33 / 150
(31)
しおりを挟む「この埋め合わせをさせて。ジェイダンに性根を入れなおさせて今度はちゃんと紹介するわ」
「もういいのよ」
「よくないわ!」
「わたしは今日のことで思い知ったわ。わたしにこんな華やかな世界は似合わないのよ」
「そんなことないわよ!」
「聞いて、マリヤ。前の店で内定を取り消されてクビになったのも、これまで就活がうまくいかなかったのも、今日がこんなことになってしまったのも、全ては神の思し召しなのよ」
「そんな簡単に望みを捨てちゃだめよ。あなたはすばらしい職人なんだから」
「わたしはやっぱり田舎に帰ろうと思うの」
「そんな! あなたの腕を田舎でくすぶらせるなんて、それこそ神は望まないわ」
「ありがとう。でもくすぶらせるつもりはないの。田舎で店を開くのよ。いずれは持ちたいと思っていたのが、少し早まっただけよ」
「だけど……、ああ、アンナ。わたしどうしたらいいか……、もとはといえば、すべてわたしのせいだわ」
「いいのよ。あなたは誠意を尽くしてくれたわ。ただ単純に、人をさげすんだり見下すような人々の世界にわたしが耐えられないだけ」
「そんな人ばかりじゃないのよ。大体ジェイダンがつれてきた女たちなんて、金さえ見せれば誰にでも尻尾を振る尻軽女たちなのよ」
「わかってるわ。だってあなたは誠実で律義でいい人だって知ってるもの。あなたはもう充分約束を果たしてくれたわ」
「アンナ、そんなのだめよ。だってあなたにはお金が必要でしょう。わたしもう一度ジェイダンと話してみる。あなたにはもう必要ないかもしれないけれど、もう一度就職先のことを相談してみるわ」
「マリヤ……」
「だってあなたは才能があるんだもの」
「その気持ちだけでうれしいわ」
アンナはマリヤを離れて車のキーを取り出した。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる