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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第10話
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「だからリスって呼ぶんじゃないよっ。分からない子だね」
目の前のアンと名乗ったリスは、相変わらず前足を腰に当てたまま優希を睨み付けるようにして見上げている。
どう見てもその姿はリスにしか見えない。
しかし、そのリスの口から中年女性のような声が聞こえてくるのだ。
まるで不思議の国にでも迷い込んだようだった。
目の前の状況に優希は戸惑っていた。
夢でも見ているのだろうか?
それとも落ちた拍子に頭でも打ったのだろうか。
「何をジロジロ見てるんだいっ。まったく失礼だねっ。そんなに珍しいのかい? アンタ、魔女の使いなんだろ? えらくへっぴり腰なんだねぇ」
リスのアンは右の前足を腰から離すと、まるで指差すように優希の方へと右の前足を向ける。
口調からして、どうやら呆れているようだった。
「なっ!? ち、違うよっ! 俺は魔女の使いなんかじゃないっ! 魔女を倒しに来たんだからっ」
ぽかんと口を開けたままリス達を眺めていた優希であったが、アンの言葉にカッとする。
そして、後ろについていた両手を戻し、前屈みになるとアンに向かって強い口調で言い返した。
「魔女を倒しに来たって? 何をバカなことを言ってんだい。勝てるわけがないだろう。お前さん、一体どこから来たんだい?」
アンはどうやら優希が危険な存在ではないと感じたのか、釣り上がっていた目元も戻り、呆れた口調で優希をじっと見上げた。
「どこって……それよりここは鏡の国なんだよね?」
優希は何て答えたらいいのか分からなかった。
リス達に地名を言ったところで分かるはずもないだろう。
それでは何と説明すればいいのか。
しかし、それよりもふと気になったことを口にする。
本当にここは鏡の国なのだろうか。
「鏡の国? なんだいそれは。ここはワンダーランドだよ。迷子にでもなったのかい?」
アンは首を傾げながらも優希の問いに答える。
そして、心配そうな声色で優希をじっと見上げている。
「え? 鏡の国じゃないのっ? そんな……」
アンの言葉にがっくりとうな垂れる。
自分は間違った所へ来てしまったのだろうか。
瑠依の言う通りに海斗を想っていたのに。
落ち込む優希を見ていたリスの1匹がふと口を開いた。
「ねぇ、セバスチャンに聞いてみたらいいんじゃない?」
まるで少女のような声色で、後ろにいたリスの1匹はそう話したのだった。
「セバスチャン?」
優希は不思議そうに首を傾げる。
今度は一体何なのだ。
今、リスとこうやって話していることでさえ不思議だというのに、次はどんな人物なのだろうか。
いや、動物なのかもしれない。この状況では……。
「あぁ、セバスチャンだったら何か知っているかもしれないね。行ってみるかい?」
今度はまた別のリスがそう話す。中年男性のような声である。
このリス達はもしかしたら家族なのかもしれない。
優希はリスの言葉を聞きながらそんなことをぼんやりと思っていた。
――その時であった。
すぐ後ろに何かの気配を感じた。
ガサガサと葉っぱを踏むような足音がそのすぐ後に聞こえてきた。
優希はハッとして後ろを振り返る。
「あれ? もしかして人間? こんな所に人がいるの?」
振り返った先には、黒いサラサラのショートカットヘアの小柄な少年が優希を見下ろしていた。
年は12、3歳くらいであろうか。
優希達の世界で言うところの中学生くらいのようである。
長めの横髪がさらりと揺れる。
そして、金色の大きな瞳で不思議そうに優希を眺めている。
「アリスっ!」
ふと後ろからリスのアンの声が聞こえた。
驚いたような様子で声を上げたのだった。
「あれ? アンおばさんにダニーおじさん。キティにトムじゃないかっ。元気だった?」
「何を言ってるんだいっ! もうっ、一体どこに行ってたんだよっ。心配したんだからねっ!」
アンの声で彼らの存在に気付き、アリスと呼ばれた少年は嬉しそうに声を掛ける。
しかし、その反応に怒ったかのようにアンが声を上げた。
その様子を優希はリス達とアリスを交互に見ながら呆然としていた。
全く状況が分からない。
そして、いつの間にか自分の存在を忘れ去られているようであった。
「アハハっ。ごめんね。ちょっと調査をしてたんだよ。……それより君は?」
楽しそうに笑った後、アンに向かって微笑したアリスであったが、ふと再び優希をじっと見下ろす。
不思議そうに首を傾げている。
「え……っ!?」
ぼんやりしていた優希は再び視線が自分の方へと向かれ、アリスを見上げた。
その瞬間、あることに気が付いた。
普通の人間もいるんじゃないかと心の中で思っていた優希であったが、彼の頭を見た時に、そこにあるはずもない物を発見したのだった。
サラサラとした黒髪の耳の少し上の方に、これまた黒い動物の耳が見えたのだった。
(コスプレっ!?)
まるで猫耳を付けたコスプレのような姿に優希は唖然とする。
「どうかしたの?」
首を傾げるアリスの頭にある猫耳がぴくぴくっと動いた。
「動いたっ!」
優希は思わず声に出して叫んでいた。
アクセサリーか何かと思っていたその猫耳は、どうやら本物のようであった。
信じられない光景に再び口が開いたまま塞がらない。
「何が?」
アリスは優希の様子に不思議そうにじっと見下ろしているだけであった。
まさか自分の猫耳のことを言われているなど、露ほどにも思っていないのだ。
「そそそ……それ、本物?」
優希は恐る恐るアリスの猫耳を指差す。
「え?」
やはり何のことを言われているのか、指を差されてもまだ分かっていないアリス。
「えっと……だから、猫耳……だよね?」
優希は顔を引き攣らせながらじっとアリスを見上げる。
「え? ミミ?」
アリスはぴくぴくと動く猫耳をそっと手で触りながら首を傾げている。
「一体ここは……ワンダーランドって……」
なんだかとんでもない所に来てしまったようだ。
喋るリスに猫耳が生えている少年。
映画か漫画の世界にでも入り込んでしまった。
そんな気分であった。
目の前のアンと名乗ったリスは、相変わらず前足を腰に当てたまま優希を睨み付けるようにして見上げている。
どう見てもその姿はリスにしか見えない。
しかし、そのリスの口から中年女性のような声が聞こえてくるのだ。
まるで不思議の国にでも迷い込んだようだった。
目の前の状況に優希は戸惑っていた。
夢でも見ているのだろうか?
それとも落ちた拍子に頭でも打ったのだろうか。
「何をジロジロ見てるんだいっ。まったく失礼だねっ。そんなに珍しいのかい? アンタ、魔女の使いなんだろ? えらくへっぴり腰なんだねぇ」
リスのアンは右の前足を腰から離すと、まるで指差すように優希の方へと右の前足を向ける。
口調からして、どうやら呆れているようだった。
「なっ!? ち、違うよっ! 俺は魔女の使いなんかじゃないっ! 魔女を倒しに来たんだからっ」
ぽかんと口を開けたままリス達を眺めていた優希であったが、アンの言葉にカッとする。
そして、後ろについていた両手を戻し、前屈みになるとアンに向かって強い口調で言い返した。
「魔女を倒しに来たって? 何をバカなことを言ってんだい。勝てるわけがないだろう。お前さん、一体どこから来たんだい?」
アンはどうやら優希が危険な存在ではないと感じたのか、釣り上がっていた目元も戻り、呆れた口調で優希をじっと見上げた。
「どこって……それよりここは鏡の国なんだよね?」
優希は何て答えたらいいのか分からなかった。
リス達に地名を言ったところで分かるはずもないだろう。
それでは何と説明すればいいのか。
しかし、それよりもふと気になったことを口にする。
本当にここは鏡の国なのだろうか。
「鏡の国? なんだいそれは。ここはワンダーランドだよ。迷子にでもなったのかい?」
アンは首を傾げながらも優希の問いに答える。
そして、心配そうな声色で優希をじっと見上げている。
「え? 鏡の国じゃないのっ? そんな……」
アンの言葉にがっくりとうな垂れる。
自分は間違った所へ来てしまったのだろうか。
瑠依の言う通りに海斗を想っていたのに。
落ち込む優希を見ていたリスの1匹がふと口を開いた。
「ねぇ、セバスチャンに聞いてみたらいいんじゃない?」
まるで少女のような声色で、後ろにいたリスの1匹はそう話したのだった。
「セバスチャン?」
優希は不思議そうに首を傾げる。
今度は一体何なのだ。
今、リスとこうやって話していることでさえ不思議だというのに、次はどんな人物なのだろうか。
いや、動物なのかもしれない。この状況では……。
「あぁ、セバスチャンだったら何か知っているかもしれないね。行ってみるかい?」
今度はまた別のリスがそう話す。中年男性のような声である。
このリス達はもしかしたら家族なのかもしれない。
優希はリスの言葉を聞きながらそんなことをぼんやりと思っていた。
――その時であった。
すぐ後ろに何かの気配を感じた。
ガサガサと葉っぱを踏むような足音がそのすぐ後に聞こえてきた。
優希はハッとして後ろを振り返る。
「あれ? もしかして人間? こんな所に人がいるの?」
振り返った先には、黒いサラサラのショートカットヘアの小柄な少年が優希を見下ろしていた。
年は12、3歳くらいであろうか。
優希達の世界で言うところの中学生くらいのようである。
長めの横髪がさらりと揺れる。
そして、金色の大きな瞳で不思議そうに優希を眺めている。
「アリスっ!」
ふと後ろからリスのアンの声が聞こえた。
驚いたような様子で声を上げたのだった。
「あれ? アンおばさんにダニーおじさん。キティにトムじゃないかっ。元気だった?」
「何を言ってるんだいっ! もうっ、一体どこに行ってたんだよっ。心配したんだからねっ!」
アンの声で彼らの存在に気付き、アリスと呼ばれた少年は嬉しそうに声を掛ける。
しかし、その反応に怒ったかのようにアンが声を上げた。
その様子を優希はリス達とアリスを交互に見ながら呆然としていた。
全く状況が分からない。
そして、いつの間にか自分の存在を忘れ去られているようであった。
「アハハっ。ごめんね。ちょっと調査をしてたんだよ。……それより君は?」
楽しそうに笑った後、アンに向かって微笑したアリスであったが、ふと再び優希をじっと見下ろす。
不思議そうに首を傾げている。
「え……っ!?」
ぼんやりしていた優希は再び視線が自分の方へと向かれ、アリスを見上げた。
その瞬間、あることに気が付いた。
普通の人間もいるんじゃないかと心の中で思っていた優希であったが、彼の頭を見た時に、そこにあるはずもない物を発見したのだった。
サラサラとした黒髪の耳の少し上の方に、これまた黒い動物の耳が見えたのだった。
(コスプレっ!?)
まるで猫耳を付けたコスプレのような姿に優希は唖然とする。
「どうかしたの?」
首を傾げるアリスの頭にある猫耳がぴくぴくっと動いた。
「動いたっ!」
優希は思わず声に出して叫んでいた。
アクセサリーか何かと思っていたその猫耳は、どうやら本物のようであった。
信じられない光景に再び口が開いたまま塞がらない。
「何が?」
アリスは優希の様子に不思議そうにじっと見下ろしているだけであった。
まさか自分の猫耳のことを言われているなど、露ほどにも思っていないのだ。
「そそそ……それ、本物?」
優希は恐る恐るアリスの猫耳を指差す。
「え?」
やはり何のことを言われているのか、指を差されてもまだ分かっていないアリス。
「えっと……だから、猫耳……だよね?」
優希は顔を引き攣らせながらじっとアリスを見上げる。
「え? ミミ?」
アリスはぴくぴくと動く猫耳をそっと手で触りながら首を傾げている。
「一体ここは……ワンダーランドって……」
なんだかとんでもない所に来てしまったようだ。
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