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 席につくかと思いきや、すぐに立ち上がって奥へ行こうとする二人に、アンナは思わず駆け寄った。
 アンナは二人の行く先を塞ぐように立ちはだかった。しかしそれは決して勇猛というわけではなく、アンナの声はすっかり震えていた。

「わたしたちは全員帰ります。会計してください」
「会計って、たった今来たばかりじゃないの?」

 女はわざとらしくのんびりとした口調でいった。
 ルネとアンディ、吉村は一体アンナがなにをいっているのか、というように顔を見合わせた。
 ルネがグラスを片手に聞き取りにくいフランス語で

「アンナ、座って一緒に飲もう!」

 と楽しそうに笑う。

「そうだよ、アンナさん。面白い店でしょ?」

 吉村も調子を合わせて気楽な声でいう。
 訳知り顔のアンディはそれとなくジェイダンとアンナの顔を見比べている。

「いいえ、帰ります。お願い、ジェイダン」

 アンナは必死な思いでジェイダンを見た。
 ジェイダンはそれに応えるように赤いドレスの女の腕を払うと、アンナに手を差し伸べた。
 その瞬間、女は憎しみを込めた目でアンナをにらみつけた。アンナはそれだけで気を失いそうになった。

「アンナ、君が来てくれてうれしい」

 ジェイダンはすっかり悦に入っていた。アンナはジェイダンに構うどころではなかった。
 さっきの口調とは打って変わって女は何かを噛み潰すような声で明らかにアンナを威嚇した。

「今さら横取りするなんて礼儀知らずな子ね」
「お願いだから、私たちに構わないで」

 震える声でアンナは女に対して静かに語りかけた。

「構ってるのはどっちよ?」

 ジェイダンは自分を中心に気まずくなった空気を取り繕うために赤いドレスの女にいった。

「君には悪いことをした。すまなかったよ。でも僕は彼女と帰る。君のためにこの店で一番高いワインを頼もう。ここはそれで収めてくれないか」
「帰ればいいわ」

 女はちらりとジェイダンを見ただけで明らかにアンナに向かっていった。

「でも帰るのはその子だけ。あなたはここに残るのよ」
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