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Because there was you~2人の本当の出逢い~

第4話

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「え……ウソ。あの時の人……海斗だったの?」
 海斗の話を聞いて4年前のことを思い出す。
 まさか、あの時のおにいさんが海斗だったなんて……。
 西日が眩しくて、一緒にいた人の顔までよく見えなかった。
 悲しそうな横顔だけは覚えてる。でも……まさか海斗だったなんて。
「そうだよ。やっと思い出したか? 優希」
 そう言って海斗は俺をじっと見つめた。
「うん……。俺さ、次の日引越ししたんだよね、実は。元々の家がこの近くで、小学生の頃まではよくここで友達と遊んでた。……あの日、最後だと思ったから来たんだ。俺もこの公園が好きだったから」
「え?」
 俺は海斗から目を逸らし、公園を見渡した。
 すぐに海斗の驚いたような声が返ってきた。
「アパートから一軒家に引っ越したんだけど、ちょっと遠くなっちゃって。自転車で行けないこともなかったんだけど、中学になってからは公園で遊ぶこともなくなってたから……。まさか、あの後も海斗が公園に来てたなんて知らなくて、ごめん……」
「いや、そうか……。だから会えなくなったんだな……」
 海斗の声が少し寂しげに聞こえた気がして海斗を見た。
「……ユキに会いたい?」
 じっと海斗を見つめる。
「え? もしかして……」
 驚いた顔をしている。きっとそういう顔すると思った。
「うん。うちにいるよ。おっきくなったよ、ユキ」
 笑顔で返す。そんな俺を見て海斗はまた驚いた顔をしている。
 今度はなんでか分かんなかった。
「……久し振りに見たな。お前のその笑顔。そうだな……ユキに会いたいな」
 今までに見たことないくらいの優しい顔で俺を見てきた海斗。
 ちょっとドキドキしてしまった。
「う……うん。今度会いにおいでよ。海斗のこと覚えてるかどうか分かんないけど、人懐っこいし、きっと大丈夫だよ」
 なんとなく動揺する。
「そうだな。優希のご両親にも挨拶しないとな」
 今度は一転、いつもの意地悪な顔になる。
「はっ!? なんでっ? っていうか、挨拶なんてしなくていいからっ!」
 海斗の発言にぎょっとする。何を言われるか分かったもんじゃないっ。
「なんで? ユキにも会いたいけど、やっぱり優希の家族の方にもちゃんと挨拶しないと」
 そう言って海斗は立ち上がった。それに反応して伏せしたまま眠っていた2匹のドーベルマンも立ち上がる。

 ちょっと待てー! 絶対来るなー!!!

 さっさと歩き出してしまった海斗の背中を見ながら、俺は物凄く不安に駆られていた。



 ☆☆☆



 海斗の家に戻ると、海斗の部屋へと向かう。
 部屋に着いたと同時に、待っていたかのように橘さんが飲み物とお菓子を持ってきてくれた。

 今日はマカロンだっ!

 前に一度でいいから食べてみたいって言った俺のリクエストを覚えてくれてたんだ。
 さすがは橘さん。
 それにしても、この人ってやっぱ凄いんだよな。
 『あの』海斗とずっと過ごしてきたんだもんな。
 妙に感心してしまった。
 橘さんにお礼を言うと、俺は早速テーブルに置かれた皿からピンクのマカロンを手に取って、口に運んだ。
「うっわー。あっまーいっ」
 不思議な食感と思った以上に甘い。
 口の中いっぱいに甘さが広がっていた。
「そういえばさ、海斗ってほんとに俺のこと探してたの?」
 なんとなく疑問に思ったことを口にしてみた。
「なんでだ?」
 テーブルの前に座っている俺を、ソファに座りコーヒーを飲みながらじっと見下ろしてる。
「だってさ。引っ越したとは言え、海斗も近くの中学だったんだよね? 探せば見つかりそうじゃん? 俺の名前は知ってたんだしさ」
 なんとなく面白くない。
 本当に海斗は俺を探していたのかな、想ってくれていたのかなって。
「探したよ……でも……」
「でも?」
 言いかけた海斗の言葉に問い返す。
「……お前のこと、小学生の女子だと思ってた……。だから周りの小学校を探してた……」
 ちょっと苦笑いしながら海斗が答える。

 なっにぃー!!

「小学生っ!? てか、女子ってっ! 俺って言ってたじゃんっ!」
 顔がすごく熱い。もうっ、そういうのすっごくキライっ。
 俺は自分の名前も容姿も嫌いだった。よく女の子に間違われたから……。
「いや……そういう言い方する女子なのかと……。いいじゃん。優希、可愛いし」
 相変わらず苦笑いしてる。許せないっ。
 海斗ってば全然分かってないっ。
 俺はムカついて口を尖らせた。
 でも……ふと思いついたことがあった。ちょっと海斗に意地悪してやる。
「ねぇ海斗。マカロン美味しいよ? 食べてみなよ。海斗の甘い物嫌いってやっぱお父さんのせい?」
「あぁ……そうだな」
 俺の言葉に傷ついたような顔をしてる。
 ちょっと心が痛んだけど、俺も傷ついたんだから。仕返しだ。
「じゃあさ、もしかしたら食わず嫌いなだけかもよ? 食べてみたら?」
 俺はニヤっと笑って海斗を見上げた。
「そうだな……」
 すると海斗は意外にも俺の意見に同意して、テーブルの前に座り込んでいる俺の横に座った。
 あれ? 絶対イヤだとかって言うと思ったのに――。

「じゃあ……味見してみるか」

 拍子抜けしていた俺はすっかり油断していた。
 まさかそんなことを考えていたなんて――。
 急に顎をくいっと海斗の右手で押し上げられた。
「へ?」
 何が何だか分からない俺に海斗は顔を近づけてきた。
 そして、いともあっさり俺は海斗にキスされてしまった。
「んんーっ」
 突き飛ばそうって思って海斗の胸に両手を当てたけど……なんだか今日は突き放すことができなかった。
 あんな話を聞いちゃったからかな。ズルイよな……。
 俺は海斗が離れるのを待った――。

「うん。甘いな」
 俺から離れた海斗は一言そう言った。
 その言葉で俺は凄く顔が熱くなった。やっぱ意地悪だっ。
「優希がいれば、甘い物も克服できるかもな」
 ニヤリと笑う。
 なんだよそれ……。
 ムッとして俺は海斗を睨み付けた。でも――。
「優希……好きだよ」
 そう言って今度は優しい顔で俺をぎゅっと抱き締めてきた。
 ぎょっとしたけど、急にふと海斗の話を思い出してなぜだか凄く嫌な気持ちになっている自分がいた。
「海斗……高校卒業したら……親父さん達のとこ……パリに行くのか?」
 抱き締められたまま、俺は海斗に聞いた。
 きっと今すごく嫌な顔してるかも。
 俺のこと好きって言ってるくせに、こんなことしてるくせに、俺を置いて遠くへ行っちゃうんだ?
「さぁ……どうかな……」
 耳元でぼそりと答えた海斗に俺は今までにない怒りを感じた。
「なんだよそれっ! 俺は何っ? なんでこんなことすんのっ? 離れるくせに優しくなんてすんなよっ!」
 気が付いたら俺は泣いていた。
 なんでだろう。心がすごく痛くて……苦しい。
 海斗がいなくなる? 遠くへ行ってしまう? 俺は?
 海斗の背中を何度も叩いていた。
 それでも海斗は俺をぎゅっと抱き締めていた。
「優希。俺は、お前に逢えたから……お前がいてくれたから、今までの自分がいたんだ。見失わずにいられたんだ。これからも……。優希は俺の初恋なんだ。ずっとそばにいたい。いてほしい……」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 いなくなっちゃうのに? なんで今そんなことを言うんだ?
 俺について来いって言ってるのか?
「俺は……ここを離れたくない……。でも……海斗のそばにいたい。離れたくない……」
 ぼそりと話した。海斗はどう思うのかな……。
 不安が頭をよぎった。
 俺達、このまま終わっちゃうのかな――。

 すると……なぜだかクスクスと聞こえてきた。
 んん? まさか笑っているのか? 海斗?
「良かった。その言葉を待ってたよ、優希」
 そう言って海斗は体を離すと俺にまたキスをしてきた。
 はぁ? 何を言ってるんだ?
 頭がパニックを起こしていた。
「そんな、パリになんて行くわけないだろ? 俺、親父のこと……大っ嫌いだからな」
 唇を離すと海斗はそう言ってニヤリと笑った。
「へ?」
 海斗の昔の話を聞いて苦しくなっていた俺はどうしたらいいんだ?
 騙されたのか?
 沸々と怒りが込み上げてきた。
「そりゃガキん時はすっげぇ寂しかったよ。でも、今はどうでもいい。つか、あんな人の思い通りになんて絶対ならない。アイツの会社にも入らないし、パリにも行かない。アイツのブランドの服なんて俺1回も着たことないぞ?」
 面白そうに俺を見ながら話す海斗を見て、怒りを通り越して呆気にとられていた。
 ていうか、自分の親を『アイツ』呼ばわりだよ……。
 あ、確かに海斗の服って……親父さんのブランドは高級だけど、紳士な感じだもんな。
 そっか、だからいつもあんな格好してるんだ……。
 いや、待てよ。これは反抗とかじゃなくって、ただのコイツの趣味か。
 なんだか溜め息が出てしまった。
「何を溜め息なんてついてるんだ? でも、さっき言ったことは本当だからな」
 不思議そうに俺を眺めていた海斗だったけど、またあの優しい顔で俺を見つめてきた。
 俺はさっきの海斗の言葉を思い出していた。
 まぁ……今日のところは、許してやるよ。
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