてしまった。
「な、なんで!?」
「ふふっ、ごめんね。実は戻る方法というか、人間と動物に変化するのに2通りあるんだよ」
 ジェイクはおすわりした状態のまま優希をじっと見上げる。
「2通りって……」
 じっと犬の姿のジェイクを見つめたまま優希は呟くようにジェイクの言葉を繰り返す。
「うん、お互いが人間もしくは動物に変化するにはキスをする。で、どちらか一方だけが変わるにはその相手の口を舐めるんだよ。そうすると、今みたいにユウキだけ人間に戻るっていうわけ」
「な、なるほど……」
 ジェイクの説明に納得はするものの『なんでそんなエロい方法しかないんだ』と心の中で突っ込んでいた。
「でも、どうして俺だけ?」
 優希が不思議そうに首を傾げると、思い出したようにジェイクは体を動かし、伏せの状態になった。
「本当は魔女に見つかるかもしれないから避けたかったんだけど、この際仕方ないかなって。ユウキ、乗って。人間の体でも俺の背中に乗ることできるでしょ? こっちなら掴めるから大丈夫だよね?」
 そう言って首だけ動かし、優希の方を見ながらジェイクが答える。
「背中に……」
 ふわふわの白い毛をドキドキしながらそっと触る。
「うん、早く乗って」
 今度は前を向いてジェイクが話す。
 優希はジェイクの背中を撫でながらゆっくりと跨いでみた。見た目以上に大きいことが分かる。虎かライオンくらいあるだろうか。海斗の家のドーベルマン2匹が可愛く思える程だ。ふわふわの長い毛、しかしその背中はがっちりとしていて、そして温かい。昔見たアニメを思い出しながら優希はドキドキと自分の心臓の音を感じていた。
「ユウキ、俺にしっかり掴まってね」
 ちらりとジェイクは優希を振り返る。そして優希がぎゅっと自分に掴まったことを確認すると、前を見てゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫そう?」
 再び優希を振り返る。
「うん……たぶん」
 優希は緊張しながら答える。そして手をジェイクの首元に、足を腹の横にぎゅっとしがみつくようにして掴まった。頬にジェイクのふわふわの毛が当たり、くすぐったく感じる。
「よしっ! じゃあ行くよっ」
 そう言った瞬間、ジェイクが再び大きく蹴って走り出した。
「うわっ」
 思わず声が出る。そして全身で風を感じながらも優希は目を瞑ってぎゅっとジェイクにしがみつく。振動はあるものの、できるだけ揺らさないようにジェイクが走ってくれているのも感じていた。先程咥えられていた時とは違い、若干の怖さはあるものの、少しだけ高揚感も感じていた。今自分は犬に乗っているんだと。
 子供の頃に見たアニメの影響で、大きな犬に乗ってみたいと思っていた。まさかそれが現実になるとは思ってもみなかったのだ。ただ、思い描いていたのとは多少違っていたのだが……。
 必死に掴まりながらそんなことを考えていた。

「ユウキ、ちょっと揺れるかもしれないからしっかり掴まって!」
 10分程走った時に突然ジェイクが走りながらそう言った。優希は何事か? と思ったが、これまでの経験からすぐに更に力を入れてジェイクにぎゅっとしがみつく。
 優希が力を入れたのとほぼ同時くらいに突然ふわりと体が浮くような感覚があった。
「えっ!?」
 まるで飛んでいるかのような浮遊感に思わず声を上げてしまった。
 そしてずっと目を瞑っていた優希は同時に目を開けてみた。
 目の前に広がったのは……森のような木々がすぐ目の前に――と思った瞬間、
「うわぁっ!」
 今度はまるでジェットコースターのような、ついこの間乗った『タワー・オブ・テラー』で体験した時のような……どこか高い所から落ちる感覚があった。そしてその次の瞬間には、ぐらんと大きな衝撃と共に体が一瞬浮いて再びジェイクの背中へぽすっと落ちる。
「ひっ……」
 ぎゅっとジェイクに掴まりながらぼそりと声が出る。一体何がどうなったのか。
「ユウキ? 大丈夫?」
 ジェイクは動くことなく背中に乗る優希に声を掛けた。
「な、何今の……」
 声を震わせながら優希が答える。
「ごめんね、あそこから飛び下りたから」
 そう言ってジェイクは顔だけ斜め後ろの方を見た。
「え?」
 優希はゆっくり体を起こすと、ジェイクが見つめる先を自分も振り返って見てみた。
 振り返った先には岩壁が見える。なぜ岩壁が? とゆっくり上の方を見上げてみる。するとそこは崖になっており、どうやらあの崖からここに飛び下りたらしい。優希はその光景を見ながらじわじわと理解した。そして全身に電気が走ったかのようにぞくりとした。
(あの高さから飛び下りた?)
 崖の高さは5階建てのビルくらいの高さがあったのだ。
「ひっ……」
 再び優希は声が漏れる。あの高さから飛び下りたなんて、ありえない。
「じゃあ、行くよ。時間ないからね」
 怯える優希を気にすることなく、ジェイクは再び走り出す。あの高さから飛び下りたというのに全く平気な様子だった。
「ちょっ!」
 体を起こしていた優希は落ちそうになりながらも、慌てて顔を前に向けると、再びジェイクにぎゅっとしがみつく。
 相変わらずジェイクは行動が早すぎる。もうワンテンポ待ってほしいと考える優希だった。

 森の中と思われる場所を5分程走ったところで見覚えのある景色が見えてきた。
 草も花もない、地面には沢山の落ち葉が敷き詰められている。
「あっ」
 優希が声を上げるのとほぼ同時にジェイクはゆっくりと止まった。
「着いたよ」
 そこは昨日優希が見たあの森だった。
 高い木々が聳え立つ中、中央に立つ古びた1本の大きな木。
 昨日のことなのに懐かしさすら感じてしまう。
 優希はゆっくりとジェイクの背中から下りる。その後すぐに、
「セバスチャンっ!」
 ジェイクが大きく声を上げた。優希も周りをきょろきょろと見回す。

「うるさいな。そんな大声を出さなくても聞こえてるよ」

 聞き覚えのある若い男の声がした。
 見上げた先にいたのは、その古い大きな木の枝の上に止まっていた1羽の大きな梟。セバスチャンであった。
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