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☆Greed in the mirror☆~物語はここから始まる~
最終話
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「相澤っ!」
ハッとすると、もう一度怒鳴る。
無理矢理ベッドから引き摺り下ろす。
「いやだっ!」
頑なに拒否する相澤。なぜだ。
「相澤……ここにいたらダメだ。お前の体も魂も粉々になっちまうんだぞ?」
俺は力を緩めはしなかったが、じっと真剣に相澤を見下ろした。
「え……」
相澤は俺の言った言葉に混乱しているみたいだった。
俺がなんなのか漸く分かったのかもしれない。
「藤條……もしかして……あの店に行ったの?」
少し青ざめたような顔をしている。
知られたくなかったんだろうか。
「あぁ、そうだ。だからお前を連れ戻しに来た。もう時間がない。頼む、一緒に来てくれ」
「優希……」
俺が話した後すぐに後ろからもう1人の俺が相澤を呼んだ。
「あ……」
相澤がもう1人の俺を振り返る。
今、相澤は迷っている。でも、迷わせたらダメだ。連れて帰らないと。
俺は相澤ともう1人の俺とを交互に見た後、もう一度相澤を見下ろして強く言った。
「相澤。よく聞け。お前はこのままじゃ体も魂も粉々になってこの世界に飲み込まれる。もう会えなくなるんだぞ? みんながお前のこと忘れるんだぞ? お前の存在自体がなくなるんだっ! 相澤っ。俺と一緒に来いっ。戻るんだっ!」
「藤條……でも……」
相澤は泣きそうな顔をしながらもう1人の俺を振り返る。
「相澤っ! 俺はどうなる? 俺を見ろっ! 俺はここだっ! アレは俺じゃないっ。俺を見ろっ!」
相澤の両手首をギュッと握り、俺は必死に叫んでいた。
「藤條……」
目を見開いて驚いた顔をしている相澤。
もう、時間がない。最後の手段だ。これが効くかどうか――。
「んっ……」
俺は相澤にキスをした。手首を握ったまま。
頼む。俺を見てくれ、相澤。
ゆっくりと顔を離した。
呆然としている相澤。
「俺を信じろ。俺を見ろ」
じっと真剣に相澤を見下ろす。
「藤條……ゴメン……」
そう言って相澤は俺の制服の上着をしっかりと握り締めた。
顔を俺の胸に押し付けている。
ゴメンって……行かないって意味じゃないよな?
「海斗……ゴメンネ。俺、戻る。本当のキミに逢えたから」
顔を上げ、もう1人の俺を見て、相澤は涙を流しながらそう言った。
「よし、帰ろうっ」
そう言って俺達は鏡の前に立ち、手を繋いでお互いに元の世界に戻れるよう――願った。
――優希編――
ドスンッ
いったぁ……。
あれ? でもそんなに痛くないかも?
光を浴び、再び風と重力を感じた。
俺はゆっくりと目を開け、周りを見回す。
薄暗い部屋、見覚えのある置物や家具。
あ、戻ってきたんだ……。
「早くどいてくれないか?」
ホッとしていたのも束の間、すぐ下から声がした。
え?
見ると――俺の下に顔をしかめた藤條がいた。
「うっ、うわっ!」
俺は慌てて藤條から降りた。
さっきあまり痛みを感じなかったのは藤條が俺の下で支えてくれていたからだ。
俺達は抱き合った状態で元の世界に戻っていた。
「うわって……失礼だな……」
藤條は体を起こし、少し不貞腐れたような顔で俺を眺める。
「ハッ……ハクションッ……」
くしゃみが出てハッとした。
俺――裸じゃんっ!
一気に体が熱くなる。
うわーうわーうわーっ!!!
どこを隠せばいいか分からずに手の動きがおかしくなる。
「ったく……男同士なんだから恥ずかしくもないだろ?」
そう言って藤條は自分の上着を脱ぐと、俺に渡してくれた。
あれ? 顔が笑ってる。
しかも、いつもの藤條でも、あの世界の藤條でもない。
「はっ、恥ずかしいよっ……」
俺は藤條から上着を受け取って顔を赤くしたまま顔を逸らした。
「良かった……」
ぼそりと声が聞こえた。
あれ? 今の藤條だよね?
もう一度振り返る。
すると、藤條のすぐ横に俺の制服があるのが見えた。
あれ?
首を傾げたけど、俺は手を伸ばしてそれを取った。
「なんだよ?」
藤條は俺の行動に一瞬ギョッとした顔をした。
俺は制服と……あ、下着もあった。
それらを手にして藤條に見せた。
「あぁ……あったんだ。良かったな」
なんだかそう言った藤條が少し残念そうに見えたのは気のせいか?
「相澤……ちょっと下がってろ」
俺が着替えると藤條がそう言って俺を後ろへとやった。
何をするのかと首を傾げていると、藤條は近くにあった椅子を持ち、スッと振り上げた。
えっ!?
驚く間もなく、藤條はその椅子を鏡に向かって振り下ろした。
鏡はビシィっといった音と共にヒビが入り、そのヒビが鏡全体へと広がった。
そして、古びてくすんだガラスは派手な音と共に一斉に床へと落ちていった。
「藤條……」
大丈夫なのかよ? と呟きながら呆れた顔で藤條を見上げた。
「これでもう迷うことはないだろ?」
椅子を床に置くと、藤條は俺を振り返ってニヤリと笑った。
あ、すっごい意地悪な顔してる。
ふんだっ。このイジメっ子。
俺が口を尖らせていると、藤條は頭をポンポンと叩いてきた。
「そうそう。それでこそ相澤だっ」
嬉しそうに笑っている。
どういう意味だよっ!
今度はむくれて頬を膨らませていたら、スッと頬に手が当たったと思ったら、そのまま軽くキスされた。
「っ!?」
さっきもだけど、本物がっ! 本物がっ! 俺にキスしたぁ!!!
大混乱。
頭の中がグルグルしている。
「帰ろう」
そう言って藤條は優しく笑って手を差し出した。
俺は迷うことなく、その手を取った。
☆☆☆
「あーあ、壊しちゃったんですね」
ひとりの青年が崩れた鏡を眺めていた。
「どちらが本当の世界かなんて……誰にも分からないのにね」
青年は優しく、そして怪しく微笑んだ。
To be continued……?
ハッとすると、もう一度怒鳴る。
無理矢理ベッドから引き摺り下ろす。
「いやだっ!」
頑なに拒否する相澤。なぜだ。
「相澤……ここにいたらダメだ。お前の体も魂も粉々になっちまうんだぞ?」
俺は力を緩めはしなかったが、じっと真剣に相澤を見下ろした。
「え……」
相澤は俺の言った言葉に混乱しているみたいだった。
俺がなんなのか漸く分かったのかもしれない。
「藤條……もしかして……あの店に行ったの?」
少し青ざめたような顔をしている。
知られたくなかったんだろうか。
「あぁ、そうだ。だからお前を連れ戻しに来た。もう時間がない。頼む、一緒に来てくれ」
「優希……」
俺が話した後すぐに後ろからもう1人の俺が相澤を呼んだ。
「あ……」
相澤がもう1人の俺を振り返る。
今、相澤は迷っている。でも、迷わせたらダメだ。連れて帰らないと。
俺は相澤ともう1人の俺とを交互に見た後、もう一度相澤を見下ろして強く言った。
「相澤。よく聞け。お前はこのままじゃ体も魂も粉々になってこの世界に飲み込まれる。もう会えなくなるんだぞ? みんながお前のこと忘れるんだぞ? お前の存在自体がなくなるんだっ! 相澤っ。俺と一緒に来いっ。戻るんだっ!」
「藤條……でも……」
相澤は泣きそうな顔をしながらもう1人の俺を振り返る。
「相澤っ! 俺はどうなる? 俺を見ろっ! 俺はここだっ! アレは俺じゃないっ。俺を見ろっ!」
相澤の両手首をギュッと握り、俺は必死に叫んでいた。
「藤條……」
目を見開いて驚いた顔をしている相澤。
もう、時間がない。最後の手段だ。これが効くかどうか――。
「んっ……」
俺は相澤にキスをした。手首を握ったまま。
頼む。俺を見てくれ、相澤。
ゆっくりと顔を離した。
呆然としている相澤。
「俺を信じろ。俺を見ろ」
じっと真剣に相澤を見下ろす。
「藤條……ゴメン……」
そう言って相澤は俺の制服の上着をしっかりと握り締めた。
顔を俺の胸に押し付けている。
ゴメンって……行かないって意味じゃないよな?
「海斗……ゴメンネ。俺、戻る。本当のキミに逢えたから」
顔を上げ、もう1人の俺を見て、相澤は涙を流しながらそう言った。
「よし、帰ろうっ」
そう言って俺達は鏡の前に立ち、手を繋いでお互いに元の世界に戻れるよう――願った。
――優希編――
ドスンッ
いったぁ……。
あれ? でもそんなに痛くないかも?
光を浴び、再び風と重力を感じた。
俺はゆっくりと目を開け、周りを見回す。
薄暗い部屋、見覚えのある置物や家具。
あ、戻ってきたんだ……。
「早くどいてくれないか?」
ホッとしていたのも束の間、すぐ下から声がした。
え?
見ると――俺の下に顔をしかめた藤條がいた。
「うっ、うわっ!」
俺は慌てて藤條から降りた。
さっきあまり痛みを感じなかったのは藤條が俺の下で支えてくれていたからだ。
俺達は抱き合った状態で元の世界に戻っていた。
「うわって……失礼だな……」
藤條は体を起こし、少し不貞腐れたような顔で俺を眺める。
「ハッ……ハクションッ……」
くしゃみが出てハッとした。
俺――裸じゃんっ!
一気に体が熱くなる。
うわーうわーうわーっ!!!
どこを隠せばいいか分からずに手の動きがおかしくなる。
「ったく……男同士なんだから恥ずかしくもないだろ?」
そう言って藤條は自分の上着を脱ぐと、俺に渡してくれた。
あれ? 顔が笑ってる。
しかも、いつもの藤條でも、あの世界の藤條でもない。
「はっ、恥ずかしいよっ……」
俺は藤條から上着を受け取って顔を赤くしたまま顔を逸らした。
「良かった……」
ぼそりと声が聞こえた。
あれ? 今の藤條だよね?
もう一度振り返る。
すると、藤條のすぐ横に俺の制服があるのが見えた。
あれ?
首を傾げたけど、俺は手を伸ばしてそれを取った。
「なんだよ?」
藤條は俺の行動に一瞬ギョッとした顔をした。
俺は制服と……あ、下着もあった。
それらを手にして藤條に見せた。
「あぁ……あったんだ。良かったな」
なんだかそう言った藤條が少し残念そうに見えたのは気のせいか?
「相澤……ちょっと下がってろ」
俺が着替えると藤條がそう言って俺を後ろへとやった。
何をするのかと首を傾げていると、藤條は近くにあった椅子を持ち、スッと振り上げた。
えっ!?
驚く間もなく、藤條はその椅子を鏡に向かって振り下ろした。
鏡はビシィっといった音と共にヒビが入り、そのヒビが鏡全体へと広がった。
そして、古びてくすんだガラスは派手な音と共に一斉に床へと落ちていった。
「藤條……」
大丈夫なのかよ? と呟きながら呆れた顔で藤條を見上げた。
「これでもう迷うことはないだろ?」
椅子を床に置くと、藤條は俺を振り返ってニヤリと笑った。
あ、すっごい意地悪な顔してる。
ふんだっ。このイジメっ子。
俺が口を尖らせていると、藤條は頭をポンポンと叩いてきた。
「そうそう。それでこそ相澤だっ」
嬉しそうに笑っている。
どういう意味だよっ!
今度はむくれて頬を膨らませていたら、スッと頬に手が当たったと思ったら、そのまま軽くキスされた。
「っ!?」
さっきもだけど、本物がっ! 本物がっ! 俺にキスしたぁ!!!
大混乱。
頭の中がグルグルしている。
「帰ろう」
そう言って藤條は優しく笑って手を差し出した。
俺は迷うことなく、その手を取った。
☆☆☆
「あーあ、壊しちゃったんですね」
ひとりの青年が崩れた鏡を眺めていた。
「どちらが本当の世界かなんて……誰にも分からないのにね」
青年は優しく、そして怪しく微笑んだ。
To be continued……?
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