待ち焦がれてラブ・バージン 職なしパテシエールと訳あり御曹司の甘くおかしなプライマリー

（48）

　ジェイダンはそういいながら、ふとアンナがあれほど店に入るのを拒否したのは、この店のコンセプトを知っていたからではと思った。
　確かにルネらのようなホラーマニアを例外とした普通の神経をした人間なら、あまり心地のいい店とはいえない。
　ただし席にはホストやホステスがつくわけではなく代わりに物いわぬ死体人形がつくのだから人件費はかからない。
　一部のマニア向けであってもそれなりに採算が取れるのかもしれない。

「それにしてもこの人形は本当によくできてる。しかもかなり数だ」
「素晴らしい職人がいるのよ。欲しければ買うこともできるのよ」
「君はここの店員なの？」
「わたしは客よ。ただ昔はここで働いてたの。ねぇ、あなたはここにいるどの死体よりも美しいわ。今夜はあなたを眺めて飲みたいの」
「職人が心血注いだ蝋人形より美しいなんて、喜んでいいのか悪いのかわからないよ」
「もちろん喜んでいいのよ」

　女は誘惑するように体をくねらせてジェイダンをいざなった。

　一方のアンナは店の外で考えていた。できることならアンナは今すぐにでも帰りたかった。
　けれど、放っておけるはずがない。この店は普通ではないのだ。
　アンナは運転手に待っていてもらえるように頼むと心を決めた。
　ジェイダンはああいっていたが、話はそんな問題ではないのだ。それをわかっているのはアンナだけだった。
　アンナはいつかのように自分を奮い立たせるように独り言をつぶやいた。

「行くわよ、ヒュー。なんとしても皆を連れて帰らなきゃ」