サンドプレイシュミレーション

国府知里

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十七、同室の吉事

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 干し柿を口にしながら、いつもの三人は部屋で火鉢を囲んでいる。

「秋の終わりにお勤めした古川様が、ご懐妊でお役目を下がられたんだ」
「えっ、コミカ、本当か!」
「ああ! きっと僕の子だ!」
「すごいな、やったなあ!」

 タシホにばしばしと肩を叩かれながら、コミカはうれしそうに笑った。

「いつわかったの、古川様からお知らせがあったの?」
「いや、いいか、ユタ。俺たちは種つけをするが、自分が親だとは名乗れないし、普通は女の方からもお前の子を授かったぞとは教えてもらえないんだ」
「そうなの……?」
「うん。ノアミ様ぐらい懇意にされていたら別だろうけどね。僕の場合は、月を計算すると、その可能性が高いっていうことなんだよ」
「アリマ様くらいのお方ならもう何人もお子を残しているはずだよな。俺も、ひとりくらいはあるんじゃないかなっていう官吏様がいるにはいるんだけど……。まあ、子どもの顔すら見れない御用郎じゃ、関係ないといえば関係ないけど……」
「だけどうれしいよ。古川様とは相性がいいと思っていたんだ。なんども呼んでくださったし、床の中ではよく心のうちをお話して下さったんだ。無事に生まれてくるといいなあ」
「そうだね! いつ産まれてくるの? 来月?」
「ら、来月?」

 ユタの言葉に同室のふたりが声を合わせた。

「お前ね、勉強ばっかりしてるから、頭でっかちの世間知らずになるんだぞ」
「子どもは、十月十日で産まれてくると決まっているんだよ」
「え、え? そんなにかかるの? だって、鳥の卵だって半月くらいで孵るのに……」
「まったく、ユタはこれだからなあ」
「ゼロ様の御寵愛がすぎて、御指南を受けていないからね。知らなくても無理はないよ」
「う、うん、知らなかった……。じゃあ、卵が産まれるまでに十月十日かかって、それから卵が孵るのはいつなの?」

 さすがにふたりも笑うしかなかった。

「人は卵を産まないんだ。御指南のときにそう教わった。まあ、俺も見たことがあるわけじゃないけどな」
「僕もユタと同じことを思ってたから気持ちはわかるけどね。女が子を産むのは、命がけの大仕事なんだそうだ。お腹がこんなに膨れるそうだよ。あの割れ目から、これくらいの赤ん坊が出てくるらしい。僕たちは種をつけるだけだから、その辺はよくわからないけど、竿の太さと赤ん坊の大きさを考えてみると、やっぱり入れるより出す方が大変そうだよね」

 ユタは当たり前のように話すふたりにしばし驚いていた。国史記を読むことに精を出していたおかげで、ユタは御用郎なら知っていて当たり前のことすら知らないのだと気がついた。そういえば、ゼロも人の歴史を語るうえで性交はかかせないと言っていたのを思い出す。 

「そ、そうだね……。僕って世間知らずだ……」
「だけど、いいよなあ、ユタはいつかゼロ様にお子を産んでもらえるかもしれないもんな」
(それは、多分ないと思うけど……)

 ユタはゼロが春になれば任期を終えて去っていくということをまだ誰にも話していなかった。

「ねえ、ユタ、少しぐらい教えてくれてもいいだろう? ゼロ様はどんなことをするとお喜びになるんだい? 僕もとっておきを教えてあげるからさ」
「えっ……!」
「それじゃあ、俺のとっておきも教えてやってもいい。見た感じゼロ様は攻めるほうが好きそうだよな。違うか?」
「なにも話せないってば……!」
「週に二回も御呼びがかかるなんて、お前のものをよっぽどお気に召しているはずだぞ! そりが合うのか? それとも大きさが丁度いいのか? 湯屋で見る限り俺のほうが立派だと思うんだけどなあ」
「僕も、ものだけでは納得できないな。ゼロ様がどうやってユタをお育てになったのか、少しでもいいから教えてくれよ! 御指南のやり方は定番ではあるけど、一番いいのはやっぱり直接お好みを教わることなんだよ」

 なにも言えないというのはなかなかつらい。実際には一度も肌を合わせたこともないのに、周りは好き勝手な推量をしてくる。であればユタだって聞いてみたい。女の中へものを差し込むとどんな感じなのかを。
 ゼロへの気持ちに目覚めてしまったために、性交指南を退けてしまったが、女の身体への興味がそれで消えたというわけではない。手荒い村木と不憫なヒノリの指南手本は思い出すと胸が暗くなる。だがもし、ゼロのきめ細かい素肌に触れ、膨れた乳を手で包み、細い腰に抱きつき、股の間にあるであろうあの割れ目に自分のものを差し込むところを想像すると、それだけでぐんと突き上がってしまう。
 だが、悲しいことにゼロはユタにそんなことを一度も望んだことがない。ただ、子どもか子犬かのようにあやしてくれるだけなのだ。それだけでもよかった。シュウの名を聞くまでは。その名を耳にしたときから、ユタの中で嫉妬というはじめての気持ちが心をかき乱すようになった。自分が胸を焦がして想像に悶えているようなこの行為を、シュウがゼロにしているのだと思うと、どうしていいかわからないくらいつらい。会ったこともないシュウに怒りを感じ、自分を許してくれないゼロを憎みたくなる。そしてそのあと、ひどく悲しくなるのだ。

「ゼロ様は……、僕にばかな子犬ほどかわいいと言ってくれるけど……」
「ばかな……」
「子犬……?」

 じっと下をうつむいていたら、じわりと涙が浮かんできた。

「本当に、僕はいつだってゼロ様のお側にいたいけど、僕が望むことにはゼロ様は応えてはくださらないんだ……」

 涙目をこするユタを見て、同室のふたりは顔を見合わせた。

「……よくわからないが、ゼロ様は……、焦らすのがお好きなのか?」
「そうやって、ユタのことをかわいがるのがお好きなの? えっと、つまり、最後までなかなかいかせてくれない……とか?」
「……」
「俺は経験ないなあ、そういうのは……」
「僕は若いころ何度かあったな。でも、さすがに泣きたくなるほど焦らされたことはないけど」
「……」
「ばかな子犬……。そういう辱めのお言葉をかけて、高まりを覚える方もいるよね……。まあ、でも、ゼロ様はユタを可愛がって、愛してくださっているんだよね? ユタも、それは嫌ではないんだよね?」 
「そうだ、嫌ではないならいいほうだぞ。……でも、ゼロ様になら、言葉攻めされたり焦らされたりしてもいいかなぁ……」
(もうなんて返したらいいかわからないから、黙っておこう……)

 ごしごしと涙を拭いた。

「僕も聞いてもいい……?」
「ああ、いいぞ。俺のとっておきはな……」
「とっておきじゃなくて、別のこと」
「なんだ?」
「さっきの、相性の話」
「相性? 古川様と僕のかい?」
「うん。僕、割れ目に差し込んだらそれでもう子ができると思っていたんだけど、違うんだね。交ぐわいの御指南のときそう聞いていたから」
「それは時期というか……。僕も詳しいことはわからないんだけど、女は懐妊の時を自分で選べるんだよ。官吏様はそれぞれお仕事があるから、子どもを産みたいときにはそうして、そうでないときには懐妊しないようになさるんだ。懐妊するかしないかは、女にしかわからないのだそうだよ」
「そう、子どもを持つ主導権は、女にしかないんだよ。男はこの一根が子種になるか、ただの欲望の解消に終わるか全くわからない。だから、心から気にいってもらえないと、自分の子どもを宿してはもらえない。まあ、それでも相性のいい相手とだったら、気持ちいいからそれはそれでいいけどな」
「でも、御用郎の中には、自分のしていることがただの徒労に思えて、過去には自ら死を選んだ男も幾人もいるよ。確かに虚しくはあるよね。子どものころからそのためだけに選別されてここにいるのに、ただただ性欲を処理するためだけに使い捨てられることに、体はもちろんのこと、心も疲れてしまうことも時にはあるよ。男をそういう目でしか見ない女に御勤めするときには特にね」
「女は男も心があるってことを知らないからな……」
「全員がじゃないけど、日々どうしようもない虚しさは感じるよね……」
「それをいうなら、宿暮らしの男たちのほうがもっと虚しいだろ。子を残す価値なしっていう烙印を押されても、その衝動がなくなるわけじゃない。なんの展望も未来も生産性もない惨めな暮らしの中、男同士で性欲を吐き出しあって、歳をとれば死んでいくだけだ。それに比べれは俺達は、女たちに奉仕する役割があるし、努力すれば認められるし、なにより子を残せる可能性がある」
「そうだね。ユタも今はまだ無理かもしれないけれど、しっかりゼロ様にご奉仕し続ければ、ノアミ様のように長い御寵愛を得て、何人もの子を世に残せるかもしれないよ」

 その翌朝、一夜中降り続いた雪が全ての景色を白く染め上げた。 
 思わず童心に帰った男たちが誰それとなく雪合戦をはじめ、わいわいと騒ぎ出したころ、ユタが呼ばれた。
 御呼びがかかると、御用郎は身体検査と湯屋に入り身を清める。下級役人や賤吏の相手では省略されることもあるが、基本的に官吏に望まれた御用郎はそうした手順を踏むことになっている。ユタもこの習わしに慣れ、新しい衣を着せられるまで世話係の役人たちにされるがままになる。ユタは雪合戦で凍えた指がすっかり温まり、衣も新たにいい気分になって案内された。

 いつものようにゼロの待つ頂の宮へ……と思ったが、先を行く案内は別の宮へとユタを導いた。にわかに焦りを感じ、思わず後ろを振り返るとすぐさま叱責された。

「きょろきょろするな」
(え、……ここは……?)






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