サンドプレイシュミレーション

国府知里

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Simulation Introduction

四、メイオウ領(4)

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 この世のすべての大地とすべての海をいだく強大なる「居神国」。
 居神国はさる惑星における人類の平行世界。
 最も近しい例を上げれば、日本国における弥生時代にも似た原始国家である。
 大きく違うのは、徹底した女系王が管理する女性優位の社会であること。
 政治的権力と社会的優位性を持つこと、また継承できるのは女のみ。
 男は子種をもたらすだけの家畜である。……



 居神国に属するメイオウ領。
 ここに生きるジンという男がこの物語の主人公である。






 ミライの寵愛を奪われてから、ジンは泣き暮らしていた。
 部屋を出ることもできず、水も喉を通らない。
 ミライは心配して部屋によってはくれるが、泊まっていってはくれない。
 あどけないシュンを丸め込んでいいように働くリェンが心底妬ましかった。

(ころしてやりたい、ころしてやりたい、あんな男……!)

 そのとき戸口の向こうで声がした。

「ジン兄さま、お粥をお持ちしました……」
「シュン……」

 その腕を取って部屋に招き入れると、ジンは充血した目を見開いて迫った。

「シュン、このとおりだよ。どうか、リェン兄さまの誘いにのらないでくれよ」
「そ、そういわれても……」
「ぼくはミライさまのお渡りがないともうせつなくてせつなくて、死んでしまうかもしれないよ」
「だ、だけど、ぼくから断るなんてできないんです……」

 順番で行けば五か六かという話で事を荒立てたくないシュンであったが、こればかりはシュンにもどうしようもなかった。

「こんなに……、こんなにぼくが頼んでいるのに、それでもだめだというのかい?」
「ぼくがいったところで、リェン兄さまがゆるすはずないんです。ゲツ兄さまのいうことなら、もしかしたら聞くかもしれませんが……」

 確かにそうだと思い、ジンはすぐにゲツに会いに行った。

「ゲツ兄さま……っ!」
「ようやく顔を見せる気になったんだね。ひどい顔色だ。ちゃんと食事をとらなければいけないよ」
「このままじゃ、ぼくは死んでしまいます……っ!」

 涙ながらの必死の訴えをゲツは慎重そうに、だが、それもそうだと話を聞いてくれた。
 しばらくして、リェンはゲツの部屋に呼ばれた。

「リェン、ジンがたいそう心を痛めているのを知っているだろう?
 少し自重してくれないか?」
「ゲツ兄さまにはなんのうらみもありませんが、とうてい受けいれられませんね。
 おれはおれなりにミライさまにたのしんでいただこうと努力しているだけです。
 気にいらないのであれば、ジンもなにか考えてみたらいいのですよ」

 ゲツの諫めにも応じないリェン。
 結局この夜もミライはリェンとシュンとの逢瀬を楽しむ。
 その隣の部屋で、リェンはぽたぽと泣いて過ごしていた。
 そのとき、戸口の先でかすかな声がした。

「ジン、起きていますか」

 戸を開けるとそこにいたのギョクだった。
 手にはなにやら包みを持っている。

「ちょっといいかな」
「どうぞ……、ギョク兄さま、お珍しく……」

 隣から聞こえてくる艶声ににわかに頬を染め、ギョクは並んでジンの寝台に腰かけた。
 そして手に持っていた白い包みを広げて見せた。
 そこにはなにやら白やら黒やらの小石や、木の枝や亀の甲羅などがあった。

「ギョク兄さま、これは……?」
「これでリェンを呪いころそう」
「……えっ!?」

 ぎくりとしてみると、ギョクの顔は真剣だった。

「わたしは"宿"にいたころ、育て親に占いを教えてもらったのだ。
 占いでリェンを討ち果たし、穏やかな暮らしを取り戻したい」
(いつも陰気でなにをかんがえているか、さっぱりわからない人だったけど、こんな人だったんだ……。
 でも、これはまさにぼくの願っていたとおりの展開だ。
 リェンが死ねば、ミライさまの心はぼくのもとに戻ってくるにちがいない……!)

 ジンは即座に賛同し、ギョクの占いとやらを手伝った。
 ジンは占いというものを見たことも聞いたこともなかったが、ギョクが低くぶつぶつとまじないを唱える様は、確かに効果がありそうに見えた。

(しね……っ、しねっ、リェン! おまえなんか、一刻でもはやく死んでしまえっ!)

 ギョクが手を合わせるのを真似て、ジンも心の中で願いを込めた。
 占いか呪いかなんなのか、本当に効果があったのかどうかわからないが、リェンは風邪を引いた。
 単なる風邪といっても、原始国家における病はどんな病であっても命取りになる。
 ミライは侍医を呼んで薬草などを煎じさせたが、リェンはなかなか回復しなかった。

(やった……、ざまぁみろ!)

 リェンが寝込んでいる間、思った通りミライはジンの元にやってきた。
 ジンはこれまでのうらみを晴らすがごとく、隣で苦しんでいるリェンの耳に届くように声を張り上げて喘いだ。

(嘆け、くるしめリェン! そのまま死んでしまえ!)
「ジン、今日は一段と感じやすいな」
「ミライさまのひさしぶりお渡りに、つい心も体もわれを失ってしまいました……」
「本当にお前は可愛いことを言う。ではもっと可愛い声で鳴いてみせよ」
「はあん……、ミライさまぁ……っ!」

 ミライのお渡りは二週間に続いた。
 昨夜も思う存分愛し合ったジンはゆっくりと起きだして、炊事場のガイに声をかけた。
 すると、そこにはやつれた様子のリェンが座って、ガイの作る粥を待っていた。

「おや、リェン兄さま、起きられたんですね」
「……ああ、ようやくな……」

 覇気のないその様子に、ジンはひとり笑いした。

(治ったといってもこのありさま。とてもミライさまをよろこばすことなどできないはず。
 しばらくはミライさまはぼくのものだ。
 それにしても、本当にギョク兄さまの呪いは効くんだな……。これからもリェンが目障りなときは、ギョク兄さまに頼むことにしよう)

「さあできたよ。リェン」
「ありがとう、ガイ兄さま……」

 出された粥を前に、リェンはのろのろとさじをとる。

「ガイ兄さま、わるいんだけど、ぼくにもなにかもらえませんか?」
「リェンと同じ粥ならあるけど」
「それでいいです」

 すると、リェンがぱっと粥の椀を差し出してきた。

「これ、手を付けていないからおまえにあげるよ。
 おれはまだ調子がわるくて食べられそうにない……」

 そういうと、リェンはふらふらとしながら炊事場を出て行った。
 ガイが腰に手をやった。

「なんだ、あいつ。自分から粥がたべたいっていい出したくせに。
 そうとう具合がわるいのかな……」
(すごい! リェンのやつがあんなに弱っているの初めてみたぞ!)

 ジンは残されたリェンの椀をもらって朝餉を食べた。
 あまりにも気分が良くて二杯もお代わりをしてしまった。



 その翌日。
 ジンは高熱を出して部屋で寝込んでいた。
 今までに味わったことのない熱とだるさ、さらには寒気まであって、ジンはこのまま死ぬかもしれないとさえ思った。
 ミライが心配をしてきてくれるのは嬉しかったが、朦朧とする意識の中ではもはや見捨てないでくれと泣いて縋るほか思いつかなかった。
 幸い、侍医の薬草で二週間の後、なんとか回復をした。
 ようやく起きられるまでになった朝、空腹を覚えてジンはよたよたとしながら炊事場に向かった。

 部屋に入る直前で、リェンとギョクの声がした。

「ギョク兄さんの呪いの粉はほんとうに効くんだね、おどろいたよ」
「……約束は守ってもらうぞ」
「ああ。だけど、これからも味方につけるならジンじゃなくておれにしたほうがいいよ。
 あいつはばかで、甘ったれのぐずで、なんの役にもたたないんだから」
「それはその都度わたしが決める。だが、呪いの粉のことは、ミライ様には決して言わないでくれよ」
「わかったよ。でも、またジンを懲らしめたいときには少しだけ分けてくれるよな?」
「……わかった」
(……なっ、なんだって……!?)

 ジンは倒れ込むようにして部屋に駆けこんだ。

「ギョク兄さま……、呪いの粉って……」

 ぎくっと気まずく顔を伏せたギョクの傍らで、リェンが、はっと高笑いした。

「ようやくお目ざめか、ジン。呪い入りの粥のあじはどうだった?」
「あっ、あのとき……!?」

 いわれてみれば、体調が悪くなったのはあの粥を食べたすぐ後だ。
 悔しさが込み上げて、ジンはべそべそと泣き始めた。

「ひ、ひどい……。ギョク兄さままでぼくをおとしいれるなんて……。
 ぼくはギョク兄さまがリェン兄さまを呪うところをだまって見ていただけなのに……」
「ばかをいうな。その後おまえはおれに茶を運んだろう。ギョク兄さまにいわれて。
 その茶には呪いの粉がすでに仕込んであったんだ」
「そっ、そんなの知らなかった!」
「だれが信じるか!」

 実際ジンは呪いの粉などというものは知らなかった
 単純にギョクのまじないが効いたのだとばかり思っていた。
 しかし、ギョクからしてみれば、まじないが本当だと信じさせ、ジンを手足として使おうと画策したのであろう。
 すかさずギョクを見たがすぐさま目をそらされ、本当のことをいってくれそうにはなかった。

「み、みんな、ひどい……っ! ミライさまにうったえてやるう~っ!」

 ジンが泣きながら部屋に逃げ帰ると、その後ろからリェンの高笑いが響いた。
 精神的な痛手を負い、ジンはそこからさらに一週間寝込んだ。
 ジンからの訴えを聞いたミライは、呪いの粉とやらの真偽を確かめると、二度と使ってはならないときつく達した。
 罰として、リェンとギョクは三日間の断食を命ぜられ、衣を一枚ずつジンに差し出すように言い渡された。
 ジンはというと、一週間部屋に閉じこもっていたおかげで、ミライの見舞いを一身に受け、満悦だった。
 途中から、ふてぶてしくも人肌で温めて欲しいなどと懇願し、ミライの愛を独占めするのだった。

「ああっ、はあ……っ、うふん、はあっ……」
「ジン、辛いのか?」
「いいえ、うれしいのです……。ぼくが安らげるのは、ミライさまの腕の中だけです……」
「こやつ、いつもながらに愛いやつだ。もっと脚を広げろ。お前の好きなところを弄ってやろう」
「あいんっ……!」

 憎き男の淫れ声を聞きながら、嫉妬で悶えるリェンはすり減らんばかりの歯ぎしりとともに眠れぬ夜を過ごしたのであった。

 今回の軍配はジン。





 ミライと七人の男たち。

 積もる話は山あれど、語る機会はまたいずれ……。



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