3 / 226
☆Greed in the mirror☆~物語はここから始まる~
第2話
しおりを挟む
何かが一瞬見えたというか、映ったような気がした。
古びた大きな鏡の中に……。
きっと薄暗いから分かりにくいだけだ。
鏡なんだから、何かが映ったっておかしくはない。
でも……。
「試してみますか?」
青年は鏡から一歩横に離れ、こちらをにこやかに見つめてきた。
「は? そんな……バカなことあるわけが……」
この鏡が何だっていうんだ。魔法の鏡じゃあるまいし。
ん? 魔法の鏡?
まさかな……。
「信じる信じないはあなた次第です。でも、もし可能であれば見たくないですか? 興味はありませんか?」
青年は全く表情が変わらない。
笑ってはいるが、心の中はどうなのだろう。
「興味……は、ないわけじゃないけど……」
じっと鏡を見る。
かなり大きい。
装飾された焦げ茶色の木製の淵。
とても綺麗とは言い難い、少し曇ったような鏡。
まるでおとぎ話にでも出てきそうだな。
じっと鏡を見ながら考えていると、再び青年が話し始めた。
「この鏡はあなたの願い……欲望を叶えてくれるのですよ」
欲望ってっ……ちょっとエロい響きやめろよな……。
「べ、別に……欲なんかないっ」
なんとなく顔が熱くなる。
薄暗くて良かったかも。
もしかしたら顔が赤くなってそうな……って、別に妄想とかじゃっ……妄想っ?
「欲のない人間など、この世にはいませんよ。あなたは食事だってするし、睡眠も取る。違いますか? それら全てが欲なのですよ?」
青年はくすりと微笑し、じっと見つめているのが分かる。
「ま、まぁ……そうだけど……」
うまく反論できずに青年から目を逸らす。
「ただ、この鏡には制約があるのですよ」
「制約?」
心を見透かされていそうで目を逸らしていたが、急に青年の言葉が気になり青年を振り返った。
「はい。先程もお話ししたように、ここの中は1日、つまり24時間しかいられないのですよ。24時間を超えてしまうと――」
「超えると?」
青年の説明を聞きながら一歩前に出る。
再び鏡の前に立つ。
自分の中の好奇心が膨らんでいくのが分かる。
「鏡に取り込まれてしまうのですよ」
青年はなんとも言えない笑顔を俺に見せた。
どこか冷笑的にも見えるような。
「取り込まれる? どういう意味?」
さっきも話していた。
取り込まれるって?
まぁ……鏡の中に入ること自体信じられないんだけど。
眉間に皺を寄せながらじっと青年を見つめた。
「永遠に鏡の中で彷徨うのですよ。体も魂も粉々にされてね」
くすりと笑った青年の笑みがあまりに綺麗でゾクリと体が震え上がった。
体も魂も粉々に?
「簡単なことですよ。24時間以内に戻ってこればいい。それだけです。どうですか? 見てみたくなりましたか?」
青年は再び優しい笑顔を俺に向け、じっと俺からの返答を待っているのが分かる。
「え、いや……興味……は、あるけど……」
しどろもどろに答える。
確かに興味はある。
でも、本当なのか?
それに本当だとして、そこは安全なのか?
だいたい、俺は自分の願いだとか欲望なんて……。
てか、欲望ってなんだよっ。
やっぱりいやらしく聞こえるのは俺だけかっ?
「てか、24時間以内って、どうやって戻ればいいんだよ?」
ふと思いついたことを口にしてみた。
「元の世界に戻るには、あなたを映す物、鏡を見て元の世界に戻りたいと願えばいいだけです」
「なぁーんだ。簡単じゃん」
俺は鏡を見ながら少し明るい気持ちになっていた。
「ですよね。じゃあ……行ってらっしゃい」
軽やかな声と、じっと鏡を見つめる俺の背中をドンっと押すのが同時に感じられた。
「えっ? えぇーっ!!」
ぐらりと体が揺れ、前に倒れ込む。
鏡にぶつかるっ!
そう思って目を瞑った。
何かを考える余裕なんてなかった。
ぶつかった痛みでも感じられるはずが、体に感じるのは風と重力。
きっと、どこか高いとこから飛び降りたら、こんな感じなのかもしれない。
目が開けられない。
俺はそのまま気を失ってしまった。
☆☆☆
体が重い。
頭も痛い。
でも……なんだかやわらかくってあったかくって……。
ここはどこだ?
ごそごそと手探りで自分に当たっているものを触ってみる。
ふわふわとした、あったかい布のような感触。
「んー……」
この感触は……。
あー、俺は寝てるんだ。
そうか、全部夢だったんだ。
そうだよな、そんなバカみたいな話があるわけない。
それにしても、あんな夢見るなんて……俺って欲求不満?
「まさかっ」
思わず声に出していた。
「何がだ?」
突然横から聞いたことのある男の声がした。
え?
パッと目を開ける。
うん、確かに俺は寝ていたらしい。
布団の中っぽい。
でも……これは……。
「え?」
また口に出してしまった。
見たことのない天井が見えたからだ。
いや、寝ぼけているだけなのかも。
「寝ぼけてるのか? おはよう、優希」
すぐ横から聞こえる声。
自分が知っている声。
でも……優希って……名前呼び?
まさかアイツがそんなわけっ。
信じられない思いで恐る恐る横を見る。
「どうした?」
優しく笑うその男は、俺のクラスメイト。
やはり、藤條海斗だった。
古びた大きな鏡の中に……。
きっと薄暗いから分かりにくいだけだ。
鏡なんだから、何かが映ったっておかしくはない。
でも……。
「試してみますか?」
青年は鏡から一歩横に離れ、こちらをにこやかに見つめてきた。
「は? そんな……バカなことあるわけが……」
この鏡が何だっていうんだ。魔法の鏡じゃあるまいし。
ん? 魔法の鏡?
まさかな……。
「信じる信じないはあなた次第です。でも、もし可能であれば見たくないですか? 興味はありませんか?」
青年は全く表情が変わらない。
笑ってはいるが、心の中はどうなのだろう。
「興味……は、ないわけじゃないけど……」
じっと鏡を見る。
かなり大きい。
装飾された焦げ茶色の木製の淵。
とても綺麗とは言い難い、少し曇ったような鏡。
まるでおとぎ話にでも出てきそうだな。
じっと鏡を見ながら考えていると、再び青年が話し始めた。
「この鏡はあなたの願い……欲望を叶えてくれるのですよ」
欲望ってっ……ちょっとエロい響きやめろよな……。
「べ、別に……欲なんかないっ」
なんとなく顔が熱くなる。
薄暗くて良かったかも。
もしかしたら顔が赤くなってそうな……って、別に妄想とかじゃっ……妄想っ?
「欲のない人間など、この世にはいませんよ。あなたは食事だってするし、睡眠も取る。違いますか? それら全てが欲なのですよ?」
青年はくすりと微笑し、じっと見つめているのが分かる。
「ま、まぁ……そうだけど……」
うまく反論できずに青年から目を逸らす。
「ただ、この鏡には制約があるのですよ」
「制約?」
心を見透かされていそうで目を逸らしていたが、急に青年の言葉が気になり青年を振り返った。
「はい。先程もお話ししたように、ここの中は1日、つまり24時間しかいられないのですよ。24時間を超えてしまうと――」
「超えると?」
青年の説明を聞きながら一歩前に出る。
再び鏡の前に立つ。
自分の中の好奇心が膨らんでいくのが分かる。
「鏡に取り込まれてしまうのですよ」
青年はなんとも言えない笑顔を俺に見せた。
どこか冷笑的にも見えるような。
「取り込まれる? どういう意味?」
さっきも話していた。
取り込まれるって?
まぁ……鏡の中に入ること自体信じられないんだけど。
眉間に皺を寄せながらじっと青年を見つめた。
「永遠に鏡の中で彷徨うのですよ。体も魂も粉々にされてね」
くすりと笑った青年の笑みがあまりに綺麗でゾクリと体が震え上がった。
体も魂も粉々に?
「簡単なことですよ。24時間以内に戻ってこればいい。それだけです。どうですか? 見てみたくなりましたか?」
青年は再び優しい笑顔を俺に向け、じっと俺からの返答を待っているのが分かる。
「え、いや……興味……は、あるけど……」
しどろもどろに答える。
確かに興味はある。
でも、本当なのか?
それに本当だとして、そこは安全なのか?
だいたい、俺は自分の願いだとか欲望なんて……。
てか、欲望ってなんだよっ。
やっぱりいやらしく聞こえるのは俺だけかっ?
「てか、24時間以内って、どうやって戻ればいいんだよ?」
ふと思いついたことを口にしてみた。
「元の世界に戻るには、あなたを映す物、鏡を見て元の世界に戻りたいと願えばいいだけです」
「なぁーんだ。簡単じゃん」
俺は鏡を見ながら少し明るい気持ちになっていた。
「ですよね。じゃあ……行ってらっしゃい」
軽やかな声と、じっと鏡を見つめる俺の背中をドンっと押すのが同時に感じられた。
「えっ? えぇーっ!!」
ぐらりと体が揺れ、前に倒れ込む。
鏡にぶつかるっ!
そう思って目を瞑った。
何かを考える余裕なんてなかった。
ぶつかった痛みでも感じられるはずが、体に感じるのは風と重力。
きっと、どこか高いとこから飛び降りたら、こんな感じなのかもしれない。
目が開けられない。
俺はそのまま気を失ってしまった。
☆☆☆
体が重い。
頭も痛い。
でも……なんだかやわらかくってあったかくって……。
ここはどこだ?
ごそごそと手探りで自分に当たっているものを触ってみる。
ふわふわとした、あったかい布のような感触。
「んー……」
この感触は……。
あー、俺は寝てるんだ。
そうか、全部夢だったんだ。
そうだよな、そんなバカみたいな話があるわけない。
それにしても、あんな夢見るなんて……俺って欲求不満?
「まさかっ」
思わず声に出していた。
「何がだ?」
突然横から聞いたことのある男の声がした。
え?
パッと目を開ける。
うん、確かに俺は寝ていたらしい。
布団の中っぽい。
でも……これは……。
「え?」
また口に出してしまった。
見たことのない天井が見えたからだ。
いや、寝ぼけているだけなのかも。
「寝ぼけてるのか? おはよう、優希」
すぐ横から聞こえる声。
自分が知っている声。
でも……優希って……名前呼び?
まさかアイツがそんなわけっ。
信じられない思いで恐る恐る横を見る。
「どうした?」
優しく笑うその男は、俺のクラスメイト。
やはり、藤條海斗だった。
35
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。




飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる