4 / 7
友人
しおりを挟む
このことばかりが気になって、昨日も仕事に集中することができなかった。
私は、智樹が大好きなんだ。
「ちょっと、泣くことないじゃない」
「え」
陽子の言葉で、自分が泣いていることに気がついた。
「冗談に決まってるでしょ、馬鹿ね。ほらハンカチ」
そう言って、猫の刺繍の施されたハンカチを差し出す陽子。
「はぁ、もう。泣かせちゃったお詫びに、今日は好きなだけ話聞いてあげる」
「ありがとう」
陽子は優しい。
やはり今日会った人が陽子でよかったと、さっきと正反対のことを思う。
その時、携帯から着信音が流れた。智樹からだ。
身体がかっと熱くなるのを感じて、受信するかどうか迷っているうちに、切れてしまった。
丸二日間音沙汰なしだったため戸惑ったが、これが謝れるチャンスだと思った。たとえ愛想を尽かされていだとしても、申し訳ないと思っている気持ちだけでも伝えたかったのだ。
「ちょ、ちょっと外に、電話」
そう言い残して店を出ると、意を決して折り返しの電話をかける。
智樹はワンコールで出てくれた。
「もしもし」
幸か不幸か、計算より出るのが早すぎたため一瞬頭が真っ白になり、言うべきことをわすれてしまう。
「あ、え、えっと、ごめんなさい」
もう少し段取りがあってから伝えるつもりだったことだったが、真っ先に飛び出してきた。
吃りながらも、謝罪の言葉は伝えられた。と、取り敢えずほっとする。
伝わっているかどうかは別だったが、それでもいい。
半分諦めモードに入った明日菜。しばらく応答がなかったため、もう二人の関係は終わったものだと思ってしまっていた。
しかし、智樹は違うようだ。
「あの、二日間連絡できなくてごめん。色々考えてたんだ。明日菜とのことで・・・
け、結論から言うと、君が好きだ!
だから2週、いや、1週間待ってくれ、いや待ってほしい。お願いします」
それっきりで、電話は切れてしまった。
明日菜はしばし呆然とした。
今起こった出来事が、現実なのか白昼夢か何かなのか区別がつかなかったから。
その調子のまま席に戻る。
「智樹くんから?」
「うん、そうなんだけど」
「歯切れが悪いわね、振られたの?」
「いや、逆。好きだって言われた」
「まあ」
カチャーン
甲高い金属音が鳴り響いた。陽子が、ティースプーンを落としてしまったようだ。
「大丈夫?」
「ええ、驚いただけよ。それで?」
「1週間、待ってほしいって」
「ふーん」
陽子は、意味深長に微笑みだす。
「何よ、なんで笑うの!」
「なんでもない。ちゃんと謝ったんでしょうね」
「もちろん」
「いい子ね」
そう言って、陽子は明日菜の頭をポンポンと撫でる。妹を褒める姉のように。
「もう、子供扱いしないでよ」
その後も、別れ際まで微笑みを絶やさなかった陽子を、不思議に思う明日菜だった。
私は、智樹が大好きなんだ。
「ちょっと、泣くことないじゃない」
「え」
陽子の言葉で、自分が泣いていることに気がついた。
「冗談に決まってるでしょ、馬鹿ね。ほらハンカチ」
そう言って、猫の刺繍の施されたハンカチを差し出す陽子。
「はぁ、もう。泣かせちゃったお詫びに、今日は好きなだけ話聞いてあげる」
「ありがとう」
陽子は優しい。
やはり今日会った人が陽子でよかったと、さっきと正反対のことを思う。
その時、携帯から着信音が流れた。智樹からだ。
身体がかっと熱くなるのを感じて、受信するかどうか迷っているうちに、切れてしまった。
丸二日間音沙汰なしだったため戸惑ったが、これが謝れるチャンスだと思った。たとえ愛想を尽かされていだとしても、申し訳ないと思っている気持ちだけでも伝えたかったのだ。
「ちょ、ちょっと外に、電話」
そう言い残して店を出ると、意を決して折り返しの電話をかける。
智樹はワンコールで出てくれた。
「もしもし」
幸か不幸か、計算より出るのが早すぎたため一瞬頭が真っ白になり、言うべきことをわすれてしまう。
「あ、え、えっと、ごめんなさい」
もう少し段取りがあってから伝えるつもりだったことだったが、真っ先に飛び出してきた。
吃りながらも、謝罪の言葉は伝えられた。と、取り敢えずほっとする。
伝わっているかどうかは別だったが、それでもいい。
半分諦めモードに入った明日菜。しばらく応答がなかったため、もう二人の関係は終わったものだと思ってしまっていた。
しかし、智樹は違うようだ。
「あの、二日間連絡できなくてごめん。色々考えてたんだ。明日菜とのことで・・・
け、結論から言うと、君が好きだ!
だから2週、いや、1週間待ってくれ、いや待ってほしい。お願いします」
それっきりで、電話は切れてしまった。
明日菜はしばし呆然とした。
今起こった出来事が、現実なのか白昼夢か何かなのか区別がつかなかったから。
その調子のまま席に戻る。
「智樹くんから?」
「うん、そうなんだけど」
「歯切れが悪いわね、振られたの?」
「いや、逆。好きだって言われた」
「まあ」
カチャーン
甲高い金属音が鳴り響いた。陽子が、ティースプーンを落としてしまったようだ。
「大丈夫?」
「ええ、驚いただけよ。それで?」
「1週間、待ってほしいって」
「ふーん」
陽子は、意味深長に微笑みだす。
「何よ、なんで笑うの!」
「なんでもない。ちゃんと謝ったんでしょうね」
「もちろん」
「いい子ね」
そう言って、陽子は明日菜の頭をポンポンと撫でる。妹を褒める姉のように。
「もう、子供扱いしないでよ」
その後も、別れ際まで微笑みを絶やさなかった陽子を、不思議に思う明日菜だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
【完結】貴方と貴方のとなりのあの子を見倣います!
乙
恋愛
え?
何をしているのか?ですか?
貴方があの方をお褒めになるので、私も彼女を見習って改める事にしましたの。
喜んでくれると思っていた婚約者様は何故か不機嫌そうです。
何故なのでしょう_____?
※ゆるふわ設定
※1話と2話少し内容を修正いたしました
※お待たせしてしまい申し訳ございません。
完結まで毎日予約投稿済みです。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる