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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第8話
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優希の反応をちらりと見た後、青年はじっと店の奥の方を見ながら話し続けた。
「鏡に取り込まれた人間は、こちらでの存在自体が消えてしまう。誰も気付かない。その人間自身もね。欲望にまみれ、その欲望に支配されたら最後、体も魂も粉々になり、無の存在となる。魔女に食べられて……。ただ、痛みも苦しみもない。存在が消えてしまうだけ。それでも、許されることじゃない……」
優希は青年の言葉にぞくりと背筋が凍るようであった。
以前の自分を思い出す。自分は鏡に取り込まれかけていた。
嫌な汗が流れてくる。
自分も食べられていた?
「あの鏡はここだけじゃない。世界のあらゆる所に存在する。でも、彼が、海斗君がここの鏡を壊したことで、世界中にある鏡が暴走を始めたんです。鏡が意志を持ち、我々『鏡の使い』を食ってしまった。そして魔女に魂を渡すことなく鏡自身が人間の魂を食っている……」
青年は再び優希を厳しい表情で見つめると、鏡のこと、鏡の正体、そして自分の正体を話す。
口調も段々変わってきていた。
普段の穏やかで丁寧な口調とは違い、どこか強い意志のようなものを感じる。
『鏡の使い』とは何なのか? 彼は一体何の為にこのようなことをしているのか。
彼は味方なのか、敵なのか……?
再び優希の中で混乱が渦巻く。
「…………」
「彼が危ない。きっと彼は魔女に食われてしまう。私はあの世界には行けない……。彼を助けることができるのは、今あなただけです。そして、今後の世界もあなたにかかっている」
じっと考え込んでいた優希に、青年はじっと真剣な眼差しを向けてきた。
とても熱いものを感じる。
「そんな……」
青年の言葉、そして真剣な顔に押されながらも、優希は戸惑っていた。
海斗を助けたい。しかし、自分はどうすればいいのか分からない。
そして、目の前の彼を信じていいのかどうかも……。
「鏡が暴走し続ければ、いずれ、全ての人間を食ってしまうでしょう……。そうなる前に暴走を食い止めねば」
そんな優希に気付いているのか、更に必死に青年は優希に話し続ける。
「どうやって……」
気持ちでは分かっている。でも方法が分からない。
自分に何かできるのか?
優希は青年の顔を直視することができず、少し目を伏せながら呟く。
「方法はひとつ……。魔女を倒すのです」
「なっ!? 魔女をっ!? どうやってっ!!」
青年の言葉にハッとして顔を上げる。
魔女を倒すなんて不可能だ。
ただでさえ怖ろしいイメージがある。人を殺してしまうような魔女だ。
戦う方法なんてあるのだろうか?
倒すどころか、太刀打ちできないであろう……。
「分かりません……ただ、魔女を倒すことができるのは人間だけだと聞いています。もしかしたら……あなたはその為に選ばれた存在なのかもしれない。そして彼も……。まだ魔女はそのことに気が付いていません。行くなら今です」
青年は何か考えるようにして顎に手を置く。
そしてふと何かを悟ったかのように話す。
「ちょっと待ってっ!! 俺がそんなっ……魔女に勝てるわけがないっ!!」
青年の言葉に優希はぎょっとして声を上げる。
自分が選ばれただって? そんなわけないっ。
優希は必死に青年に話す。
「いえ、私には分かります。あなたしかいません。それに……彼を助けたくないのですか? 見捨てるのですか? あなたを助けた彼を? 彼は命を張って……番人に見つかれば永遠に苦しむことになったかもしれないのに、何の迷いもなくあなたを助けに行きました。彼を見捨てるのですか?」
まるで責めるかのように話し続ける青年。
厳しい目でじっと優希を見つめる。
「そ……それは……」
優希は叱られた子供のように小さくなる。
分かっている。海斗を助けたい。見捨てられる訳がない。
ただ、自分が勝てるとは到底思えない。
優希は迷っていた。
「もう時間がありません。きっと既に海斗君の魂は魔女に囚われているでしょう。猶予はないはずです。優希君っ!」
真剣な顔で話す青年。そして優希の名を呼ぶ。
なぜ彼が自分の名前を知っているのだろう?
一瞬そう思った優希であったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
どうすればいいのか……。
「……俺に何ができるんだろう……。どうしたらいいのか分からないのに……」
優希はぼそりと呟くようにして話す。
「あなたに、私のお守りをあげます。それと……鏡の国での案内人をつけます」
彼はそう言って首に下げていた7色に光る星型の宝石のような物がついたペンダントを優希に手渡した。優希は手の中にあるそのキラキラとしたペンダントをじっと見つめる。
「お願いです。あなたしかいないのです」
少し潤んだような瞳でじっと優希を見つめる。
優希はハッとして再び青年の顔を見る。
「鏡の国って……前みたいにこっちと変わらない世界?」
優希はそんな青年の表情に少し狼狽えながらも、少しずつ覚悟を決めていく。
彼が嘘を言っているようにはとても思えない。
上目遣いにじっと青年を見上げる。
「いえ。あの鏡での世界はあなたの欲望の世界です。鏡の国ではありません。こちらとはまるで違う世界ですよ。大丈夫。私の友人がきっとあなたを助けてくれる。それから、一度だけ……一度だけ私はあなたに力を貸すことができます。必要な時に私の名を呼んでください。私は、瑠依といいます。一度だけですから、慎重に考えて下さいね」
初めて聞く彼の名前。彼の澄んだ瞳によく似合う綺麗な響きであった。
優希はじっと瑠依を見つめた。
「一度だけ……」
「優希くん、彼を助けに行きますか?」
瑠依はじっと窺うようにして優希を見つめる。
「……分かった。俺に何ができるか分かんないけど……瑠依さんのこと、信じるよっ」
キッと、今度ははっきりと決意した表情で優希は瑠依を見つめた。
海斗を助けたい。今はそれだけであった。
瑠依のことも信じたい。
優希の中で強い気持ちが芽生え始めていた。
そして、受け取ったペンダントを首にかけ、服の中にそっと入れる。
「分かりました。それでは鏡の国への入り口へ、ご案内します」
瑠依はにっこりと優しく微笑む。
そして優希の手を引いて奥の部屋へと移動する。
そこには――金色に輝く豪華な装飾で囲まれた、まるで水晶のようにキラキラと輝く大きな鏡があった。
「鏡に取り込まれた人間は、こちらでの存在自体が消えてしまう。誰も気付かない。その人間自身もね。欲望にまみれ、その欲望に支配されたら最後、体も魂も粉々になり、無の存在となる。魔女に食べられて……。ただ、痛みも苦しみもない。存在が消えてしまうだけ。それでも、許されることじゃない……」
優希は青年の言葉にぞくりと背筋が凍るようであった。
以前の自分を思い出す。自分は鏡に取り込まれかけていた。
嫌な汗が流れてくる。
自分も食べられていた?
「あの鏡はここだけじゃない。世界のあらゆる所に存在する。でも、彼が、海斗君がここの鏡を壊したことで、世界中にある鏡が暴走を始めたんです。鏡が意志を持ち、我々『鏡の使い』を食ってしまった。そして魔女に魂を渡すことなく鏡自身が人間の魂を食っている……」
青年は再び優希を厳しい表情で見つめると、鏡のこと、鏡の正体、そして自分の正体を話す。
口調も段々変わってきていた。
普段の穏やかで丁寧な口調とは違い、どこか強い意志のようなものを感じる。
『鏡の使い』とは何なのか? 彼は一体何の為にこのようなことをしているのか。
彼は味方なのか、敵なのか……?
再び優希の中で混乱が渦巻く。
「…………」
「彼が危ない。きっと彼は魔女に食われてしまう。私はあの世界には行けない……。彼を助けることができるのは、今あなただけです。そして、今後の世界もあなたにかかっている」
じっと考え込んでいた優希に、青年はじっと真剣な眼差しを向けてきた。
とても熱いものを感じる。
「そんな……」
青年の言葉、そして真剣な顔に押されながらも、優希は戸惑っていた。
海斗を助けたい。しかし、自分はどうすればいいのか分からない。
そして、目の前の彼を信じていいのかどうかも……。
「鏡が暴走し続ければ、いずれ、全ての人間を食ってしまうでしょう……。そうなる前に暴走を食い止めねば」
そんな優希に気付いているのか、更に必死に青年は優希に話し続ける。
「どうやって……」
気持ちでは分かっている。でも方法が分からない。
自分に何かできるのか?
優希は青年の顔を直視することができず、少し目を伏せながら呟く。
「方法はひとつ……。魔女を倒すのです」
「なっ!? 魔女をっ!? どうやってっ!!」
青年の言葉にハッとして顔を上げる。
魔女を倒すなんて不可能だ。
ただでさえ怖ろしいイメージがある。人を殺してしまうような魔女だ。
戦う方法なんてあるのだろうか?
倒すどころか、太刀打ちできないであろう……。
「分かりません……ただ、魔女を倒すことができるのは人間だけだと聞いています。もしかしたら……あなたはその為に選ばれた存在なのかもしれない。そして彼も……。まだ魔女はそのことに気が付いていません。行くなら今です」
青年は何か考えるようにして顎に手を置く。
そしてふと何かを悟ったかのように話す。
「ちょっと待ってっ!! 俺がそんなっ……魔女に勝てるわけがないっ!!」
青年の言葉に優希はぎょっとして声を上げる。
自分が選ばれただって? そんなわけないっ。
優希は必死に青年に話す。
「いえ、私には分かります。あなたしかいません。それに……彼を助けたくないのですか? 見捨てるのですか? あなたを助けた彼を? 彼は命を張って……番人に見つかれば永遠に苦しむことになったかもしれないのに、何の迷いもなくあなたを助けに行きました。彼を見捨てるのですか?」
まるで責めるかのように話し続ける青年。
厳しい目でじっと優希を見つめる。
「そ……それは……」
優希は叱られた子供のように小さくなる。
分かっている。海斗を助けたい。見捨てられる訳がない。
ただ、自分が勝てるとは到底思えない。
優希は迷っていた。
「もう時間がありません。きっと既に海斗君の魂は魔女に囚われているでしょう。猶予はないはずです。優希君っ!」
真剣な顔で話す青年。そして優希の名を呼ぶ。
なぜ彼が自分の名前を知っているのだろう?
一瞬そう思った優希であったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
どうすればいいのか……。
「……俺に何ができるんだろう……。どうしたらいいのか分からないのに……」
優希はぼそりと呟くようにして話す。
「あなたに、私のお守りをあげます。それと……鏡の国での案内人をつけます」
彼はそう言って首に下げていた7色に光る星型の宝石のような物がついたペンダントを優希に手渡した。優希は手の中にあるそのキラキラとしたペンダントをじっと見つめる。
「お願いです。あなたしかいないのです」
少し潤んだような瞳でじっと優希を見つめる。
優希はハッとして再び青年の顔を見る。
「鏡の国って……前みたいにこっちと変わらない世界?」
優希はそんな青年の表情に少し狼狽えながらも、少しずつ覚悟を決めていく。
彼が嘘を言っているようにはとても思えない。
上目遣いにじっと青年を見上げる。
「いえ。あの鏡での世界はあなたの欲望の世界です。鏡の国ではありません。こちらとはまるで違う世界ですよ。大丈夫。私の友人がきっとあなたを助けてくれる。それから、一度だけ……一度だけ私はあなたに力を貸すことができます。必要な時に私の名を呼んでください。私は、瑠依といいます。一度だけですから、慎重に考えて下さいね」
初めて聞く彼の名前。彼の澄んだ瞳によく似合う綺麗な響きであった。
優希はじっと瑠依を見つめた。
「一度だけ……」
「優希くん、彼を助けに行きますか?」
瑠依はじっと窺うようにして優希を見つめる。
「……分かった。俺に何ができるか分かんないけど……瑠依さんのこと、信じるよっ」
キッと、今度ははっきりと決意した表情で優希は瑠依を見つめた。
海斗を助けたい。今はそれだけであった。
瑠依のことも信じたい。
優希の中で強い気持ちが芽生え始めていた。
そして、受け取ったペンダントを首にかけ、服の中にそっと入れる。
「分かりました。それでは鏡の国への入り口へ、ご案内します」
瑠依はにっこりと優しく微笑む。
そして優希の手を引いて奥の部屋へと移動する。
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