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Simulation Introduction
十三、マキリウ領(1)
しおりを挟むこの世のすべての大地とすべての海をいだく強大なる「居神国」。
居神国はさる惑星における人類の平行世界。
最も近しい例を上げれば、日本国における弥生時代にも似た原始国家である。
大きく違うのは、徹底した女系王が管理する女性優位の社会であること。
政治的権力と社会的優位性を持つこと、また継承できるのは女のみ。
男は子種をもたらすだけの家畜である。……
居神国に属するマキリウ国。
ここに生きるタカタという男がこの物語の主人公である。
タカタの前に見目麗しい少女が立っていた。
「お前が新しい"種"か?」
「タ……タカタと申します」
膝をつき首を垂れたその横面をいきなり蹴とばされた。
口の中に血の味が広がる。
伏した体勢で見上げれば、甲冑を身にまとった女がタカタを見下ろしていた。
「皇子様のお許しなく勝手に口をきくな。この下郎者」
「……お、お許しを……」
よいのじゃ、と皇子が艶めく髪を左右に振って、兵士を諫めた。
「宮中に来たばかりでなにもわからんのじゃろう。
よいから、口をゆすがせて、はよ母様の元へ連れて行け」
「ははっ」
恐る恐る見上げると、まるでこの世のものとは思われぬほどの美しい笑みが返ってきた。
(う、うわさには聞いていたが、なんと美しい……。このお方が、皇子さまだ……)
顔を蹴り上げられた痛みと恐怖、しかしながらそれにまさる緊張と興奮もあってか、タカタはまったく辛さを感じなかった。
それどころか、左右どちらをむいても美しい女ばかり。
幾重にも重なる艶やかな着物。
見たこともない白や緑の丸い玉飾り。
一糸の乱れもない黒い川のような髪。
柔らかそうな白い肌。
それに、なんと心をくすぐる良い香りがするのだろう。
体格のいい兵士でさえ、やはり平勤めの兵士とはわけが違う。
強さと厳しさの中に、品格と凛々しさが滲んでいる。
自分では意志盤石だと思っていたが、もはやタカタは夢見心地だった。
あの美貌の女に白い足で蹴られたことに興奮すら覚えていた。
(ここが、夢にまでみた、お宮……。ついにきた、おれはついにきたんだ……!)
タカタは仕度係の女にひしゃくを渡され口をゆすぐと、改めて着物を整わされた。
張りのある上等な生成りの下着に、藍染めの衣。
下履きの裳はしゃりっとしてすがすがしいまでに心地いい。
まさか自分までもがこのような良い着物に袖を通せるとは思ってもみなかった。
これが、"種"の暮らしなのだと思うと、小鼻が自然と膨らんだ。
(おれは運がいい。いや、努力もしてきた。このめぐまれた顔をきずつけることなく、少ない食料のなかでも体をきたえ、おれが有能な種であることをしめしてきた。その努力がむくわれたんだ)
確かにタカタは容姿に恵まれていた。
はっきりとした目眉。
力強く通った鼻すじ。
くっきりと丈夫なあご。
額の形も広さもよく、ほお骨も高すぎず低すぎず、納まりの良い骨格をしていた。
体つきもマキリウ国の中では大きい方で、鍛えてきたというだけあって着物の上からでもはっきり体の厚みが見て取れる。
男根は鼻すじに似て存在感があり、またその精力もみなぎっていた。
仕度をする際、三人がかりで湯あみをされたときには、女たちの細く柔らかい手の触れられただけで何度も放ってしまったほどだった。
彼は選ばれるべくして"種"に選ばれたのである。
(おれは選ばれた。子をのこしてもいい種として、選ばれたんだ……!)
タカタの自尊心は最高潮を極めていた。
子孫を残すことを許されず、果てていく男たちの情けない顔が頭に浮かぶ。
あいつらとは違うと思うと、性的な興奮ではないなにかが大いに心をくすぐる。
タカタは幼いころからそうした優越感を持っていた。
周りの誰より優れた外見をしていたし、いちもつにも自信があった。
その優越感がタカタの顔に少しばかりの高慢さをにじませたのは驚くべきことではない。
タカタはこの国の男にしては珍しく、確固たる己への未来と可能性を信じる者であった。
「宮様、種を連れて参りました」
案内された場所は幾重にも御簾が下げられた広い部屋であった。
促されるままに一枚目の御簾の中に入ると、奥の御簾のその奥に、これまで見た女たちの誰よりも鮮やかな衣を着た女がそこに座っている。
はっきり顔は見えないが、もはや輪郭とその色合い、鼻をくすぐる高い香りが、絶世の美女であろうと確信をさせた。
「ほう、なかなかの面構えじゃ」
「お気に召しましてございますか?」
「ああ、よかろう。名はなんと申す」
思わずぱっと口を開きかけたが、押し黙って頭を下げた。
先ほど蹴られたことを思い出し、同じ失態は二度も繰り返しはしないとすぐに気を引き締めた。
案内の女が答える。
「タカタと申します」
「すぐに準備いたせ」
側用人の女が目くばせすると、左右から女が出てきて、タカタの両脇に立った。
すぐに女たちがタカタの着物を解き始める。
あっという間に紐解かれ、タカタは一糸まとわぬ姿でそこに立った。
「おや、なかなか」
ふふと、宮が笑う。
いつの間にか後ろの戸が閉められ、辺りに明かりが灯った。
揺らめく炎の影のなか、空間を隔てていた御簾がするすると上がっていく。
中央には中年の女が、その両脇には側用人の女たちが座っていた。
歳は四十か五十か。
かなり年季のいった様子ではあったが、髪や肌の色つや、あるいは化粧の塩梅でかなりの美しさを保っている。
しかし、それにも勝る匂いたつような色気。
ぐらっときた。
「ふはは……、元気だのう」
下を見ると、我が分身はすでに頭をつきあげていた。
「しばし待っておれ」
いわれたとおりにそのまま立って宮を見ていると、側用人の女たちが宮の着物を解き始めた。
思わず、ごくりと喉が鳴る。
揺らめく火の中に現れた女の肢体の、なんとまろやかな美しさ。
曲線とその柔らかそうな肉感とがタカタの男の本能を魅惑した。
もはや、立っていられないとばかりに、吸い寄せられて前にのめっていた。
「待っておれというておろうが」
はっとして身をすくめたが、宮は妖しくほほ笑んで視線で一か所を指し示した。
側用人の女たちが、怪しい手つきで、宮の体をさすり始めたのである。
白い肌の上をくねくねと女の細い指が這いまわる。
ぞくっと背筋にしびれが走る。
見たこともない、感じたこともない衝動であった。
女の手つきが次第に宮の秘所に差し掛かり、やわやわとその割れ目を愛撫する。
宮の口から湿ったようななんともいえない吐息が漏れた。
びくんと根が一段と強くせり上がった。
(いけない……! 堪えなければ!)
局部に緊張を強いて、顔をそらせようとしたが、本能がそれを許さない。
次第にしどけなく体をくねらせ、荒く息をする宮。
宮の上下する胸の線に連動するかのように、自分の性がドクンドクンと脈を打つ。
もはや頂点まで上り詰めてしまいそうな勢いである。
両手で強くいちもつを握りしめた。
ここまでやってきたというのに、ここでそそうをしたら、首をはねられて終わりかもしれない。
そのとき、宮のしっとりと濡れた声が降ってきた。
「もうよいぞ。お前のそれをここへ差し込んでみよ」
もはや駆け出し、駆けこむようにして、その割れ目の中へ差し込んだ。
その瞬間、吸い込まれるように導かれ、なんとも甘美なぬくもりと感触がタカタの神経を駆け巡った。
一瞬にして、宮の中に放っていた。
頭の中が真っ白になるほどの快感。
「ふはは、堪えきれなんだか」
その言葉に我に返り、タカタはヒヤッとした。
だが、宮は微笑みを浮かべたままタカタの手首をぐっと掴んだ。
「よい。まだまだ有り余っておるのだろう?
このまま腰を振ってみよ」
いわれるがままに腰を振った。
すぐに高まりは根に張り詰めた。
「よいよい、その調子じゃ」
「はあっ! はあっ!」
「そうじゃ、なかなかよいぞ!」
「はあっはあ!」
宮の求めのままに、己の性のままに、タカタは何度も何度も宮の中に放った。
女と男のつながりがこれほどまでに気持ちのよいものだとは、タカタは今日まで知る由もなかった。
(なんという……。これ以上のよろこびがこの世にあるだろうか……)
ついに果てて、その場に座り込むと、衣をはおった宮が立ち上がった。
「タカタと申したな。なかなかの楽しかったぞ」
そういうと、宮は左右の側用人らを見下ろした。
「後を頼んだぞ」
「はい」
側用人たちが頭を下げると同時に、背を向けて奥の部屋へと姿を消した。
あっという間に宮は行ってしまった。
急に激しい寂しさを覚えた。
(み、宮さま……)
さきほどまでは、あれほど激しくつながっていた。
熱く心地よい確かな共有が、互いの間に存在していたはずなのに。
あの感動は自分だけであったのだろうか。
もう少しだけでも、心にかけて欲しかった。
それを求めるのは思い上がりであろう。
わかっていても、離れたばかりの宮がもう恋しかった。
(……しかし、楽しかったとおっしゃってくださった……。ということは、おそらくはおれを気に入ってくれたということだろう)
そうだとすれば、タカタは満足であった。
男の頂点である"種"に上り詰めたという自負。
ほんの一握りの男にしか許されていない繁殖が許されたという事実。
わが身の美貌と努力と、二度と失敗を繰り返さないという学習能力。
おれはすごい。
おれはできる男だ。
そして、なにより今のタカタを震わせたのは、あの魅惑的で神秘的な肉の穴の中に、また自分を根を差し入れて、この世の喜びを謳歌できるだろうということである。
この喜びを知らずして、生きている価値がなどあろうか。
タカタは心の底から思った。
今まさに、タカタは生まれた意味を生きる意味を全身で感じていた。
「ついて来なさい」
はっとして顔を上げた。
側用人のふたりが脇の戸を開けて立っていた。
着物を着せてくれた仕度係がいなかった。
きょきょろと着物を探したが、見当たらない。
「そのままでよい。こっちだ」
裸のままとなると、また湯あみであろうか。
確かに、すっかり体には汗と体液がまとわりついている。
そのままふたりについて行った。
「そこに立て」
ある部屋に辿り着くと、側用人が一か所を示した。
奇妙である。
そこは板の間でなく土間であった。
しかも、梁から太い麻縄が釣り下がっていた。
側用人はその中央に立てといった。
湯桶はこれから運ばれてくるのであろうか。
しばらくすると、奥から複数の女たちが入ってきた。
女たちは手に桶や木綿の布やらを携えている。
仕度係と同じようにたすき掛けをして裳をたくし上げていたが、その様子は仕度係とは違っていた。
どこか薄暗く頑なな雰囲気で、着ている着物も数段劣るようであった。
「やれ」
側用人が一言放つと、女たちがぱっとタカタを取り囲んだ。
タカタが左右を見ている間に、女たちはタカタの手を縛り上げ、梁に渡してあった麻縄の先をぐいと引き下げた。
同時にタカタは両手首を上に釣られて、あっという間に梁からぶら下がり状態となった。
「なっ、なっ!?」
こんなの湯あみにしてはおかしい。
これは湯あみではない!
状況を判断する間もなく、次の瞬間タカタの首筋に鋭い痛みが走った。
(へえっ……!? 切られた……っ!?)
ぶわっと目の前に霧状に広がる血。
それが次第に弱まっていくのと同時に、タカタはこと切れた。
梁からはもはや力を失ってだらん首を垂れる男の死体がぶら下がっていた。
首をかいたひときわ眼光鋭い女が低くつぶやく。
「さあ、とっととやっちまうよ」
女たちは黙々と男を解体し始めた。
その晩、マキリウ領の館では宴会が開かれていた。
皇子が母の隣で肉料理を咀嚼している。
「母様、今度の肉はなかなか噛み応えがありますね」
「ああ、そうだな。食べ応えがあってなかなかうまい」
「母様、ご機嫌ですね」
「ああ、この"種"はなかなか生きが良かったからのう。
きっとよい皇子を授かるであろう」
「きっと元気で可愛い妹が生まれてきますね。楽しみです」
「ああ、ここしばらく男続きだったからな。
早くそなたに姉妹という楽しみを与えてやりたいのう」
新しい膳が運ばれてきた。
「睾丸の煮物と、内臓の串物でございます。
どうぞ皇子のためにしっかりと栄養を補ってくださいませ」
「うむ」
宮が煮物に箸をつけ、ひとつを娘の皿にのせ、もうひとつを自らの口に入れた。
「まあ、うれしい。大きな睾丸を食べてみたかったのです」
「そなたが宮になればいつでも食べられるが、今から味を覚えておくのもよいだろう」
「おいしいですわ」
「そうか」
宮がにこにこと娘を眺めている。
皇子は口の中でじっくりと味わった後、こくりと上品に飲みこんだ。
「"種"の睾丸とは赤子のそれとは異なるものなのですね。まったく味わいが違います。
母様の血を引く赤子はやはり特別なのでしょうか?」
「ははは! それは違うな。赤子のようなやわやわとしたものと成人した男の玉とではものが違う。
余の産んだ男であろうとなかろうと、赤子は赤子じゃ」
「まあ、そうでしたか」
宮はくぴりと酒をあおって、また娘を見た。
「ほんにそなたはよくできた娘じゃ。
屠殺役人から話を聞いたぞ。回を重ねるごとに仕留めるのがうまくなっているそうではないか」
「はい、母様のように立派な宮様になれるよう精進しております」
「よい心掛けじゃ。余もそなたと同じころには、母上が産み落とした五人の赤子を仕留めてさばいたものじゃ。
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