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Happy☆White~幸せのひととき~
最終話
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すっかり日も暮れたパーク内。キラキラと遠くに輝く星と月。
暗い大きな世界の中、目の前に繰り広げられる光のハーモニーに誰もが心を奪われそうになる。
ブラヴィッシーモ。水と火。そして光の共演に大きな歓声と拍手が沸き起こる。
手すりに掴まったまま、そのファンタジーの世界に魅了されていた優希もまた、目の前の輝きよりも更に目をキラキラとさせていた。
手すりに置かれた左手をぐいっと掴んで、海斗は自分の上着のポケットに自分の手と一緒に突っ込む。
「っ!?」
驚いて思わず海斗を見上げる優希。
「大丈夫。みんなショーを見てる。少し風が出てきたから……」
海斗は目線を目の前のショーから離すことなくぼそりと優希に話す。
「……うん」
少しだけ恥ずかしかった優希であったが、海斗の温かさに少しだけ甘えることにした。周りに分からないよう自分の体をそっと海斗に寄せる。ぴたりと合わさったところから少しだけ体温を感じた気がした。そして、握られた手からも。
大歓声と拍手の中、ショーが終了した。あっという間の時間であった。
水しぶきや炎の熱さに驚きながらも今日という日を体に感じさせるような心地良い時間であった。
「じゃあ、次はあそこだな」
「うん」
一番優希が興味を示していたアトラクション、タワー・オブ・テラー。
結局こんな時間になってしまった。
ファストパスもすぐになくなってしまう。なんとか取れた時間は最終時間と思われる回。
2人は繋がれた手を離すことなくアトラクションがあるアメリカンウォーターフロントへと向かう。
すれ違う人が皆振り返っていくような気がする。いや、気のせいではない。昼間から感じていた。
優希は恥ずかしさで顔が上げられなかった。
すれ違いざまに女の子のはしゃぐような甲高い声が聞こえる。自分たち……というよりも海斗を見て皆振り返るのだ。今日はそれほど派手な格好ではないとはいえ、すらっとした長身に長い足。そしてこの容姿。誰もが振り返る。見ている。恥ずかしくて体が熱くなる。
日が落ちてから海が近いこともあり気温も下がり、時折吹く風に身震いするほどであった。しかし、そんな寒さも吹き飛ぶほどに体が熱い。熱を持っている。
「な、海斗……。なんかさ、俺が隣にいたらダメな気がする」
恥ずかしさも感じていた。しかし、それよりも不釣合いな自分を詰られているのではないかといった不安も大きい。
海斗は自分から見ても格好良くて、きっともっと似合う人は別にいる。綺麗なおねえさんや可愛らしい女の子でも隣にいれば絵にもなるのだろう。
でも自分は? 優希は俯いたまま繋がれた手に力を入れる。
「何言ってんの? 俺の隣にいていいのは優希だけだ。他の誰でもない。これからも……な」
ぎゅっと海斗も握り返す。前を見て、歩き続けながら。
「……海斗……」
優希はハッと顔を上げ、海斗をじっと見つめた。
☆☆☆
夜のホテルは不気味な色を放っていた。聞こえてくる悲鳴が更に恐ろしさを倍増させる。
夜のヨーロッパの街を歩くような気持ちでパーク内を歩いていたが、急に不思議な世界、怪奇な世界へ飛び込んできてしまったような目の前の建物。
ごくりと唾を飲み込む。
優希は絶叫マシーンのようなものは得意であった。ここに来たかったのは、自分が興味があったこともあったが、怖いと言われているこのアトラクションで海斗の意外な一面でも見れるのではないかといった期待があったからだ。
どこか高い所から落ちる感覚を味わえるこのアトラクション。
普段冷静な海斗でも思わず叫んでしまうのではないか、恐怖に顔を歪めるのではないか――と。
しかし、昼間見たのとは訳が違うようなこの不気味な建物に、優希は別の恐怖を感じていた。
ただのアトラクションなのだが、まるでホラー映画でも見ているかのような感覚。ぞくりと背筋が凍りそうになる。
「優希? 大丈夫か?」
ふと優希の様子を心配して海斗が覗き込んできた。
「え? あ……あ、大丈夫だよっ。行こっ」
なんでもないといった顔で笑みを作ると海斗を引っ張って中へと入る。
時間が遅かったのとファストパスもあったおかげで順番はすぐに回ってきた。
建物の中も不気味さを醸し出していたのだが、ゆっくり見る時間もなかった。逆にそれが恐怖心を落ち着かせてもいた。突然鳴った電話に驚いて海斗にしがみついたりもしていたのだが……。
そしてついに順番がきて、中へと入る。
厳重なシートベルト。キャストの確認作業でこのアトラクションが危険なことが窺える。
「バッグなどは足元の中の方へ入れて下さい」
海斗は荷物は財布と携帯電話だけであった。そして優希もショルダーだったので肩から掛けたままである。大きさもポーチより少し大きめくらいなので邪魔にはならない。他のお客が足元に荷物やお土産を入れていた。転がってしまったりするらしい。一体どうなってしまうというのか……。
だんだん心臓の音が大きくなる。いよいよだ――。
☆☆☆
「優希、大丈夫か?」
出口を後にして、外へ出てすぐに海斗が優希を覗き込んできた。
完敗であった。怖かったのではない。海斗にだ。
自分ばかり騒いで海斗を観察するどころではなかった。そして、自分が覚えている限り、全く声を上げていなかった。
(海斗って怖がったり驚いたり声上げたりすることあんのかな……)
がっくりとうな垂れる。
今日1日、色々なアトラクションを回ったが、海斗の驚く顔も叫んだ声も全く見られなかったのだ。
ほんとに人間か?
そんな疑問さえ出てきてしまう。
(ほんっと無表情の無関心っていうか……)
深く溜め息をついた優希を海斗はにっこりと微笑みながら見下ろすと、再び優希の手を取った。
「わっ!」
驚いて顔と声を上げる。
「まだ時間あるし、行こう」
海斗は優希を見下ろして優しく笑う。
「うん」
優希もまた、昼間よりも少しだけ素直に返事をしていた。
暗くて手を繋いでいることも、自分のことも目立たないかもしれない……。
☆☆☆
あと30分。閉園ギリギリまで遊んだ。
今日1日でアトラクションもたくさん乗った。ショーもたくさん見た。食べ歩きもした。途中、ポップコーンの味について喧嘩をしながらも。
楽しい時間はあっという間であった。
マーメイドラグーンにあるトリトンズ・キングダムの入り口の前でぴたりと優希が立ち止まった。
人通りは全くない。薄暗い道の真ん中で優希は立ち止まったまま俯いている。
「優希? どうかしたのか?」
海斗が心配そうに優希を覗き込もうとした。その瞬間、優希がパッと顔を上げる。
「海斗っ。あ……あのさ、今日は……その、ありがと……な。楽しかった。すっげぇ楽しかった……」
顔を真っ赤にしながら海斗を見上げる優希。
「いや、俺の方こそ。今日は一緒にいてくれてありがとな。楽しかった」
目を細め、優しく笑みを返す海斗。
「ほんと? 楽しかった?」
優希は海斗の答えに嬉しそうに目を大きくさせる。
自分が来たかったのが元々の理由だったが、途中から海斗を喜ばせたい、楽しんでほしいと思うようになっていた優希。
例え嘘だとしても海斗の言葉が嬉しかった。自分と一緒にいたことで楽しんでくれたことが嬉しかった。
「あ、あのさっ……」
優希は再び顔を赤くして俯く。
「ん?」
海斗は不思議そうに首を傾げる。
優希は握っていた手を離し、ショルダーの中に手を入れ何かを探すようにゴソゴソとする。
そして何かを掴んで海斗の目の前に差し出した。
「こ……これっ」
差し出された右手の中には、優希の手にちょうど収まる位のラッピングされた箱があった。
真っ赤な顔のまま俯いている。
「…………」
海斗は差し出されたその箱をゆっくりと手に取る。
「俺にか?」
「お、お返しっ。バレンタインのっ。お、俺貰ったしっ。何がいいか分かんなくて。海斗お菓子とか食べないし、やっぱ残る物のがいいと思って……」
俯いたまま話す。海斗の顔は見えない。どんな顔をしているのだろう――そう思った瞬間、ぎゅっと抱き締められた。
「えっ!?」
驚いて体が固まる。
しかし、心臓だけは激しく動いている。飛び出してしまいそうなほど。
体温がどんどん上昇していくみたいだった。
「ありがと……嬉しい。優希……」
そっと優希の髪を撫でる海斗。
優希は海斗の左肩の辺りに顔を埋め、更に恥ずかしくなり顔が上げられなくなっていた。
しかし、その後すぐに海斗は優希の肩をグッと掴んで離す。
驚いて顔を上げた優希の唇に自分の唇を重ねる。そして肩から手を離し、優希の頭と腰を自分に引き寄せる。左手には優希から貰ったプレゼントをしっかりと握り締めていた。
ゆっくりと時間が流れる。
ふと、トリトンズ・キングダムから声が聞こえ、優希は海斗からバッと体を離した。
湯気でも出てきそうなほど顔が真っ赤になっていた。
「帰ろう、優希。橘が待ってる」
そう言って海斗は優しく微笑んで優希に手を差し出した。
☆☆☆
帰りの車内。
ごそごそと早速貰ったプレゼント開け始める海斗。
「わっ! 今開けるなよっ」
優希は驚いて声を上げる。
変な物でもないのだが、目の前で開けられると恥ずかしい。
ラッピングの中は黒いアクセサリーBOXであった。
パカッと押し上げる。
暗い車内で色まではっきりとは分からなかったが、黒っぽいストーンのブレスレットであった。
「あ……えっと、俺、こういうパワーストーンとかって好きでさ。なんか神秘的っつうかさ。海斗はやっぱ黒っぽいのが似合うかなぁって。オニキスと迷ったけど、これ『ブルータイガーアイ』っていって紺色になってるんだけど、タイガーアイの中でも一番パワーが強いんだって。金運とか仕事運とかだけど……ってどっちも海斗には必要ないかもだけど、持ち主を守ってくれるパワーも強いんだってさ。って、それも必要ないかもしれないけど……」
ハハハっと軽く笑う優希。
じっとブレスレットを見つめていた海斗だったが、左手にアクセサリーBOXを持ったまま、優希をぎゅっと抱き締めた。
「そんなことないっ。そんなことない……。ありがとう。嬉しい……優希、好きだよ。大好きだ……」
そして優希の頬にそっとキスをする。唇へも触れるだけのキスをする。
「優希……やっぱり今夜、泊まっていかないか?」
じっと真剣な顔で優希を見つめる海斗。
キスだけで真っ赤になっていた優希は、海斗の言葉に目を大きく見開き固まっていた。
(それって……やっぱり……)
ドクンドクンと心臓が鳴っている。耳元で聞こえるみたいだった。
真剣な海斗の瞳を見つめて、優希は真っ赤な顔のままゆっくりと頷いた。
暗い大きな世界の中、目の前に繰り広げられる光のハーモニーに誰もが心を奪われそうになる。
ブラヴィッシーモ。水と火。そして光の共演に大きな歓声と拍手が沸き起こる。
手すりに掴まったまま、そのファンタジーの世界に魅了されていた優希もまた、目の前の輝きよりも更に目をキラキラとさせていた。
手すりに置かれた左手をぐいっと掴んで、海斗は自分の上着のポケットに自分の手と一緒に突っ込む。
「っ!?」
驚いて思わず海斗を見上げる優希。
「大丈夫。みんなショーを見てる。少し風が出てきたから……」
海斗は目線を目の前のショーから離すことなくぼそりと優希に話す。
「……うん」
少しだけ恥ずかしかった優希であったが、海斗の温かさに少しだけ甘えることにした。周りに分からないよう自分の体をそっと海斗に寄せる。ぴたりと合わさったところから少しだけ体温を感じた気がした。そして、握られた手からも。
大歓声と拍手の中、ショーが終了した。あっという間の時間であった。
水しぶきや炎の熱さに驚きながらも今日という日を体に感じさせるような心地良い時間であった。
「じゃあ、次はあそこだな」
「うん」
一番優希が興味を示していたアトラクション、タワー・オブ・テラー。
結局こんな時間になってしまった。
ファストパスもすぐになくなってしまう。なんとか取れた時間は最終時間と思われる回。
2人は繋がれた手を離すことなくアトラクションがあるアメリカンウォーターフロントへと向かう。
すれ違う人が皆振り返っていくような気がする。いや、気のせいではない。昼間から感じていた。
優希は恥ずかしさで顔が上げられなかった。
すれ違いざまに女の子のはしゃぐような甲高い声が聞こえる。自分たち……というよりも海斗を見て皆振り返るのだ。今日はそれほど派手な格好ではないとはいえ、すらっとした長身に長い足。そしてこの容姿。誰もが振り返る。見ている。恥ずかしくて体が熱くなる。
日が落ちてから海が近いこともあり気温も下がり、時折吹く風に身震いするほどであった。しかし、そんな寒さも吹き飛ぶほどに体が熱い。熱を持っている。
「な、海斗……。なんかさ、俺が隣にいたらダメな気がする」
恥ずかしさも感じていた。しかし、それよりも不釣合いな自分を詰られているのではないかといった不安も大きい。
海斗は自分から見ても格好良くて、きっともっと似合う人は別にいる。綺麗なおねえさんや可愛らしい女の子でも隣にいれば絵にもなるのだろう。
でも自分は? 優希は俯いたまま繋がれた手に力を入れる。
「何言ってんの? 俺の隣にいていいのは優希だけだ。他の誰でもない。これからも……な」
ぎゅっと海斗も握り返す。前を見て、歩き続けながら。
「……海斗……」
優希はハッと顔を上げ、海斗をじっと見つめた。
☆☆☆
夜のホテルは不気味な色を放っていた。聞こえてくる悲鳴が更に恐ろしさを倍増させる。
夜のヨーロッパの街を歩くような気持ちでパーク内を歩いていたが、急に不思議な世界、怪奇な世界へ飛び込んできてしまったような目の前の建物。
ごくりと唾を飲み込む。
優希は絶叫マシーンのようなものは得意であった。ここに来たかったのは、自分が興味があったこともあったが、怖いと言われているこのアトラクションで海斗の意外な一面でも見れるのではないかといった期待があったからだ。
どこか高い所から落ちる感覚を味わえるこのアトラクション。
普段冷静な海斗でも思わず叫んでしまうのではないか、恐怖に顔を歪めるのではないか――と。
しかし、昼間見たのとは訳が違うようなこの不気味な建物に、優希は別の恐怖を感じていた。
ただのアトラクションなのだが、まるでホラー映画でも見ているかのような感覚。ぞくりと背筋が凍りそうになる。
「優希? 大丈夫か?」
ふと優希の様子を心配して海斗が覗き込んできた。
「え? あ……あ、大丈夫だよっ。行こっ」
なんでもないといった顔で笑みを作ると海斗を引っ張って中へと入る。
時間が遅かったのとファストパスもあったおかげで順番はすぐに回ってきた。
建物の中も不気味さを醸し出していたのだが、ゆっくり見る時間もなかった。逆にそれが恐怖心を落ち着かせてもいた。突然鳴った電話に驚いて海斗にしがみついたりもしていたのだが……。
そしてついに順番がきて、中へと入る。
厳重なシートベルト。キャストの確認作業でこのアトラクションが危険なことが窺える。
「バッグなどは足元の中の方へ入れて下さい」
海斗は荷物は財布と携帯電話だけであった。そして優希もショルダーだったので肩から掛けたままである。大きさもポーチより少し大きめくらいなので邪魔にはならない。他のお客が足元に荷物やお土産を入れていた。転がってしまったりするらしい。一体どうなってしまうというのか……。
だんだん心臓の音が大きくなる。いよいよだ――。
☆☆☆
「優希、大丈夫か?」
出口を後にして、外へ出てすぐに海斗が優希を覗き込んできた。
完敗であった。怖かったのではない。海斗にだ。
自分ばかり騒いで海斗を観察するどころではなかった。そして、自分が覚えている限り、全く声を上げていなかった。
(海斗って怖がったり驚いたり声上げたりすることあんのかな……)
がっくりとうな垂れる。
今日1日、色々なアトラクションを回ったが、海斗の驚く顔も叫んだ声も全く見られなかったのだ。
ほんとに人間か?
そんな疑問さえ出てきてしまう。
(ほんっと無表情の無関心っていうか……)
深く溜め息をついた優希を海斗はにっこりと微笑みながら見下ろすと、再び優希の手を取った。
「わっ!」
驚いて顔と声を上げる。
「まだ時間あるし、行こう」
海斗は優希を見下ろして優しく笑う。
「うん」
優希もまた、昼間よりも少しだけ素直に返事をしていた。
暗くて手を繋いでいることも、自分のことも目立たないかもしれない……。
☆☆☆
あと30分。閉園ギリギリまで遊んだ。
今日1日でアトラクションもたくさん乗った。ショーもたくさん見た。食べ歩きもした。途中、ポップコーンの味について喧嘩をしながらも。
楽しい時間はあっという間であった。
マーメイドラグーンにあるトリトンズ・キングダムの入り口の前でぴたりと優希が立ち止まった。
人通りは全くない。薄暗い道の真ん中で優希は立ち止まったまま俯いている。
「優希? どうかしたのか?」
海斗が心配そうに優希を覗き込もうとした。その瞬間、優希がパッと顔を上げる。
「海斗っ。あ……あのさ、今日は……その、ありがと……な。楽しかった。すっげぇ楽しかった……」
顔を真っ赤にしながら海斗を見上げる優希。
「いや、俺の方こそ。今日は一緒にいてくれてありがとな。楽しかった」
目を細め、優しく笑みを返す海斗。
「ほんと? 楽しかった?」
優希は海斗の答えに嬉しそうに目を大きくさせる。
自分が来たかったのが元々の理由だったが、途中から海斗を喜ばせたい、楽しんでほしいと思うようになっていた優希。
例え嘘だとしても海斗の言葉が嬉しかった。自分と一緒にいたことで楽しんでくれたことが嬉しかった。
「あ、あのさっ……」
優希は再び顔を赤くして俯く。
「ん?」
海斗は不思議そうに首を傾げる。
優希は握っていた手を離し、ショルダーの中に手を入れ何かを探すようにゴソゴソとする。
そして何かを掴んで海斗の目の前に差し出した。
「こ……これっ」
差し出された右手の中には、優希の手にちょうど収まる位のラッピングされた箱があった。
真っ赤な顔のまま俯いている。
「…………」
海斗は差し出されたその箱をゆっくりと手に取る。
「俺にか?」
「お、お返しっ。バレンタインのっ。お、俺貰ったしっ。何がいいか分かんなくて。海斗お菓子とか食べないし、やっぱ残る物のがいいと思って……」
俯いたまま話す。海斗の顔は見えない。どんな顔をしているのだろう――そう思った瞬間、ぎゅっと抱き締められた。
「えっ!?」
驚いて体が固まる。
しかし、心臓だけは激しく動いている。飛び出してしまいそうなほど。
体温がどんどん上昇していくみたいだった。
「ありがと……嬉しい。優希……」
そっと優希の髪を撫でる海斗。
優希は海斗の左肩の辺りに顔を埋め、更に恥ずかしくなり顔が上げられなくなっていた。
しかし、その後すぐに海斗は優希の肩をグッと掴んで離す。
驚いて顔を上げた優希の唇に自分の唇を重ねる。そして肩から手を離し、優希の頭と腰を自分に引き寄せる。左手には優希から貰ったプレゼントをしっかりと握り締めていた。
ゆっくりと時間が流れる。
ふと、トリトンズ・キングダムから声が聞こえ、優希は海斗からバッと体を離した。
湯気でも出てきそうなほど顔が真っ赤になっていた。
「帰ろう、優希。橘が待ってる」
そう言って海斗は優しく微笑んで優希に手を差し出した。
☆☆☆
帰りの車内。
ごそごそと早速貰ったプレゼント開け始める海斗。
「わっ! 今開けるなよっ」
優希は驚いて声を上げる。
変な物でもないのだが、目の前で開けられると恥ずかしい。
ラッピングの中は黒いアクセサリーBOXであった。
パカッと押し上げる。
暗い車内で色まではっきりとは分からなかったが、黒っぽいストーンのブレスレットであった。
「あ……えっと、俺、こういうパワーストーンとかって好きでさ。なんか神秘的っつうかさ。海斗はやっぱ黒っぽいのが似合うかなぁって。オニキスと迷ったけど、これ『ブルータイガーアイ』っていって紺色になってるんだけど、タイガーアイの中でも一番パワーが強いんだって。金運とか仕事運とかだけど……ってどっちも海斗には必要ないかもだけど、持ち主を守ってくれるパワーも強いんだってさ。って、それも必要ないかもしれないけど……」
ハハハっと軽く笑う優希。
じっとブレスレットを見つめていた海斗だったが、左手にアクセサリーBOXを持ったまま、優希をぎゅっと抱き締めた。
「そんなことないっ。そんなことない……。ありがとう。嬉しい……優希、好きだよ。大好きだ……」
そして優希の頬にそっとキスをする。唇へも触れるだけのキスをする。
「優希……やっぱり今夜、泊まっていかないか?」
じっと真剣な顔で優希を見つめる海斗。
キスだけで真っ赤になっていた優希は、海斗の言葉に目を大きく見開き固まっていた。
(それって……やっぱり……)
ドクンドクンと心臓が鳴っている。耳元で聞こえるみたいだった。
真剣な海斗の瞳を見つめて、優希は真っ赤な顔のままゆっくりと頷いた。
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