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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第17話
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ヒヤリとした岩の感触と何かふわふわと温かい感触とが同時に感じられ優希は目を覚ました。
(ここは?……)
辺りを見回すとそこは広く、そして高さのある洞窟のような場所だった。
薄暗い空間の中、ごつごつとした黒い大きな岩が見える。そして――。
すぐ後ろに何かふわふわとした温かいもの……振り返って見てみると、
「うわっ!」
思わず声を上げてしまった。見えたのは、驚くほど大きな白い犬のような動物。なんと見上げる程の大きさなのだ。こんなに大きな犬がいるだろうか。いや、犬なのかどうかも分からない。見た感じは狼や何かのアニメで見た山犬のようにも見える。
しかし、その動物は眠っているようでじっとして動かない。寝息のような音が聞こえてくる。
優希は緊張しながらもその動物に触れようとした――その時、
「えっ!?」
自分の目に映る『自分の手』にぎょっとする。
「なに、これ……嘘だろ?」
もう一度確かめるように自分の手を見てみる……白く小さな動物の足。前足というべきか。裏側には肉球が……。
「ええええええっ!!」
思わず大声を上げてしまった。その声で眠っていた白い大きな犬のような動物がビクッと体を動かしたのが見えた。
(ま、まずいっ)
優希は焦って逃げようとするが、すぐにぐいっと何かに体を掴まれた。
そぉっと振り返ると、大きな青い目がじろりとこちらを見ていた。
「ひぃっ」
思わず飛び上がりそうになるが、体が動かない。一体何が起こっているのか……。
優希が恐れと混乱で頭をフル回転していると、ふと掴んでいたものが離れ体が自由になる。そして上から若い男性のような声が聞こえた。
「ホワイトキャット。怖がらないで、俺はジェイク。君の味方だよ」
ふるふると体を震わせながらそっと声の方を見上げる。
やはり白い大きな犬のようだった。ピンと立った耳、ふわふわの長い白い毛、そして同じくふわふわした長い大きな白い尻尾。ゆっくりと尾がゆらゆらと揺れている。
ジェイクと名乗った白い犬は、大きな青い目でじっと優希を見下ろしていた。
「ジェ、ジェイク? えっとこれは一体?」
もう何がなんだか分からなくなっている優希は、目の前にいるジェイクも恐らくこのワンダーランドの住人だろうと予想し、まずは事情を確かめようと訊いてみる。
「間に合ってよかった。セバスチャンから君とアリスが危ないって聞いて急いで来たんだよ。君は人間だと聞いていたけど、本当にホワイトキャットだったんだね」
ジェイクは『おすわり』の姿勢になるとじっと優希を見下ろしながらそう話した。
(ホワイトキャット?)
優希はその言葉にもう一度自分の手を見てみる。白い猫のような手――。
「え? 猫!?」
思わず声を上げる。漸く自分の姿を理解できた。白い猫の姿になっているのだ。手だけじゃなく、足も、そして尻尾まである……。
周りが大きいのではなく、自分が小さい白猫になっていた。
優希はそのまま呆然としてしまった。
「俺は普通の犬より大きいから人間でも乗せたりすることはできるけど、あの場から逃げるには君がそのサイズで助かったよ。でも……これで奴らにも君の正体がバレてしまったから少し厄介だな」
「厄介って?」
呆然としていた優希はふとジェイクの最後の言葉に反応して見上げる。
「君も聞いているか分からないけど、『ホワイトキャット』はこのワンダーランドにとって救世主なんだよ。逆に言えば奴らにとっては邪魔な存在。消そうとしてくるかもしれない」
「ええっ!」
犬であるジェイクの表情は分からなかったが、口調から酷く困惑していることが窺える。そして再び優希が声を上げる。まさか自分が狙われる立場になるとは。
「どうすればいいんだろう……グスターヴァルから剣を奪わないといけないのにっ」
「グスターヴァル?」
優希もおすわりの状態で考え込む。そして優希の話を聞いてジェイクが顔を近付けてきた。
「わっ! え? 何?」
急に大きな犬の顔が目の前に来て、驚いて思わず後ろにぴょんと避ける。長く細い尻尾はピンと立ち、4本足で立ったままじっとジェイクを見上げる。
そういった動作を自然に行っていることに優希自身は気が付いていなかったのだが。
「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだ。グスターヴァルって西の森にいる守り神だろ? 俺も見たことはないけど、相当危険だって聞く。グスターヴァルから剣を奪うって、一体何の為に……」
ジェイクは優希から少し離れると尻尾を大きく振り、そして今度は『伏せ』の姿勢を取る。
「えっと、俺の……俺の友達がここの魔女っていうのに捕まっていて。助ける為にはグスターヴァルが持っているっていう剣を奪わないといけないってセバスチャンから聞いたんだ。いや、剣はまた別の友達から必要だって聞いたんだけど……」
優希はジェイクに事情を話すが、海斗のことを『恋人』とは言えずにいた。
「なるほど……君は本当にホワイトキャットなんだな。分かった、俺も協力する」
そう言ってジェイクは4本足で立ち、優希の方をじっと見つめる。
「え? ジェイクも? ……それは心強いけど、でも……」
優希は驚いてジェイクを見上げるが、すぐにうな垂れてしまう。危険だと言われているのに、これ以上は申し訳ないといった気持ちになっていた。
「大丈夫だよ。君がホワイトキャットなんだから」
そう言ってジェイクは優希に近付き、優希の頬をべろりと舐めた。
「ひぇっ!?」
大きな舌で頬を舐められ体がぞくりとした。目をぱちぱちとさせ、こちらを見下ろすジェイクをじっと見上げた。
するともう一度、ジェイクが今度は反対側の頬をペロッと舐める。
いや、犬だったらおかしくはないだろうが、元は人間だと思うとこの行為は一体?
優希はぞくぞくと体が震えるのを感じた。
(ここは?……)
辺りを見回すとそこは広く、そして高さのある洞窟のような場所だった。
薄暗い空間の中、ごつごつとした黒い大きな岩が見える。そして――。
すぐ後ろに何かふわふわとした温かいもの……振り返って見てみると、
「うわっ!」
思わず声を上げてしまった。見えたのは、驚くほど大きな白い犬のような動物。なんと見上げる程の大きさなのだ。こんなに大きな犬がいるだろうか。いや、犬なのかどうかも分からない。見た感じは狼や何かのアニメで見た山犬のようにも見える。
しかし、その動物は眠っているようでじっとして動かない。寝息のような音が聞こえてくる。
優希は緊張しながらもその動物に触れようとした――その時、
「えっ!?」
自分の目に映る『自分の手』にぎょっとする。
「なに、これ……嘘だろ?」
もう一度確かめるように自分の手を見てみる……白く小さな動物の足。前足というべきか。裏側には肉球が……。
「ええええええっ!!」
思わず大声を上げてしまった。その声で眠っていた白い大きな犬のような動物がビクッと体を動かしたのが見えた。
(ま、まずいっ)
優希は焦って逃げようとするが、すぐにぐいっと何かに体を掴まれた。
そぉっと振り返ると、大きな青い目がじろりとこちらを見ていた。
「ひぃっ」
思わず飛び上がりそうになるが、体が動かない。一体何が起こっているのか……。
優希が恐れと混乱で頭をフル回転していると、ふと掴んでいたものが離れ体が自由になる。そして上から若い男性のような声が聞こえた。
「ホワイトキャット。怖がらないで、俺はジェイク。君の味方だよ」
ふるふると体を震わせながらそっと声の方を見上げる。
やはり白い大きな犬のようだった。ピンと立った耳、ふわふわの長い白い毛、そして同じくふわふわした長い大きな白い尻尾。ゆっくりと尾がゆらゆらと揺れている。
ジェイクと名乗った白い犬は、大きな青い目でじっと優希を見下ろしていた。
「ジェ、ジェイク? えっとこれは一体?」
もう何がなんだか分からなくなっている優希は、目の前にいるジェイクも恐らくこのワンダーランドの住人だろうと予想し、まずは事情を確かめようと訊いてみる。
「間に合ってよかった。セバスチャンから君とアリスが危ないって聞いて急いで来たんだよ。君は人間だと聞いていたけど、本当にホワイトキャットだったんだね」
ジェイクは『おすわり』の姿勢になるとじっと優希を見下ろしながらそう話した。
(ホワイトキャット?)
優希はその言葉にもう一度自分の手を見てみる。白い猫のような手――。
「え? 猫!?」
思わず声を上げる。漸く自分の姿を理解できた。白い猫の姿になっているのだ。手だけじゃなく、足も、そして尻尾まである……。
周りが大きいのではなく、自分が小さい白猫になっていた。
優希はそのまま呆然としてしまった。
「俺は普通の犬より大きいから人間でも乗せたりすることはできるけど、あの場から逃げるには君がそのサイズで助かったよ。でも……これで奴らにも君の正体がバレてしまったから少し厄介だな」
「厄介って?」
呆然としていた優希はふとジェイクの最後の言葉に反応して見上げる。
「君も聞いているか分からないけど、『ホワイトキャット』はこのワンダーランドにとって救世主なんだよ。逆に言えば奴らにとっては邪魔な存在。消そうとしてくるかもしれない」
「ええっ!」
犬であるジェイクの表情は分からなかったが、口調から酷く困惑していることが窺える。そして再び優希が声を上げる。まさか自分が狙われる立場になるとは。
「どうすればいいんだろう……グスターヴァルから剣を奪わないといけないのにっ」
「グスターヴァル?」
優希もおすわりの状態で考え込む。そして優希の話を聞いてジェイクが顔を近付けてきた。
「わっ! え? 何?」
急に大きな犬の顔が目の前に来て、驚いて思わず後ろにぴょんと避ける。長く細い尻尾はピンと立ち、4本足で立ったままじっとジェイクを見上げる。
そういった動作を自然に行っていることに優希自身は気が付いていなかったのだが。
「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだ。グスターヴァルって西の森にいる守り神だろ? 俺も見たことはないけど、相当危険だって聞く。グスターヴァルから剣を奪うって、一体何の為に……」
ジェイクは優希から少し離れると尻尾を大きく振り、そして今度は『伏せ』の姿勢を取る。
「えっと、俺の……俺の友達がここの魔女っていうのに捕まっていて。助ける為にはグスターヴァルが持っているっていう剣を奪わないといけないってセバスチャンから聞いたんだ。いや、剣はまた別の友達から必要だって聞いたんだけど……」
優希はジェイクに事情を話すが、海斗のことを『恋人』とは言えずにいた。
「なるほど……君は本当にホワイトキャットなんだな。分かった、俺も協力する」
そう言ってジェイクは4本足で立ち、優希の方をじっと見つめる。
「え? ジェイクも? ……それは心強いけど、でも……」
優希は驚いてジェイクを見上げるが、すぐにうな垂れてしまう。危険だと言われているのに、これ以上は申し訳ないといった気持ちになっていた。
「大丈夫だよ。君がホワイトキャットなんだから」
そう言ってジェイクは優希に近付き、優希の頬をべろりと舐めた。
「ひぇっ!?」
大きな舌で頬を舐められ体がぞくりとした。目をぱちぱちとさせ、こちらを見下ろすジェイクをじっと見上げた。
するともう一度、ジェイクが今度は反対側の頬をペロッと舐める。
いや、犬だったらおかしくはないだろうが、元は人間だと思うとこの行為は一体?
優希はぞくぞくと体が震えるのを感じた。
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