White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第4話

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(もうっ、海斗のバカタレバカタレバカタレ~!!)

 優希は海斗の家を出て、自分の家への帰り道を大股で歩きながら心の中で叫んでいた。
(なんだよ……せっかく今日は……)
 優希はふとあることに気が付いて立ち止まった。

(あれ?)

 自分はなぜここまで頭にきてるのだろう? 何が悔しいのだろう?
 せっかく……何?
 自分が分からなくなる。
 海斗が自分をバカにしたから?
 急にキスしたり襲ってきたから?
 そんなことはいつものことである。分かっていたことなのに……。
 なぜ今日はこんなに腹立たしいのだろう。悔しいのだろう。
 優希は困惑していた。

 ふと、後ろを振り返る。
 犬の散歩をしている人。道端でおしゃべりしている中年女性たち。
 服屋の紙袋を持って歩いている若い女の子の集団。
 道路は車が流れるように走っている。
 見慣れた風景。
 しかし、そこに海斗の姿はない。
 もしかしたら自分を追いかけてくるかもしれない。そう思っていた。
 電話くらいしてきてもいいのに……と、泣きそうな顔をしながら口を尖らせる。

(もうっ。電話してきても出てやんないっ!)

 優希はむすっとして海斗の家の方角を睨み付けると、再び前を向き歩き始めた。



 ☆☆☆



 優希が海斗の家を飛び出したちょうどその時であった。
 廊下を歩いていた橘は、家の門へとひとり走っていく優希の姿を窓から目撃し、不思議そうに首を傾げる。
「また喧嘩でもされたのだろうか……」
 軽く溜め息をつく。
 海斗の性格は熟知している橘。
 きっと海斗が優希を怒らせるようなことを言ったか、何かをしたのだろうと。

(まったくあの方は、素直なのかそうじゃないのか……)

 海斗のことを思い、溜め息をつく。
 そして今度は優希のことを考えた。
 お菓子を持たせてあげた方が良いのでは? と。
 きっと優希のことだ。何も食べずに飛び出したのだろう。
 引き止めたいがそれは自分がするべきことではない。海斗が追いかけないのであれば、せめてお菓子をお土産に持たせようと考えた。
 橘は早速海斗の部屋へと向かった。お菓子を取りに行く為だ。
 優希を追いかけるように説得してみようとも考えた。

 廊下を歩き、海斗の部屋の前で立ち止まる。
 電子キーで解錠し、ドアノブに触れようとした瞬間、橘の胸を突然不安がよぎった。何かよくないことが目の前で起こっているような、そんな気がしたのだ。

(なんだろう……この嫌な予感は?)

 息を吐き、自分の不安を打ち消すように首を振ると、ゆっくりと海斗の部屋の扉を押し開ける。
「失礼いたします。海斗様」
 そう言って部屋に一歩入った瞬間、橘は目の前の光景に心臓が押し潰されそうになっていた。
「海斗様っ!!」
 橘の悲痛な叫びが響き渡る。



 ☆☆☆



 「ふっ、はっくしょんっ! うぅっ、寒っ」

 慌てて海斗の家から出てきた優希は、上着を着ていなかったことを思い出す。
 3月とはいえまだ肌寒い。しかも先程シャワーを浴びたばかりで髪も少し濡れている。厚めのプルオーバーで良かったと思っていた、その時――。

 ブブブブブッ

 突然、ショルダーバッグが振動し出した。きっと携帯電話のバイブであろう。
 優希は一瞬びくりとすると立ち止まり、ショルダーバッグの中に手を入れて携帯電話を取り出す。
 開いて画面を見る。思った通りである。
 画面には『海斗』の名前で着信していた。メールではなく音声着信だ。
「何だよ……今更……」
 ぼそりと呟く。
 海斗の家を出てから10分程経っていた。優希の家までは歩いて30分程掛かる。まだ半分も来ていないが、すぐに連絡してこなかった海斗に腹が立っていた優希は、そのまま携帯電話をショルダーバッグの中へとしまう。
 何回か鳴った後、バイブが止まる。きっと留守電に切り替わったのだろう。
「知るかよ」
 独り言を呟き、むすっとして口を尖らせると再び歩き出した。
 するとすぐにまたバイブが鳴り出した。きっと海斗であろう。
 誰が出るか……とそのまま無視する。
 そして再びバイブが止まる……。
「…………」
 一瞬出れば良かったかと考えてしまった。
 気にはなっているのだ。
 止まってしまった携帯電話を取り出す。すると、再び携帯電話が鳴り出した。
「っ!?」
 びくりとして立ち止まる。
 携帯電話を開くと、やはり着信の相手は海斗だった。
 出ようかどうしようか迷う……。
「もうっ!!」
 むっとしながらも優希は受話ボタンを押した。
「なんだよ海斗っ! 何度もうるさいんだ――」
 電話の相手に向かって怒鳴った瞬間。
 思ってもみない声がした。
 その声と、尋常でない様子に、優希は一瞬固まってしまった。

「優希様っ!! 橘でございますっ!!」

 電話の相手は海斗ではなく、橘からであった。
 なぜ橘が? 海斗は? どうしてそんなに慌てているのか。
 優希は困惑で頭がいっぱいになっていた。
「橘さん?」
 ぼそりと電話の相手、橘に向かって問い返す。
 すると、その後の橘の話に優希は固まってしまったかのように、ぴくりとも動けなくなってしまったのだった。
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