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Happy☆White~幸せのひととき~
第3話
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「あれ? 駅?」
車が止まった場所で、優希は窓から外をきょろきょろと眺めながら呟いた。
「あぁ、ここから行く」
そう言って海斗は橘にドアを開けられるとすぐに車から降りた。
「わっ、待ってよっ」
優希も慌てて車から降りる。
2人が降りたところで橘は後部座席のドアを静かに閉める。
土曜日ということもあり、まだ9時過ぎだというのに駅周辺には車やシャトルバスでいっぱいだった。ディズニーリゾートの開園時間も過ぎているので当然と言えば当然の光景である。駅へ続く階段は人で溢れかえっている。
「うっわぁ……すっげぇ人。電車だったら凄かったかも」
優希はロータリーから周りを見回し、そして上に見える駅方面をげんなりとした顔で見上げながらぼそりと呟いた。
「じゃあ、行ってくる。帰りも頼む」
「はい。いってらっしゃいませ。お帰りの際もこちらでお待ちいたしております。お気をつけて」
海斗は橘にそれだけ言うと、優希を振り返る。
そして海斗の言葉で橘もすぐに返事をして深く頭を下げる。
「優希、行こう」
海斗はそう言って手を差し出した。
「ちょっ……やだっ!」
差し出された手を見てぎょっとした優希は顔を赤らめながら顔を逸らす。
「いいからっ。じゃあな、橘」
横を向いて頬を膨らませている優希の右手を無理矢理に掴むと、海斗は橘に手を振り歩き出した。
「ちょっ、やめろってばっ! あ、橘さん、ありがとっ。いってきますっ!」
顔を更に真っ赤にさせて慌てて海斗に続く優希だったが、すぐに振り返って橘に手を振る。
「はい、いってらっしゃいませ。楽しんできてくださいね」
にっこりと微笑む。
しかし、橘を振り返ることなく海斗はどんどん先へと進んでしまい、優希は引き摺られるようにしてついて行った。
そんな2人が見えなくなるまで、橘は微笑んだまま見送っていたのだった。
☆☆☆
「もうっ、離せよっ!」
駅のすぐそばまで来ると、たくさんの人を見て恥ずかしくなる。
誰に見られるか分かったものじゃない。いや、知った人でなくても恥ずかしい。
自分たちは男同士なのだ。普通じゃない。手を繋いで歩くなど……。
「迷子になったら困るだろ?」
「なるかっ!」
真剣に問い返す海斗を思い切り睨み付け、優希は無理矢理ぱっと手を離した。
「しょうがねぇなぁ……」
不満そうに顔を顰めた海斗であったが、それ以上無理強いすることなく優希の隣を歩く。
「なんで駅なんだ? 混むからやだって言ってたじゃん」
階段を上りながら優希は先程から不思議に思っていたことを海斗に尋ねる。
「あぁ……電車はな。……でも、優希、あれに乗ってみたいって言ってただろ?」
階段を上り、開けた場所へ出たところでそう言って海斗が指差した方向には、人混みの向こうに見える建物『イクスピアリ』が見えた。
「あれが何?」
海斗の言っている意味が分からずことんと首を傾げる。初めてディズニーシーに来た優希にはあの建物が何なのかも分かっていなかった。
「あそこから乗るんだよ、ディズニーリゾートラインってやつ」
ディズニーリゾートライン。パーク内を走っているモノレールである。3日前、2人でディズニーの公式サイトを見ていた時に優希が乗ってみたいと言っていたのだった。
「あ……」
優希はまさか海斗がそんなことを覚えていたとは思わなくて思わず唖然とした。
あの時は興味なさそうな反応をしていたのに、ちゃんと覚えていてくれたのが嬉しかった。そして段々顔が熱くなってくるのを感じた。
「なんなら1周するか?」
「バカっ、時間がもったいないだろっ。遊ぶ方が優先なのっ」
にやりと笑う海斗にハッとすると、優希はひとり早足に先を歩く。
そして海斗は楽しそうに優希の後ろをついていった。
モノレールに乗りながら子供のようにはしゃいでいた優希であったが、ディズニーシーの駅に到着し、パークが見えてくると更に興奮する。
「わーっ。俺、シー初めてなんだよねっ」
嬉しそうに走り出す。海斗は愛しそうに優希を眺めながら走ることなくゆっくりと歩いていく。
「海斗っ。早く来いよっ」
優希はいつになく興奮しているのか、海斗と2人で来ているといった恥ずかしさよりも初めて来たディズニーシーに目を輝かせていたのだった。
久し振りに見る、優希のキラキラとした笑顔に海斗は目を細め、軽く返事をすると優希の所までゆっくりと走った。
☆☆☆
「なんでマリーちゃん……」
渡されたチケットに表示されているキャラクターをじっと不満そうに見つめる優希。
「なんでって、猫だろ?」
チケットは海斗がまとめて支払っていた。
もらった2枚のチケットを見て、すぐにマリーの方を優希に渡した海斗。
優希が不満そうなのが理解できず、不思議そうに首を傾げる。
「いや……そうじゃなくって。ていうか、なんで猫なんだよっ!」
優希は呆れたような顔付きで海斗を見上げるが、ふと自分が猫と言われた気がしてかぁっと顔が熱くなる。
「なんでって、ユキっぽいなぁって思ったからだろ?」
怒る優希をやはり理解できず、今度は眉間に皺を寄せながら優希を見下ろす。
「あ……ユキ……」
優希は自分が勘違いしていたことに気付くと更に顔を赤らめた。
「なんだよ優希。もしかして自分に似てるとか自覚してんのか?」
優希の反応を見て、やっと怒っている理由を理解した海斗はにやりと笑って優希を見下ろす。
「なっ!? 似てるってっ、自覚ってなんだよっ!」
「アハハ。全部。顔も、そうやって弄られてムキになって怒るとこもな」
真っ赤な顔で怒鳴りつける優希の髪を、海斗は笑いながらくしゃりと触る。
「もうっ! 触んなっ!」
真っ赤な顔のまま海斗の手を払うと、優希は頬を膨らませながら歩き出す。
海斗はそんな優希を見つめ、くすりと笑うとすぐに追いかけた。
☆☆☆
チケットと一緒に渡されたパーク内のエリアマップを広げ、優希はどこから行こうか悩みながら歩いていた。
「歩きながら見てると危ないぞ? 優希」
追いついた海斗は優希の隣に並びながら声を掛ける。
「うん……な、どこ行く?」
聞こえているのかどうか分からないような曖昧な返事をしながらも、優希はぴたりと立ち止まり、隣の海斗を見上げた。
「どこでも。優希の行きたいとこからでいいよ」
一緒に立ち止まった海斗はにっこりと優希を見下ろした。
海斗の態度と笑顔に、一瞬顔を赤らめた優希であったが、すぐにまたエリアマップに視線を戻す。
「んんー……センター・オブ・ジ・アースは?」
アトラクションの一覧を見ながら眉を顰める。
まずは人気アトラクションから行きたい気もする。
「なんでもいいぞ? 優希アレ行きたいって言ってなかったか? なんだっけ?」
優希の返事に3日前に言っていたことを思い出しながら、海斗は手を口元に置きながら考える。
「あぁ、タワー・オブ・テラー! んんー……それも行きたいんだけど、いきなりはなぁ……。もうちょっと後にしようよ」
パッと顔を上げ海斗を見上げると、優希は自分の言った言葉を思い出して答えるのだが、なんとなく最初は違う気がして再びエリアマップに視線を落とす。
「そうか。じゃあ、センター・オブ・ジ・アースにしよう。こっちだ。混んでなきゃいいが……。もし混んでたらファストパスを取ろう」
そう言って海斗は優希の手を引いて歩き出す。
「ちょっ、ちょっとっ! ……てか、海斗ってディズニーよく来るのか? ファストパスなんてよく知ってるね」
手を掴まれて真っ赤になって驚いた優希であったが、それよりも海斗の発言に驚いていた。海斗のイメージとして、あまりこういったテーマパークは来ない気がしたからだ。アトラクションの場所を知っていること、そして詳しいことに驚いた。
しかし、優希は知らなかった。実は事前に海斗がネットや雑誌で必死に予習をしていたことを。そして海斗は――。
「いや? 東京のは初めてだ。パリのなら一度行ってるが?」
歩きながら平然とそう答えた。もちろん、下調べしたことは言わずに。
「パリぃっ!?」
海斗の答えに優希は目を丸くしながら素っ頓狂な声を上げる。
「あぁ、一度だけ親父達のとこへ行ってな……。あんま近くにいたくなくて、メイド連れて行ってきた」
「そうだったんだ……。え? メイドさん? 橘さんは? 家族とは……やっぱ行かなかったんだ?」
平然と答える海斗を複雑な顔で見上げていた優希だったが、最後の意外な言葉に思わず訊いてしまった。そして、口をついて出てしまったけれど『しまった』と思わず顔に出してしまう。
「……あぁ。橘は日本の家を守る務めがあったからパリには一緒には行かなかったんだ。家族とは……ほとんど会わなかったな。兄貴とは少し話したけど」
優希の様子であの頃のことを少し思い出してしまった海斗。口調は落ち着いてはいるが、寂しそうな響きを感じさせていた。
「え、えっと……今日はさ、いっぱい楽しもうよっ。海斗も初めてなんだろっ。いっぱい楽しんでさ、いっぱい思い出作ろうっ」
ふと顔を上げ、優希は寂しそうな顔をした海斗を見て切なくなっていた。そして、なんとか海斗に笑顔になってほしくて、自分でも気付かぬうちに必死になっていた。
「あぁ。そうだな。優希がいればなんだって楽しい」
思わず笑みが零れる。愛しそうに見つめながら、そっと優希の頬に自分の手の甲を当てた。
「っ!? じゃ、じゃあ行くよっ」
ぎょっとした優希は顔を真っ赤にさせながら、海斗から顔を逸らすと掴まれていた手を離すことなくそのまま海斗を引っ張るようにして歩き出した。
車が止まった場所で、優希は窓から外をきょろきょろと眺めながら呟いた。
「あぁ、ここから行く」
そう言って海斗は橘にドアを開けられるとすぐに車から降りた。
「わっ、待ってよっ」
優希も慌てて車から降りる。
2人が降りたところで橘は後部座席のドアを静かに閉める。
土曜日ということもあり、まだ9時過ぎだというのに駅周辺には車やシャトルバスでいっぱいだった。ディズニーリゾートの開園時間も過ぎているので当然と言えば当然の光景である。駅へ続く階段は人で溢れかえっている。
「うっわぁ……すっげぇ人。電車だったら凄かったかも」
優希はロータリーから周りを見回し、そして上に見える駅方面をげんなりとした顔で見上げながらぼそりと呟いた。
「じゃあ、行ってくる。帰りも頼む」
「はい。いってらっしゃいませ。お帰りの際もこちらでお待ちいたしております。お気をつけて」
海斗は橘にそれだけ言うと、優希を振り返る。
そして海斗の言葉で橘もすぐに返事をして深く頭を下げる。
「優希、行こう」
海斗はそう言って手を差し出した。
「ちょっ……やだっ!」
差し出された手を見てぎょっとした優希は顔を赤らめながら顔を逸らす。
「いいからっ。じゃあな、橘」
横を向いて頬を膨らませている優希の右手を無理矢理に掴むと、海斗は橘に手を振り歩き出した。
「ちょっ、やめろってばっ! あ、橘さん、ありがとっ。いってきますっ!」
顔を更に真っ赤にさせて慌てて海斗に続く優希だったが、すぐに振り返って橘に手を振る。
「はい、いってらっしゃいませ。楽しんできてくださいね」
にっこりと微笑む。
しかし、橘を振り返ることなく海斗はどんどん先へと進んでしまい、優希は引き摺られるようにしてついて行った。
そんな2人が見えなくなるまで、橘は微笑んだまま見送っていたのだった。
☆☆☆
「もうっ、離せよっ!」
駅のすぐそばまで来ると、たくさんの人を見て恥ずかしくなる。
誰に見られるか分かったものじゃない。いや、知った人でなくても恥ずかしい。
自分たちは男同士なのだ。普通じゃない。手を繋いで歩くなど……。
「迷子になったら困るだろ?」
「なるかっ!」
真剣に問い返す海斗を思い切り睨み付け、優希は無理矢理ぱっと手を離した。
「しょうがねぇなぁ……」
不満そうに顔を顰めた海斗であったが、それ以上無理強いすることなく優希の隣を歩く。
「なんで駅なんだ? 混むからやだって言ってたじゃん」
階段を上りながら優希は先程から不思議に思っていたことを海斗に尋ねる。
「あぁ……電車はな。……でも、優希、あれに乗ってみたいって言ってただろ?」
階段を上り、開けた場所へ出たところでそう言って海斗が指差した方向には、人混みの向こうに見える建物『イクスピアリ』が見えた。
「あれが何?」
海斗の言っている意味が分からずことんと首を傾げる。初めてディズニーシーに来た優希にはあの建物が何なのかも分かっていなかった。
「あそこから乗るんだよ、ディズニーリゾートラインってやつ」
ディズニーリゾートライン。パーク内を走っているモノレールである。3日前、2人でディズニーの公式サイトを見ていた時に優希が乗ってみたいと言っていたのだった。
「あ……」
優希はまさか海斗がそんなことを覚えていたとは思わなくて思わず唖然とした。
あの時は興味なさそうな反応をしていたのに、ちゃんと覚えていてくれたのが嬉しかった。そして段々顔が熱くなってくるのを感じた。
「なんなら1周するか?」
「バカっ、時間がもったいないだろっ。遊ぶ方が優先なのっ」
にやりと笑う海斗にハッとすると、優希はひとり早足に先を歩く。
そして海斗は楽しそうに優希の後ろをついていった。
モノレールに乗りながら子供のようにはしゃいでいた優希であったが、ディズニーシーの駅に到着し、パークが見えてくると更に興奮する。
「わーっ。俺、シー初めてなんだよねっ」
嬉しそうに走り出す。海斗は愛しそうに優希を眺めながら走ることなくゆっくりと歩いていく。
「海斗っ。早く来いよっ」
優希はいつになく興奮しているのか、海斗と2人で来ているといった恥ずかしさよりも初めて来たディズニーシーに目を輝かせていたのだった。
久し振りに見る、優希のキラキラとした笑顔に海斗は目を細め、軽く返事をすると優希の所までゆっくりと走った。
☆☆☆
「なんでマリーちゃん……」
渡されたチケットに表示されているキャラクターをじっと不満そうに見つめる優希。
「なんでって、猫だろ?」
チケットは海斗がまとめて支払っていた。
もらった2枚のチケットを見て、すぐにマリーの方を優希に渡した海斗。
優希が不満そうなのが理解できず、不思議そうに首を傾げる。
「いや……そうじゃなくって。ていうか、なんで猫なんだよっ!」
優希は呆れたような顔付きで海斗を見上げるが、ふと自分が猫と言われた気がしてかぁっと顔が熱くなる。
「なんでって、ユキっぽいなぁって思ったからだろ?」
怒る優希をやはり理解できず、今度は眉間に皺を寄せながら優希を見下ろす。
「あ……ユキ……」
優希は自分が勘違いしていたことに気付くと更に顔を赤らめた。
「なんだよ優希。もしかして自分に似てるとか自覚してんのか?」
優希の反応を見て、やっと怒っている理由を理解した海斗はにやりと笑って優希を見下ろす。
「なっ!? 似てるってっ、自覚ってなんだよっ!」
「アハハ。全部。顔も、そうやって弄られてムキになって怒るとこもな」
真っ赤な顔で怒鳴りつける優希の髪を、海斗は笑いながらくしゃりと触る。
「もうっ! 触んなっ!」
真っ赤な顔のまま海斗の手を払うと、優希は頬を膨らませながら歩き出す。
海斗はそんな優希を見つめ、くすりと笑うとすぐに追いかけた。
☆☆☆
チケットと一緒に渡されたパーク内のエリアマップを広げ、優希はどこから行こうか悩みながら歩いていた。
「歩きながら見てると危ないぞ? 優希」
追いついた海斗は優希の隣に並びながら声を掛ける。
「うん……な、どこ行く?」
聞こえているのかどうか分からないような曖昧な返事をしながらも、優希はぴたりと立ち止まり、隣の海斗を見上げた。
「どこでも。優希の行きたいとこからでいいよ」
一緒に立ち止まった海斗はにっこりと優希を見下ろした。
海斗の態度と笑顔に、一瞬顔を赤らめた優希であったが、すぐにまたエリアマップに視線を戻す。
「んんー……センター・オブ・ジ・アースは?」
アトラクションの一覧を見ながら眉を顰める。
まずは人気アトラクションから行きたい気もする。
「なんでもいいぞ? 優希アレ行きたいって言ってなかったか? なんだっけ?」
優希の返事に3日前に言っていたことを思い出しながら、海斗は手を口元に置きながら考える。
「あぁ、タワー・オブ・テラー! んんー……それも行きたいんだけど、いきなりはなぁ……。もうちょっと後にしようよ」
パッと顔を上げ海斗を見上げると、優希は自分の言った言葉を思い出して答えるのだが、なんとなく最初は違う気がして再びエリアマップに視線を落とす。
「そうか。じゃあ、センター・オブ・ジ・アースにしよう。こっちだ。混んでなきゃいいが……。もし混んでたらファストパスを取ろう」
そう言って海斗は優希の手を引いて歩き出す。
「ちょっ、ちょっとっ! ……てか、海斗ってディズニーよく来るのか? ファストパスなんてよく知ってるね」
手を掴まれて真っ赤になって驚いた優希であったが、それよりも海斗の発言に驚いていた。海斗のイメージとして、あまりこういったテーマパークは来ない気がしたからだ。アトラクションの場所を知っていること、そして詳しいことに驚いた。
しかし、優希は知らなかった。実は事前に海斗がネットや雑誌で必死に予習をしていたことを。そして海斗は――。
「いや? 東京のは初めてだ。パリのなら一度行ってるが?」
歩きながら平然とそう答えた。もちろん、下調べしたことは言わずに。
「パリぃっ!?」
海斗の答えに優希は目を丸くしながら素っ頓狂な声を上げる。
「あぁ、一度だけ親父達のとこへ行ってな……。あんま近くにいたくなくて、メイド連れて行ってきた」
「そうだったんだ……。え? メイドさん? 橘さんは? 家族とは……やっぱ行かなかったんだ?」
平然と答える海斗を複雑な顔で見上げていた優希だったが、最後の意外な言葉に思わず訊いてしまった。そして、口をついて出てしまったけれど『しまった』と思わず顔に出してしまう。
「……あぁ。橘は日本の家を守る務めがあったからパリには一緒には行かなかったんだ。家族とは……ほとんど会わなかったな。兄貴とは少し話したけど」
優希の様子であの頃のことを少し思い出してしまった海斗。口調は落ち着いてはいるが、寂しそうな響きを感じさせていた。
「え、えっと……今日はさ、いっぱい楽しもうよっ。海斗も初めてなんだろっ。いっぱい楽しんでさ、いっぱい思い出作ろうっ」
ふと顔を上げ、優希は寂しそうな顔をした海斗を見て切なくなっていた。そして、なんとか海斗に笑顔になってほしくて、自分でも気付かぬうちに必死になっていた。
「あぁ。そうだな。優希がいればなんだって楽しい」
思わず笑みが零れる。愛しそうに見つめながら、そっと優希の頬に自分の手の甲を当てた。
「っ!? じゃ、じゃあ行くよっ」
ぎょっとした優希は顔を真っ赤にさせながら、海斗から顔を逸らすと掴まれていた手を離すことなくそのまま海斗を引っ張るようにして歩き出した。
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