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Black & White~そして運命の扉が開かれる~
第5話
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「橘さん?」
思ってもみなかった電話の相手に優希は困惑していた。
なぜ海斗の携帯電話から橘が電話を掛けてきたのか。
なぜそんなにも慌てているのか。
海斗に何かあったのか?
不安な気持ちと緊張で、携帯電話を持つ手が震えていた優希は、じっと橘からの返事を待った。
「優希様、海斗様がっ……」
電話の向こうの橘は、今までにない慌てようであった。
声が少し震え、まるで何かに怯えているかのような声色であった。
橘はこんな話し方をしただろうか?
いつも落ち着いた低い声で、心穏やかにさせてくれる心地良い声色である。
その橘が今はひっくり返ってしまいそうな声で、言葉を詰まらせてしまっていた。
やはり海斗に何かあったのだろうか?
優希はますます鼓動が速くなる。
「橘さんっ、落ち着いて。海斗がどうしたの? 何かあったの?」
少し息切れしているかのような電話の向こうの橘に、優希は落ち着かせるように、ゆっくりと静かに問い掛けた。
「すみませんっ。慌ててしまって……。実は……海斗様が、倒れられてしまったのです」
「えっ!? 海斗がっ? どうしてっ!?」
橘の言葉に今度は優希が大声を上げる。先程よりも更に鼓動が速くなって耳元で聞こえるようであった。
(海斗に何が? 何で?)
頭の中が混乱する。先程まで普通に話していた。変わった様子もなかった。
なのに倒れた? なぜ?
「それが……息をされていないのです……心臓も動いていないようで……」
ゆっくりと静かに橘の声がする。
一体何を言われたのか分からない。
海斗が息をしていない? 心臓も動いていない? それって……。
優希の中である言葉が頭に浮かび、まるで時間が止まってしまったかのようにそのまま固まってしまった。
「優希様っ? 聞こえていますか?」
遠くで橘の声が聞こえる。
もう何がなんだか分からない。
優希は携帯電話をそのまま落としそうになってしまい、ハッと我に返ると、ぎゅっと携帯電話を両手で掴んだ。
「ごめん……聞こえてる……。橘さん、それってどういうこと? 海斗は? 死んじゃったっていうのっ? ねぇっ!!」
優希はぼそりと呟き、そして段々意識がはっきりとしてくると、声を荒げていった。最後には泣きそうになりながら必死に橘に問い掛けていた。
「いえ、分かりません。……息もしていないし、心臓も動いていないのですが……体が温かく、死後硬直も見られない……あ、いえ、それはまだ時間が経っていないせいですね……。ですが、瞳孔も開いていない。海斗様は目を開けられたまま倒れていらっしゃいました……」
「え?」
混乱して、パニック状態になりかけていた優希は、橘の言葉に再び体が固まる。
瞳孔が開いていないということは、まだ生きている証拠だろう。
しかし、息もしていなく心臓も動いていない状態とは……。
再び優希の頭の中を色々な言葉が駆け巡った。
「私にも……よく分からないのです……。まるで魂だけ抜けてしまったような……そんなご様子で。とにかく救急車を呼びます。あぁ、心臓マッサージもしなければ……私としたことが、何よりも最初に優希様にご連絡してしまったもので……」
橘の言葉に何かが引っ掛かった。
何だろう?
優希は必死に考えたが思いつかない。何か重要なことのような気がする。
「橘さん、待ってっ。よく分かんないけど、医者じゃダメな気がするっ。心臓マッサージも待ってっ! 今からすぐ戻るから救急車呼ぶのはちょっと待ってっ!」
何かが引っ掛かったから……そんな理由であったが、優希は自分が行かなければならない気がしたのだった。
自分が行って何かできるとは思えないが、病院へ行ってしまう前に海斗に会いたい。会わなければならない。そう考えたのだった。
「分かりました……。優希様をお待ち致しております。急いで帰っていらしてください。門は開けておきますので」
最初の動揺は全く感じられず、いつもの口調で優希の言葉に答えた。
橘もまた、優希と同じ『何か』を感じていたのかもしれない。
☆☆☆
優希が海斗の部屋に戻ってきた時、聞いていたはずなのに、ベッドに横たわる海斗の姿を見て再び体が固まってしまった。
眠っているだけのようにも見える。しかし、ぴくりとも動かない。
海斗の目蓋は橘によって閉じられていた。
そっと海斗の頬に触れる。温かい。
ただ眠っているだけのようにしか見えない。しかし、そっと手の甲を海斗の口と鼻の上辺りに動かすが、息は当たらない。
そして首に手を移動させる。脈もない。
なぜこのようなことに?
そっと海斗の手を握る。
優希はベッドの横に両膝を付いた姿勢のまま、体が動かなくなってしまった。
混乱のあまり、息をするのを忘れてしまうくらいに。
「優希様?……優希様っ! しっかりなさってくださいっ」
ぴくりとも動かない優希を不思議に思い、少し後ろに立っていた橘はゆっくり一歩近付く。
そして優希を窺うようにして覗き込んだ。
海斗の手を握り、優希は目を見開いたまま動かない。
その様子に橘は慌てた様子で大声で優希に声を掛けた。
橘の声でハッと我に返る。すぅっと息を吸い込み、思わず咳き込んでしまった。
「ゴホッゴホゴホッ……海斗、なんで、なんで……」
咳き込みといろんな想いが駆け巡り、優希は涙が溢れてしまっていた。
「優希様……。あぁっ、そうだっ。これを見てくれますか? これが、海斗様の体の上にありました」
涙を流しながら呟き続ける優希を見下ろし、胸が苦しくなっていた橘であったが、ふとあることを思い出し、ポケットからハンカチに包まれたある物を取り出した。
「え?」
優希は流れる涙を拭うことなく、橘を振り返った。
そして、ハンカチの上にある物を見て、なぜだか心臓がどくんと大きく鳴った。
そこにあったのは『黒い羽根』であった。
「黒い……羽根……?」
呟くようにぼそりと話すと、優希はそっとその黒い羽根を手に取った。
思ってもみなかった電話の相手に優希は困惑していた。
なぜ海斗の携帯電話から橘が電話を掛けてきたのか。
なぜそんなにも慌てているのか。
海斗に何かあったのか?
不安な気持ちと緊張で、携帯電話を持つ手が震えていた優希は、じっと橘からの返事を待った。
「優希様、海斗様がっ……」
電話の向こうの橘は、今までにない慌てようであった。
声が少し震え、まるで何かに怯えているかのような声色であった。
橘はこんな話し方をしただろうか?
いつも落ち着いた低い声で、心穏やかにさせてくれる心地良い声色である。
その橘が今はひっくり返ってしまいそうな声で、言葉を詰まらせてしまっていた。
やはり海斗に何かあったのだろうか?
優希はますます鼓動が速くなる。
「橘さんっ、落ち着いて。海斗がどうしたの? 何かあったの?」
少し息切れしているかのような電話の向こうの橘に、優希は落ち着かせるように、ゆっくりと静かに問い掛けた。
「すみませんっ。慌ててしまって……。実は……海斗様が、倒れられてしまったのです」
「えっ!? 海斗がっ? どうしてっ!?」
橘の言葉に今度は優希が大声を上げる。先程よりも更に鼓動が速くなって耳元で聞こえるようであった。
(海斗に何が? 何で?)
頭の中が混乱する。先程まで普通に話していた。変わった様子もなかった。
なのに倒れた? なぜ?
「それが……息をされていないのです……心臓も動いていないようで……」
ゆっくりと静かに橘の声がする。
一体何を言われたのか分からない。
海斗が息をしていない? 心臓も動いていない? それって……。
優希の中である言葉が頭に浮かび、まるで時間が止まってしまったかのようにそのまま固まってしまった。
「優希様っ? 聞こえていますか?」
遠くで橘の声が聞こえる。
もう何がなんだか分からない。
優希は携帯電話をそのまま落としそうになってしまい、ハッと我に返ると、ぎゅっと携帯電話を両手で掴んだ。
「ごめん……聞こえてる……。橘さん、それってどういうこと? 海斗は? 死んじゃったっていうのっ? ねぇっ!!」
優希はぼそりと呟き、そして段々意識がはっきりとしてくると、声を荒げていった。最後には泣きそうになりながら必死に橘に問い掛けていた。
「いえ、分かりません。……息もしていないし、心臓も動いていないのですが……体が温かく、死後硬直も見られない……あ、いえ、それはまだ時間が経っていないせいですね……。ですが、瞳孔も開いていない。海斗様は目を開けられたまま倒れていらっしゃいました……」
「え?」
混乱して、パニック状態になりかけていた優希は、橘の言葉に再び体が固まる。
瞳孔が開いていないということは、まだ生きている証拠だろう。
しかし、息もしていなく心臓も動いていない状態とは……。
再び優希の頭の中を色々な言葉が駆け巡った。
「私にも……よく分からないのです……。まるで魂だけ抜けてしまったような……そんなご様子で。とにかく救急車を呼びます。あぁ、心臓マッサージもしなければ……私としたことが、何よりも最初に優希様にご連絡してしまったもので……」
橘の言葉に何かが引っ掛かった。
何だろう?
優希は必死に考えたが思いつかない。何か重要なことのような気がする。
「橘さん、待ってっ。よく分かんないけど、医者じゃダメな気がするっ。心臓マッサージも待ってっ! 今からすぐ戻るから救急車呼ぶのはちょっと待ってっ!」
何かが引っ掛かったから……そんな理由であったが、優希は自分が行かなければならない気がしたのだった。
自分が行って何かできるとは思えないが、病院へ行ってしまう前に海斗に会いたい。会わなければならない。そう考えたのだった。
「分かりました……。優希様をお待ち致しております。急いで帰っていらしてください。門は開けておきますので」
最初の動揺は全く感じられず、いつもの口調で優希の言葉に答えた。
橘もまた、優希と同じ『何か』を感じていたのかもしれない。
☆☆☆
優希が海斗の部屋に戻ってきた時、聞いていたはずなのに、ベッドに横たわる海斗の姿を見て再び体が固まってしまった。
眠っているだけのようにも見える。しかし、ぴくりとも動かない。
海斗の目蓋は橘によって閉じられていた。
そっと海斗の頬に触れる。温かい。
ただ眠っているだけのようにしか見えない。しかし、そっと手の甲を海斗の口と鼻の上辺りに動かすが、息は当たらない。
そして首に手を移動させる。脈もない。
なぜこのようなことに?
そっと海斗の手を握る。
優希はベッドの横に両膝を付いた姿勢のまま、体が動かなくなってしまった。
混乱のあまり、息をするのを忘れてしまうくらいに。
「優希様?……優希様っ! しっかりなさってくださいっ」
ぴくりとも動かない優希を不思議に思い、少し後ろに立っていた橘はゆっくり一歩近付く。
そして優希を窺うようにして覗き込んだ。
海斗の手を握り、優希は目を見開いたまま動かない。
その様子に橘は慌てた様子で大声で優希に声を掛けた。
橘の声でハッと我に返る。すぅっと息を吸い込み、思わず咳き込んでしまった。
「ゴホッゴホゴホッ……海斗、なんで、なんで……」
咳き込みといろんな想いが駆け巡り、優希は涙が溢れてしまっていた。
「優希様……。あぁっ、そうだっ。これを見てくれますか? これが、海斗様の体の上にありました」
涙を流しながら呟き続ける優希を見下ろし、胸が苦しくなっていた橘であったが、ふとあることを思い出し、ポケットからハンカチに包まれたある物を取り出した。
「え?」
優希は流れる涙を拭うことなく、橘を振り返った。
そして、ハンカチの上にある物を見て、なぜだか心臓がどくんと大きく鳴った。
そこにあったのは『黒い羽根』であった。
「黒い……羽根……?」
呟くようにぼそりと話すと、優希はそっとその黒い羽根を手に取った。
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